第49話 惑星単位だと数の桁が大きくなるのは当然で。

「サクラのお陰で催眠暗示に対応する事は出来た……出来たんだが……」


「サクラちゃん一人では対応出来る人数にも限界があるよね……」


 俺とクレアは会議室で唸りをあげている……今はいつもの俺とクレアとサヨにサクラを加えた4人での話し合いだ。


『サクラさんの精神感応による催眠暗示を解く能力は変えが効きませんので難しいですね……機械的に再現出来れば楽なのですけども』


 うちにはそういう新たな物を作り出す人材がいねーんだよなぁ……研究者というか、そういう人材が欲しいと思ってしまう。


「学園都市の規模は初期で1万人程を考えていたけど……500人くらいにしておくか?」


 学園都市という名だが、入って来るのはほぼ基礎教養を習得済みな人達だ。

 なのでほぼ大学か大学院や大学の研究室の集まりって感じになると思う。


 まぁ一応小学校から高校みたいな場所もあるけど……そもそもが俺とのお見合いとしての意味合いがあって、嫁候補でもあるので年齢が低い子はそんなに受け入れない……よね?


 前にチラっと確認した時に、申し込まれたお見合いデータの中には、生まれたばかりの赤ん坊を将来の婚約者にって言ってきた貴族とか居たんだよね……。


 それも一件や二件じゃなくそこそこの数……身体強化された時の寿命を考えると、大人になるまでの数十年なんて問題は無いといえば無いんだけど……さすがにどうかと思ったさ。


 それで学園都市でだれが教師になる予定かというと……サヨ姉妹達になる。

 サヨ姉妹達は既存の学問を教える事に問題は無いので、大学の基礎くらいまでは教師として従事できる。


 だけども新たな事の研究となると途端に苦手になるので、大学の研究の主導は学生らにやって貰い、それを監視監督するのがサヨ姉妹達の役目へと変わる。


 ここで優秀な研究者とかをゲット出来ないかなーと密かに期待をしている。


 サヨのおかげで研究に必要な機器や試料なんかは豊富に提供されるので……予算の潤沢な研究室になる予定。



「その規模でやるのは軋轢が生まれそうだし、それならまだやらない方がいいかもだよ、シマ君」


 クレアの言う通りで、そうなるよなぁとは思うのだが、ニナさんと約束したしなぁ……。


 観光地より先に、なんとか小規模でも学園都市をと思ったが、どっちにしろサクラ一人じゃきつい事に気付いた。



 あ、話は変わって、うちに居る側付きとかは全てサクラの精神感応で調べてあるので大丈夫です。



「計画は延期だな、サクラの負担がでかすぎる」


『そうですね、急ぐ話でも無いですし』



【あ、あのククツ様】


「どうした、サクラ」


 健気なサクラだし、私なら頑張れるとか言いそうだが、その場合はなんとかして言い含めないとな。


【私のお姉様方に手伝って貰うというのはいかがでしょうか?】



 ん?



 サクラのお姉さんって事は……荒縄で縛られた雌しべな方々か。


 彼女達にワッサワッサと枝葉を揺らしながら囲まれた事を思い出した。


 人間に変態しかけているサクラを見ている事で忘れてしまうが。

 ……樹人なんだよなぁサクラって、未だに足元は根っこだしさ。


 ふーむ、それにしてもお姉さん方か……。


「お姉さん方を雇って要塞都市の入口で出入国管理をして貰うのか……ふむ……悪くない話だが」


「樹人の方ってそういうお仕事に興味とかあるのかしら? どう思う? サヨさん」


『そうですねクレアさん、樹人は基本的に自分の惑星に籠っている種族だとデータには有りますが……サクラさんの例も有りますしなんとも……』


【お姉様方は、そういったお仕事や報酬に興味は無いと思います】


 サクラの返事を聞くに、興味ないならやっぱ無理じゃね? と思うんだが。


 だがサクラの話には続きがあった。


【ですが、ククツ様には非常に興味があると……いえ、好意があると思うんです!】



 お、おう……そうか?



「えーと、でもなサクラ、俺が帰る時に婚約の申し込みである花輪をくれたのは、サクラだけだったよな?」


「シマ君がサクラちゃんの婚約を受け入れたあの時の話だね」


『シマ様が幼木を婚約者にした瞬間ですね』


「サヨ、お前の言い方には何かトゲを感じるのは俺の気のせいか?」


『植物系種族だけに?』


 そういう漫才的なのは今はしないから!?


 それにあの時は知らなかったんだししょうがねぇじゃん……というか幼木と成木とかに分けて見たりしねーだろぉ?


【あ、いえ、あの時は私が……その……抜け駆けをした様な物で……後日お姉様方は正式なお見合いの要請とかをする気だったんだと思います……そしてククツ様が私を選んでくれた事で半ば諦めてしまっているのかと思うのです、まさかククツ様がまだ年輪も少なく枝ぶりも貧相な私を選んでくれるとは思ってもみなかったので……ポッ】


 サクラはセリフの後半になると両手で顔の頬を押さえて、クネクネと恥ずかしそうに身悶えしている。


 樹人ってのは年輪や枝ぶりで相手を選ぶのか……人間で言うと……年齢やスタイルや顔で選ぶ?


 それだけで選んだと思われるのは寂しいかもな。


 そう思ったので俺は。


「あの時はサクラがくれた花輪がすごく綺麗で懐かしいと思ったから、喜んで花輪を貰ったんだよ」


 実際に花輪を貰った時は、桜の花っぽくて綺麗で懐かしくて……すごい嬉しかったからな……。


 ポポポポポポン、サクラのツル毛の蕾が弾けるように花を咲かせる。


「わー……お花見が出来そうだねぇサヨさん……」


『シマ様は心の底から綺麗だと思っていたんでしょうね……』


 こんな事で嘘は言わないよ、今もサクラの花はすっごい綺麗だと思っているわい。


 ポポポポポンッ! サクラのツル毛に追加の花が咲いていく……満開の桜だ。


 また心を読んでるなサクラ……いやまぁ、エッチィ事を考えている時以外なら読んでも構わないと改めて言ったけどね、読まれて困るようなのは教育に悪い部分だけだし、そこはサクラも素直に納得してくれた。


【ククツ様は……樹人に対する隔意がまったく無いのです、そして今も心底私を美しいとおっしゃって……どうか、ククツ様の御側で日を浴びて……さらにその先へ至るチャンスをお姉様方に頂けませんか?】


「先のチャンスとは?」


【ククツ様のお嫁さんになって受粉するチャンスです……その機会を頂けるのならば、お姉様方はお仕事のお手伝いをしてくれると思うのです】


 チャンスか……確定で婚約しろとは言わないんだな。


「お見合い? くらいならいいけども、婚約が決まってないと樹人の素の姿なんだよな? さすがにあの姿で来られても花が素晴らしく綺麗とは思えど、嫁にしたいとまでは思えないと思うんだが……」


 サクラは俺との婚約が決まってから、それなりの時間をかけて変態したって話だしな。

 急に全部変態すると体に良くないとかで、今は安定期でしばらくそのままで。

 ある程度時間が経過したら、また変態を進めるらしいのだが……。



 というか、俺の為に変態を進めるっていう表現は何か嫌だな……。



【私のこの姿くらいまでなら一月もあれば……ククツ様がお見合いのお相手とあらば、お姉様方も張り切って変態すると思うのです】



 張り切って変態する、という表現もやめて欲しい……。



「ああ、まぁそれなら、側付きを受け入れるのと変わらない……か? 性格の相性次第で残念な結果になるかもだが、それは大丈夫か?」


【はい! お見合いですから、それは当たり前の話です、お姉様方の中には、自分の花の美しさを鼻にかける方も居ますので……ククツ様がお嫌なら断っちゃって下さい! ……ちょっと幹や枝ぶりが立派で大きな花が一杯咲くからって! 花の美しさは個々の質で決めるべきなんですよね、沢山咲いたからってそれがなんですか! ククツ様もそう思いますよね? ククツ様は私の小さいけれど繊細な花を美しいと言って下さる方ですものね? 全てのお姉様方を受け入れる必要はないですからね、一杯断って貰って構いません!】



「お、おう……」


 幼な可愛いサクラだが……ストレスが溜まる事柄は存在するらしい……サクラの姉たちへの不満の籠った長文に気圧されてしまう俺だった。



 ……ん? あれ? 今サクラは。



「ねぇサクラちゃん、一杯のお姉さん達って表現なんだけども、シマ君とのお見合いを条件にしたら何本……何人くらい来てくれるのかしら?」


 俺が気に成った部分を、クレアが丁度質問をしてくれた。


 それと樹人の数え方って本なのか人なのか迷うよね……彼らが自分の事を木で有る部分が本質だと思っていたら本の方が良い様な気もするし。

 まぁ翻訳を通してどっちも同じ言葉に訳されている可能性もあるけどさ。



【あ、はいクレア様、えーと……たぶん……1万本くらいのお姉様方が来るのでは?】


 あ、本が正解なの? それとも誤訳?



 ……って待って! それおかしいだろ!?



「待ってくれ! あの時の外交で出会った樹人の方々を全て合わせても、確か500本はいかなかったはずだぞ!?」


『樹人には精神感応があるじゃないですかシマ様』


 サヨが横からポソっと説明らしき物をしてくれたが……。


「あるから?」


【サヨ様の言う通り、あの時のククツ様との交流は精神感応を通じて惑星中に流していましたので、ククツ様の事が気に成ったお姉様方は多いのです、1万という数字もそれ以上はご迷惑になるのではという意味での数字になります】


「そ、そうか……銀河ネットでの思考分割のお見合いでいーい?」



 ちょっと思ってたより多すぎだわ。



【樹人の寿命は長いですから、数千年かけてのんびりお見合いをして頂ければ構わないかと】


 ……数千年? 樹人の感覚ってのはすげぇな……。


 いや、俺の寿命を考えたら、それが普通になるのか? まだちょっと実感なかったわ……。



 まぁ取り敢えずだ。



「うん、じゃあ、サクラの意見を採用しようかな、お姉さん方への根回しはサクラに頼んでもいいか?」


「まずは身内からの連絡をしてからがいいかもねぇ、よろしくねサクラちゃん」


『お願いしますサクラさん、正式なシマ様からの要請はそれが済んでからという事にしましょう』



【はい、お姉様方への連絡はおまかせください!】


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