第47話 ほとんど身内のオープンキャンパスなんだが結構ワクワク感があった。
「えー……と言う訳で、君達にはこの学園都市内の設備を使用して貰い、様々な意見を出して貰えるとありがたい、名誉学長である俺からは以上だ」
数百人の学生服を着た女性達を前に、そう挨拶を締めくくり台から降りていく俺。
ちなみにその学生達は、一人以外全て俺の身内だ。
ブレインユニットや側使いやサヨ姉妹をダミー学生として採用している。
寿命を延ばす身体強化のある世界だから、見た目とかあんまり意味なかったりするので、見た感じは多種多様だ。
ドワーフ系の人種とかだと、女性はロリな見た目で成長が止まる種族も居るしな。
逆に成長が早くて妖艶な見た目だけど、その種族としては子供と見なされる人種とかも宇宙には存在する。
そして例の催眠暗示を受けているかもという子なのだが、結果はアウトだった……。
サクラが同じ学生として挨拶をして握手をしたら、彼女の精神の奥底に淀みがあったそうで、恐らく催眠暗示を受けているという話だ。
ではそれをどうするかという話へと移り、拘束して皇国へ送り返すしか無いのかな?
という話で纏まりそうな所で、またサクラが提案をしてきた。
それは精神感応で催眠暗示を吹き飛ばす事が可能かも? という話だった。
ただしかし、初めてやる事なので、まずは催眠暗示が発動をした状態を見てみたいという事で、こういう茶番を演じている訳だ。
俺が彼女の前で名誉学長として演説している時に動きは特に何も無かったし……他が目的かな?
場合によっては、うちとはまったく関係無い催眠暗示の可能性もあるけど……うちに留学希望している女性だしな……。
その催眠暗示を受けた子とサクラは一緒の班にして、色々な施設を回る事になっている。
施設破壊とかをしてくる催眠暗示かもだが、その同じ班の中には『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹も居るし、彼女達は近接戦闘はピカイチだからたぶん大丈夫だとは思う。
……。
……。
――
「どうだ?」
控室に戻った俺はサヨやクレアに質問をぶつけつつ、展開されていた空間投影モニターを確認すると、そこには例の女の子を含む班の行動が多方面から映しだされていた。
『今の所怪しい動きは無いですね、表面上の監視体制は緩めにしているのですが、特に何かをする素振りは見せません』
「こう見ると、憧れの場所に留学出来て、嬉しさのあまりにはしゃいでいる女子学生って見えちゃうよね」
空間投影モニターに映る女子学生は、サクラや他の班の子らと共に楽し気に各種施設を見学している。
「うーん、施設破壊系の暗示では無いっぽいなぁ?」
『シマ様暗殺とかでも無さそうですね』
「狙いがサヨさんや私の可能性もあったかも? それか……確率的には低いけど、うちと関係ない催眠暗示の可能性も?」
んーここまで何も無いとその可能性も……あるのか? でもサクラがな……。
サクラにも潜伏状態の催眠暗示の内容は正確には読み取れないみたいで、ただ……目的はうちの可能性が高いと言っていたけど……うーむ……。
……。
……。
――
そうして時間がすぎる事幾日か、何の成果も得られずに時間だけが過ぎていった。
それならと……彼女と俺やサヨが近くで会話をするという事にした。
身体検査も済んでいるし、武器の様な物は持っていない事は確定している。
彼女に施されている身体強化は皇国の上級技術によるものだが、俺達に素手で危害を加えるのは不可能だとサヨが判断した。
そして今は、学園都市にある数千人が同時に利用できる規模の学食で、俺達と彼女とで話をする事にした。
席にはすでに彼女を中心とした班の子が全部で4人座っており、彼女の左右は『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹で、サクラは端っこだね。
俺とサヨは、その催眠暗示を受けている女性の対面の席に座り。
クレアは念の為に同席させずに裏で各種指揮を担当している。
そうして近づいて見ると……あれ?
何処かで見た気がする……事前に確認した情報や今までの映像なんかだと、長い髪をお団子にしてたし、今までもお団子ヘアだったからあれなんだけど。
今俺の目の前の席に座っている彼女は銀髪の髪をおろしていて、そのサラサラのロングヘアに天使の輪っかが煌めく美少女で……。
あ!
「氷結のニナ! 映画に出て来た練習艦の艦長役の子か!」
俺はそう彼女を指さしながら叫んでしまった。
「ああっ! ククツ様にお名前を憶えて頂けているなんて……役名を本名にして貰って良かった……」
催眠暗示を受けている彼女は、俺の活躍だかを映画にした時の出演者だった。
確かにデータで確認した時の名前はニナって書いてあったな。
「その髪型も映画と同じに変えたんだな、えっとニナさん?」
「はい! 今日はククツ様にお会い出来ると聞いて、映画を見ているのなら思い出してくれるかな? と思い髪型を変えてみました……もしかしてお会い出来るかと映画のオーディションに参加をするも試写会にも来ないと聞いて落胆をした事もありましたが……こうしてお側で会話も出来て、さらに私の事を覚えて下さっている事が判り……あの映画に出演して正解でした! 私は……幸せです……」
お、おう……なんか急に早口になったなこの子。
監視映像で見た、サクラ達と会話をしている時は普通の女の子って感じだったのに……。
【もしかしてニナさんは、ククツ様のファンなのですか?】
サクラがニナさんにそう話し……空間投影モニターで文字を映して聞いている。
「勿論よサクラさん! あの映画でのニナ役には、ククツ様の大ファンで有る私の実情を使ってくれと監督に直談判したくらいなのだから!」
おいおい……映画の内容を多少とはいえ変えさせるってすごい事だぞ?
本当かと思い、俺はサヨをちらっと見た。
するとサヨが俺の前の空間投影モニターに、彼女の詳しいデータを出してくれる。
……うあ……よく見たら皇国本星のめっさお偉いさんの娘じゃんか……。
あ、でもオーディションに忖度は無かったっぽい、元々本星では、かなり人気のある女性アイドルだったみたいだねこの子。
「大人気で有名な女性アイドルのニナさんに、俺のファンだと言って貰えて嬉しいよ、ありがとう」
俺はニナさんにニッコリと笑顔を向けて、そう感謝の言葉を伝えてみた。
「はわっ! キュンッキュンッ!」
するとニナさんは自分の胸を押さえ、意味不明な叫び声をあげてテーブルに突っ伏した。
大丈夫?
だが、しばらくするとニナさんはムクリと起き上がり。
「このオープンキャンパステスター募集の時のアンケートに、ククツ様の嫁入りを希望しますか? という項目がありました」
ニナさんがちょっと今までと違う様子でそんな事を言って来た。
アンケート? サヨがやったのかな?
俺がサヨを見るとサヨはコクリと頷いて、その項目を空間投影モニターに映して見せてくれる。
それはニナさんのアンケート情報で、普通はチェックをすればいい所に何故か花丸が書かれているものだった……わざわざ書き込み出来る様にアンケート情報を改変したのかよニナさん……。
「ああ、ニナさんのは花丸になってたね、えーとそれがどうかした?」
「ククツ様が私の解答を覚えて下さっている!? 数十万を超える応募があってしかるべきなのに……ああ……やはり両想いなのですね、ククツ様……それなら……それ……なら……今すぐ……わたくしと……愛を……確かめ合いま……しょう?」
ニナさんがそんな事を言いながら立ち上がる。
その表情は……ちょっとお茶の間に見せられない物になっているし……うん、これはどう見てもちょっとおかしいね。
そんな時だった、サクラが何某かの合図を出すと、『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹がニナさんをテーブルへと押さえつける。
上半身がテーブルに押さえつけられたニナさんは尚も暴れているが、両側から押さえつけられていてびくともしない。
そんなニナさんの首筋にサクラが手を置き……今何か光った様な?
ニナさんは体をビクッっとさせると暴れるのを止めた……というより気絶しているなこれ。
「どうなったんだサクラ?」
たぶん、さっきのが催眠暗示が発動した状態で、そこにサクラが精神感応で何かをしたんだとは思うが。
まぁあれこれ考えるよりも当事者に聞いた方が早い。
【催眠暗示が発動していましたので、それを調査してから私の精神感応で吹き飛ばしました】
「なるほど……」
『サクラさん、催眠暗示の内容は見えましたか?』
【はいサヨ様、ククツ様へ好意を増幅させて……その……】
ん? サクラが言い淀んで……書き淀んで? いる。
「どうしたサクラ? 言葉にするのが難しいなら後にするか?」
【い、いえ! 大丈夫ですククツ様、えっとですね、その……好意を増幅させてから暴走をさせ、ククツ様と……その……受粉させようとする催眠暗示でした……キャッ! 恥ずかしい!】
サクラが自分の顔を両手で押さえ、体をクネクネと左右に振って恥ずかしがっている。
『さすがシマ様です、幼木なサクラさんにこんな恥ずかしい事を言わせるとは』
え、いやまって……そういう内容だと知って居たら聞かなかったよ?
てかなんだよその暗示! 破壊とか暗殺系じゃないの!? 意味判んねぇ!
……ハニートラップ要員にする暗示だった?
「サヨも普通にサクラに質問していたよねぇ? 俺とは質問をする順番が違ってただけだよねぇ!?」
『そのタイミングの悪い地雷を必ず踏むのがシマ様の資質という事で、私としては大変たの……憂慮をしています』
……サヨ……お前さ、今絶対に『楽しい』って言いかけただろ?
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