第32話 多種多様な知的生命体が居る宇宙に馴染むには適当でないとやってられないんだ

「……あいつら何してんの?」


 俺は心底アホを見る目で彼らを見つつ、側にいるサヨに声をかけた。


 今俺達は移動用改造多脚戦車を降りて巨大温泉旅館に辿り着いた所だ。


 サクラは俺とサヨが案内をし、それ以外のサクラのお付きで来たと思って居た、皇宮の面々の世話をクレアに頼んだ訳なのだが。


 せっかくなのでこの温泉旅館の使い心地の感想を後でレポートにして教えてね?


 という話をクレアがしたら何故かサクラを置いてけぼりにし、歓声をあげながら温泉旅館に突入していく数百人のお付きの面々。



『どうにもあの面子は今日から休暇を取っている様ですね』


「つまり?」



『要人の移動に付き人として着いて来る事で旅費を浮かせ、シマ様の好意に付けこむ事で宿泊費を浮かせたバカンスといった所でしょうか?』


「自由人か?」


 いくらVIPだからってサクラ一人に数百人のお付きは多いと思ったんだよ……実際にサクラの側に残っているのは有翼人さんを含めた10人程だけだった……。



『この観光地はオープン前でも関係者の間で話題になっていましたし、シマ様の性格を考慮すれば怒られる事も無いと判っているのでしょう』


「いやまぁ……ちゃっかりしてやがんなぁとは思えど怒りはしないが……お金持ち用の有料観光コースに行きたい奴等には感想レポートの出来のいい9割9分までは無料にして、残り1分からは割引料金を取ってよしにしよう」


 こうすれば遊びつつも色々な意見を必死に出してくれるだろうて……ちなみにここはお金持ち用の観光惑星なんで、料金はかなー-ー---り高いからね?


『承知しました、割引率はいかほどで?』


「最終的な数値があいつらの月の給料の半分くらいになるように設定してやれ」



『それだと9割9分以上の割引と言った所ですね、お優しい事で……』


「全員でワリカンにすれば、お安く遊びたい放題に出来るって気付くやつがいるかもだけどな、あ、今のは内緒でお願いしますね」


 俺は有翼人さんを含むサクラの周囲に残ったお付きの面々に、シーっと内緒のポーズでお願いした。


「承知しました、シマ様がお優しいのは皇宮に居る皆の知る所でしたので……申し訳ありません」


 有翼人さんが頭を下げてくるが、ぶっちゃけ気にしてない。


「元々プレオープンで外の人間を招待して、色々と不備が無いかをチェックしようと思っていたから丁度いいですよ、貴方達もサクラと一緒に色々案内しますから、楽しんで下さい」


「「「「「ありがとうございます」」」」」


 有翼人さんと共にお付きの面々も頭を下げて来る。


 俺が宇宙に来て思ったのは、地球よりも人々のいい加減さが強いという事だ。

 自由というか懐が深いというか、そうあらねば多種族国家なんてのは成り立って行かないのかなぁって思う。


 なので俺もこれくらいで怒ったりはしないで、多少の罰ゲームを加えるくらいで済ます訳だ。


【ククツ様のご案内すごく楽しみです!】↑


 サクラがワクワクとした表情で俺の側に来る。


 服変わりの葉っぱや、ツル髪に咲いている花がツヤツヤしているので機嫌がいいのだろう、樹人の感情はすごく判りやすいよね。


 そしてサクラの言葉を翻訳をしてくれている空間投影モニターに、サクラのセリフじゃない物が現れる。



 1[まかせておけサクラ、とっておきの観光案内をしてあげるからな!]

 2[俺の案内がサクラのハートを狙い撃つぜ!]

 3[そんな事より俺と一緒に変態をしないか?]


 という三つの選択肢が出て来た。


 うん、まぁ誰がやっているのかは判るんだけども……。


 恋愛ゲームか?


 まぁ一番を選んでみようか、無難だし俺もそんな感じのセリフを言おうと思っていた所だし……。


「まかせてくれサクラ、とっておきの観光案内をするからな!」


【はいククツ様! サクラはとっても楽しみです!】↑↑


 うん、サクラは楽しみにしているようだ……が……サクラのセリフの後に矢印を入れないでくれるかサヨさん。


 恋愛ゲームか?



 取り敢えず今日は部屋に案内してゆっくりして貰うとして、案内は明日からになると思う。


 そうして旅館の中へと……エスコートにと右手を差し出した俺、そこに恥ずかしそうにそっと右手を乗せてくるサクラ。


 その手を取って俺の左腕を掴むように持っていく。

 サクラは嬉しそうに俺の左側から上目遣いで俺を見て来る。


 背の高さは俺よりも低くて中学生くらいで、薄緑の肌と黒の中に赤な目で表情は判り辛いけど、そのツル髪にある蕾から桜に似ている花が、ポポポンッと新たに咲くのを見れば喜んでいるのが判る。


【】↑↑↑↑


 うん……セリフが無くても好感度的な物が上がったと言いたいんだね……。


 恋愛ゲームか?



 そうして雑談をしながら旅館に入っていく俺達。


 先に入っていった休暇を楽しむアホウ共は、すでに和服な仲居姿のアンドロイド達の案内によって方々に散っているようだ。


 俺とサクラも、そんな仲居アンドロイドに案内を受けて移動をする。


 この旅館はあまりに広いので移動は畳型の浮遊装置によって移動だ。

 地球のお話に出て来る空飛ぶ絨毯の畳バージョンだと思ってくれ。


【建物のかなりの部分が木材で出来ているのですねククツ様……素晴らしいです】↑


 サヨが言うにはこの旅館は宮造り風らしく? 木材がふんだんに使われていて、尚且つ金属の釘なんかをほとんど使って無いそうだ、良く判らんがすごいらしい。



 1[褒めてくれ嬉しいよサクラ、だけど君の木目の方が美しいけどな]

 2[そこの柱は樹人を加工して作ったんだよ……]

 3[俺と共に素晴らしい変態をしないか?]


 サヨは俺とサクラの後ろに無言で居るのだが、裏で忙しく悪戯をしてくる……。


 恋愛ゲームか? ……ってちょっと待てサヨ! 2番とかホラーゲームじゃん!?



「褒めてくれて嬉しいよサクラ、樹人の感性だと加工された木材とか大丈夫なのか?」


 自然を貴ぶというが、何をどの程度という事は良く判ってないんだよな。


【まったく問題ありません、素晴らしい技術によって加工されている事が判りますので】↓


「そういう物か」


 って、あれ? 今のでサクラの好感度下がっちゃうの?

 サクラの返事は特に問題無かったけど……。



 ……。



 旅館の中でも最高級の部屋に案内してしばらく休んで貰う、俺とサヨはサクラとお付きの人達を部屋に残して一旦下がる。


 移動用の畳型浮遊装置にサヨと二人で乗り、今回の歓待のあいだは俺もこの旅館に泊まるのでその部屋へと向かう。


「なぁサヨ」


『なんですかシマ様』



「サクラとの会話中に内容とそぐわない感じで好感度が上がったり下がったりしたんだが、ありゃなんだ?」


『サクラさんの好感度? ですか?』



「ん? いやだってサクラのセリフの後に矢印を出してそれを表現してたんじゃねーのか?」


【】↓↓↓↓↓


 うぉ、いきなりサクラの好感度が下がった!? 側に居ないのに?


『私の好感度は今のでかなり下がりましたよシマ様』



 ……ん?



「ってあの矢印はサヨの好感度かよ! 判り辛いよ! ……まったく……んで? かなり下がったというサヨさんの好感度の数値は現在いかほどなんですかー」


『100億ポイントから10ポイント程減りました』



「ポイントインフレし過ぎぃ!!! 一回の選択肢でどんだけ増えるんだよお前は……」


『私の……シマ様への……愛情は……時間と……共に……どんどん……どんどんと……増えて……いくので……止まりません……よ?』↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑――



「ホラーゲーだろそれは!」


『残念、ヤンデレゲーです』



「ホラーより怖かった!?」


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