銀河ネットで仮想空間に潜ったら宇宙船の艦長に成りました。

戸川 八雲

第1話 男女の出会いってのはもっとこうドキドキするもんじゃないのか

『現在ドックが未稼働です、物質変換用の設備が未稼働です、作業用のドローンが不足しています製造して下さい、エネルギー変換炉の燃料が不足しています採取地を設定して下さい、生活用物資が――……――以上の各種タスク設定をして下さい』


 背もたれのある椅子が一つあるだけの狭い部屋だった。


 俺はその椅子に座り周囲を見回す、周囲には空中に投影されたモニターが沢山表示され、何かの情報を流している、だが流れる速度と量が多くて理解は出来ない……。


 俺は正面にある空間投影モニターに向き直る、そこには一人の女性が映っていて。


 その女性の見た目はファンタジー漫画のような耳のとがったエルフだが、着ている服はファンタジー的な革鎧とかではなく、正規軍の軍服に似ている物だった。



『再度要求します、タスク設定をして下さい』



 画面に映るエルフっぽい女性は無表情でそんな事を言ってくる。



「そんな事言われてもなぁ……」



 俺は目を瞑り思い出す、何でここに居るのだろうかと。




 ――◇◇◇――



 20××年、地球は降伏した。



 意味が分からないだろうが俺もよく分からん、とにかく宇宙からやってきた勢力に地球が降伏したらしいのだ。


 俺が生まれる前の話だし詳しい事は判らないが、降伏勧告に反応しなかったり反対をした勢力はすべて消えたとか。


 ネットにも教科書にも何があったのか書かれていないし、要は地球という星が宇宙のいくつもの恒星間を股にかけたアリアード皇国の一部に成ったという事を知っていれば良いのだ。


 テストに出もしない過去の事をほじくった所で俺には何の得も無い。


 日本という名前の地区も残ったし、地球上の様々な地区によっての文化も尊重されたとかなんとかで、爺ちゃん婆ちゃん達は昔を懐かしむが、俺は今の世の中の方が便利だし生きやすいとも思う。


 恒星間を越えて繋がる銀河ネットは飽きの来ない玩具箱だし。

 ナノマシンによる身体強化や自動翻訳は過去には無かったそうじゃないか。


 地球人種の寿命すら変える事の出来る便利な物を、使わなかったり忌避する意味が分からない。


 年寄りの事はまあどうでもいいか、俺はまだ大学生だし勉強に遊びにと人生を楽しむだけだ。


 という事で今日も今日とて銀河ネットにあるエッチなサイトを探して潜る訳だ。


 友人が言うには、下層階層には通常よりも過激な映像データなんかが流通している噂があるとかなんとかで……これは行かねばなるまいて。


 俺はいつものように、一戸建ての実家の二階にある自分の部屋のベッドに寝転がり、首に巻かれた端末を操作して、意識をアバターに移すと銀河ネットの仮想空間へと飛ぶ。


 いつも遊んでいる新規階層には人が沢山いる。

 彼らは地球人だけでなく、銀河に散らばる様々な場所からアクセスをしている人達だ。


 自身の姿かたちに似たアバターを使うのが主流なのだが、それを加味すると彼らには獣耳があったり耳が長かったり、日本の文化である漫画に出てくるファンタジー世界の住人と似たような見た目をしている。

 それどころかキノコ人や鉱石人、虫人に人権を獲得した機械生命体等も居るらしい。


 新規階層には様々なお店があったり遊ぶ場所があったり……現実となんら変わりのない見た目だ。


 爺さん達は銀河ネットは危険だと言うが、現実のお店だとスペースや商品の在庫の置き場所にも困るし絶対にこっちの方が便利だろうに、なんであんなに嫌がるのかねぇ……。


 様々な人種との交流も楽しいのだが、今はエッチなサイトを見つけるのが優先だ。


 俺は階層をどんどんと下っていく。


 下れば下るほど古い情報環境になっていくのだが……劣化しているのか見た目がしょぼく色も薄くリアルさも下がった風景になっていく……。


 このあたりで探ってみるか。


 周囲をキョロキョロと見回し、ちょっと気になったお店が目に入ったのでそこへ向かう。


 情報が劣化していて見た目がボロボロの店だな……。


 中に入ると、そこには一人の長耳種の女性が店番をしていて、店のレイアウトからして古本屋? とかいう場所を模したお店だった。


 こういう所にお宝映像なんかが売っていたりするのかもな、階層の割にこのお姉さんのアバターの出来はすごくいいしね。


「こんにちはお姉さん、何かお勧めの本はありますか?」


 俺はきたるべきエッチな映像ゲットを想像し、ワクワクとしながら店番の女性に声を掛けてみる。


 まぁこういうお店の店員さんは大体がAIであり、しかも人権を得る事が出来るような高性能な奴は上の方の階層にしか居ないんだけどね。


『……』


 女性は俺を見るも何も語らず……。


 あー壊れているのかもしれないな、さすがに下の階層に来過ぎたか。


 もうちょい上の階層のお店を探しに行こうかなと、そんな事を考えていると、女性が座っていた椅子から立ち上がり俺に近づいてくる。


『貴方の名前を教えて下さい』


 うーむやっぱりちょっと壊れているAIなのかなぁこれ。


 立ち上がったエルフっぽい女性は、金髪のロングストレートヘアでスタイルも抜群……ちょっとお胸は小さいがそれでもすっごい美人で俺好みなんだよな。


 ラフな恰好にエプロン姿というのもノスタルジーを感じさせていい。

 最近の女子とか自分で料理とかしないらしいからな。

 子供の頃にうちの婆ちゃんが料理をしてるのを見たのが最後だったような?


 まぁいいか他の店にいこう。


 俺は女性の質問に答えずに踵を返そうとしたら回り込まれた。

 まぁ電子的な処置をすれば透過して通過する事も可能なので、行く手を塞がれても問題は無いのだけども。


『貴方の名前を教えて下さい』


 壊れたAIが再度同じ事を言ってくる……。


 誰にも顧みられないこんな最下層で同じ言葉を繰り返すAIか……俺は少しの寂しさと憐れみを感じてしまい答えてあげる事にした。


「俺の名前は久々津くくつ 四枚しまいだ」


 うちの母親が言うには、歌舞伎が好きだったから周囲のまとめ役になれるように名付けたと言っているが、俺はまったくそれを信じていない。


 何故なら俺の上の姉貴達が、一会、双葉、三輪、の三人だからだ。

 ……絶対適当に四のつく名前にしたと思っている。


『ククツシマイ様で登録を完了しました』


 ありゃま、名前が一体化しているように思える、古いAIだろうしな。


「苗字とかの概念ないのかね? ダチにはシマって呼ばれてるんだけど……人の口から改めてシマイって名前を聞くと酷い名だと思うよなぁ……」


 俺が自分の名前の酷さを口に出しながら落胆をしていると。


『愛称シマを登録、システムの再起動をかけます、私の登録名を指定してください』


 再起動? 古すぎておかしくなってる可能性大だな……名前とか言っちゃったのはまずかったかもしれない。

 取り敢えず今日は戻るか、ダチにまた噂の事聞いておかないとな……。



「さようならお姉さん」



 壊れているAIに挨拶をしてから、彼女の横を通り店を出ていくが、今度は邪魔をされずに彼女は動かなかった。


 壊れたAIか……悲しいね……俺は階層を上に向けて上がっていく操作をする。

 すると、周囲の光景は薄れ、いつもの新規階層へとたどり着く。


 仕方ない、今日はいつもの獣人カフェにでも行くか、あそこのモフモフお姉さん達はノリがいいから好きなんだよなー。



 ……。



 ……。



 仮想空間にある獣人カフェでケモ耳お姉さん達とモフモフな会話をしてから、現実世界のいつもの自分の部屋に戻ってくる。


 銀河ネットから帰ってくるこの瞬間が一番疲れるんだよな、体と精神の同調って奴がきつい、早くもっと高価なナノマシンで身体強化の調整したいわぁ……お金貯めないとな、安い奴は危険もあるっていう話だし。



 まぁ飯食って寝るか……。



 ……。



 ……。



 ――



 そうして変わらない日常を過ごしていたある日の事。



 ピンポーンっ。



 朝になり目を覚ますと、来客を表す音が俺の部屋にも聞こえてきた。

 そういや今日は朝から家の人間は誰もいないんだっけか?


 俺は一階の入口まで急いで降りて扉を開ける。


 するとそこには、銀河ネットのニュースなんかで見る、アリアード皇国正規軍の恰好をした兵士っぽい人が十数人居た。


 一番前には周りより少し派手な軍服の獣人女性がいて、ニコニコと笑顔を浮かべているが、何故かすごく気合が入った鋭い目は獲物を狙う鷹のように感じてしまう。


「こんにちは久々津四枚さん、貴方が銀河ネットにてアクセスした物について、お話がありますのでご同行願います」



 ――◇◇◇――



 俺は瞑っていた目を開けて、再度目の前の空間投影モニターに映るエルフっぽい女性を見る。


「サヨ、いきなり言われても分からんよ、出来る事や、するべき事を教えてくれ」


『了解しましたシマ様、ではこちらをご覧下さい』


 俺の前にある空間投影モニターに、現状サヨが抱えている物資の量や出来る事などがズラズラと開示されていく……だから情報量が多いねん……。


 俺がサヨと呼んだモニターに映るエルフっぽい相手は、正式名が〈サヨウナラ〉というAIだ。


 ……勘の良い人なら分かるかもしれないが、俺が仮想空間で出会ったAIだ。


 俺がさようならと挨拶をしたら、それを名前だと認識して登録したらしい。


 アリアード皇国の軍服を着た兵士さん達との話し合いにおいて、周囲にいた兵士の一人がポツリと「センスが無い」と呟いたのを聞いてしまった。


 いや俺が意識して名付けた訳じゃないねん……。


 あの後軍人さん達に説明を受けた所によると、サヨは旧銀河帝国の遺産である兵站用補給艦のAIらしかった。


 旧銀河帝国の遺産は、個々に設定されているAI人格に認められた者にしか扱えず。


 アリアード皇国はそれら旧銀河帝国の遺産を扱える人材を増やすべく、新たな知性体を見つけては国家に組み入れ、そして銀河ネットに繋げるようにしていっているらしい。


 そんなこんなで、俺の身柄は軍に預けられ宇宙へと運ばれ、恒星間を移動して今はサヨの中に一人でいる訳だ……俺が許可を出さない限り入れるのは俺だけらしい。


 俺みたいな旧銀河帝国の遺産と繋がる事の出来た国民は、アリアード皇国の皇帝に直接仕えねばならないという義務が存在するんだってさ。


 拒否すれば俺だけじゃなく家族にまで迷惑がいくだろうし、なによりお給料がすごかったので、大学後の就職先に悩んでいた俺は取り敢えず話を進めたんだ。


 つまり今の俺の立場は皇帝直轄軍の一員という訳。


 で、補給艦で何をすればという話なのだが、銀河の外から宇宙を生身で移動してくる『適応体』と戦えというのだ。

 いや違った、正確には戦う戦力を生産しろの間違いだった。


 そんな敵が居る事を初めて知ったのだが、軍人さんに見せてもらった映像を見ると、宇宙を泳ぐ魚といったように見受けられた。


 勿論大きさの規模は違うし、見た目なんかも昔爺ちゃんと一緒に見た大昔の怪獣映画のようだったりするのだが、ビームとか撃ってくるんだよねあいつら。


 戦闘シーンな映像には、何故かビーム発射音とかが入れられていたので臨場感満載だった。

 最初は映画か何かを間違えて見せられたかと思っちゃったよ。


 などと過去を思い出しつつ、俺はサヨと一緒に銀河を流離う者となったのである。


 まぁ軍のヒモ付きなんだけどもね。


 ……立場上結構自由に動けるから、軍人というよりは宇宙を旅する冒険者とかかなーとも言える。


「うーん項目が多くてよく判らん……なぁサヨ、もうちょいシンプルに出来ない?」


『……シマ様を初心者艦長に認定、チュートリアルを始めます、よろしいですか?』


 モニターに映るサヨが、何か駄目な教え子に対応するかのような表情を見せる。


 初心者も何も、いきなり宇宙につれてこられて補給艦という名の巨大な船? に乗せられたんだからしょうがないじゃないかよ。


 ……というかお前表情変えられるのかよ……初めて見せた表情がそれなのか。


「イエスだ!」


 俺は少し自棄になってサヨに応えた。


『ではまず私に名前を付けましょう……は終わってますね』


 サヨウナラという名前だけどな。


『では次に生産をしてみましょう』


 そう言ったサヨが、空間投影モニターに表示されている項目の中の一つを光らせて示している……。


「駆逐艦?」


『はい、私は戦闘能力が低いので、まずは護衛を作らねばなりません』


「補給艦って言ってたものなお前、というか、それなら今はやばいんじゃないの?」


 今俺とサヨがいるのは銀河の外縁部で、アリアード皇国の手がほとんど入っていない辺境の未開拓地だ。

 こういった場所には宇宙海賊の基地なんかがあると聞いている。


 何故こんな場所に放り出されたかというと、サヨの補給艦としての特性にある。


 こいつは自身で物資を取り込み、それらを加工して様々な戦時物資を作り出す事が出来るという話なのだが。


 アリアード皇国の版図内の宇宙に漂う隕石や小惑星は、誰かの物だったりするのだよね。

 まぁ一つ一つに名前が書いてある訳じゃなく、そこを治める領主の持ち物って意味でな。


 なので俺は今、誰の領地でも無い恒星系の中頃にある小惑星帯の近くに来ている訳だ。


「じゃぁ戦力を作ろうぜ、えーと許可を出せばいいのかな?」


『はい、シマ様の許可を得てアエンデ型駆逐艦の生産を開始します、生産終了まで20分程お待ち下さい』


 はや! 駆逐艦って一番小さい戦艦だっけ? それにしたって20分とか早すぎるだろ。


「じゃぁ20分ここで待てばいいのか?」


『その間にお勉強をしましょうシマ様』


 モニターのサヨは無表情でそう言ってきた、なんだろうか、無表情なのにちょっと怖い。


「了解だサヨ」


 取り敢えず、そういう相手に逆らっちゃ駄目だと俺の本能が訴えている。


『ありがとうございます、ではこちらから――』


 サヨの説明が始まる。



 ……。



 まずサヨ自身の事だが、彼女は補給艦という名は付いているが地上の船の形はしていない。

 半径2km程の球体状の宇宙船だ、しかし空間歪曲を使えるので大きさに意味は無いらしい。


 エネルギーの確保さえ出来れば、自身の内部に惑星を保持できて、しかも生物が住めるような環境を整える事も可能だとの事……まじで?


 つまり地球を丸のみして中の生物に何不自由ない、それまでと同じ環境を与える事も出来る存在だという……。


 ……旧銀河帝国ってやばくねぇか?


 なんで旧がついているんだろうか……到底滅びるような技術力だとは思えないのだが。


 エネルギーは何が必要かと聞いたら、取り敢えず恒星が一つ欲しいときた……。


 俺は急いでアリアード皇国に銀河ネット経由で連絡を入れて、恒星を確保していいか聞いてみた。


 すると、銀河の端っこの奴ならいいよと返された。


 やべぇ、皇国もやべぇよ……子供にお小遣いをあげるような気安さで恒星を持ってっていいと言ってきたよあいつら。


 恐らく旧銀河帝国の遺産なら、それくらいの事は普通なのかもだけども……。


『アエンデ型駆逐艦が完成致しました、ご覧になりますか?』


「ああ頼むよ」


 俺の願いを聞いたサヨが、空間投影モニターに一つの艦船を映し出す。


「あれ? 球体じゃないのな? あれってまるで地球の海に浮かぶ船みたいに見えるんだけど」


 それは昔の映画やなんかで見た戦艦の形に似ていた。


 さすがに多少は流線形にはなっているけども、なんとなく宇宙船としたら形に無駄があるような気も……まぁかっこいいけどさ。


『敵が宇宙に居る魚類な見た目ですから、こちらも船にするべきだという意見があったそうでこうなっております、アエンデ型は性能の話なので見た目は多少変えられますから、主人の趣味に合わせる事が可能ですが、いかがなさいますか?』


「そのままでいいや」


 急に旧銀河帝国に親近感が湧いてきた。


 まぁ突き抜けた技術力だと、見た目なんてどうでもいいのかもしれない。


 じゃぁなんでサヨは丸いのかと聞いたら、戦場に出ないので一番簡素な形にされたそうだ……。


 護衛が一隻じゃあれなので、量産しようとしたが材料が無いと言われた。

 なので今は小惑星を飲みこんで使える物資に変換中だ。


 何をするにもエネルギーがいるのでサヨは恒星を欲しがったのだが、俺はそれを止めた。

 今居る場所は辺境ではあるがまだ外側にいける余地があるし、どうせ飲みこむなら一番外側が良いのではないかと思ったからだ。


 宇宙的な感覚でいうのなら、どうでもいい話なのかもしれないけどね。


 恒星を飲みこんだ時よりは効率が悪いが、物質や恒星の光やらをエネルギーに変える事は出来るそうだ……その能力が地球にあれば電気代が安くなりそうだよな……。


 そうしてアエンデ型駆逐艦も5隻を製作済みで、サヨの空間歪曲された内部に格納をしてあり、今は俺の住む施設を調整中だ。


 地球人種用設備って事だね、どうも旧銀河帝国人は地球人より小さかったらしくて、部屋とかが小さいみたいなんだよ。


 今居る空間投影モニターだらけの指揮室っぽい部屋も狭いしな。


 空間投影モニターを見つめながら、自分の部屋やなんかの設定をワクワクしながらサヨと決めていると、部屋の中に急に大きな音が鳴り響いた。


「どうしたんだサヨ」


『シマ様、未確認勢力が恒星系外縁部にワープアウトをしたのを確認しました、アリアード皇国で決められている航行ルールに基づき、相手方の艦船データの要求をしましたが、無視されましたので宇宙海賊だと思われます』



「え、それってやばくねぇか? 相手の戦力は?」


『38隻になります』



「はぁ? 宇宙海賊なんて10隻も居たら大規模って言われてるんだぞ? なんじゃそりゃ、アリアード皇国の正規軍と間違えてたりしない?」


『しません、相手の旗艦と思われる艦船がアリアード皇国のデータベースにヒットしました、宇宙海賊エンドロールだと思われます、センスの無い名前ですね』


 宇宙海賊エンドロールって、出会ったら終わりって奴等だろ。

 いや俺もセンスねぇとは思うけどさ!


 だけどそれをAIに言われるとか、可哀想だからやめといてあげなよ……。


『こちらの存在に気付いているようです、エネルギーのチャージを確認、ショートワープで近づいてくると思われます、いかがなさいますか?』


「いかがも何も逃げられるか?」


 なんでこんな辺境で有名海賊に出会うんだよ、ついてないなぁもう!


『逃走は不可能ではありませんが……シマ様をチキン艦長に認定、自立AIサヨのモードを従順な秘書から駄目な子程可愛がるお姉ちゃんタイプへと変更いたします……』


 おいちょっと待て、今なんて言ったサヨさんや? 誰がチキンだ? そして誰が駄目な子だ!?


『ふぅ……もうしょうがない子ねシマ君は、後はお姉ちゃんがなんとかしてあげるから許可だけ頂戴? それとも何もしないで私が蹂躙される所を見るのが趣味な変態さんだったのかな?』


 サヨは今までがなんだったと言うようなくらい、表情の変化を見せてそんな事を言ってきた。


 そのあまりの変わり様に呆気に取られてしまう俺であった、誰やお前……。


 ドゴンッ、激しい揺れと音により俺は椅子から転げ落ちそうになってしまった。


「何だ!?」


『敵が近付いてきているって、お姉ちゃんさっきから言ってるじゃないの、緊急事態なのにシマ君は自分で決定して命令を出す事すら出来ない子なのだから、早くお姉ちゃんにまかせて?』


 なんだろうすっげぇむかつくんだが、俺に決断力が無いのは認める。

 ってーかいきなり宇宙船の艦長をやれとか言われても困るねん。


「すべてサヨにまかせる! 何とかしてくれ!」


『了解だよシマ君、お姉ちゃんがみーんなやっつけてあげるからね、それとサヨお姉ちゃんって呼んでいいんだよ?』


 サヨがそう言った瞬間、空間投影モニター全てに敵の姿が映し出された。

 敵の船は一杯いるし、なんかバンバンとビームみたいなのを撃たれている。


 ……そしてサヨのシールドだかで全て防いでいるのが見える……。



 ん?



 敵がビームやらを撃ってどんどん俺達に近づいているのだが、サヨのシールドのおかげか本体には一切攻撃が届いていない……。



 んん?



「なぁサヨ」


『なーにシマ君、お姉ちゃん今忙しいんだけども』


 空間投影モニターには、サヨの近くの空間が歪曲してアエンデ型駆逐艦5隻が出撃していくのが見える。

 そして駆逐艦が何かを撃った瞬間、海賊の艦船が5隻爆散した……。


「アエンデ型駆逐艦すごい強いなぁ……じゃねぇよ! お前のシールドで敵の攻撃完全に防いでるじゃんか! さっきのすごい音と部屋の揺れはなんだったんだよ!」


『クソ雑魚ナメクジな駄目ッ子シマ君に、決意させる為の演出? みたいな?』



「お前ふっざけんなよ! さっきはすっげぇびびったんだからな! これで人生終わりならもっとエッチィサイトとか探しておけば良かったとか、色々と考えちまったんだからな!」


『へぇ……シマ君はお姉ちゃん以外の娘のエッチィサイトとか見てるんだぁ……へぇ……これは内容をカクニンしないとね……』



「ヤンデレ風味っぽくなってるんじゃねぇよ! 元に戻れ元に!」


 俺とサヨが言い合いをしている間に、海賊団は一隻残らず爆散して壊滅していた。


 後でサヨに聞いたら、あいつら俺に向かって降伏勧告をしたり、負けそうになったら自分達が降伏宣言をしたりしてたそうだ。


 まぁ降伏は偽装っぽかったそうだけども、どうせ海賊は問答無用で死刑だしそれは問題ないんだが。


『自立AIサヨをお姉ちゃんモードから、幼馴染で血の繋がってない妹モードに変更します、大変だったねお兄ちゃん! でもサヨが一緒に居るから安心してね! そろそろご飯にする? お風呂にする? それとも私と一緒に寝る?』


「元に戻ってねーじゃねー-か!!!! やっぱお前どっか壊れてるだろ!」



 俺の突っ込みが、地球から遥か離れた宇宙の片隅で響き渡るのであった。


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