第58話 視察

【いらっしゃいませ~】

「いらっしゃいませ~」


 俺がそのお店に入ると可愛らしい制服を着たサクラと、その同級生であるニナさんが同じタイプの制服を着て出迎えてくれる。


 ここは要塞都市にあるお店の一つで、日本でファミレスなんて呼ばれるような形態のお店だ。


 サヨが言っていた、学園都市の学生達にはお金稼ぎが出来る仕事は一杯用意してある、という話が実際にどんなものかを視察する事にしたんだ。



 色んなアルバイトがあって、俺が視察に行くと言ったらサクラが興味を持ったみたいで、短期のアルバイトをするというのでちょっと見に来たって訳だ。


 もうすでに要塞都市の方のカジノとか『サクラーユ化粧水』を使ったマッサージや、その他諸々の観光用施設とか、お金持ち相手の観光業はぼちぼち初めているし。


 例の庶民をタダで招待する宝くじも開始し、銀河中から人気取りで一般のお客さんとかも呼びはじめているので、ファミレスには観光で来たお客さんもちょろっと入っている。



 そういった事が出来る様になったのも、サクラのお姉さん方が水際で精神感応によるチェックを頑張ってくれているおかげだ。

 ありがたい事だ……今度何かその働きに報いないとなぁ。



 ちなみに宝くじの名称は『ククツクジ』に成った……日本語だと言い辛そう。



【こちらにどうぞお客様】

「どうぞお座り下さいククツ様」


「ありがとうサクラ、ニナさん」



 うん……案内はありがたいのだけど、案内係に二人要る?



【ご注文はネット回線でどうぞ】

「指名してくれれば私が運びますからね」


 そんな指名システムはファミレスにはありません。


 そう思いながら案内された席に座る、ちなみに今日は俺一人だ。


 ……まぁ『くのいち忍者部隊』の護衛は付いて来ているけど、一応他人扱いで他の席に居たり……もしくは何処かに光学迷彩で隠れているかもしれない。



 ちなみに注文は銀河ネットを通じてやれちゃうからメニュー本? とかいうプラスチックの本は無い。

 爺ちゃんなんかはそういうのが昔はあったって言ってたんだけどね、ちょっとどういう物だったのかは良く判らない。


 こういうお店も全てを自動機械でやれなくは無いんだけど、それだと味気ないっていう思いがどんな種族にもあるみたいで、なので接客業から人が居なく成る事は無いんだよね。


 まぁ裏方作業は別で、調理や盛り付けは低知能AIなアンドロイドを普通に使って居ると思う。


 そんな訳で注文した料理は店員さんが運んでくれる訳だけど……さすがに運ぶ人を指名なんてのは聞いた事がない。

 それってもっとこう……アダルト的なお店の話じゃねぇか?



 店内を歩き回る店員さんを眺めながらメニューを選ぶ事にする。



 あ、サクラが他のお客さんに料理を運んで居るね。

 サクラの恰好は黒を基調にした服に、白い腰につけるエプロンが映えていてすごく可愛い。

 まぁ、普通なら膝丈のスカートっぽいが……サクラの場合根っこが結構見えちゃうので、少し他の人より長めのスカートにしている感じで、襟の所にある大き目の白いリボンがまた可愛いなぁ……。


 うむうむ、後で一杯可愛かったと褒めてあげないとな、今褒めるとサクラは……。


 あ、俺の側を通ったサクラのツル髪の毛の蕾がポポポポンと花開き、満開になってしまった。


 まぁ意図しないと花びらが落ちる事もないしいいか……てか仕事しながらも俺に精神感応を使って表層意識を読んでいるのな。



 ま……いいけどさ。



 っと注文しないと、うーん、まだ視察は色々な場所に行くんでそっちでも食べるかもなんだよな、それなら小さめのピザと飲み物でいいか、ポチッっとな。



 注文も終わったし、ファミレスの外の景色を見て時間を潰す。


 大通りにもそこそこの観光客が歩いているなぁ、お金持ちはあんまり歩いて移動はしないから、あの人たちはタダで招待した庶民の人々かな?


 ククツクジの当たりで招待した人達は、交通費も滞在費も全部こちら持ち。

 さらに銀河で使われているお金だと使わないで持ち帰ろうとする人が居そうなので、この要塞都市内だけで使える特殊なお金のデータを渡している。


 そのお金でお土産を買ったり色んな場所に遊びにいったりして貰い、それによって、俺の評判が良くなって人気もちょろっと上がってくれると嬉しい、という構図。



 観光客が楽しむ場所のお仕事なんかでは学園都市の人材が働いて居たりする、演劇とかさ。


 学生として来たんだけど、地元ではむっちゃ有名な役者だったりアイドル歌手だったりする人が多いんだよなぁ……サヨが選んだ基準が知りたい様な知りたくない様な……。



【おまたせしましたククツ様】

「こちらピザの小とアイスコーヒーです」


「ああ、ありがとう」


 テーブルに料理を置いたサクラとニナさんは、その場に佇みちょっとモジモジとしているというか。

 ああ、さっきは来たばかりだし、あんまり長い会話をしないようにしたんだけど、今なら大丈夫なのかな?


「二人共制服が似合っていて可愛いよ、サクラも頑張って仕事をしているみたいで安心した」


 人社会にまだ慣れてないサクラだからな、ちょっと心配だったんだ。


 ポポポンと新たな花を咲かせつつサクラが。


【ありがとうございますククツ様!】

「にゅふふふふククツしゃまが私を可愛いって……は! サクラさんの事は私にお任せ下さい! こういう役のお仕事もした事あるので!」


 それは関係あるのだろうか? 先生の役をした役者が実際の教師に成れる訳でもあるまいし。


 サヨから聞いた天然ポンコツアイドルという言葉が思い浮かぶ……そういやそういう枠だったな。


 ニナさんは銀髪銀目でサラサラのロングヘアで、ぱっと見はクール系美少女なのにな……そのギャップがファンにはたまらないのかもしれないのかもか……。


【ではごゆっくりどうぞ】

「休憩時間ならククツ様とご一緒出来たのですが……むぐぐぐ……お代わりも一杯運んじゃいますからね!」


 いや、次の視察もあるからお代わりはしないよ?


 二人がテーブルから離れたのでピザをパクリッ……美味い。

 実はこの都市で使われている食材は培養品より天然物が多いのだけど……あえて宣伝はしていないから気付く人がどれだけいるのやら……。


 俺も培養肉と飼育肉の違いとか判んないしな……。


 アイスコーヒーもゴクリッ。


 香料でコーヒー味にしてるのか、それとも天然のコーヒーの木の実から作っているのか……判らんよなぁ……普通に美味いわ。


 これが庶民的な値段で出されてるとか、サヨが居ないと絶対に無理な話だ。


 俺がやっているのは商売というよりも人気取りだからいいんだけどねぇ。


 いざという時の民の声の大きさってのは馬鹿にならんのですよ。


 世界が俺を否定してもサヨが居れば生きてはいけるけど……やっぱこの広い銀河の中を大手を振って自由に生きていきたいじゃん?


 なので人気取りは大事……らしい、とサヨとクレアが言っていたので俺はその通りにするだけだ。



 さって次の視察先にいくか。



 ……。



「ごちそう様、二人共お仕事頑張ってな」


【ありがとうございました、後でもっと詳しい感想とか聞かせて下さいねククツ様】

「あー、あー、サクラさんいいなぁ! 私も! 私のこの恰好の感想とか後で聞きたいです!」


「ああうん、また後でな」


 仕事の邪魔しちゃいけないから今は帰ろう。


 後で一杯褒めてあげないといけないな……可愛い制服を見た時の感想を忘れない様にメモっておこう。



 ……。



 ……。



 ――



 えーと次は鳥魚人族向けカフェ? これ絶対にサヨが予定を作っただろ!

 人間に近い生態の人向けの視察にしてくれよ……。


 大丈夫か? 虫とかミミズとか出て来ないかこれ……しかも天然物とか言って……ブルブルブルッ。


 想像をしてしまい体が震えたので、この視察は外観だけを見て終わりにしよう。



 ……。



 ……。



 ふぅ……あの鳥魚人系向けのお店は……でっかい水槽に天然の魚を放流してあるお店だった。

 しかもそれがその場で食べられるとあって、それ系の人で一杯で、そもそも店に入れる余地が無かったよ。



 さて次は……鉱石系人向けのお店か……これ絶対にサヨが予定を以下略!

 くっそあいつめ……今日は後から合流するって話は絶対に……。


 朝会って話をした時に『ご安心下さい』って言葉が無かったから油断しちまった。



 ……。



 ……。



 うん……そうかぁ……天然石があんな値段で売れるのが意味不明だよな……彼らには人工か天然かが本能で判るとかなんとか……今まであまり交流を持った事の無い人達だからな。


 他には鉱石人向けマッサージ? で、電気を自分に流して高速で震えるって……時計ですか? 意味が判らない。


 こういう事を知るたびに銀河って広いんだなって思うわ。



 ……。



 ……。



 ――



 そして最後にやって来たお店は……大通りから外れた寂れた場所にあって、扉の前には黒服を着た警備員が二人居て剣呑な雰囲気だ……。



「……ここは会員制となっております」



 黒服を着た警備員に止められたので、俺は銀河ネットを使い会員である事を証明する。


「確認致しました、どうぞ中へお客様」


 許可を貰えたので、警備員の横を通り扉の中に入り無味乾燥な廊下を歩き、そして突き当りの扉を開けると……。



 ……。



 ……。



『いらっしゃいませ~『犬猫ペットカフェ』へようこそシマ様』


 さぁ、最後の視察を頑張るぞ!!!



 ってか猫耳と猫尻尾つけて何してんのサヨ……ずっとここで待っていた? そうか……。


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