第29話 身体強化措置をしても変わらない部分があるんです

「お客様、今日はどうなさりますか?」

「いつもの」


 美人なダークエルフお姉さんが俺に聞いてきたので、俺は何時もの様に答える。




「お客様~今日はどうなさりますか?」

「いつもと同じで」


 美人なダークエルフな美容師さんが聞いてきたので答える。




「もう! シマ様は冒険心が無いんですからぁ、たまにはクルクルパーマとかにしませんか?」

「いつもと同じで」


 美容師という設定な人格のサヨ姉妹が、あほな事を言ってきたので再度答える。




「それでは~、お客様~今日は~誰を~選びますか~」

「いつもと同じ4人で」


 美人美容師が聞いてくるので毎度の答えを返す。



「はい承りました、皆、集中してやりますよ」

「「「はーい」」」


 一人の掛け声に3人のダークエルフが同時に応える。


 彼女らの髪型や背の高さやスタイルはそれぞれ違うが、顔は微妙に似ていて美人ダークエルフ美容師4姉妹、という人格設定らしい。


 俺は椅子に座って彼女らに身を任せて、なるべく動かない様にする。



「ふんふ~ん、チョキチョキチョッキンチョッキン~」


 一人は俺の髪の毛を切って揃えている、切られた髪の毛は空中に浮かんで居る各種ドローンが吸い込んでいるのでゴミは出ない。



「指はまっすぐに、はい、力抜いて下さーい、パチンッパチンッザラザラキュキュっとな~」


 一人は俺の右手の爪を処理してくれている、丁寧な仕事でいつも助かる。



「はいシマ様~左手もやりますよ~力抜いて下さいね~ふんふんふ~んパチパチゴリゴリ~」


 一人は俺の左手の爪を処理してくれている、この子も丁寧な仕事で助かる。



「シマ様~足の力を~抜いて~下さいね~よいしょ~、パチッ~ゴリ~ゴリっと……クンクン~」


 最後の一人が俺の足の爪を処理してくれている、匂い嗅ぐのやめて?



 俺は一定期間ごとに、いつもこうやって髪や爪の処理をして貰っている。


 美容師設定人格のサヨ姉妹達は仕事も丁寧なのでありがたい。


 どれだけ科学が進もうが身体強化措置を施そうが、生物である限り髪の毛は伸びるし爪も伸びる。

 それらの成長を止める事も不可能では無いけれども、長い目で見ると体に良くないとサヨが言っていた。

 なのでこうやって一定期間ごとに処置をお願いしている。



 最近は別荘側のリゾート街に建てた、彼女ら専用のお店でやって貰うのが基本だ。



 俺の予約が入って無い時は、他の人達を相手にお仕事をしているらしいのだが……すごい人気があって予約が中々取れないと、側付きの子が嘆いていた……。



 それなら俺は爪くらいは自分でやるって言ったんだけどね……。


 4姉妹にすっごい悲しそうな表情をされちゃったから……結局毎回そこらも頼んでいる。



 ……。



 ……。



 今日こんな事をしているのは、もう明日にも樹人の子が到着するからだ。

 きっちり身だしなみを整えておくのは礼儀と言える。


「チョキチョキチョキっと、こんな物かな、いつものシマ様完成! いかがですか?」


 俺の髪の毛を切っていた美人ダークエルフ姉妹の一人がそう言うと、俺の前に空間投影モニターを出して来た。


 そこには四方から映した俺の映像が見える……ふむ……いつもの俺だな。


 椅子に座って両手を横の台に置き、両足も前に伸ばして台に置いていて、それぞれに一人のダークエルフが取り付いて爪のお手入れ作業をしている。


 そんな、ちょっと間抜けっぽい姿の俺だな。


 顔を少し左右に振って髪型の確認をする。


「うん、いつもの俺だ、パーフェクトだよ、美容師サヨ姉妹の長女」


「ありがとう御座います」



「シマ様シマ様! 右手も終わりました! 短すぎず長すぎず丁寧にヤスリもかけましたし爪の表に保護液も乗り終わってます! どうですか?」


 俺の右手の爪を処理していた美人ダークエルフ姉妹の一人がそう聞いて来るので、右手を顔の前に持ってきて確認をする。


 爪は絶妙な長さで、触ってみても引っ掛かる所が無く、爪の表側も綺麗になっていて保護液はすでに乾燥してツルツルだ。


「完璧だよ、ありがとう、美容師サヨ姉妹の次女」


「えへへー」



「シマ様シマ様! 左手も終わってますから、確かめて下さい」


 俺は左手も同じように確認をしていく……。


「文句なしだ、いつもありがとう、美容師サヨ姉妹の三女」


「シマ様の為なら毎日だってやるからね!」


 さすがに毎日はいらないと思う。



「パチッ~……ゴリ~ゴリ~、あ~シマ様~もうちょっと~待ってね~あと~足の指~7本~だから~クンクン」


 毎度毎度、切る度に匂いかぐのやめよう?

 足の指は手の係の倍だからな、時間かかるのも仕方ないか。


「焦らなくていいからな、美容師サヨ姉妹の末っ子」


「は~いシマ様~」


「もう~末妹ちゃんはしょうがないな~、手伝ってあげるからパパっとやっちゃうよ~」


 俺の右手を担当していた、美人ダークエルフなサヨ姉妹の次女が手伝いに入る。


「ありがと~おねえちゃん~」


「はいはい、集中していくよ!」


 これならもうすぐ終わりそうだな。




「ではシマ様はこれが終わったら、次はお肌の手入れ美容エステコースですよね?」


 美容師人格サヨ姉妹の長女がそう聞いてくるので。


「いや……まぁそれは普通にお風呂入にるし、やらんでいいかな……」


「もーそうやってまた逃げるんだから! シマ様の為の最高のサービスを用意してるっていつも言っているのに!」


 三女が文句を言ってくる。


「やめなさい三女、サービスを受けるかどうかはシマ様がお決めになる事ですよ」


 長女が三女を窘めるも。


「そんな事言って、長女お姉ちゃんも一生懸命寝る間を惜しんでシマ様の為に考えた、お肌の為の美容エステコースをいつもやらずに帰っちゃうから泣いてるじゃないの」


「そんな事は……」


 長女が悲し気に三女に答えている……すごい悲しそうだ。


 悲しそうなんだが……この似た様な姉妹のやり取りを見るのは……もう何回も経験している。

 つまりバリバリの演技だ。


 その後も長女と三女は、いかに俺の為に頑張って色々調べたりしているかを力説しつつ、目に涙を浮かべながら茶番を演じていく。



 チラチラとたまに俺を見ながら。


 ……。


 身内を楽しませるのが俺の役目だとは思っているんだけどさ……。




「一応聞いておくんだが、そのお肌の手入れコースってのはどんな内容なんだ、あ、ありがとう末っ子に次女、完璧な仕事だ」


 俺の質問の途中に足の手入れが終わったので、彼女らにお礼を言っておく。



「どんなに身体強化をされていようが、生物の新陳代謝や発毛はどうしようもありません、ですので!」


「うちの美容室の美容エステコースは、デトックスマッサージで肌に残った老廃物を完璧に取り去ります!」


「そして全身のシェービング! つまりムダ毛処理! ピカピカだよ!」


「それと~最後に~秘蔵の化粧水で~お肌プルプルに~しちゃいま~す、プルプル~」


 四人姉妹全員で長女から順番に答えてくれた。

 君ら仲良しで連携もさすがだね。



 ふむ……思ったよりもまともだった……。



 もっとこう……ねぇ? オイルとかでベタベタにされると思っていたし、女性用エステみたいなのを受けるのって恥ずかしかったから、毎度断っていたんだが……。


 色々考えてくれているなら……一回受けてみるかね。


 それと最後の秘蔵の化粧水って、例の樹人の風呂水から作れる奴の事だろ? 一回試しておきたかったんだよな。



「それなら一度受けてみようかな」


「本当ですかシマ様!」

「ええ! ほんとに!?」

「シマ様がデレた! やった~!」

「わ~い、じゃシマ様~、まずはお風呂にいこ~」


 俺が受け入れた事で4姉妹全員が喜んでいる、って……あれ? お風呂?


「お風呂? 美容エステってこう……どこかに寝転んでやるんじゃ?」


「あ、はい、そうなんですけど、まずは暖かいお風呂に入って毛穴を開かせてからの方が効果があるんです」


 長女が真面目な顔で説明をしてきた、そういう物なのか?


「ちなみにお風呂って……裸で入るのか?」


「お風呂に裸以外で入る人いないよねぇ?」


 次女が不思議そうな表情でそう言って来る。


「……風呂は俺一人で?」


「エステの準備がありますし、私達も一緒にお風呂に行って正しい入り方を直接教えますね」


 三女がまかせてと、自分の胸を叩く仕草をしながら言って来る……。



 ああ……そういう事かぁ……落ちが読めてしまう……。



「そんで姉妹全員も裸で一緒に入るんだな?」


「え~? 私達は~服を着てるよ~? 何で、裸~?」


 末っ子が首を傾げながら、心底不思議そうな声色で聞いてきた。

 ……これは演技じゃないな、本当になんでだろうと思って居る。



 あれ? 俺の勘違いか?



「……まさかシマ様はエッチな事を考えているのでは?」


 長女が厳しい顔つきで俺を見る。


「あ、いや、その」


 俺はどうにも返事が出来ない、まさにそう思ってたしな!


「信じられないよシマ様! 私達は真剣にシマ様を磨き上げる事を考えているのに! 水に濡れても透けない服でお風呂についていくつもりだったのにさぁ」


 次女が悲し気に俺を見ながらそう言ってくる、あうち……やっちまったかなぁ……。


「ごめんな皆」


 素直に謝るしかねぇな……。


「……フルコースを受け入れてくれるなら許します、シマ様」


 三女がそんな事を言ってきた、フルコース?


「フルコースってのは?」


 まぁ字面だと全てやるって感じだけど。




「頭の先からつま先まで全て手入れをするって事です、シマ様」


 長女が答えた、あれ? 順番的に次だった末っ子は抜かすのか。



「ふふふふ、ムダ毛を全て処理しちゃいます! 上から下まで全部!」


 次女がそう言ってくる、それを聞くにもしかして……。


「俺には、髪の毛やマユ以外全部脱毛するって聞こえるんだが……」


 そう確認を取る俺。


「そうですけど何か問題が? ああ! 美容のプロ根性を汚されて心が悲しいなぁ……チラチラ」


 三女がさっきの俺の失言を攻める……うぐ……。



 ……。



「……判ったよそのフルコースとやらは受けるから……サヨに連絡してスケジュールの時間調整して貰ってくれ」


 俺の言葉を聞いた姉妹は喜んでハイタッチを決め、すぐさま長女がサヨに連絡を取り始めた。


 はぁ……毎度毎度落ちがあれだから今回もとか思ったが、サヨ姉妹の中には仕事意識の高い子らもいるんだなぁ……。


 大抵が特殊な性癖持ってるから身構えちまった……全身脱毛か……これもある意味……。



 そんな中、美人ダークエルフ美容師人格設定4姉妹の末っ子が近付いてきて。


「すごく~うれし~よ~シマ様~、一杯い~っぱいしよ~ね~」


 そんな事を言ってくる、一杯? 一杯脱毛をする?


 末っ子の行動に何故か焦った感じの他の姉妹が近付くが、俺は手を前に出して他の姉妹を止める。



「なぁ末っ子、何を一杯するんだ?」


「あ、これ予定表~」


 末っ子がフルコースと書かれたメニューの様な物を、空間投影モニターに出して俺に見せて来る。



 そこには。



 フルコース

 1 お風呂とにて毛穴を広げ血流を良くする、シマ様以外は着衣! 真面目に!

 2 デトックスマッサージにて全身から老廃物を除去、隅から隅まで真剣に!

 3 全身脱毛処理、徹底的に! 見逃しは死罪!

 4 秘蔵の化粧水でお肌に仕上げ、プルプルツルツルなシマ様の完成!


 5 磨き上げたシマ様と皆でデート ワクワク

 6 勿論最後に全員でホテルへGO! ドキドキ

 7 ツルツルプルプルのシマ様を姉妹で楽しむ モグモグ


 と、書いてあった。



 俺はゆっくりと空間投影モニターから、視線を末っ子以外の姉妹に向けていく。


「おい、何か俺に言う事は?」


 俺の視線から逃げていた姉妹だが、長女がバッっと俺と視線を合わせて。


「仕事部分は真剣ですから! 嘘ついてないです!」

「そうです! お風呂では真面目にって書いてありますもん!」

「裸でご一緒するのはお仕事中にはしませんもの!」


 長女、次女、三女が揃って反撃してきた。



「ちょっとずるくないかそれは、俺は本気で悪い事したなーって思って……ちなみにフルコースのキャンセルは?」


「うちはもうキャンセル出来ません」

「解約も出来ません」

「クーリングオフ期間は20秒です!」


「悪徳商会か何かか!?」



「え~? シマ様フルコースやめちゃうの?」


 末っ子が泣きそうな声で聞いて来る、ああうん、こいつだけは俺を騙そうとはしてない……か?


「しゃーないなぁ……一度言った事だし受けるけども、だまし討ちみたいなのはもうやるなよ?」


「「「やったー」」」


 長女と次女と三女が嬉しそうにハイタッチをしている、ったく末っ子に感謝しろよ?


 俺を騙そうとはしてなかった末っ子が居なかったら、キャンセルも有り得たからな?


 そして俺は三人から末っ子へと視線を戻すと……。


 ガッツポーズをした末っ子が目に入り。


「ツルツル~プルプル~シマ様を~モグモグだ~~!!」


 そう言って喜び、姿勢を戻すと空間投影モニターを出して何か操作をしだしている。

 ちらっと見たそれは、リゾート地に作った高級ホテルの食事や部屋の予約画面だった……。



 あれ?



 俺がちょっと疑問を感じて首を傾げていると、姉妹の長女、次女、三女がそそっと俺に近づいてきて。


「うちの姉妹の中で一番業が深いのは末っ子ですよ」


 と長女が耳打ちをしてきて。


「フルコースの設定も末っ子ちゃんが考えました」


 と次女が耳打ちをしてきて。


「足の爪を切っている時に、性癖の片鱗を感じていなかったんですか?」


 と三女が耳打ちをしてきた。



 ……ええぇ?



 俺が末っ子を見ていると、末っ子は俺の視線に気づき、ニコーーっとあどけない笑顔を返してくるのであった。




 俺は末っ子に対して引きつった笑みを返しつつ。


 女の子って怖い。


 そう思うのであった。

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