第54話 無言の言
「えっと……ちょっともう一回説明してくれるかな?」
『はいシマ様、皇国時間で数時間前にドリシティに囚われていた人質がほぼ全て脱出……逃げ出す事に成功をした様です』
ここは別荘惑星のリゾート街に建ててある、高級ホテルを模倣した宿泊施設の中にある喫茶室で。
その喫茶室で俺とトウトミがお昼のお茶をしていた所に、サヨが現れて今言った報告をして来た所だ。
高級ホテルの喫茶室でトウトミと二人っきりなのは、シマポイントを利用したトウトミと滑った、お肌プルプルプール施設のウオータースライダーからのジャンプ演技で優勝したからだ。
なので高級ホテル宿泊券を獲得したトウトミがそれを使う事を宣言した為に、俺とペアの宿泊となったって所。
まぁサヨも普段なら二人っきりにしてくれる所なんだが……報告の内容が内容なだけに現れたのだろう。
でもドリシティの奴等のする事だしさ。
「何らかの罠って事は無いか? 全員催眠暗示済みとかよ」
『まったく無い話では無いので私共に協力要請が来ております、現場である辺境では人質を一纏めにしたまま移動させて、状況を維持しているそうです、こちらの返事を早めに欲しいとの事で、デートのお邪魔に成るでしょうが仕方なくやってきた次第です』
なるほど、うちの樹人達の精神感応での調査力が欲しいのか……。
ちなみにトウトミは二人っきりの時は饒舌だったが、真面目な仕事の話なので一切口出しせずに黙っている。
「それでサヨ、現地の細かい情報は貰っているのか? 逃げ出したと言われても、はいそうですかとは返せないよな……」
『そうですね……細かいデータは後でお送りしておきますし、クレアさんあたりからも説明を受けておいて下さい、簡単に言うと、人質はシェルターに集められていたのですが』
うん、俺だけが報告書とやらを読むよりクレアに頼った方がいいのは確かだな。
「シェルター? あー宇宙施設の外壁に穴が開いちゃった時とかに逃げ込むあれか?」
『それよりも大きい物ですね、何十万人もが暮らす都市が崩壊をする災害等に見舞われた時に、脱出する為の装置を兼任している物で、足の遅い宇宙輸送船ともいえます、航行能力は最低限ある感じでしょうか』
「何十万人もが乗れちゃうのか?」
『いくつかある中の一つに押し込められていた様です、60万人程度なら居住性を考慮しなければ一つのシェルター船で余裕でしょう』
「邪魔な人質を一か所に集めて管理をするのは理解出来るけど、それで逃げられちゃうっていうのはどうなのよ」
『ドリドリ団から離反者が出たのと、人質の中の人間がそれに協力及び活躍をした事で、最終的にシェルター船をドリシティからパージして逃げたみたいです』
「なにそれ、映画みたいだな……本当にそんな事があったのなら、主導した人は英雄じゃんか」
『ドリドリ団の離反者とやらが優秀だったのかもしれませんが……自分の船をメンテナンスに出して休暇として観光旅行でドリシティに遊びに来ていた事で、間抜けにも捕まっていた狼獣人が主人の運送屋兼賞金稼ぎが活躍をしたらしいですよ……』
なんだろうか、サヨがすげー嫌そうな表情で人質を助けた英雄の説明をしている。
「逃げる途中で撃ち落とされたりしなかったのか?」
『丁度アリアード皇国のドリシティ捜索用の艦隊が近くに来ていたそうで、ドリシティはステルス状態を維持する為に各種動力源を落としていたみたいですね、逃げた人質を追撃するよりは逃げる事にエネルギーを使ったみたいです』
「なるほど、一度動力源の出力を落としてステルス状態にすると、元に戻すまでに時間がかかるのかもな、その間に皇国軍が来ても面倒だったってか、その瞬間を狙って逃げだしたのならすげー判断力だな」
『詳しい情報はこれから入るでしょうけども……腐っても遺産持ちですから』
サヨがポソリと呟いた。
「ん? 遺産?」
『いえ、気にしないで下さいシマ様、それでいかが為さいますか?』
「ああ、まぁどっちにしろ逃げてきた人達の催眠暗示と、その離反者は警戒しないとな……そのシェルター船は今どこに?」
『一応ワープ航法も可能なシェルター船だったので、アリアード皇国の領域内に入った所で待機をさせているみたいです、現在その周囲に皇国の艦隊を護衛兼監視として集めている所ですね』
「それなら大丈夫か、じゃぁ俺らも行こう、そして時間はかかるけど少しずつ人質を輸送して樹人の姉さん方に精神感応で調査をして貰おう、樹人の安全を最優先で作業をするように、そこに着くまでに上手い方法を皆で考えてみてくれ、勿論俺も考えるけどな」
『畏まりました』
ふぅ、これで人質が本当に居なくなったのなら……遠慮なくドリシティを攻撃できる訳だな。
まぁまた逃げられちゃったみたいだけど。
「またニナさんの時みたいな催眠暗示があるかもだし、注意しないとな」
『シマ様の子種を奪おうなんて許せません!』
「でもよ、俺の子供を作っても何の意味もねぇよなぁ? 遺産に血縁による相続なんて無いだろうし?」
『私は一生シマ様の物です、例え子供が出来ようが主人足り得ません……別の危機はありますが』
「別?」
『いえ、シマ様は気にしないでも大丈夫なので、ご安心ください』
……なんじゃそりゃ、でもまぁサヨがそう言うのならば、俺の命がやばい危機とかでは無いんだろうけど……。
「そっか、だとすると……やっぱり俺のクローンとかを作る為かな?」
『どうなのでしょうか?』
「……なぁサヨ、もし俺と同一存在のクローンが現れたら……サヨの主人はどっちになるんだ? クローンにも権利が生じちゃうか?」
俺は自分が吐いたクローンという言葉に、危惧の念を抱いた。
……。
……。
あれ? サヨから返事が無い、特に表情は変わってないが……。
「それは有り得ませんので安心して下さいシマ様」
横から急にトウトミが口を開いた。
「トウトミ? それはどういう事だ? だってクローンだぜ?」
同一存在であるのならサヨが混乱する事は有り得るんじゃないかな?
というかドリドリ団はそういう事を狙ったからこそ、子種を欲しがったんじゃないのか?
「とにかく、クローンだろうが生き別れの双子だろうが、そんな物が現れても大丈夫ですので、シマ様はサヨ様にした質問を撤回してあげて下さい」
むむ、よく判らないが。
「さっきの質問は取り消すよサヨ」
『ありがとうございますシマ様……』
たぶん詳しい事を聞こうとしてもサヨは何も言えないんだろうな。
てことは、旧銀河帝国の技術者が施したとされる禁止事項とかそういう物に、今の会話の中の何かが……。
「あれ? じゃぁなんでトウトミが……」
俺がトウトミを見るも……彼女はニコニコと笑顔を返して来るのみだ、もう口を出す気が無いのか……それともさっきのは本当にトウトミの言葉だったのか……判らない事が多いよな。
「まぁ何にせよ仕事をしないとな、トウトミとのデートは延期かな?」
『いえ、移動にそれなりの時間がかかる場所ですのでそれは大丈夫です、私は帰りますので、ごゆっくりお楽しみ下さい、ではシマ様失礼致します』
そう頭を下げてから、サヨはホテルの喫茶室から出て行った。
「だそうだ、この後はどうする? ホテルのプールとかマッサージサービスを受けるか?」
「そうですね、まだレストランでのディナーの予約時間までそれなりにありますし……宿泊の前乗りをするのはいかがでしょう?」
「……そういうのは夜でいいんじゃね?」
「実は……――」
トウトミが俺の耳に顔を寄せて、ボソボソと小さな声で色々と説明をして来る。
「……それは確かに、いくら時間があっても足りなくなるな!」
「はい、ですのでシマ様、私と宿泊の練習からしませんか?」
「そうするかトウトミ」
そうしてトウトミの差し出した手をそっと掴み、エスコートしながら二人で立つと、最上階へのエレベーターを目指して歩いていく俺達であった。
俺の秘密なムフフアーカイブデータを研究をしているサヨよりも、ドストライクで三振を取って来るトウトミの直感がすごいなーと思ったデートだった。
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