第27話 宇宙は広いな大きいな、皆さんにはお互いの文化の違いを良く勉強をしておく事をお勧めします
「王手飛車取り」
パシッっという音をさせながら俺は成り上がった角、竜馬で敵を攻めていく。
「むむん……それなら王を金で防御をします」
……おいまて……。
「なぁクレア」
俺は背もたれの付いていない長椅子をまたぐ様に座っている、対面のクレアに声をかける。
「なーにーシマ君、早く次の手を指してよ」
クレアは盤面を凝視しつつ俺の方を向かずに返事をする。
「いや取り敢えずさぁ、その防御に使った金は何枚目だ?」
長椅子の真ん中に置かれた将棋盤の盤面、クレアの陣営に素の金が溢れてきていた……。
「えーと……6枚目だね」
だよねー、おかしいよねそれ。
「そこの箱に入ってる駒はね予備なの……使っちゃ駄目なの……」
長椅子の真ん中に置いてある将棋盤の横には、飲み物を置いている小さなテーブルがあり、そこに駒の入った箱も置いてある。
俺はそれを指差しながらクレアにルールを説明していく。
「え! そうなの? でもこれ戦争のゲームなんだよね? 予備兵って意味がワンチャンないかなシマ君?」
「ないです、クレアの反則負けになります」
「また負けた……ってちゃんとルールを教えてくれないシマ君がずるいんじゃ?」
「最初に細かくルールを確認しないクレアが良くないよ、そういう所でいつもサヨとか他の子に負けるんだと思う、素直なすごく良い子とも言えるんだけどね……」
「えへへ、素直で可愛いってシマ君に褒められた、チューする?」
「褒められたという表現はちょっと違うんだが……可愛いのでチューはします」
「「チュッ」」
クレアの真面目過ぎる所をどうにかせんと、様々なボードゲームで勝負をしている。
んで俺は盤外戦術を駆使してクレアを負かせている所だ。
……普通にやったら負けちゃうからね。
取り敢えず今やっているゲームを破棄し、次はリバーシで対戦をする事にした。
今はさっきのゲームに負けたクレアがその準備をしてくれている。
俺はテーブル上の飲み物を手に取り、周囲を見回してみる。
そこは一面の草原だった。
草の背丈が10センチほどの草原が、地平線が見えるくらいに広がっていた。
そんな草原に、天井と一方向だけ壁のある、2LDKくらいがすっぽり入っちゃう様な大きなタープテントを張り。
その下の日差しを遮られた場所に、敷物とかは一切敷かず、草原の上にそのまま長椅子やソファーやテーブルなんかを置いている。
そして俺達は全員素足だ、柔らかい草原の草の感触がこそばゆく心地よい。
勿論小石とかは全て除去済みだ。
これも観光コースのチェックを兼ねていて、アイデア募集の時に俺からの助言を断って考えていたクレアなんだけど。
自分の思い付くアイデアが、応募数の多いランキング上位に入って居るものばかりなのに気付いて助けを求めて来たんだよね。
そんで俺が助言をしたのがこれ、【大草原で引きこもり観光コース】だ。
ここには草原以外何も無い……ただただ草原が続き、そして心地の良い気温と穏やかな風が気持ちいい、そんな場所を選んでいる。
まぁ周囲には動物や虫が近付かない様な、目に見えないフィールドをキロ単位で張っている。
そしてここに来たお客様には、特に観光サービスをする事はない。
お客様の自分の部屋にある、お気に入りのソファーやテーブル等を持ち込んで貰い、それらを草原に設置をするだけだ。
ちなみにタープテントの貸し出しは任意。
つまり、部屋に引きこもりがちな人が場所だけを草原に変えるという、ただそれだけのサービス。
最初クレアは俺の助言をまったく理解出来ないという様な表情だった。
高い料金を払ってこんな所まで来て、やる事が部屋に居る時と同じなら意味ないのでは? と首を傾げていた。
それならばと、一緒に体験をするべく今こうして来ている訳だ。
最初は観光地なんだから特別な何かをしなくちゃと、体をソワソワさせていたクレアだが、のんびりいつものごとくの俺を見て落ち着いてきた。
お金持ちはこういうお金を無駄遣いしてる様にもみえる、贅沢な時間が欲しいんじゃないかなー、と思っているんだけどどうかなぁ。
……まぁぶっちゃけ、俺がやりたかっただけだ。
そんな自然の中で、本物のコマを使ったボードゲームをのんびり遊ぶとか最高じゃね?
クレアとのボードゲーム勝負も、やろうと思えば銀河ネットに繋いで仮想空間の中でも出来るんだけどね、生身でやる古臭い感じが良いのだと思う。
それと銀河ネットの使い方だけど、フルダイブじゃない拡張現実や複合現実な使い方もあって、自身の生身に意識があるままでネットに接続とかも出来る。
実はそっちの使い方の方がメジャーだったりで、爺ちゃんとかはフルダイブしない派なんだ。
ただし、サヨが言うにはフルダイブしないと旧銀河帝国の遺産には出会えないらしい。
俺はフルダイブ派で良かったと思う……簡単な調べものの時とかはフルダイブしないけどね。
「準備出来たよシマ君、次は負けないからね!」
「ほいほい、ルールの説明はいるか?」
「箱に書いてあるのを読んだからばっちし!」
「それじゃぁ――」
『そろそろ仕事をしませんかシマ様』
むぐ……サヨが俺とクレアに近づいてきてそんな事を言う。
「いやほら、せっかくの観光地だしね……仕事は放置でいいかなーって……」
俺は決死の抵抗を試みるも。
『この観光コースのコンセプトは【自然の中でいつもの部屋での生活】なんですよね? ならいつもの様にお仕事もして貰わないと』
サヨのその言葉を聞いて、クレアも頷いてリバーシを片付け始めてしまった。
まさか自分の提案にあげ足を取られるとは、仕方ないか……。
俺は長椅子からソファーへと移動をし、ドサッっと、いつも使っている自室のソファーへと座る。
移動時に素足で踏みしめる、草原の柔らかな草の感触が気持ちいい。
「それで、何の仕事なんだ? 観光コースのチェックなら、もう予定は決まってるだろうし」
ポスッ、俺の横にクレアが座り、新しい飲み物を入れてテーブルに置いてくれる。
気が利いて可愛くて愛らしい嫁だ、ありがとうクレア。
サヨは対面のソファーに座ると、空間投影モニターを各種出しながら。
『取り敢えずこれをご覧ください』
空間投影モニターには様々な種族の人間のバストアップ画像が連なり、横には名前と所属が書かれ、そのリストが下から次々と上に流れていく。
その流れは俺の反射神経を試すかの様な速度で、中々終わらない。
……。
……。
「いやまてサヨ、このリストいつ終わるの? もう5千人くらい流れたよね?」
『正確にはさきほどのシマ様の発言時で六千八百人です、全部で20万人程の人物リストですね』
それを聞いて俺は空間投影モニターを見るのを止めた。
空間投影モニターから俺が視線を外したのを感知したのか、情報の流れが一時停止している。
「で、この人物リストが何だって? ほとんど若い女性だった気がするけども」
『ヘキサグラム領への移住や留学希望のデータです』
はぁ?
「いやまて、俺はそんなの募集もしてないし、そもそもまだ領地を貰ってそんなに時間がたって無いだろ、普通ならテラフォーミングを開始した段階だし、それだと学校処か人が住める場所すら無い状況じゃん」
貴族達の援助を全て断ったし、まだまだ人が住める場所じゃないと思われているはずなんだがな……。
「シマ君との繋がりを得る為に早めに話を通しておきたいのねぇ……一緒に苦労をして領地を形作る仕事をすれば……縁も深まるって事でしょーね」
クレアが横から助言をくれた。
なるほど? 何も無い場所から苦労をして何かを一緒に作り上げる……。
それは普通なら連帯感とかそういう物が芽生えるはずで……そしてリストには若い女性で溢れていた……。
「てーことはだ、これはつまり技術者の派遣を断った俺への……」
気付いた事を口に出すのがちょっと嫌な俺は、途中でセリフを止める。
『シマ様と縁を作る為のお見合いを兼ねた物ですね』
だがしかしサヨは許してくれなかった!
「デスヨネー」
「うちの旦那様は非常にモテるから鼻高々ね」
クレアはまったく鼻高々っぽくない口調で言っている、棒読みじゃん。
「しかもなんでお見合いなのに性別が男なのも混じってるんだよ……」
『シマ様への数々のハニートラップに失敗をした権力者達のグチのせいで、もしかしたらそっちの気も? と邪推し始める物達が出て来たからです』
「あほか! あんなあからさまなトラップに乗る馬鹿は居ないだろ! 俺には可愛い嫁や嫁候補が万の単位でいるんだぞ?」
俺に近づく女性の裏は、サヨがささっと調べてくれるから気付き易いってのもあるな。
「血で縁を結ぶのは常套手段だからね、シマ君には私と初期に来た側付きの子達以外はさっぱりだものね、側付きの家の方に手を伸ばす奴も居て、排除するのにサヨさんやサヨ姉妹さん達に苦労をかけているのが申し訳ないわ……」
え? そんな事になってるの?
俺はクレアからサヨに視線を移す事で確認を取ると、サヨがコクッっと頷いた。
サヨ姉妹は俺の護衛の意味もあるとサヨは言っていた。
ブレインユニット達が戦艦やらで戦い、サヨ姉妹が俺の生身を守ると。
なのに最近、補給艦の中で過ごすサヨ姉妹達の数が減ったなぁとか思っていたのは、方々に派遣するはめになっているからか……。
「サヨ、側付きの家族で受け入れても良さげな人は要塞都市の住人になって貰う事を検討してくれ、側付きやご家族の意思を最優先で、将来的に宇宙ステーション業務や観光業の仕事なんかは斡旋出来るだろ?」
『畏まりました、側付きの方達への意識調査から始めます、護衛すべき存在がある程度纏まるのは姉妹達も喜ぶでしょう……最近シマ成分不足だと嘆いている姉妹が多かったので』
なんだよシマ成分って……。
「よろしく、それと建築中の要塞都市の規模を拡大しよう、現状の1万人都市計画だと移住してきた側付きのご家族達に閉塞感があるかもしれないし、取り敢えず100万人都市を目指そうか」
リストが20万人なら5倍も猶予があればいけるだろう。
取り敢えずの方向性を示した俺は、一息つくべく飲み物に手を伸ばす。
『……先ほどのリストの二十万人なのですが、こちらである程度厳選した物なのです、実は問い合わせだけなら一億の件数を超えています』
「ぶっー----!!!」
飲んでいた炭酸飲料を吹き出した。
「は? 一億人? え? まじで言ってるの? サヨ?」
だってお見合いを兼ねているんだよね? 一億人とのお見合い?
俺の対面に居たサヨは、俺が噴出した飲み物を華麗に避けていた。
そんなサヨは掃除用のドローンを呼び出しながら。
『あからさまなのとかは弾いていますから、先ほどの20万人のリストは銀河ネットで手に入る情報で判断をして、ある程度まともかなと思われる人達の中でもさらに上澄みですね、シマ様と相手がお互いに気に入れば嫁にしても良いリスト候補といった所です』
一億人から厳選しているのか……スパイとか工作員とか送られても困るからな……。
あれ?
「嫁にしてもいいリストなのに、性別男が少し混じっていた気がするんだけど、サヨが情報を選別しているというのなら、男が混じっているのはおかしくね?」
「シマ君、アリアード皇国では同性婚も重婚も交差婚も認められているよ?」
「成程そういう事か! ……じゃないよ! なにを冷静に指摘してるんだクレア、俺は女の子が好きなんです!」
『大好きの間違いでは』
サヨの冷静な指摘が入る、うんそうだね。
「はい! 大好きです! それなのになんで男の子のデータが嫁にして良いリストに?」
『それはですね』
「それは?」
「ワクワク」
クレアが俺の横でワクワクしておられる、何を期待しとるんじゃこの人は……。
『シマ様の秘密なムフフアーカイブにそういうネタがあったからですね』
ん?
え? いやまって。
「そんなはずは無いんだが……」
「シマ君は器が広いのねぇ」
クレアはまったく動揺すらしていない。
宇宙は広いからなあ……雌雄同体種族とかもざらだし。
うーん、でも俺の感覚は地球基準だからどうしてもなぁ……。
『おかしいですね? これなんですけども』
そう言ってサヨが見せてくれたファイル名は……。
「ああ! これは大学の友達に押し付けられたけど、興味ないからゴミ箱に入れといたやつじゃんか、貰い物だから完全削除も悪いと思ってそのまま放置してたやつだよ……」
男の娘シリーズとか言われても、興味なかったからまったく手をつけてなかった奴だな、ちゃんと消しておけば良かった……。
『そうだったんですね、間違えてゴミ箱に捨てたのかと思ったので、最近シマ様のアーカイブに復元して追加しておいたのですが……まぁこのままでいいですよね』
いやまぁどうせ最近は見る暇も無いからいいけどさ。
「まぁそれはいいよ、問題は受け入れの話だ、まだ都市が出来上がってないから情報収集と選別だけして保留にしとこうぜ、相手にもまだステーション建築中ですからーとかなんとか言ってさ」
今すぐどうこうする問題でもねぇだろうしな。
『しかしすでにこちらに向けて移動している方も居るのですが』
「え? いやいやさすがにそれは追い返せよ、恒星系の端っこまで艦隊を出してもいいからさ、威圧すれば帰るだろ」
こっちの意思を無視して押しかけるとか駄目だろ。
『そのお方が乗っている船は皇帝陛下の御座艦になりますし、そもそもシマ様が受け入れたお方ですので……これで受け入れを拒否したらシマ様の声望は地に落ちますがよろしいですか?』
「え? シマ君また私やサヨさんに何も言わずに女の子に手を出したの? 管理が大変になるって言ったよね? お仕置き? またお仕置きかな!?」
クレアが俺の片腕を組みながら、逃がさないとばかりに詰め寄って来る。
「まってクレア! 俺には今の所心当たりが無いから! この間の肉食系側付きとのお互い食事会はちゃんとクレアに怒られたから……その他にクレアにばれてない事に心当たりないから! お仕置きはまって!」
今の所クレアに怒られそうなフラフラ案件は無かったはず?
……うん、やらかしは全部一度は怒られたから、今の所は無いはずだ!
「む……シマ君はばれたら隠さず素直に謝るものね……ならどういう事? ねぇサヨさん」
クレアは俺と腕を組んだままサヨに問いかける。
サヨは一つの画像を空間投影モニターに映す。
これは補給艦の中にある俺の部屋だね、そして映像が一つの場所にズームをして……花?
「花がどうかしたのか?」
俺は良く判らなかったのでサヨに聞いていく。
「あ! なるほど……それなら確かに陛下が御座艦を出すのも……」
クレアは映像を見て気付いた様だ。
皇帝陛下の御座艦なんてそんな簡単に出ないだろう? まさか陛下の娘? クレア以外の皇女とか?
サヨは何故か勿体ぶった様に。
『シマ様は樹人の未受粉女性が、自分の体に咲く花を花輪にして男性に送る意味をご存知ですか?』
いきなり話を飛ばすなよ、今してる話と樹人は関係……あれ?
さっき映した花は花輪の一部か!
あの時花輪をくれた樹人の……荒縄を巻いていた植木だから雌しべというか……女性だと思うのだが。
そんな女性に貰った花輪は未だに枯れないのよな。
宇宙の神秘だなーと思って自室の壁に飾ってあるんだが……えーと……。
どうしようか、話を進めるのがすごく怖くなって来たのは俺だけだろうか。
今日は観光コースの調査だから、もうお話はやめてゆっくりしませんか?
ほら、サヨの好きなベッドの弾力を確かめにいったりとかさ……駄目ですか、そうですか……。
俺は覚悟してサヨの質問に答えを返す。
「まったく知りませんです」
「え? 事前にサヨさんから貰った資料に書いてあったよね?」
俺の答えにクレアが驚いていた。
あの数千ページに及ぶ物全てを読んだのかクレアは……重要と書かれた部分だけしっかり読んだけど、俺には関係なさそうな文化部分までは流し読みしかしてませんでした。
『シマ様とあの時の樹人の女性は婚約関係にあります』
うぐぁぁぁ……やっぱりか!
……ぇぇぇ……あんな時に婚約の申し込みをしてくるのかよ……。
お土産の花輪だって思うじゃんか、樹人の受粉とか結婚関係の文化情報や生態は流し読みでいいやって思ったのが失敗だったか。
俺相手にそんな事起こる訳もねーし、とか思っていた昔の俺を殴りたい。
「えーと……俺は花粉を出せたりしないんだが……」
「それは心配する部分じゃないよね?」
『まずは受け入れ態勢を整えるべきかと』
あ、はい……。
「御座艦に乗ってくるって事はVIP扱いで来るんだよな、式典みたいなのは必要か? それとも樹人の惑星みたいな肥沃な大地で迎えるべき?」
「あー、それは悩むわねぇ……対応次第でシマ君の評判にも関わりそう」
うーむ……樹人は知的だし、見た目に引っ張られない様に考えないとな。
『観光惑星の植物の多い広場で迎えるのがよろしいかと、御座艦にも惑星に降りる機能があったはずですので、観光惑星に降りて貰いましょう』
「え? サヨさん、わざわざ数キロメートル級の御座艦に地表へと降りて貰うの?」
クレアがサヨに質問をぶつけている。
そうだな、それなら衛星要塞にある宇宙ステーションで、スクィードに乗り換えて貰った方が良くない?
俺も不思議に思ってサヨを見ていると。
『滅多に使われる事の無い皇帝の御座艦が降りた観光惑星、良い宣伝に成ると思いませんか?』
サヨが悪い笑みを浮かべてそう答えてきた。
「「なるほどー!」」
俺とクレアは同時に納得の声を出すのであった。
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