第48話 学園の保健室でのお話し
学園都市の施設である保健室、というより学園の規模的には病院が必要なんだけど……何故かサヨやブレインユニット達の意見で、保健室を大量に設置する事になっている。
俺の故郷である日本の漫画とかアニメ文化の影響だろうか?
俺の為にと日本の事を色々勉強してくれているみたいだしな。
まぁ温泉旅館の時みたいに、各種ドローンやアンドロイドを一杯配備すりゃいい話だから、多少の無駄設計は問題無いんだけどさ。
学校には保健室があるのが浪漫だと言われたら、そりゃ認めるしかないよね。
それで今は、そんな保健室の一つに来ている。
ベッドが二つ置けるくらいの狭めな部屋なんだな。
例の催眠暗示を受けていたニナさんが気絶をしたので、そんな狭い保健室に運び込んで、片方のベッドに寝かせている訳だ。
保健室には俺とサクラと護衛の『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹が二人居る。
もうニナさんに問題は無いだろうという事で、サヨやクレアは作戦終了の後片付けの指揮なんかをしているはずだ。
サヨなんかはここに居ながらもそういう事が出来るはずなんだが……あいつは必要が無い限りにおいて、表向きはクレアくらいの作業能力に合わせる事が多いよな。
……人でありたいという事なのかなんなのか……詳しく聞いた事は無いが好きにさせている。
実は急遽作戦を行った為にまだ領地に戻っていなく、何もない宙域に学園都市を造る用の要塞を出した状態で、オープンキャンパステスターの募集をニナさんの周囲に出したんだ。
釣り上げる対象であるニナさんの所在地の近くでって事だね。
な訳で今は移動をするので要塞都市ごとサヨの中に収容しているはず。
学園都市は要塞の表層じゃなくて中層にあり、空が投影された人工の物なので場所を移動している事には気付けない仕組みになっている。
チラっと見た窓から見える空は晴天で……今日もいい天気だなぁ……。
サヨの空間歪曲は大質量がある物体の近くで、小分けに移動させるのは問題があるけど、丸飲みなら安全なんだってさ。
このままアリアード皇国の本星まで行って、ニナさんを家に送り届ける予定だ。
「ん……んん……ここは……」
ベッドに寝ているニナさんが起きたっぽい。
サヨ姉妹が一応俺やサクラの側に来て護衛をしてくれている……。
ねぇ……護衛をするのに俺の背中から抱き着く必要ありますか?
素直にサヨ姉妹の一人にそう聞いたら、有りますと返されたので、そのままにさせている。
今彼女らは報道用の地味目な忍者の恰好に着替えていて、サクラとニナさんは学生服のままだね。
学生服は学園都市用に用意した数ある中の制服から好きなのを選べる感じにしてある、サクラはニナさんに合わせてブレザーなんだが、すごく可愛い。
最初にサクラに会った時にそうやって褒めたら、頭のツル毛が花で一杯になってたっけ。
ベッドに寝たまま目を開けて、こちらを認識したニナさんに声をかけてあげる。
「ニナさん体は大丈夫かい? 自分がどうなっていたか覚えているか?」
ニナさんは俺を見て、そして俺の言葉を聞いてから天井に視線を移した……そうして少し間を置いてから、ベッドの上で上半身を起こして再度俺達に視線を向けると。
「はい……私は……心を侵食されていたのですね……」
ふむ、記憶に残るタイプの催眠暗示なのか、それなら。
「君に催眠暗示をかけた奴らに心当たりはあるかい?」
「……ええ……TV局のプロデューサーと打ち合わせと言われて会議室に呼び出された時に、何かの機械を向けられ……その事は今まで忘れていましたので……たぶんそれかと」
……人気女性アイドルがプロデューサーに呼び出されて催眠暗示か……えーと……。
「それはその……なんというか……」
どうしよう、すごい繊細な案件になりそうで……クレアあたりにまかせれば良かった……。
「……あ! 大丈夫ですククツ様、私はまだ処女です! ちゃんとククツ様の為に取ってありますから!」
俺の動揺というか躊躇の内容に気付いたのか、ニナさんが大きな声でそう言ってきた。
ほっ、成人向け同人誌みたいな酷い事をされてないようで安心した。
けど、俺用ってなんやねん、催眠暗示で好意が増幅されてたのはもう戻ったんじゃないの?
それともまだ好意の増幅が残っている?
【……ニナさんはククツ様の大ファンであった事に変わりは無い様です、催眠暗示はもう残っていませんからご安心を……】
サクラがそう教えてくれたけど、てか、また俺の心を読んでるよねぇ?
そしてちょっと恥ずかしそうに顔を……ピンク色の濃い花を咲かせているのは、俺がちょこっとニナさんの18禁同人誌的な事を想像しちゃった部分も読んだからだよねぇ!?
サクラにはちょっと今は心を読むのをやめなさいと、身振りで伝えておいた。
「んんっ! まぁそれをしかけた奴等の情報は後で聞くとして、俺のせいで迷惑をかけたみたいだね、申し訳ないニナさん、今アリアード皇国の本星に向けて移動をしているから、もうすぐしたら家に帰してあげるからね」
そう言ってニナさんを安心させようとする俺だった。
だが。
「え? 帰還? そんな! 待って下さい! オープンキャンパスの続きは? そのまま留学生に選ばれてククツ様とお近づきになる計画は? それからお嫁さんにして貰って初めてを捧げる私の夢はどうなってしまうんですか!?」
留学は判るがお嫁さんって……いやまぁサヨは相性がいいなら嫁に迎えても構わない人員リストとは言ってたけど……。
「ああいや、でもニナさんは催眠暗示によって俺への好意を増幅されて居たっぽいし、俺のファンではあったのかもだけど……、一度家に帰って冷静になるのがいいと思うんだ、そうしたら気持ちも落ち着くと思うし」
心を操られてたなんてショックも大きいだろうしな、まずは何処かで一旦落ち着くべきだよな。
「……例え……例えククツ様のお言葉であろうとも! それは聞き逃せません! 謝って下さい!」
ニナさんが激高して俺に詰め寄る。
大丈夫だサヨ姉妹動かなくていいよ、急に動いたニナさんに反応したサヨ姉妹が、俺とニナさんの間に入ろうとするのを身振りで止めた。
ベッドの上をずりずりと動いて俺の直ぐ側まで寄って来たニナさんは、顔を俺のすぐ側まで近づけて謝罪を要求してきた。
ああうん、えーと。
「俺を狙う奴の為に君の心を操られた事を謝罪する、金銭で片を付けるのは申し訳ないと思うが何某かの謝罪金を――」
「そうじゃ無いんですククツ様! ククツ様は判っていません!」
俺の謝罪は途中でぶった切られた。
そしてニナさんはさらに俺に近づいてくる。
「えーと、つまり?」
判らないのなら聞くべきだと、俺はニナさんにパスを投げる。
「私は……私はククツ様の事が『大大大大超好き』なんです! 今思うとあの暗示とやらはククツ様の事を『大好き』にさせて生殖行為をさせて、子種を獲得する為のものでした、ですがそれは今はどうでもいいんですが、つまりです! あの暗示のせいで『大大大大超好き』から『大好き』にされてしまっていたんですよ! 判りますか!?」
サラサラとした銀髪ロングの髪を振り乱して怒る美人のニナさんには、人気女性アイドルとしての迫力があるね。
そして、どうでもいいと彼女が言った事が、一番大事な事件の核心の気がするんだが……取り敢えず俺の子種の話は置いておこう。
えーと……。
「つまりニナさんの俺に対する気持ちが?」
「暗示によって増幅では無く、減衰させられていたって事です! 昔は空間モニターに投影したククツ様のお姿に、お早うのチューをして、行ってきますのチューをして、ただいまのチューをして、おやすみなさいのチューをして、夜の作業のチューをして、としていたのに……暗示らしき物を受けてからそれらをしなくなって居た事だけでも私の心は操られて……つまり! 私の想いが冷めるなんて事は有り得ないんです! ククツ様にはそこを理解して頂かないと……私は……私は……」
怒っていたニナさんが乗り出していた体を戻して顔に手を当てて……泣き出してしまっている?
あわわわわ……やばいやばい、どうしよう!?
【ククツ様、女性の恋心を理解して差し上げないのは……ちょっとニナさんが可哀想です】
幼木なサクラに恋心について諭されてしまった……サヨ姉妹もウンウン頷いている。
前にクレアが言っていた『行動が昔と変化をしていて怪しい』という言葉の意味は……俺の事が超好きから大好きに下がっているからって事だったらしい……。
「ああうん、えーとじゃぁ……そうだ、学園都市が正式に始まったらニナさんは無条件で受け入れるから、ね? ごめんね?」
そう謝ってみるも、ニナさんは自分の顔に両手をあてて、肩を震わせて……。
「シクシク……ククツ様のお嫁になりたいと大声でバラしてしまいました……これで嫌われてしまったらと思うと……シクシク」
「ああ、うんまぁ、それでニナさんを嫌いになる事は無いから、ね? 安心してくれ」
「シクシク、つまりお近づきになるチャンスは頂けると? シクシク」
「えーっと、そうだなぁ……学園都市が出来たらサクラも通う予定なんだが……学友として側に居てもらうのはどうだ? サクラは大丈夫か?」
【はい、ニナさんとは楽しく施設を回れていましたし、願っても無い事です、学園生活すごい楽しみです!】
サクラが小さくガッツポーズをして学園を楽しみにしていると言って居る、可愛いなおい。
「サクラは俺の婚約者だし、その学友なら俺とも会う機会は増えると思う、それでどうだろうか? ニナさん」
「シクシク、空間投影されたククツ様にチューをしていた事を気持ち悪いとか思いません? シクシク」
「ああ、うんまぁ……好きな相手には俺もよくチューをするしな、普通じゃね?」
「シクシク、では……今ククツ様にチューをしても!?」
「そうだな、じゃぁ、っていやいや待って! それは……なぁニナさん? もしかしてウソ泣きか?」
俺のその言葉を聞いたニナさんは、顔から両手を離してこちらを向いた。
その綺麗な顔を見ても涙は一切出ていなかった……けど、少し涙が流れた跡は残っているか?
「最初に泣いた時は本気でしたが、後のは……私、大人気なアイドルで役者でもあるので!」
【すごいですニナさん! 私、本当に泣いているのかと思ってました】
「……はぁ……じゃぁそういう事で許してくれるかな? ニナさん」
「はい! これからよろしくお願いしますククツ様! サクラさん!」
そう言って満面の笑顔で答えて来るニナさんであった……女の子は強いなぁほんと……。
さてそれでは皆して保健室から帰ろうとした時だった。
サクラが……。
【ククツ様、ニナさん、私、一つ判らない事がありまして】
「どうしたサクラ、何でも聞いてくれ」
「そうよサクラさん、将来の学友である私に何でも聞いていいからね!」
【ありがとう御座いますお二人共、では、さきほどのニナさんの言われた『夜の作業のチュー』というのはどんな作業なのでしょうか? ちょっと判らなくて】
……俺があえてスルーしていた所にサクラが疑問を持ってしまった様だ……俺はすぐさまサクラに。
「さっき身振りで頼んだけど、俺の心はまだ読んじゃ駄目なままでいてねサクラ」
【あ、はい判りましたククツ様、それで一体どんな作業なのでしょうか? ニナさん?】
サクラにそう聞かれたニナさんの顔をチラっと見た俺……彼女の頬は真っ赤に成って居て……よし。
「じゃ俺は先に行く、サクラはニナさんと話をするといい、じゃーな!」
保健室から逃げる事にした。
「まっ! ずるいですよククツ様! って逃げるって事はあれの意味をご理解して……‥いやぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」
ニナさんが叫び声をあげてベッドの掛布の中に潜り込んでしまった……。
保健室から脱出しつつも俺は思ったね。
サクラ……恐ろしい子、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます