第28話 【おまけ話】俺だって毎日毎日事件やらが起きている訳じゃない

 ◇◇◇

 前書き

【おまけ話】は時系列的に繋がってない事がありますのでお気を付け下さい


 ◇◇◇





「シマお兄ちゃん朝だよ~」


 グラグラと体を揺らされる感触がする。


 まだ眠いので目を閉じているがまぶたの裏に光を感じる、ゆっくりと目を開けるとそこには。


「おはよーシマお兄ちゃん、お目覚めのキスはいる?」


 俺の上から声をかけて来るのはサヨ姉妹の一人だった。

 ベッドの横から覗き込んでいる様だ。


 いつもはブレザーな学生服を着ているが、今日は部屋着なんだな。


 サヨに似ているが少し背が低めで、大学に入って家を出たお兄ちゃんを追いかけて無理やり同居を勝ち取った義理の妹な性格設定だったサヨ姉妹なんだが。


 初期の性格設定はあれど、義体に人格を固定搭載して個人として確立すると、性格は変化していくみたいで、まさに個性が出て来るって感じだ。



「おはよ~さん、ふぁぁぁぁ、ぁ……ねむぅ……今日の俺を起こす係はサヨ姉妹のお前か」


 別荘の寝室のベッドで上半身を起こし、ベッドの縁に座る感じに移動してからサヨ姉妹に朝の挨拶をしていく。


「ムフフ~、義理の兄妹っぽく距離の縮まった感のある『お前』呼びがすごくいいね! そしてキスはスルーされる所も義理兄妹っぽくてイイ……はぁはぁ」


 いやお前からそう呼んでくれって土下座をして頼んできたんじゃねーか……。

 そして興奮して息を乱すなよ……もし本当の妹がそんなんだったら嫌だよ……。



 ちなみにこのサヨ姉妹には手を出してません。



 本人からも、この微妙な距離感がある方が人格設定的に興奮しますからって言われていて……。

 やっぱ大元の基本人格がサヨだと変態が多いのかなぁ……他の姉妹も奥底にサヨっぽさがあるというか……サヨ姉妹の設定ごとの独特の性癖を持って居るというか……。


 ……取り敢えず手を上に伸ばして体を反らせて伸ばし、眠気を晴らしていく。


「んー---んんん、っとぉ、今日は五日ぶりの睡眠だし精神に効くなぁ……やっぱ体は大丈夫でもたまには寝ないと駄目だな」


「あはは……お兄ちゃん忙しいもんね、私達も頑張ってお手伝いするからファイトだよ! ……頑張っているシマお兄ちゃんにご褒美です! ……チュッ」


 サヨ姉妹が頬に軽くキスをしてきた。


 その後顔を赤らめて部屋からパタパタと逃げる様に出ていけば、アニメや漫画にあるラブコメっぽくて完璧なのに、何故お前は立ったままそこで悶えているんだ?



「まいいや、朝飯食いにいくか」


 取り敢えず立ったまま悶えているサヨ姉妹は放置し、ベッドから立ち上がり部屋の外へと向けて歩いていく。


「くぅぅ……設定萌えもいいけど……やはりそろそろ襲うべきかな、いやでもでもこの微妙な距離感の悶えこそ……ってお兄ちゃん待って~」


 何か不穏な事を呟いているサヨ姉妹が追いかけてきた。


 俺は歩くのをやめて振り向き、パタパタとスリッパで音を鳴らしながら追いかけてきたサヨ姉妹を待つ、ぶかぶかのTシャツとスパッツという恰好だ。


「……そのちょっとだらしない感じの部屋着は可愛いな、俺には姉しか居ないが妹が家では適当な恰好をする感じが出ててグーだ」


「ほんとに!? この部屋着コーディネイトはすっごく迷ったから嬉しいよシマお兄ちゃん! 地球から送られてきたプレゼントの中にあったTシャツ貰ったんだ~、ふふ~」


 俺が褒めると、サヨより少し背の低い義理の妹設定サヨ姉妹は、嬉しそうに大きく手を振って俺の少し前を歩きだす。


 サヨに追随する様に俺も歩みを再開する。


 サヨ姉妹のぶかぶかTシャツの前後には日本語で文字が書いてあって、表側には『富士さん』と裏側には『剣だけ』と書いてあった……たぶん山の事だよな?

 Tシャツに書いてある文字が謎なのは、人が宇宙に行ける様になっても変わらないって爺ちゃんが言ってたっけか……。


 そして俺へのプレゼントなんだが、宇宙中から目録が送られてくるんだよね……。


 送って来る相手も俺が全部チェック出来る訳も無いのを判っているから、貰った物をそのまま寄付に回したり、こうやって身内に好きに使って貰ったりする事には理解がある。


 俺が気に成りそうな物とか身内が欲しがりそうな物だけ現物を送って貰い、それ以外は目録を受け取ったら俺からお礼状だけ返して、そのままその地域の寄付に使って貰って居る。


 魚人に人気のあるミミズスナックとか送って来られてもね……困るからね……。



 数歩だけ先を歩いていたサヨ姉妹が顔を横に向けて。


「今日の朝ご飯はね、地球から送られてきた高級な……」


 途中で言葉を溜めているサヨ姉妹。


 高級な食い物がまた送られて来たみたいだな。

 地球の日本地区からのは食い物は、優先して飯に出して貰う様に頼んでるんだ。

 一応故郷だしさ、これは楽しみだね。


「高級な?」


「『わら包み納豆』と『ワカメ』や『豆腐』を使ったお味噌汁なんかをご用意してます!」


 両手を大きく広げて凄い物が来た、という表現をして来るサヨ姉妹。


 そのオーバーなリアクションはちょっと可愛いな、くっ、やるなぁ義理の妹設定めが。


「おー……俺に出すって事は培養品じゃないって事だよな、まぁワカメなんかは日本に居た頃に本物を食べた事があるけど……わら包み納豆なんかは高級品だったから初めてだな、豆腐も合成品じゃない奴? すごいな……」


 そうして食卓に着いた俺は、丁度給仕用ドローンが並べてくれているご飯を眺める。


 炊かれたお米はツヤツヤとしており、自家栽培品だ。

 納豆は送り物で高級品なら栽培品だろう。

 さらに俺が席に着いたら、サヨ姉妹が給仕ドローンを使わず直接よそってくれたお味噌汁の具は豆腐とワカメだ、これも味噌から全て栽培品やらで作った物だろう。

 そして焼いた魚……これは養殖かな? でも培養じゃない本物の魚だ。

 最後に漬物で、糠床から全て本物というやべー逸品だ。


 ……正直これを日本で食おうと思ったら、普通の家庭の一月の収入が全て消えてなくなるだろう……。


 いや、一月分じゃ足りないかも?


 培養品が手軽でお安く作れちゃう世界だったからね……味に不満を覚えた事も無かったしなぁ……。



「準備ありがとう、いただきまーす」


「はい召し上がれお兄ちゃん、私もいただきます!」


 早速とばかりに食べていく俺、サヨ姉妹も一緒に食べる。


「もぐもぐ……美味い! ……けどやっぱり培養品と何処が違うかは判らん! 悔しい!」


「もぐもぐ、美味しいんだからいいじゃないシマお兄ちゃん」



「まぁそうだな、ポリポリ、そういやクレアやサヨは?」


「補給艦で会議をしてるよ~」


 会議なんてネットの仮想空間内でも出来ちゃうんだけど、なるべく顔を合わせてやる方針にしている。


 てかもう仕事を初めてるのか……申し訳ねーなぁ。


 俺? 俺はほら……自分で言うのもなんだが、正直言って才能とか無い一般人だからさ……。


 向いてない仕事はやらずに、向いている人にまかせる事も必要だと思うんだ。

 俺は俺が出来る事をしていこうと思う。


「もぐもぐ、ご飯おかわり~」


「は~いシマお兄ちゃん、お味噌汁は?」



「お願い」


「了解、具材たっぷりでよそうね」


 宇宙へと飛び出た最初の頃は、飯とかは宇宙的な何かに変わるのかと思っていたが、中身が高級品なのは別として内容はそんなに変わる事は無かったな。


 まぁサヨが俺の為にそうしてくれているみたいで、種族ごとに飯メニューはもちょっと違うらしいけどな……。



 って待てよ!?



 クレアやサヨは……納豆が嫌で朝食を一緒にしなかった訳じゃ……ないよね?



 ……ない……よね?



 おいおい……日本地区が誇る納豆さんだぞ? これはどうにかせねば……。


 ……今度リゾート街に新しく作る回転寿司店の開店セレモニーで、納豆巻きを多めに流してみよう。


 っとお代わり来た。



「ありがとう、気が利く妹で俺は嬉しいよ、ニッコリ」


 お味噌汁を受け取る時に、サヨ姉妹をそう褒めつつ笑顔を向ける。


「はぅっ!! ……くぅ……義理の妹設定の心に刺さる一言と笑顔! やるねシマお兄ちゃん! 100妹ポイントあげちゃう!」


 嬉しそうに右手でグッドマークを作って俺に見せてくるサヨ姉妹だった。

 そのポイントは何に使えるんだろうか……シマポイントと交換出来ますか?


 さっきのお礼は日本の漫画やアニメのラブコメとかを参考にしてるしな。


 まぁどうせなら相手を喜ばせたいからさ、サヨ姉妹相手だとこんな感じのそれぞれの性格に合った演技っぽさも入れていく訳さ、身内を喜ばせる事は俺に出来る事の一つだしな。



「もぐもぐズズズっ、はー美味しい、次はお魚さんを~」


「地球の食品も中々やるよねぇ……」


「培養品も美味いけどな、培養肉を使ったファストフードのハンバーガーとか好きだったぜ」


 魚の骨を丁寧に取り除きつつサヨ姉妹と会話をしていく。


「そうなの? んーならさ、お昼は別荘惑星のリゾート街にあるファストフード店で食べようか、あそこらでは培養肉も使ってたりするし」


「それいいな、地球での外食とか懐かしいし、ってかあの辺の肉とか培養品なのか?」



「そうだねー、別に全部牧畜産でも可能なんだけども、シマお兄ちゃんがそういうのを懐かしむかもってサヨ本体が言うから、あの辺のお店は地球のお店っぽい材料で作ってたりする事もあるんだよ」


 わぉ、さすがサヨさんだ、俺の思考の先を読んでくる。


「なんか懐かしく思えてきた、お昼はそれで決まりだな」


「それじゃ予約入れておくね」


 結局の所、天然だろうが培養肉だろうが、美味しければなんでもいいんだよなぁ俺って奴は。



 ポテトはラージサイズにしよっと。


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