第73話 超長距離移動用空間跳躍ゲート

「またかよ……」


『はいシマ様、またですね』


 俺はサヨの報告を聞いて少しげんなりとしてしまう。


「目の前にお金が落ちているのなら拾わない人は居ないって事だよねぇシマ君……」


 ここはいつもの会議室、俺とサヨとクレアの三人での簡易会議中である。


 その内容は、俺の手持ちの資源を売却して欲しいという要請が方々から来ているという話で。


「にしてもあの時の相場より高くふっかけているんだろう?」


『ここ最近の相場が上がり過ぎましたね、私共がつけた値段に追いつきつつあります』


「民生の分は政治で押さえてるんだけどね、それ以外の余剰分が各企業で取り合いになってるっぽいねぇ」



「はぁ……一回皇国軍に大規模に納入しちゃったからなぁ……」


 あの時はドリドリ団のせいで民間にも影響が出ていたからこそ大規模な商談も受けたんだが……。


『どうしますかシマ様?』


「どうするシマ君? 断っても別に問題は無いけども」


 クレアはそう言ってくれるけども、そのフワフワの狐尻尾は少し不安げに揺れている。


 アリアード皇国が民生に影響のないようにしているとは言っても、企業なんかはギリギリまで攻めるだろうし、その結果多少の影響は民間にも来るよなぁ……。


 ここで俺が品物を売り渋ったら……俺のアンチ勢力がどんなプロパガンダをするかというと……。


 ……はあ、まぁしょうがないか。


 これだけテラフォーミングが一斉に始まったのも、スターデさんの論文がアリアード皇国から発表されたからだよなぁ……。


 もっと時間をかけて情報を絞るかと思って居たんだが、アリアード皇国の権力者が何をどう思ってこうなったかは知らんが、あの惑星の改造に関する論文を公開しやがった。


 おかげで各企業やら領主やらが、やる気一杯夢一杯と新たな居住地を求めて、様々な惑星でテラフォーミングを始めた。


 なので、アリアード皇国はものすごい資源不足に陥り、資源の値段が鰻登りに上り過ぎて酷い事に成りかけたんよ。


 アリアード皇国もさすがにやべーって思ったのか、民生に必要な分は政治的に抑える事にしたんだが、それで諦めるような商売人や領主は居ねぇよな。


 俺が大量の物資を皇国軍に納入した記録がある事から、俺の領地への様々な物品購入の問い合わせ件数がやばい事になっている。


「まぁ仕方ないだろ、サヨ、現状来ている要求に応える事は可能なのか?」


『可能です……が、全てに応えてしまうとさらに要求があるでしょうし……もう何個か鉱物資源の多い星系を食べておきたい所ですね』


「惑星一つを居住可能にするだけで相当の利益があるからね、何処もかしこもテラフォーミング用の物資確保に必死みたいだよね、資源確保の為に一度辺境にお出かけする?」


 サヨとクレアの言う通りに資源を得る為に辺境宙域の星系を丸ごと食べに行くのは、まぁ別にいいんだけども……。


「んー、でもなぁ、現状観光客を受け入れちゃってるし予約もかなり先まで取ってるから、領地惑星を置いていかないといけなくなっちゃうのがちょっとな……」


 銀河ネットジャマーの事を考えると、観光惑星を防衛する艦隊にブレインユニットを搭乗させる必要が出て来るんだよなぁ……。


 ドリドリ団とかも居なくなったし、そこまで心配する事では無いとは思うんだが……。


 適応体との戦闘やなんかでも、スクィード戦闘機とかは普通に何機も撃破されているんだよね。


 つまりパイロットを実際に乗せた場合は……。


「シマ君は戦力を分けた場合の事を心配しているんだねぇ……確かにそれは、うーん……」


『成程……シマ様はそこをご心配なさっていたのですね……てっきり有象無象相手の商売が面倒臭いとかそういう事かと思っていました』


 各宙域の貴族領主や大規模な企業なんかを有象無象と言うのはやめようよサヨ……。


「そりゃ心配だろう、今までは多少損害が出ても遠隔操作だからなんとかなったんだしよ」


 艦隊が中身入りになったら運用とかも少し変えないといけないよな?


『ご安心下さいシマ様!』


 俺の不安そうな声を吹き飛ばす勢いでサヨが安心しろと言って来た。



 これほど安心出来ない宣言があるだろうか?



「……どうにかなるのか?」


「さすがサヨさん、なにか良い提案が?」


 ……クレアはサヨの言う事に対して少し甘くないか……?


『ええ、スターデさんに頼み込んで制作して貰った『銀河ネットジャマージャマー』がすでに完成しております』


「お、あれ完成してたのか! 成程、確かにそれなら……」


 名前の通りに銀河ネットの使用を邪魔するジャマー装置をさらに邪魔する装置の開発をする、という話は前にしていたっけか。


 それなら安心出来るか?


『さらに』


 む? 安心出来ない部分が残っていたか!?


 俺はサヨの言葉を黙って待つ事にした。

 俺の横ではクレアも固唾を飲んでサヨの発言を待っている。


『……スターデさんが『超長距離移動用空間跳躍ゲート』の研究を終えていまして、実験用の第一号機が完成しております』



 え、なんて?



「いや待ってサヨ……あの研究が始まってからまだ一年くらいしかたってなくねぇ?」


 ブラックホールが欲しいって話がそれくらい前の事だしな。


『遺産を使用する事で彼女の主観だと研究に10年くらいかかったとおっしゃってました、実験用装置の作成は時間加速をした生命体の居ない区画で私が作ってしまいましたし……何か問題ありましたか?』


「いや無いけど……すげぇなスターデさんが使える遺産って……思考を加速する様な能力もあるのか?」


 脳の能力の拡張だったか? やっぱ旧銀河帝国の遺産はやべーのが多いよな。


「わー、すごいねぇシマ君……」


 クレアが無邪気に俺の感心に同意をしてくる。


『武器や艦船の製造や何かには時間加速を使用する事は禁止事項になってしまいますけども、こういった使い方は有りなのではないかと思う次第です』


 旧銀河帝国の技術者とやらが仕込んだ禁止事項か、あれって戦闘関係以外は割と緩めな縛りだよな……。


「しかしまぁ『超長距離移動用空間跳躍ゲート』だっけか……確か専用の設備を宇宙に設置する必要があるんだよな?」


『はい、対になるゲート施設を設置する事により、その片方から進入してもう片方へ出て来るという形になりますね』



「信用してない訳じゃないが、もう実際に使える状況にあるのか?」


『無人の艦船で最終試験をすれば良い所まで来ています』



「んー、それって片方を領地に置いて、もう片方をサヨが持って移動するって感じになるのか?」


 固定するって何処でもいいのかも判らんよな。


『現状だと非常用帰還装置という感じでしょうか? 帰る為に設置したゲートを守る為に部隊を置いていく必要がありますので……取り敢えずは、いつでも帰ってこれるのだという事を理解して頂ければよろしいかと』


 ああ、そういやそうか、設置したゲートとやらを放置する訳にいかんだろうしな、となるとだ。


「例えば辺境の星系に俺達が行っているとして、観光惑星に何事かが起きたとする、そうして帰還をしたいとなったら……どれくらいの時間で帰って来れるんだ?」



 ゲートの設置とやらに時間がかかったら意味は無いよなぁ?



『そうですね……そこはやはり専門家に説明をして貰うのがよろしいかと思いまして』


 ん? じゃぁ後でスターデさんを呼ぶのか――


 プシュッ、っと会議室の扉の開く音がして、そこから。


「こんにちはシマきゅんっ! こんな事もあろうかと! 研究を急いでやった甲斐もあるというもので、説明はこの僕におまかせだよ」


 ……うん、彼女はサヨと一緒の事も多いからなぁ……ここ一年で性格が変わってきた気がする。


 初対面の頃より少し押しが強くなっているというか……見た目は芋ジャージに白衣で変わってねぇのにな。


 颯爽と現れたスターデさんは、クレアやサヨと挨拶を交わしながら俺の前まで来る。


「お待たせだよシマきゅんっ! シマきゅんっの為に頑張って研究した内容を説明しちゃうからね!」


「あ、うん、よろしくねスーちゃん」


 その勢いに押され、おれはついつい二人っきりの時の呼び名で呼んでしまった。


「へぇ、そんな風に呼ぶんだぁ……お二人さんってば」


『仲がよろしいですね』


「わわ! それは二人っきりの時と言ったじゃないかシマきゅんっ!」


「ごめんごめん、まぁ説明を頼むよスターデさん」



「もうシマきゅんってば……んん! コホンっ、では『超長距離移動用空間跳躍ゲート』の説明をするからね、これは――」



 ……。



 ……。



 ――

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