第31話 変態という言葉を使い過ぎてゲシュタルト崩壊しそうだった。

 変態した樹人のサクラを観光惑星に迎えて、今は多脚戦車を改造した貴人輸送用の戦車に乗って移動中だ。


 これは上部装甲が透明な素材に変えられていて、道行く人に手を振ったり出来る物なんだが、俺ら以外にまだ誰も居ない惑星だからあんまり意味は無い。


 それでも景色や野生動物を見たりと、楽しみながら移動をしている最中だ。

 皇帝陛下の側付き内政官もサクラと共に同じ戦車に乗り込んでいる。


 サクラは樹人の長の直系扱いで重要人物に指定されているらしく、歓待の宴なんかが終わって御座艦が帰っても一人だけ内政官が残るっぽい。


 まぁ最近は俺係になりつつあった有翼人さんが、サクラの側付きになるんだってさ……皇宮のツテとして向こうに残って欲しかったなぁ……。


 サヨが俺の耳に口を寄せて来ると、小さな声で、あの有翼人さんも俺の嫁候補になるって囁いてきた。


 まじか? 日本地区の漫画文化でいう天使みたいな見た目をしている人で、すっごい美人さんなんだよな、候補って事は本人がそれを望んでいるって事だよねぇ?



 ……そっかぁ……今度ちょっとフラフラしちゃうかもしれないな……。



 サクラ? サクラはまぁ中学生くらいの見た目なんで、もうちょっと大きくなるまで、フラフラは無いかな……そういや。



「サクラって何歳くらいになるんだ? 身長は低めみたいだけど」



 外の景色を楽し気に見ていた対面の椅子に座るサクラに質問をしてみる。


 サクラは俺の質問を聞いて外を見ていた視線を俺に向けると、口をパクパクとさせる。


【私はまだ幼木ですから、その……受粉はもう少し時が過ぎたらでお願いしますククツ様、キャッ】


 恥ずかしそうに顔を隠すサクラ、そして隣の有翼人さんの表情が冷たくなった。



 いや、そんな事を聞いた訳じゃないんだけどな……。



『シマ様、樹人の年齢概念は地球人とは少し違いまして、彼女はまだ子供なのです、お気持ちは判りますが今は婚約者としてじっくり待ってあげるのが良いかと』


「もう! シマ君は……私達がいるんだから、サクラちゃんが大きくなるまで少し我慢しよ?」


 年齢を聞いたら何故かサヨとクレアに窘められてしまった。

 って、これは冤罪だと思うんだが!?


 サクラの隣に座る有翼人さんが変態を見る目で俺を見て来る。

 ちゃうねん、俺はただ年を聞きたかっただけやねん。


 サヨがその後にフォローしてくれた情報によると、地球の暦にすると20代半ばらしい……。


 あれ? 俺より年上? とも思ったが特に何も言わずに、そうなのかと納得だけしておいた。

 種族の主観ではまだ子供って事なんだろうしな。


 サクラがまた口をパクパクとさせて。


【頑張ってククツ様に似合う様に変態しますので、もう少しお待ち下さいね】



 ん? それって。



「サクラはまだ体が変化するって事なのか?」


 そう疑問を口に出す俺。


『最終的には人と変わらなくなるはずですシマ様、そのあたりの事情も資料でお渡ししたはずなんですが……』


「シマ君また読んでないんだねぇ……もう、私が付いててあげないと駄目な人なんだから」


 対面の有翼人さんがゴミクズを見る目で俺を見て来る。

 お前そんな事も勉強してないのかと言わんばかりだ、ちゃうねん……。



 いやいやいや。



「前にサヨから貰った樹人文化の資料は全部読み返したよ? 読んだうえで知らないんだが?」


「そんな訳ないじゃないシマ君、丁寧で行き届いた資料だったよ?」


『そんなはずは……あ、申し訳ありませんシマ様、今確認をしたらシマ様に以前送った資料は改訂する前の物で情報に歯抜けがありました、ああ、ワタシトシタコトガー』


 おい! お前すっげぇ棒読みじゃねーか!


 サヨさん? お前わざとだろ? 絶対にわざとだろ?


 俺が知らない事で、驚いたり失敗する事を判っててやったよねぇ?


 くそ……今は無理だが後で絶対にお仕置きだからな? 覚悟しとけよサヨ!


「あらら……それならシマ君が知らなくても仕方ないねぇ、もうサヨさんってばうっかりさんなんだからぁ~」


『長生きすると物忘れが多くなっていけませんね、申し訳ありません』


 正直な話、クレアが本気で言っているのか茶番を演じているのか微妙なラインだ……表情を見ると本気で言っている天然っぽい?


 まぁ俺が樹人の文化を勉強していなかった訳じゃない事が知れたせいか、有翼人さんの俺を見る目がゴミクズから変態に戻った。



 ふぅ……良かった良かった……じゃねぇよ! せめて普通の視線に戻りませんか?



 それと物忘れをする人工知能ってどうなんだよ……。

 っとサクラが何かを言おうとしているので、そちらに注意を向ける。


【ククツ様はどんな変態が好みですか? 取り敢えず下半身を人の様な足にして、次は声を出せる様にする予定なのですが……私はシマ様好みの変態をしたいので、好みを教えて下さいまし】


 サクラがニコニコと笑顔で俺に聞いて来る訳だが、日本語に翻訳してると別な意味に聞こえてしまうからあれだよな……まぁ翻訳を通しているせいなのは判っちゃいるんだが。


「そうだな俺の好みの変態は、サクラがそうありたいと思う姿に変態する事が一番良い変態だと思う」


【えええええ!? そそ、そ……そうなんですか? ううーん……判りました! ククツ様のアーカイブでアクセス数の多い物を参考にしますね! 私、頑張ってククツ様の為に変態します!】



 ん? アーカイブ?



 俺が少し疑問に思っている所に有翼人さんが声をかけてくる。


「ククツ様……サクラ様と婚約をしたとはいえ樹人の幼木はまだ子供です、それなのに子供に対して何度も何度も変態と言うとは……破廉恥な! もっと優しくて誠実なお方かと思っていました……側付きへの移動の件は考え直す事にします!」


 そう言い切った美人有翼人さんはプイッっと横を向いてしまった。


 へ? え? なんで俺怒られたの? いやだってサクラも変態って使ってるじゃん、それにその意味は相手に合わせて変化するって意味で使ってるんだが……どういう事?


『どうやら翻訳のミスが起きている様ですね、シマ様側から言う「変態」は「性的アブノーマル」という意味で伝わっている様です』



 ん?



 ……。



 ……。



 おいまて!!!



 それだと俺は中学生くらいの子供に性的アブノーマル変態を進める変態になっちまうじゃねーか!


 って俺が使う変態がそう翻訳ミスされたって事は、さっきのサクラの返事も……。


 アーカイブって俺の秘密なムフフアーカイブか! 駄目だろそれ!


「えっと違う! 違うんだよ! 翻訳がミスったみたいなんだ! 俺の出身地では別の意味なのに同じ音の言葉を使う文化があるんだ! えとえと……助けてくれサヨ!」


 進退窮まった俺はサヨに助けを求めた、助けてサヨさん。


 そうしてサヨがサクラと有翼人さんとクレアに、丁寧に日本語の概念やら翻訳間違いを説明してくれた。

 ほんとこういう時に頼りになるなぁサヨさんは。



 ……これならなんとか……いや? まてよ?



 いくら辺境の地球の言語だからってそんなミス起こるか?


 俺は三人に説明をしているサヨをジッと見る……いやいやいやさすがにそこまでは……ありえるな!


 後でサヨに対してする資料忘れのお仕置きの時に、新たに湧き出た疑惑に対して尋問をする必要が出て来た様だ。


 そしてサヨの説明が終わると。


「いくらシマ君だからっておかしいとは思っていたんだけど、シマ君の故郷の言語って未成熟なのね」


【意味が違っていたんですね……ククツ様が私を求めてくれていると思って嬉しかったのですけど……でも確かに受粉はまだ早いですよね】


「そういう事だったのですね……私はてっきり……勘違いをしてしまい申し訳ありません、疑惑の一つは取り下げますね」


 ふぅ、誤解が解けた様で何より。



 ……ん? 一つ?

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