第30話 俺は人生で初めてこんな言葉を使ったよ「うん、良い変態だと思うぞ」ってな

 ごぁぁぁとも、ぶぉぉぉとも言える音が響く。


 全長が数キロにも及ぶ宇宙船が惑星の大気圏内に突入する音だ。


 船そのものは重力制御によってゆっくりと地表に向かっているが、その巨体によって進行を遮らされた空気が音を立てているのだ。



 皇帝陛下の御座艦の見た目はキラキラと金色に光って派手だが、形はラグビーボールに近い。


 そうなんだよ……うちの戦艦達の形がおかしいんだよね。


 ……だいたい宇宙船はこういった流線形の丸みを帯びた物とか、円柱の様な丸太っぽい物とか、レンガみたいな長方形とか、シンプルな形なのが普通だ。


 それに比べて、うちはまんま昔の海を航行して居た戦艦のフォルムをしているからね……可動式の砲塔とかついてるし。


 うちの戦艦達は少年や少年の心を持つ男子にはカッコイイと銀河ネットでは評判なんだが、効率が大事という人には不評な声もある。


 うちの戦艦は見た目は浪漫に溢れているが実際は弱い……訳もなく、今の所この銀河最強戦力だ。

 効率だけを見る人達にはそれが理解出来なくて、欺瞞情報だとか言い出すんだよね……。



 ま、そう思ってくれていても、まったく問題ないけど。



 緑あふれる大地、特に何も弄っていない自然の平地に、皇帝陛下の御座艦が静かに着陸していく。


 ちなみに様々な方向からこの映像は残していて、そのうち観光惑星の宣伝に使おうと思っている。


 着地した皇帝陛下の御座艦の側部から階段が伸びて来たので、俺は多脚戦車を改造した貴人用の移動用戦車で、その階段が地面に接した場所に向かい戦車を降りて樹人を迎える。


 そんな俺の横には、サヨとクレアが正妻として並んでいる。


「なぁサヨ、このあたりだけでも地面をならしておいた方が良かったんじゃね?」


 俺は地味に起伏のある地面を見つつサヨに問いかけた。


『樹人は自然を好みますから大丈夫です、それに自然を前面に出した観光惑星ですから、手を入れるのは最低限にしませんと』


「確かに、自然云々言ってるのに道が完全に整備されていると、ちょっとあれよねぇ」


 クレアがサヨに同意している、そんなものか?


 でも地面整備してないと、空中を浮かぶエアカーとかの燃費がすごい事になるからな……。


 一般に使われている浮遊四輪車エアカーとかだと、あの小ささで浮遊させるにはコストがかかり過ぎるので。

 実は整備された地面にもあれらを浮かばせる補助の為に、超技術のなんちゃらが使われているって学校で習った気がする。

 まぁ燃料コストを度外視すれば、何処でも浮かんで移動も可能っぽいけどね。


 うちは兵站用補給艦であるサヨがいるから、そんなコストとか無視しても良いのだけど……。


 俺の根が地球人で貧乏性だからな、普通ならこれくらいのお金がかかりますよとか数字を見せられちゃうとね……経費をなるべくかけないでやりたくなっちまう。



 なのでこの惑星の移動では、多脚戦車を改造した物を使って居る。



 おっと御座艦の側部に出て来たエスカレーターな階段に人が現れた。

 先頭は見知った皇帝陛下側付きの有翼人さんだね。

 その後に数人見たことある様な側付きっぽい人が続いて。


 次は中学生くらいの少女だ、肌が薄い緑で目が真っ黒の中に赤か……地球型の人種じゃないなあれ、てことは樹人に配慮した植物系の人種を世話係としてつけたとかかな?


 その後にも近衛兵っぽい人らや、世話係っぽい人がまたぞろぞろと続いてきている。


 ……植木な樹人はいつ来るんだろうか……。


 まだまだエスカレーター階段に人が出て来て、次々と降りて来ている所なので横のサヨに話し掛ける。


「やけに人が多くないか?」


『例の化粧水不足の件もあって少し過剰なお世話をされているみたいですね、樹人との交渉は纏まっているはずなんですが』


「うちの実家筋の情報だと、皇后様や側室の方々が失礼の無い様な完璧なお持て成しをするのだと張り切ったみたいだね、銀河中の女性が欲しがる物資の為なら、そりゃあ御座艦だろうが数百人のお世話係だろうと出してくるでしょ」


 あー化粧水不足なんて事がもう無い様に、樹人の長の娘にごまをすっているのか……。


 俺らがあれを持ち帰って献上した時の、皇帝陛下はかなり嬉しそうだったからな。


 ……嫁さんらに突き上げを食らっていたんだろうね……皇帝陛下ってばこの銀河で一番偉いはずなのに、苦労してるよな。



 知らないうちに決まっていた俺の婚約者である樹人だが、彼女を送って来た皇帝陛下の側付きの文官達共々に、少し離れた所に建築済みの観光地用ホテルで歓待予定だ。


 天然の樹木をふんだんに使った、日本の旅館風のそれは最高級のホテル……いやもう旅館って言った方がイメージしやすいか。



 自然素材で作られた温泉旅館は観光惑星の目玉だ。


 惑星の方々へと各種観光コースに遊びにいく人達も、有る程度はここで纏めて泊まって貰う予定なので、かなり大き目に作られている。


 具体的には露天風呂だけでも野球場が四つ入るくらいの大きさだ。

 水着着用のそこは下手な遊園地のプールとかより広い。


 そして旅館なんだがVIP用の離れ一軒家や団体客用の場所等々、合わせると露天風呂の数十倍の広さがあり。

 管理するロボットなんかがものすごい数必要だった。


 お客さんの目につく場所の管理は、中居と呼ぶ女性型のアンドロイドに専用の着物を着せる事にしたりと拘っている。

 そのうち中核従業員を外から雇っていきたいよね。



 ……。



 そうして先頭の有翼人さんが地面に降り立ち、こちらに歩いて来る。


 一応男爵だから貴族っぽい挨拶とかの定型文とかはあるんだけど、そういう部分はクレアにパスだ。



 ……。



 それらが終わり、今は次々と人が降りて来ているのだが……。



 樹人はいつ来るの?



 エスカレーターで未だに降りて来る人の列を見て居ると、サヨに腕を揺らされた。


 なので、俺は上に向けていた視線をサヨに向け。


「どうした?」


『どうしたじゃありませんよシマ様、婚約者に挨拶をしませんと』


「そうよシマ君、ちゃんと挨拶しよ」


 そう言ってクレアが示しているのは、有翼人さんやらの側付き文官さんらに囲まれていた、肌が薄緑っぽくて身長は中学生くらいの植物系の種族っぽい子だ……。



 へ?



「えっと……初めまして?」


 俺の発言に文官達が息を飲み緊張が走ったのが判る。



 その植物系種族っぽい女の子は俺の前に来ると……その真ん中が赤くて周りが黒い目を俺に向け口をパクパクさせて……。


 俺の前に空間投影モニターが出て来た。


【私の事をお忘れになってしまわれたのですかククツ様……それとも婚約を破棄するという事でしょうか……そうだとしたら悲しいです……】


 そう文字が流れる。



 ……え?



 しばしその場に静寂が訪れる……。


 いや待って……だってこの子ってば肌は薄緑だし目は黒と赤だけど、それ以外は中学生の少女っぽい見た目だよ?


 俺はよくよくその子を見てみる。


 緑の髪の毛だと思っていたけど植物のツルっぽいな、ツル毛には蕾とか葉っぱがついてるね……さっきまで髪の毛の飾りだと思っていた花の飾り……いや花は少し萎れてしまっている……。


 緑のワンピースだと思っていた服は良く見たら葉っぱだねこれ……。


 そして、エスカレーターで見えなかった彼女の下半身なんだが、スカートっぽい葉っぱに覆われているけれど……スカートの下は木の根っこのままだね。


 この根っこには見覚えがある……うん、樹人の根っこだなこれ、てことは……。


 俺は呆けていた表情を笑顔に戻すと。


「ようこそ俺の領地へ樹人のお嬢さん、あまりに見違えたので初めましてなんて言ってしまい申し訳ありませんでした、あの時と変わらず今日も貴方に咲く花はとてもキュートですね」


 これで合っているかと、チラっとサヨとクレアを見ると頷いていた。

 やっぱり花輪のお嬢さんだったようだ。


 植木じゃないから初見じゃ判らんだろこれは……。


 ポポポポポンッ、そう音が鳴り響き樹人のお嬢さんのツル毛や体を覆うツタに付いている蕾が一斉に花を咲かせる、うん、俺が貰った花輪の花と同じだなこれ。


【ありがとうございますククツ様! 一生懸命ククツ様の好みに合う様に変態してみました! いかがでしたでしょうか?】


 えっと……変態? 何でおれはいきなり中学生くらいの少女に性癖をつつかれたんだろうか。


 俺が困惑していると、サヨが横から話し掛けてくる。


『シマ様、樹人は番う相手に合わせて形態を変化させる事の出来る種族です』


 ええ? そんな事お前の出して来た情報には乗ってなかったぞ?


 あの後一応全部読んだんだけど……。


 いやまぁそれは後回しでいいか、えーと、てことは。


「ああ、そういう意味の変態か……うん、良い変態だと思うぞ、ええと……名前はなんと呼べばいいかな?」


 樹人って個を示す名前とか無いらしいんだよね。


 必要な時はその都度決めるというアバウトさらしいのだけど、名前は情報として送られてこなかったんだよね。


【ククツ様に決めて貰おうと思いまして、やはり番う相手に樹も花も名前も委ねようと、キャッ恥ずかしい】


 樹人の幼木、いや、少女は体をクネクネさせて恥ずかしがっている……。


 肌の色やらを無視して上半身だけを見ると、中学生女子が普通に恥ずかしがっている様にも見える。

 植木がここまで変わるのか……すごい変態だよなぁ。


 そういや前にクレアだかサヨが、俺が花粉が出せない事は関係無いって言ってたっけか。


 こういう事だったんだな……。



 名前、名前かぁ……彼女に貰った花輪は未だに部屋に飾っている。

 何故ならそれは地球の花見を思い出させる見た目だったからで……つまり。


「じゃぁ君の名前は、サクラでどうだろうか? 俺の故郷で皆が大好きな花を咲かせる樹の名前なんだ」


 俺がそう言うと、サヨが地球の風景を映し出した空間投影モニターを出してくれた。

 そこには満開の桜の花が咲き乱れ、その花々の向こうに日本のお城が見える物だった。

 ああ……ここは爺ちゃん達と行った事のある場所だ。


 桜の名所なお城で、すごい綺麗だったっけか……懐かしい。


【……すごい綺麗な風景ですククツ様、サクラの名前謹んでお受けします、これから末永くサクラをよろしくお願いしますねククツ様】


 俺の前で桜に似た花を満開に咲かせた樹人の少女に、そう挨拶をされる……まぁこれも縁だよな。


「ああ、末永くよろしく頼むよサクラ」


『私共は貴方を歓迎致します』


「サクラちゃんよろしくね~」


 俺とサヨやクレアも笑顔でサクラに挨拶をしていくのだった。


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