第56話 あれが伏線だったなんて俺も知らなかった
「という訳で、君達には自由な発想を持って研究等をして頂き、さらに学生時代の青春を――」
……。
……。
一晩かけて考えた学園都市名誉学長としての挨拶を終えると、チェックの為に出していた空間投影モニターから俺の姿が消えた。
学生達の前に出ていた映像も切れたはずだ。
俺は会議室の椅子に深く座り直して緊張を解す。
「ふぃーー、……やっぱこういうのは緊張するなぁ」
「中々良かったよシマ君、これでやっと学園都市の運営が始まるんだね」
「運営というか研究の監督って感じだけどな」
ドリシティから大勢の人質が逃げ出して来てから半年程が過ぎた。
あいつらの動きは気に成るが、だからといって縮こまっていてもどうしようも無いだろうと、観光惑星と学園都市の開校を目指して頑張った。
それでさ、思ったんだよ、サヨが惑星やらを内部に抱えて運べるのなら……恒星系ごと移動する観光地兼学園都市なんてのはどうかなってさ。
あれだけ派手に動いちゃうと、サヨのその能力もバレちゃっているだろうしさ。
ならばと皇帝陛下にも許可を頂き、俺の貴族としての領地は自由に移動出来る様にして貰った。
現在は皇国本星に近い場所に領地を展開している。
恒星系が移動をする事で重力やらが周囲へ影響する?
あー……サヨが大丈夫だと言って居るし、大丈夫なんじゃね?
そうして以前から大量に届いている留学やら就職希望の中から、サヨやクレアが選んだ約一万5千人の男女が第一陣として学生になり。
そして側付きの近しい親族でチェック済みな人らを、うちの職員の中核として雇っていく。
縁故採用? それがどうした? それをして何故悪いのかが判らない。
縁故があれど性格のチェックなんかはサヨやクレアがしっかりやってくれているし、能力が多少上下しようが、信用のならん優秀な人間より信用の出来る縁故採用でいいじゃんか。
実際に、能力を誇ってうちの職員に成ろうとして来た奴の中には、結構な数のスパイも居たしな。
スパイの中でもドリドリ団関連の奴等は、皇国軍にポイッっと丸投げしておいた。
寿命が長いこの宇宙だ、じっくり時間をかけて信頼を積み重ねれば能力に見合った役職にも付けるだろうさ。
まぁ俺の立ち位置が能力に見合ってないとか言われるかもだが、その時は……貴方より俺の方が幸運という能力が高かったんじゃね? と答えるしか無いな。
サクラは早速学生として学園都市に通って居て、中等部くらいからの学校にした。
サクラの姉さん方の一部も学園都市に通う事になり、そしてニナさんもサクラに付き合って中等部からやり直すらしい……。
ニナさんは大学生だったはずなんだが、申し訳ない事をしたかもな。
あの時はそこまで考えてなかったからなぁ……ニナさんが納得してくれてるから良かったけど……今度ニナさんには何かで埋め合わせをしよう。
それと住民になる働き手な人達の子供も受け入れるので、学園都市には小学校から準備してある。
そんで留学希望のデータなんだが、俺の見合い相手だけでなく領地同士の友誼を結ぶ為に送られて来ていた男子も、それなりの数を受け入れる事にした。
俺とのお見合いで来ている女性達とはいえ、学生時代には異性との触れ合いのある青春って必要だろう?
その結果、俺とのお見合いを放棄してくれてもまったく問題無いしな。
好き合う相手が出来るのなら祝福するさ。
それでもどうしても男女比は偏っちゃうので、女性7の男性2くらいになっちゃうのは……まぁしょうがないよね。
『シマ様の秘密なムフフアーカイブにある、男女比がおかしくなった世界の物語みたいですね』
「そうだなサヨ、ついでに貞操逆転物に……ってサクラじゃないのに俺の心を読むな!」
「シマ君は表情がコロコロ変わって読みやすいからねぇ……」
そうなの? 俺は自分の顔をペタペタと触ってみる、うん、プルプルだね。
『お肌プルプルプール』効果だなこれは。
……こっそり例の化粧水を『サクラーユ化粧水』という名前で、学園都市や居住区のお店に皇国の初期流通値で置いておいたら、三日で15万本を売り上げました……。
在庫が無くなる前に一杯買っておこうと思った人が居たのだろうけども……。
うちの化粧水は無くならないのです! ちなみに例の成分の濃さは皇国に流通している物と同じにしてある。
俺の領地内限定で使える要塞都市内専用の電脳掲示板が『サクラーユ化粧水』の話で一気に染まったらしいね。
まだ第一陣で全体で2万人にも満たない人数しか受け入れて無いんだけど、売れた本数がちょっとおかしいよね。
『購入された方お一人の平均で12本を購入されていました』
「だから俺の思考を読むなと……外部との転売は禁止されるって告知はしてあるんだろ?」
「売り切れる事を心配した人が居るみたいだったねシマ君、まぁ買っても買っても無くならないので安心したのか、今は落ち着いているよ」
『要塞都市に存在する女子達が、一晩でお肌艶々プルプルになっているので、男性達がびっくりしていますね』
「そのお肌プルプルになった人が、ご家族で移住して来た家の女性達だったとしたら……その旦那はお値段を聞いてもっと驚くのだろうな……俺も同じ男として同情するわぁ」
「んーでもシマ君、皇国での末端価格じゃなくて初期流通価格だからお買い得なんだよ?」
クレアの言いたい事も判る、判るんだよ? 末端価格とか頭おかしいレベルだしさ。
でもなぁ……一本が日本円で二桁万円とかだろう? つーかその値段じゃ普通は手に入らないらしいけど……それを12本って……。
「よし! 要塞都市で金を稼げる方法を用意しないとな、無人機械で出来る仕事とかも少し削ってさ……」
「シマ君、稼げるお仕事はちゃんと用意してあるよ、お店とかを出す権利も取得出来る様にしてあるし、現状こちらの無人機でやっている仕事も、学生や移住して来た人に徐々にシフトしていくから大丈夫」
「そうだったっけ? まぁそれならいいか」
『そもそもうちに来ている人たちの殆どは裕福な方々ですから、お金の心配は一切要りません、一部奨学生の様な扱いの方もいますが、ちゃんとフォローは致しますのでご安心を』
そういやそうか、基本は貴族や権力者の関係者だったりするもんな。
しかし奨学生ねぇ、有能な人を俺に紹介して恩を売りたいからっていう権力者達の推薦で来てるんだっけ……ってまった!!
サヨは最後に『ご安心を』と言った!
「なぁサヨ」
『なんでしょうかシマ様』
「どんなフォローをするのか具体的に教えてくれ」
ドキドキとしながらそれを聞いていく俺だ。
『アルバイト的なお仕事の発注をするとかですが? いけませんでしたか?』
んん? んー……大丈夫っぽい?
「そっか……それならまぁ……大丈夫か、すまんサヨ、ちょっと警戒しすぎたわ」
「ねぇサヨさん、どんなアルバイトを用意したか聞いても良い?」
クレアが首を傾げながらサヨに聞いている、そりゃ食い物屋の皿洗いとか、店番とか、家庭教師? 的な物とかじゃねーの?
『優秀な彼女達の時間を多く奪う訳にはいきませんし、ここは一発短い時間で稼げる様に、シマ様だけが会員になれる会員専用の【犬猫ペットカフェ】のアルバイト店員にですね――』
「まてまてまてまてまてーーーい!!!」
俺は大きな声を出してサヨの言葉を途中で遮った。
『どうしましたシマ様?』
サヨが心底不思議そうな表情で顔をコテンを傾けて来る。
「どうしましたか? っじゃねーよサヨ! ……それってあれだろ? 観光用アイデアを皆に出して貰ってた時の奴だ!」
『そうですね、シマ様が採用ボタンをポチッっと押した案件です』
「うぐぐ、確かに? 確かに押したよ? でもそれは俺だけ相手にブレインユニット達とかがやってくれると思ったからであってさぁ……決して、そう決して! 田舎から上京して来た貧乏奨学生が『短期で高額な日給が稼げる夜のお仕事です』的な宣伝文句に釣られて来そうな案件にしたかった訳じゃないんだよ!」
「……やけに具体的な内容が出るあたりに、シマ君の深い闇というか葛藤が垣間見えるね……私がその店員をしてあげようか?」
「是非お願いしますクレアさん! って……コホンッ、取り敢えずそれは置いておいてだな」
『身体強化をフルに使った無駄に早い返事でしたねシマ様』
「うるさいわい、望んでやってくれるならいいの! お金の為に望まないでやるのは駄目なの! 判ったかサヨ?」
『はぁ……ですがシマ様お忘れですか?』
サヨが呆れた口調で俺の名を呼ぶ。
「なにがだよサヨ」
『学園都市や就職で受け入れた独身の女性のほぼ全てが、シマ様のお見合い相手でもあるのですよ?』
「ん? そりゃそういう話だった……けど……あれ?」
『つまり』
「つまり?」
俺はなんとなくサヨの言いたい事を理解してしまったが、素直に聞き返していく。
「その奨学生な人達もシマ君の嫁になっても良いって考えているから、むしろさっきのお話しは喜んで受けるんじゃ? って事だよね」
クレアが横から確信をついた話をしてしまった、すると口を開きかけたサヨは俺に向けていた視線をクレアに向け。
『クレアさんずるいですよ、そこは私のセリフでしょうに』
「あはは、たまには混ざりたいなって思って」
『せっかくの落ちでしたのに……』
「ごめんってばサヨさーん、ゆるしてー?」
そのまま俺を置いてけぼりにして、クレアがサヨに抱き着いて嫁同士でイチャイチャしている。
そうだったなぁ……今回受け入れた女子の9割以上がお見合い相手に成りえるんだったな。
てことはだ……。
『今回の提案に、ご許可頂けますか? シマ様?』
「私とサヨさんも一緒に店員するよ? シーマーくーん?」
なぜか嫁同士イチャイチャと抱き着いたままの姿勢で俺に声をかけてきた訳だが、当然俺は。
「許可を出すので、よろしくお願いします」
そうやって丁寧にしっかりとサヨとクレアに向けて頭を下げるのだった。
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