第25話 俺の常識が非常識になりつつある気はしているんだ。

『惑星の軌道修正良し、恒星系内の重力バランスも許容値です、オペレーション【お引越し】第一部完了しました』


 サヨの報告を聞きながら俺はホッと息を吐く。


「サヨならいけるとは思ったが、ちょっと緊張しちゃうよな」


「だねぇ、しかしまさかこんな手を使うとは思わなかったわ、さすがシマ君!」


 クレアが椅子に浅く座り、狐尻尾を可愛らしく左右にパタパタさせながら俺を褒めてくる。

 ちょっとした思い付きだとは思うが、嫁に褒められて嬉しくない訳がない。


 後で可愛いクレアにチューしよう。


 ついでに俺が獣人の尻尾や耳の動きが好きなのを知っていて、わざと椅子に浅く座ってくれる気遣いの出来る所も愛らしい。


 大好きだクレア! 追加のチューも予約しておこう。



 さて。



 ここはいつもの兵站用補給艦内にある戦闘指揮室だ。


 いくつもの空間投影モニターに様々な情報が乱れ飛んでいる中、俺の左右にはいつもの様にサヨとクレアが椅子に座って居て。


 前方下部にある通信席には、側付きの子らやブレインユニットなんかが、補助椅子までを埋め尽くす勢いで揃っている。


 今は通信する相手も居ないから通信士に意味はないんだけど……。


 それでも戦闘指揮室に生身で来れるクジ引きに、一喜一憂している彼女らを見ると、自室から銀河ネット経由で参加したら楽じゃね? とは言えない。


 ブレインユニット達の殆どは、サヨが空間歪曲で内部に抱えている別荘惑星の都市に居るので、大抵の子は仮想空間でこっちの様子を見ているんだよな。



 俺の前の空間投影モニターには青と緑色の惑星が映っている。


 海と大地がバランス良く存在している惑星で、一般的な人類が生存可能な状態に調整済みな一級居住惑星という奴だ。



 俺はクレアと結婚したと同時に男爵に叙爵された。


 確か最初は準男爵のはずだったんだが、いきなり銀河を救っちゃったしなぁ……。

 その功績にしては低い気がするのは、俺が侯爵への叙爵を断ったからだ。

 正直貴族の位すらいらないんだが、まぁクレアと結婚をする為に形式上必要だから最低限は受け入れた。


 そして領地を賜った訳だけど、俺としては皇国の外周部である辺境が良かったんだが。


 ……皇帝陛下が娘とすぐ会える距離がいいとかなんとか言っているとかで、皇国の首都本星近くの皇領である、無人の恒星系を分け与えられた。


 まぁ養女なクレアとすぐ会える距離云々なんてのは建前だってのは判る。

 俺という戦力を本星の近くに置いておきたかったんだろうね。


 そうして貰った恒星系なんだが……有望な場所ならすでに手が入っているだろうし、本星の近くで無人ってことは……。



 物の見事に何も無いというべき恒星系だった。



 恒星一つに惑星が8個、5ミリ以上の生命体ゼロ、水分極小、埋蔵物資も何処にでもある物しかない感じだった。


 ……無人の領地が良いとは言ったけど……この領地を俺に渡す事を伝えに来た皇帝陛下の新人側付き文官な女性有翼人さんは、すっごい緊張してたっけか。


 俺は別に怒ったりはしないんだけどな……むしろあの子が可哀想だと思った……。


 まぁそもそも皇宮に期待してないし、本星近くに領地を賜る代わりにと、皇国の領域外でのサヨの自由な食事を皇帝陛下直々に許可して貰ったからね。


 その事が嬉しいから損得で言えばトントン所か、ありがとうございます、ってなもんだよ。



 そんでまぁこの恒星系は、惑星をテラフォーミングするなりしないと人が住めないから、普通に考えたら時間と金がすっごいかかる訳で。


 陛下に忠を誓った内乱に参加していなかった貴族達が、援助の申し入れをすっごいしてきたんだ。


 対価に俺の持つ戦力をちょこっと頂ければなんて感じでさ……あほか?


 もうお前らに俺の大事な子達のパンツはやらんよ! っと間違えた、戦力はあげません!


 惑星のテラフォーミング用技術者をよこすから戦艦一隻下さいとか。

 ものすごいふざけた申し出もあったんだぜ……貴族ってのは面の皮が厚くないと生きていけないんだなーと思った。



 そんで俺は領地をどうするかと、サヨとクレアと俺のみの三者会議をし。


 テラフォーミングが大変なら辺境から人の住める惑星を持ってくれば良くね? とサヨやクレアに提案した訳だ。


 それがまぁクレアの言う『こんな手』だな。


 日本の漫画やアニメを見て育ってる奴等なら、普通に思い付くとは思うんだけど……。


 クレアや近衛兵な側付き達にすっごい驚かれたよなぁ……なまじ科学的に優秀だと常識に縛られちゃうんだろね。


 正直な話を言うと、領地である引っ越しすら出来るんじゃないかとは思っているのだが……。


 あんまりに彼女らの常識を壊すのも可哀想なので、は黙っている。


 必要があったらやるけどね。



 この引っ越しさせた惑星は、俺が前にサヨと適応体捜索をしていた時に見つけた惑星だ。

 オニカサゴ型の適応体に隠れられたんだっけかな?


 その時にサヨが言っていた通りに、サヨが空間歪曲で惑星を内部に取り込み、時間加速をしながら人類用に調整をした。


 そしてそんな調整が俺の主観時間数日で終わりやがった……クレアとか側付きの子らはありえないという言葉を何度も言っていたっけか……。



 取り敢えず今回は既存の第四惑星と、その人類用調整済み惑星を交換する形で引っ越しをした。


 そして次は第三、第五惑星も交換をしていく予定で、そこに使うべく辺境から持ってきた一級惑星があった恒星系達は……サヨが全部美味しく頂きました。


 久しぶりの大物な食事でサヨも喜んでたね。


 野良の適応体も何匹か居たしさ、サヨは口直しに丁度いいサッパリ味だと言っていた。



「よし、次の引っ越しいこうか」


『はいシマ様、『お引越し』第二部を開始します、進路を第三惑星に向けます』


 サヨの宣言と共に、ショートワープをする為の地点へと移動を開始する兵站用補給艦。


 惑星の引っ越しという、大スペクタルな映像を見た通信士達も満足しながら休憩時間に入る。


「ふー、すごかったねぇシマ君、この映像だけでも一本のドキュメント番組が作れちゃうよ! さすがに世には出せないけども……」


 まぁ世には出さないよね、サヨの能力を詳しく知らしめる必要もないし、女王を倒す映画とかも微妙に嘘を混ぜたりしていたしな。



『飲み物をどうぞ二人共』


 サヨが給仕ドローンが運んできた飲み物を、俺とクレアに渡してくれる。


「ありがとうサヨ」


「サヨさんありがとう」



『後二件の引っ越しは似た様な事の繰り返しになりますので、私が作業をしている間に例の話を皆にするのはどうですか?』


 ああ、そうだなぁ、空間歪曲から人が住める様な青緑な惑星が出て来るのはすごい光景だったが、後は同じ事の繰り返しだもんな。



「そうだな、じゃぁブレインユニット達もモニターに出してくれ」


『了解しました』


 サヨが答えるや戦闘指揮室は空間投影モニターで一杯になった。


 そこに映る様々な美人美女のバストアップ映像は、次から次へと切り替わっていく。


 一千万人分だものな……。



「えーと、今回交換設置する三つの惑星は観光惑星にするつもりだ、領民を大量に抱えたくないからな、それでだ――」


 まだクレアとサヨにしか相談していなかった事を、皆に説明をしていく。




 自分の領地に大量の住人が居ると、いざって時に動き辛いからな。

 惑星は観光地のみの運用として、スタッフ以外は定住させないつもりなんだよね。


 第四惑星の衛星として地球の月サイズの超弩級要塞を設置して、その表面を宇宙ステーション都市として使用する予定なんだ。

 都市の名前は仮に月都市……いや……要塞都市とでも言うか。


 技術の進んだ宇宙のお金持ち達が結局何を求めるかというと、最後は自然なんだよ。

 彼らは培養と味もあんまり変わらないのに、自然栽培の高級食材を買ったりするからね。


 なので三つの惑星はタイプの違うリゾート惑星にするつもりだ。


 第三惑星は常夏惑星、第四惑星は地球タイプの地軸をずらした四季のある感じに、第五惑星は常冬惑星にする。


 理由としてはほら、宇宙人類って色々な種族がいるからさ……マイナス0度以下が心地よいと感じる種族とか、その反対で暑い方が良い種族とかにも対応しないとね。


 そんで宇宙ステーションや要塞都市や観光惑星には、皇国中の庶民をタダで招待するつもりだ。

 お金持ち相手には上級観光コースとかを作り、一杯お金を支払って貰うつもり。


 お金持ちからの稼ぎで庶民を招くんだけど、理由としては俺が貴族になってしまった事で、庶民からの受けがちょこっと悪くなる可能性をサヨに指摘されたからってのがある。


 ……まぁ判るかもしれない、俺だって地球に居た時に、平民が何かすごい活躍したって聞いたらワクワクして応援するけども、そいつが貴族になったとか言われると少しだけモヤっとするかもしれないからな。


 民を味方にしたいから下心有りって奴だ、そんでこの招待は希望した人に抽選で当たり、尚且つその権利を売りに出せるようにする。


 俺の領地に興味ないって人もそれなら金が入るだろうしね、タダで買える宝くじみたいなものだ。


 銀河的規模で見ると、俺はまだそこまでの人気者って訳でもないからな、敵はなるべく減らしたいので人気取りは必要らしい。


 しかし権力者って皆こんな事してるのかねぇ……?


 まぁ……元公爵も自身の領民には好かれていたらしいしな。






「――という訳で、皆には観光サービスのアイデアを出して欲しい、アイデアは一人一個、同じ様な内容の物はサヨに分類分けして貰うから気をつけてな、そんで、採用されたアイデアを出した人にはシマポイントを10付与します、さらにその中の人達には付与ポイントの倍率アップチャンスクジを引けるからねー、採用されなくても参加ポイントも付与するから取り敢えずアイデアを出して見てね」


 俺の目の前にある空間投影モニターには、ブレインユニットや側付きやらサヨ姉妹やらのコメントが流れている。


 右から左へと上下段差があって文字が流れる様な感じでね、んで今はシマポイントの話をした瞬間に、その流れと量が増えすぎて読むのが困難になってきている。


 そりゃ1000万人分のコメントだからなぁ……。


 サヨがある程度取捨選択をしているにしても、ものすごい量のコメントになるよね……。



「ではコメント一旦止めてなー、誰だ『生シマ様が10人欲しい』とかコメント書いた奴は! お・れ・は! 増えま~~せん! ……さて、ではコメントにてアイデアを一人一個出してくださーい、同じ様なのは纏めて採用されて後でクジ引きになるからね~、時間はお引越しが終わった後の会議までで、数日あるから今すぐ書かないでも大丈夫だよ、では開始!」


 その瞬間、モニターが文字で埋まった、文字が川の様に流れるとかでは無く、重なりすぎて文字として認識する事すら難しい……。


 まぁ後でサヨに内容を纏めてもらうか……俺の席から見える前方の通信士席に座っている子らも、頭を悩ませて唸っている子や、モニターにささっと何かを書き込む子と様々だ。


 そして俺の横のクレアも唸っていた、俺はそちらに顔を向け。


「……クレアも応募するの?」


「勿論よ! サヨさんへの優先権でシマ君とのイチャイチャ時間が減った分を少しでも取り返すの! あ、ずるは駄目だから助言は無しでね! えーとやっぱり人気のある観光地で実施されているような……ぶつぶつぶつ……」


「そうか……頑張ってね?」


 真面目なクレアらしく俺からの助言は無しだと言った後は、独り言を言いながら考え込んでしまっている……。

 別に俺の助言は駄目なんて一言も言ってないんだけどな……。


 サヨだったら、絶対に俺からの助言を求めて100%採用される案を出してくるのにな。

 そのあたりのルールを破らない要領の良さがサヨにはあるというか……。


 そもそも同じ土俵に立たずに、始まる前から勝つ状況にするのがサヨだからなぁ……。

 クレアはそういう部分でサヨには一生勝て無さそうだよね。


 それに実はサヨの優先権と言いつつも、俺から望めばクレアとはいつでもイチャイチャ出来るんだけどね……。


 なんか我慢して待った分を取り返すがごとく、クレアが積極的にイチャついて来る感じがすごく楽しいので、野暮な事は言わないで黙っています。



 ほんとクレアは可愛いよなぁ……後でチューしようっと。



 ……。



 ……。



 しばらく時間は進み、戦闘指揮室にある指揮官席の背もたれに深く座り、意見が出揃うのを待ちつつ飲み物を飲んでいると。


 観光のアイデアを項目別に分け、それを提案して来た人数で順位表にした物が空間投影モニターに映しだされた。


 今でも項目ごとの人数が増えているので、順位もちょいちょい変わっていく。

 サヨがお引越し作業と並列してやってくれたっぽい。


 サヨさん優秀だしな、こんな並列作業も簡単なんだろう。



 俺は順位表を確認していく。



 ふーむ、やっぱり上位は何処かで聞いた様な内容になるよなぁ……【衛星軌道上の要塞都市にカジノ地区】や【惑星地上の天然温泉露天風呂】に。

 後は~……うーん何処かで聞いた事あるようなサービスが多いな。

 まぁ俺も最初は同じ様な事しか思い浮かばなかったんだけどさ。



 ……あ、そうだ順位表を逆にしてみるか、一人しか出して無いアイデア……楽しみで有り怖くもあるな、よし、順位を逆転させてっと……。


 えっと……【原始人になって石槍で野生動物を狩ろう】……誰だこんなの書いた奴は!


 まったくもう……面白そうじゃないか!


 後で皆と検討だな、仮採用ボタンをポチッっと。



 次は~……【所持品をナイフ一本のみで開始するおもてなしでサバイバル】……だーかーらー!


 科学の進んだ世界の住人に無茶を、っと付帯事項がすごい一杯書いてあるな。


 えーと何々、ふんふん、あー便利に使えそうな大きな葉っぱの植物を各所に植えたり。

 焚火に使える乾いた枝なんかも周辺にばら撒いておくのか……。

 毒を持った植物やキノコや虫や他諸々は予め排除して……。

 同じく有害物質を排除した、そのまま飲める小川を設置。

 そして食べやすく取りやすい魚や動植物を各所に配置か……。


 そして始まる前にサバイバル講習を受けて貰い、多機能ナイフの使い方や、焚火の起こし方なんかを習って貰うのか。


 ……いやさ……これはもうサバイバルって言え無くね?


 ……ああ!、だから、サバイバルなのか。


 なんつーか、持ち物がナイフ一本だけという字面は厳しそうだが、実は楽ちんなのね。


 観光から帰ったお客さんが知り合いに自慢とか出来そうだな……『俺は持ち物がナイフ一本の状態で、人工物が一切無い厳しい自然の中を数日過ごしたんだぜ』ってさ。


 上流階級が他人に自慢出来る稀有な経験って意味で、お客の受けが良さそうだなこれ……本採用! ポチッっと。


 ちなみにこの意見はどんな子が出したのかなー……わぉ……トウトミでした……一人だけの意見のままならシマポイント10倍付与一番乗りになるなこれ……さすがだ。



 さて他には……。



 【犬猫ペットカフェ】なんてのが一人だけのアイデアで、逆順位表にあってびっくりした。


 あれ? こんなの普通に銀河ネットの仮想空間とかにあるよな?


 付帯事項を読んでいくと……犬猫って獣人の娘達なのか……いやまてまて、それでも普通に獣人カフェとかってあるよな?


 俺も地球に居た頃は仮想空間の獣人カフェとか良く行ってたし。


 ああ……なるほどペットカフェの様にお客が獣人娘を自由に触れるのか……ってアウトだわこんなもん!


 まったく……観光に使えるアイデアを募集してんのに、なんでこんな18禁なのを出してくるんだか。


 ちゃんと考えてくれよ……何々、このお店は会員制で、会員になれるのはシマ様だけって書いてあるな……。



 ん?



 それもう観光のアイデアですらなくねぇ!?



 ……ほんとしょうがないアイデアだな……しょうがないから……採用ボタンをポチッっと押しておいた。



 もーう! しょうがないんだからぁ!

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