第26話 お客様に何かを出すにはそれが何であれ、事前に何度もチェックをしないといけないと思うんだ

「ふーむ……揺れなんかをほとんど感じられないのは、自然あふれる僻地に来たという臨場感が無くなるかもだ……これは他の全ての観光コースでも言えるかもしれないな」


 俺は小休止中に気付いた感想を述べていく。


「確かにそうかもですね! 感想を記録しておきます」


 俺の感想を聞いた、緑髪でボブヘアな犬獣人義体のヒスイ……愛称スイが記録を残してくれる。


「お願いするよスイ……じゃぁ観光再開だ、運転よろしくね」


「お任せ下さい」


 運転席で空間投影モニターを出したスイは、それで何か操作をしてから運転を再開する。


 おおう、今まで揺れや重力による速度の増減みたいなのを感じなかったのに、今は地球でエアカーに乗った時くらいには感じる。



 ……。



 俺は今、例の観光用の第四惑星に降りている、同行者はスイのみだ。



 スイは前にもクジ引きで当たりを引いていたのだが。


 今回の観光アイデア募集でも、このアイデアを出した複数人の中で一等のクジを当て、シマポイント10倍を得ている。

 そのシマポイントを使ったスイと、こうして観光コースの調査に来ている訳だ。


 シマポイントは品物とかにも交換出来るんだが、大抵は俺との時間を欲しがる子が多いんだよな……。


 ちなみに内容が同じアイデアを採用された子達は、クジ引きで二等から四等までを当て、シマポイントを3倍から1倍くらいまでの付与をしている。


 全員に10倍あげちゃうとね……俺の時間が足りなくなるからね。


 付与するポイントの基礎点は内容によって変えている。

 戦闘なら最高で30ポイントとか、今回のアイデアとかだと10ポイントで、参加賞で1ポイントとか、そんでポイント消費でご褒美に使えるって感じかな。


 ……そのうちポイント3倍デーとか作ろうかね?


 いや、ポイント倍のレディースデーとかも……って俺の周り女性しか居なかったな、だめじゃん……。



 面倒だったりちょっと危険な任務についている子らにも、お給料の他にシマポイントを付与している。

 俺の家族の護衛についてるサヨ姉妹とかだね。


 生身で行っているから死ぬ危険があるんだよな……それなのにブレインユニット達も行きたいとか言い出すんだよ……。


 ブレインユニット達はサヨ姉妹より身体能力低いから駄目って言ってるんだけどね……サヨ姉妹と同じ生身メインの義体でも性能が違うんだよね。



 っと、考え事をしながらボーっと外を見ていたら、遠くに大きな動物が見えた。



「お、でかい動物だね、ちょっと止まって観察してみようか」


「了解ですシマ様」


 ここはサバナ気候ともいうべき場所で、今は乾季らしく遠くまで見渡せる雄大な乾いた平原が続いている。


 そして遠くにゾウとキリンを合わせた様な動物が、複数でのんびり草を食んでいる光景が見える。


 大きさは5メートル以上はあるかも? でかいなぁ……家族の団欒かねぇ?


「よし、次行こう、今度は少し移動をゆっくりめにお願い」


「はいシマ様」


 景色が人の走る速さくらいで流れていく中で、運転席のスイと会話をしていく。


「道も無いのに殆ど揺れないのはすごかったよな、今も地球で乗っていたエアカーくらいの感じだし、地面はかなりでこぼこしてるのにな」


「これでも戦場で使われる強襲用多脚型戦車が元に成っていますから、先ほどは重力制御や慣性制御も使っていましたし」


 道なき道を楽々と移動しているこの乗り物は、多脚型戦車を改造した物だ。


 1LDKのマンションの箱に、地面から床までが5メートルくらいの高さになる、蜘蛛の様な足を付けたといえばイメージしやすいだろうか?


「しかも外からは光学迷彩で認識され辛いんだろ? 中から外を見てもそんなフィールドがあるのに気付かないのがすごいよな」


「外からは周囲の風景に同化して見えているはずです、さすがに自然動物だと光学迷彩に違和感を覚えている個体も多いですけどね、野生の勘なのでしょうか? 逃げる程では無いみたいですけど」


 スイのその言葉を聞いて、俺は戦車の透明な床部分の下や横を見て動物の動きを見てみる……確かにこちらを気にしている個体もいるね。


 この多脚戦車なのだが観光用にと壁やなんかを全て透明な素材に変えてあるんだよな、なので壁の外や床下に自然の風景が見えるんだ。


 透明の素材にした事で防御力はかなり落ちるが、それでも獣程度ではどうにも出来ないから問題無し、それに念のために上空に戦闘用ドローンなんかも何機か待機させている。


 床が透明なので実はちょっと……いや……かなり怖い。


 身体強化された体なら、こんな高さから落ちたくらいじゃどうにもならんのだが、人が本来持つ本能からの恐怖心はどうにもならない。



「こう、四方八方全て透明だとちょっと違和感がすごいよな……」



 多脚戦車の本体で言うと細めの足と本体の枠組みと運転席以外ほとんど透明なんだぜこれ、お客が乗り込む予定の空間だと、生活用の備品やトイレは透明じゃないけどね。


 ちなみに本番の運転は知能の低いロボットにやらせるつもり。

 ほら一応サヨがお客を選別するけどさ、横暴な奴が来るかもだからね。


「サヨ様がそう改造したらしいです、色々な角度から自然が見える様にするにはこれが必要だと」


「へぇ……サヨがねぇ……他に何か言っていたか?」


 スイからサヨの名前が出たので、すごく嫌な予感がした俺はスイに確認を取っていく。


 近くに草食っぽい動物達が一杯居る場所で、一旦多脚戦車を止めたスイは、顎に指をあてて何かを思い出す様に。


「えーと確か……お金持ちなら稀有な体験が出来るのが一番のはずだとかなんとか?」


「ふむ? 自然豊かな場所で天然の動物を間近で観察するなら稀有と言えるか……サヨにしては普通だったな、ホッっとしたよ」


 あいつの事だから、また妙な事を考えてたかと勘繰っちゃった。


 ごめんなサヨ、俺は心の中でサヨに謝っておく。


「そうですね、そして自然の中で一泊するのも観光の醍醐味だと、サヨ様は言っていました」


「あー夜行性動物の観察とかもしたいものな、やけにでかい胴体だと思ったけど、泊まり掛けで使うと考えるならこんなもんか」


 俺は後ろを振り向いた、その先には大きなスペースがあり、ソファーや小さな台所やら寝室やらトイレやら……何処のマンションだこれ? とか思える設備がある。


 ……地球の北米地区にキャンピングカーとかいう文化があったなそういや、それのでかい奴と思えばいいのか。



 いつのまにかスイが運転席から離れて、椅子に座っている俺の側に来ていた。


 疲れたから小休止したいのかな?


「そしてこうも言っていました、周りの動物はその野生の勘でこちらを観察して来るでしょうと」



 そうスイに言われて周りを見ると……。



「うわこわ! なんか動物達が一杯こっちを見てる! ……戦車に気付いている訳じゃないんだろうけど、こう沢山の目に見られている感じは恐怖すら感じるな……野生の勘って奴か……今は止まってるから猶更視線を感じるなぁ……さっきまで移動してたからここまでとは思わなかった……」


 沢山の草食動物っぽい群れの、かなりの個体がこっちを見て来ている。


 中からは光学迷彩が見えないから、普通に動物と視線が合っている様に思えちゃう……。

 これは夜とか動物の目が光っていたら怖いだろうなぁ……。


「そしてサヨ様はこうも言いました、沢山の視線の中での休憩は、お金持ち達に新たな世界を感じさせる稀有な出来事になるでしょう、と」



 ん?



 ……んん?



「いやまてスイ、その新たな世界というのは、珍しい自然を堪能するとかって事だよな? ……休憩ってのは今みたいな感じの事だよな?」



 一応、一応ね、俺の勘違いかもしれないのでスイに聞いてみた。



「いえ、前にシマ様とした休憩な奴です、ほら、後ろの奥のスペースが宿泊施設になっているんですよ」


 スイの指さす先には勿論ベッドが有る……。



 ……あ・い・つ・は!!!!



「やっぱりサヨはサヨだったか……」


 俺の心の中での謝罪を返してくれサヨ……。


 そうしてスイの指に従って後ろを見ていた俺は顔を元に戻す……と目の前にスイカが二つ間近に迫っていた。


 スイは俺にゼロ距離まで近づくと。


「シマ様、お金を沢山払って貰う観光コースの調査は、しっかりとやる必要があると思うんです、ですのでお客様がするだろう事は、全てしっかりきっちりくまなく僕と一緒に調査しませんか?」


 そう言うスイの俺への距離は、ゼロからマイナスに成っている。

 あのスイさん? ……顔が埋まってしまって息が出来ないんですけど?


 取り敢えず俺はスイを少し押し戻して、ブハッっと息をした、ふぅ……危うくスイカで溺れる所だった……。



 さて返事をしないとな。



「観光コースの調査か?」


 確かに上流階級達に遊びに来て貰って、お金を一杯落として貰うのならば、全てをきっちりと調査する必要はあるだろう。


 危険が無いかとかは特に念入りにやらないとな。


「はい、僕と一緒に一杯調査しましょうシマ様」


「……そうだな、調査ならしっかりやらないとな……よし、念入りに調査するぞ! スイ」



「あ……はい! シマ様!」



 俺はパタパタと左右に尻尾を振っているスイの手を取ると、まずは多脚戦車の胴体部分に設置してある設備の調査から始める事にした。


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