第55話 英雄は何処にでも居るもんだ

 俺はいつもの戦闘指揮室の艦長席に座り、周囲に出した空間投影モニターをじっと見ている。


 そのモニターに映し出されているのは、例のドリシティから逃げ出してきた面々を、精神感応で一人一人調査をしている樹人の姉さん方の姿だ。


 俺も現地で監督をするという話は危険だと言うので反対をされた。


 ……いやまぁ俺が行ったとしても、どうにもならん事は判るんだけどさ。


 もうすでに何人かの催眠暗示を受けていた人間が発見されているからな……。



「こう、見ているだけってのはモヤモヤするな」


 俺がそう呟いた言葉に、隣の席にいるクレアが答えて来る。


「落ち着いてシマ君、あの催眠暗示を受けた人達は、元々ドリシティに居たドリドリ団の事を知らないで働いていた人達だから、シマ君や私達を攻撃する為の催眠暗示じゃ無かったでしょう? だからサクラちゃんのお姉様方も大丈夫だよ、ちゃんと安全確保を徹底した手順にしてあるあからさ」


「それは判っているんだけどなクレア、精神感応の性質上どうしても近づかないと駄目ってのがな……分厚い壁越しとかでも駄目みたいだしよ」


『あちらのスペースに来ている元人質達は、事前に皇国軍が身体調査をしていますので、爆弾を内包していたりとかは有り得ません、こちらの入口でもダブルチェックをしていますし』


「まぁそうなんだけどよ……俺が心配しているのはだな……」



 心配な物は心配なのさ、樹人の姉さん方はまだ人社会にも慣れてないしさ……。



 あ! まただ!



「こんな真剣な仕事の合間に、サクラの姉さん方をナンパするんじゃねぇよ!」


 さっきからちょいちょいサクラの姉さん方をナンパする男共……たまに女の人も……居るんだよな!


「あー、人の感覚からすると美人揃いだものね、施設の状況的に上半身しか見せてないから、足の根っこも見えないしね」


『どんな時でも繁殖を忘れない、人という種はだからこそ宇宙に広がっているのかもしれません……』


「ナンパを宇宙的な広大さから見た良い話に纏めようとするなっての、時と場合を考えろって話だ」


 確かに万年発情期な種が一番増えやすいのは認めるけど。


「シマ君はサクラちゃんのお姉様方が心配なんだね、後で今のシマ君の様子を彼女達に教えたら喜びそうだね、ふふ」


「待って、それは何か恥ずかしいから辞めてくれクレア」


『すでにシマ様のご様子を撮影している映像は、休憩している樹人の方々にリアルタイムでお見せしてしまっているのですが、止めますか?』



「ちょっと待てサヨ!? ……ええ……もう見せちゃったの? ……じゃもういいや……」


『樹人の方々はお喜びで……心配の中に嫉妬の心が潜んでいるのかどうかを精神感応で知りたいとおっしゃる方々が多かったですね、ですのでサクラさんをお呼びしました』


 サヨの言葉を聞いて『それは待て』と俺が発言するよりも早く、戦闘指揮室の扉が開いてメイド服姿のサクラが現れた。


【サヨ様に呼ばれたので即参上しました! ククツ様専属メイドのサクラです! では早速……ってうわぁ……お姉様方を大事に思ってらっしゃるんですねククツ様は……さらにその心の中にあるほのかな嫉妬心を感じてサクラはサクラは……お姉様方が羨ましいです!】


 室内に入って来て俺の心を読むまで数秒の出来事だった……。

 さすが俺専属のメイド部隊だ、仕事がめっちゃ早い。



「ああうん、お見合い相手でサクラの姉さんだしな、皆大事に思っているよ」


 艦長席を回り込んで俺の前にまで来たサクラに、そんな風に言ってやると。


【ククツ様は私がナンパ? という受粉を目的としたお誘いに合っても嫉妬して下さるのでしょうか?】


 ナンパ=受粉では無いと思うんだが……そうだな、この幼木であるサクラにチャライ男が声をかけてくるシーンを想像して……すっごいむかついたので即考える事をやめた!


「サクラは俺の婚約者だからな、そんなチャライ男の側にはいさせねーから安心しろ!」


 そう言って席から少し身を乗り出してサクラの頭を撫でてあげる、ナデリコナデリコ。



 ポポポポポンッ、今日もサクラは綺麗な花を一杯に咲かせる。



【ククツ様の、私を大事にしたいという想いが流れ込んできます……】


「精神感応って便利よねぇ……私もシマ君の心が知りたいわぁ」


 サクラの頭を撫でていると、そんなクレアの発言が飛び出て来たので、サクラのナデリコは一旦やめてから、体をクレアの方に向ける。


「クレアにはいつも行動でもって教えてるだろう? まだ足りないか? じゃぁ後でどれだけクレアの事が好きかの朗読会を」


「うんシマ君! 大丈夫! よく考えたら精神感応が無くてもシマ君の感情は判りやすかったから、変な事言ってごめんね?」


「いいよクレア、嫁に好きだというのは夫の仕事みたいなものだし」


「ええ? 仕事なの?」


「言い方が悪かったな、感情を素直に言葉で出すお仕事だ」



「それならいつもやってる事だね、大好きだよシマ君」


「俺もだよクレア」



「シマ君……」


「クレア……」



「「ムチューー」」



『サクラさんが居る前で、それは教育的にどうなのでしょうか?』


 おっと、サヨの言葉で我に返った俺とクレアは、乗り出していた体を元に戻し、席に座り直す。


 目の前にいるサクラは両手で顔を隠しつつ、指が開いているのでバッチリと見ている体勢で恥ずかしがっている、軽いキスならいいが、ディープなムチューは控えておこう。



 ……。



「コホンッ、それでサクラはお姉さん方に俺の心を読んだ感想を伝えに行くのか?」


 姿勢を正してから真面目な表情を作ってサクラに問いかけた。


【あ、そうでした、早く行かないとお姉ちゃん達が不機嫌になってしまう所でした、ふふ、せっかくだし、最初はククツ様が私の事を大事に想っている部分を精神感応で伝えますね、ククツ様の嫉妬部分は勿体ぶってから教える事にします】


「お……おう、お仕事頑張れ? サクラ」


 どうにもサクラがお姉さん方と仲が悪いというか、ちょっと思う所のありそうな部分があるのだよな……。

 幼木である事にコンプレックスみたいなのを感じているのだろうか?


 小さくても綺麗な花だと思うんだけどなぁ……。


 ポポポンッ、サクラがさらにツル毛に花を咲かせ。


【で、では失礼致しますククツ様、サクラはククツ様がそう思ってくれているだけで幸せです!】


 そうしてメイドっぽい礼をすると、戦闘指揮室の扉の外に出ていくのであった。


 ……俺の心を精神感応で読みっぱなしだったみたいだ……。



 まいいか、素直な想いを見られて困る事もねーだろ。



「さて、では催眠暗示チェック作業の監視に戻るかね、ん? どうしたクレア?」


 横の席にいるクレアが、何か不機嫌そうな表情で空間投影モニターを見ていた。


 俺もそこを注視すると……がたいの良い狼獣人って感じの男と真っ白い毛の狼獣人……アルピノかな? とアンドロイドが検査を受けている所で……。



「あれ? あの人らって……」


 俺はそう言って横の席のクレアに確認を取ろうとするも……その表現の難しい表情を見て、話題にあげる事をやめた。


 クレアは被害者だからなぁ……例えそれが取り巻き達がやらかした事だったとしても。

 そして本人がクレアに憧れて声をかけたが、催眠暗示のせいでクソな言い方になっていたとしても……許すかどうかはクレア次第なんだよなぁ……。


 俺は反対方向のサヨに身振りで聞いた。



 あれが例の英雄か? と。



 サヨはちょっと嫌そうな顔をしつつも、コクリッと頷いていた。


 そっかぁ、旧型の遺産とはいえそのブレインユニットの能力は、サヨ関連を抜かした皇国の中ならトップクラスって言っていたしな。


 すっごい報奨金とか貰えそうだな……なぁサヨ、彼らの借金は返済されそうか?


 また身振りでそう聞いて見ると。


 サヨはゆっくり首を振り、嬉しそうに否定してくるのであった、あ、はい。


 皇国軍の最新鋭戦艦より高くつく借金だものな、そりゃ簡単にはいかねーか。


 まぁ、彼らの事は取り敢えずいいや、サクラの姉さん方の安全を見守る仕事に戻ろうっと。




「そういやサヨ、ドリドリ団の離反者ってどうなってんだ?」


『皇国軍預かりですね、私共に何某かの手伝いが必要とあらば皇国軍の方から言って来るでしょう』


「シマ君、私のツテから得た情報だとね、すっごい協力的で皇国軍の上層部も困惑しているんだってさ」



「ええ? うーんドリドリ団って頭でっかちな研究者の集団ってイメージなんだけどなぁ……自分の身をさらけ出して正義を為す、みたいな事はし無さそうだよな……何かの罠?」


『まだ情報が出揃ってないのでなんとも……』


「今回の人質脱出にすごい貢献……というか主導をしてたっぽいんだよねぇ……研究的な方向性の違いで仲違いとか? なんちゃってあはは」


 インディーズバンドか何かか?


「まぁ情報を得てドリドリ団を潰せるのなら、方向性の違いだろうがなんだろうが構わんのだがな」


『完全平和な世の中なんて物は元々存在しませんが、とはいえ害虫はその都度排除しませんとね、シマ様との新婚生活を満喫する為にも』


「今でも十分満喫していると思うけど……サヨさんは何処を目指しているのかな」










 ◇◇◇


 後書き

 お読みいただき、ありがとうございます。


 作中に出て来る狼獣人はシマにすごい借金をしています


 詳しくは外伝的な短編を数話ほど【銀河SAISOKU物語】として独立してあげていますので、そちらでどうぞ。


 まぁ読まなくてもメインの話に彼らは関わって来ないので大丈夫です

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