第34話 サクラに初めてプレゼントする物がこれでいいのだろうか?

【こんな感じなのはどうでしょうか? ククツ様】


 サクラが恥ずかしそうに俺に聞いてきた。


 目の前でクルンっと回転してからポーズを取っているサクラを、じっくりと観察する事に。


 ファッションショーかな?


 フリルやレースを使った白のワンピースで、腰部分が絞られていないゆったりめの物を着ているサクラ、髪の毛……いやツル毛に生えた桜色の花とも相性良い感じだ。



「うん、すごく可愛くて似合ってるよサクラ」


 どこぞのお嬢様といった感じの可愛いさなので、きっちり褒めていく。


【ありがとうございますククツ様! 次を着てきますね!】


 そう言ってサクラは着替え用のスペースへと入っていった。

 足元はまだ根っこなのでウニョウニョ移動をしながらね。


 あのスペースは男子禁制で、お店の店員係をしているブレインユニット達がお手伝いをしているはずだ。


 昨日の温泉の時に、お付きの有翼人さんに頼まれていた事をサクラに言ったんだよ。



 服を着てくれってね。



 そして服を着る事を勧めたのだからと、今日は俺の別荘惑星の方へと移り、リゾート街にあるショッピングモールで買い物をしている。


 普通の人は銀河ネットの仮想空間で試着をしてから注文をする。

 その後に現物を送って貰うものだったりするんだけど、この店では豊富な在庫を抱えて本物の服を実際に試着する事が出来る。


 昔の俺なら面倒臭い事させるなーとか、不良在庫出そう、とか思ったのかもだけど。

 今は逆に、こういう仕組みは金持ち仕様なんだと理解している。


 こんな風に、のんびり買い物もいいもんだよね。



 ……昨日の大宴会は酷かったからなぁ……。


 爺ちゃんから聞いていた、古き良き日本旅館の宴会を再現してみたんだが、舞台で歌えるカラオケでは行列が出来て大騒ぎだし。


 その後で何故か始まったトウトミとヒスイによるマジックショーでは、仮想通貨な投げ銭が飛び交っていたし。


 トウトミ達はいつのまにそんな準備をしていたのだろうか?

 サクラだけじゃなくて、俺も楽しませる為に内緒にしていたのだとか……。


 取り敢えずシマポイントを二人に付与して頭を撫でておいた、ナデリコナデリコ。


 マジックショーでやっていた人体切断で、ヒスイの上半身と下半身が分かたれるというのがあったのだが。


 マジシャンがトウトミなので、もう一人誰かが下半身方面で手伝ってる筈なんだけどね……。

 タネ部分なだけに大っぴらに褒めてあげられないのが、ちょっと可哀想だったな。


 シマポイントは、もう一人分余計に渡しておいたけどね……。



 ちょっと二人の出し物がすごいウケてたのが悔しかったので、サヨと俺で夫婦漫才を披露したんだが……温泉上がりで部屋が暑かったからさ……クーラー変わりにはなったよ?


 ……どうにも翻訳を通すので、日本語の語感を利用したお笑いは意味が通じなかったりするっぽい。

 そういやそうだよなぁと反省しました。



 そうそう、仮想通貨の投げ銭は硬貨を空間投影して投げ込めるんだよね。

 舞台上に投げられた硬貨が、トウトミ達に吸い込まれていく様はすごかった。


 終わった後でトウトミに聞いたら、ちょっと豪勢なランチを十数回食べられるくらい稼げたと言っていた、すごいよね。



 俺とサヨの漫才? うん……新人芸人は貧乏なものって決まっている。



 ……。



「このお店の品ぞろえはすごいですね、ククツ様」


 サクラの付き人で天使みたいな見た目な金髪碧眼な有翼人のエンジェルさん……じゃなかった、エンゼさんが俺の前でクルっと回転しながら話しかけてくる。



 ファッションショーかな?



 今回このお出かけのサクラの付き人はこの人だけだ。


 サクラが付き人にもお休みをあげたいと言うので、他の人は夕方までお休みで……無料で観光地を案内する様に言ってある。

 たぶん何処かの観光コースで遊んでるんじゃないかな? 


 そんな中でただ一人付いて来たエンゼさんなのだが。

 いつもの皇宮の文官服は和服というか民族衣装っぽさがあるんだけど。


 今は背中がガバッっと空いたキャミワンピ? とでも言うべき物を着ていて、その上から透け感のあるシャツを羽織っている。


 大人の休日といった感じがあって、すごく良い。


「その羽のある背中部分の素肌がチラっと見えていて、それがとてもセクシーで綺麗ですエンゼさん!」


「あ、ありがとうございますククツ様、これは有翼人用のコーナーにあった物で、すごく着やすいんです、いつもは背中の羽が邪魔で可愛いと思った服も中々着られる物が無かったりするんですよね……ここは品ぞろえが良いから楽しくなっちゃいますね」


 いつも冷静でクールなエンゼさんが、俺に背中を見せながら饒舌になっている。

 やっぱり女の子って可愛い洋服とかが好きなんだねぇ……。


 エンゼさんの背中部分を見せて貰うと、確かに羽を邪魔しない構造になっている。


 上に羽織っている透け感のあるシャツも、羽が出せる様な大き目のスリットが二つある。


 ……いや下からガバッっと背中に二つの切れ目があって、羽を通したら下側を留める事が出来るっぽいな、アクセサリーみたいなクリップで下側を留める様になってるんだね。


 そのワンポイントアクセも可愛いので、しっかり口に出して褒めていく事は忘れなかった。



 ……。



「出遅れた! シマ君シマ君、これどーお!?」


 俺がエンゼさんをベタ褒めしている所にクレアが踊り出て来る。


 クレアは白と水色で構成された水兵さんといった感じの服を着て、俺の前でクルリンっっと回転しながら見せつけてくる。



 ファッションショーかな?



 ほんと……うちの嫁は可愛いな!!


「最高に可愛いよクレア」


「えへへー次に行く観光地にはこれでしょー」


 なるほど、明日は海に船を浮かべてクルージングで遊ばせようと思ってたからなぁ、確かにぴったりだな。


「そこまで考えるとはさすがクレアだよ――」

『甘いですクレアさん、シマ……ご主人様、これはいかがですか?』


 クレアの後ろからサヨが出て来て声をかけて来る、その恰好は……。



「サヨさん優勝しました!」



『ありがとうございますご主人様』

「なんでー!」


 俺がサヨの優勝を宣言すると、クレアが抗議の声をあげる、だってさぁ。


「だってサヨさんメイド服だよ? 金髪エルフのメイド服だよ? しかも夏仕様なのか色々短かったり薄かったりするメイド服だよ? ……メイド服だよ?」


 大事な事なので何度も言いました。


「ちょ! シマ君メイド服好きすぎるでしょー! うぬぬぬ……待ってて!」


 クレアはそう叫び声を残して着替え室に飛び込んでいった。


 その時にこちらに歩いて来ていたサクラが、何故かUターンして戻っていってしまった。

 新しい洋服も可愛かったのに……どうしたんだ?


 まぁとりあえずサヨをもう一度見てみる。



 ヴィクトリアンなメイドとファッションなメイドの半々といった感じで。

 派手過ぎず地味過ぎず、半そでで、スカートは膝の少し下、足元は低めなヒールの黒い革靴を履いていた、全体的に春仕様って感じ?



「すっごい可愛いなサヨ」


『ありがとう御座いますご主人様』


 丁寧なカーテシーを披露しつつ、お礼を言ってくるサヨだった。


 そんな事をされたら、パチパチと拍手をするしかない俺だった。


『では私がご奉仕しますのでデートに行きましょうか、ご主人様』


「ああ……行こうか」


 俺はサヨにつられてフラフラーっと――


「『行こうか』じゃないわよシマ君! サヨさんも! 今日はサクラちゃんの案内がメインでしょーに!」


【そうです! ククツ様酷いです、サクラの事も見て下さい!】


 そんな事を言うクレアとサクラの恰好はメイド服に変わっていた。


 サヨの物と似ているが小物が少し違っていて、アレンジをしている様だ。


 狐耳メイドさんか……。



「クレア優勝!」



 そしてサクラのメイド服姿は……む……ちょっと花が萎れてしまっているな。

 サクラっぽい花が満開になったら、すごい可愛いメイドさんになるだろうに……。


「サクラも優勝だ! すっごい可愛いぞ」


 そう言ってサクラの頭をナデリコすると、ポポポンッと花が元気に咲き乱れる、うん、可愛い。


 その後でクレアとサクラは喜びながらお互いを褒め合っている。

 温泉施設で色々あったせいか仲良くなってるよね君ら。



「……私もそれに着替えた方がいいですか? ククツ様」


 メイド服三人から少し離れた所に居たエンゼさんが、呆れた感じで俺に聞いて来る。



 え? そんな事聞いちゃうんですか?



 それならと俺はエンゼさんの方を向いて、腰を90度に曲げて頭を下げると。


「お願いします、着替えてくれると俺は大変とってもすごく嬉しいです」


 そう言って頭を下げたままお願いしていく。


「え? あ? いえ……今のはちょっとした皮肉というか……えと……」


 俺は頭を下げたまま何も言わない。



 ……。



 ……。



「……着替えてきます」


 エンゼさんのその声を聞いて頭をあげた俺、丁度振り返って着替え室に向かうエンゼさんの頬は赤くなっていた。



 勝った! 俺はガッツポーズで喜びを表現する。



 優勝が4人になる事が確定したからな。


「シマ君って欲望を隠さないよね」

『素直と言って差し上げるべきかと』

【ククツ様は本当にこの服が好きなのですね】


 だって宇宙にまで来ておいて、遠慮とかしてもしょうがないだろう?


「服そのものというよりは、その服を可愛い子が着た状態が好きって事だサクラ」


 ちょこっと訂正をしておいた。


【なるほどです……つまり私は可愛いと……】


 ポポポポポポポンッ、サクラの髪の毛に花が一杯咲いていく……なんかちょっと咲き過ぎてツル毛が見えなくなってきている。


 樹人の感情は耳や尻尾のある獣人と同じくらい判りやすいよなぁ……。



 とりあえずサクラの頭をナデリコしておいた、ナデリコナデリコ。


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