第50話 学園都市の見学
「へぇ、これが最新鋭の機器なの?」
俺は近くに置いてあった機械を、ペタペタと触りながら隣に居るサヨに聞いた。
『そうですね、先日買ったばかりの物に成ります』
「そういや聞くの忘れてたけど金足りるのか? こういうのってすっげぇ高いんじゃないの?」
『天然栽培の食料や、他には貴重では無い余りがちな物資とかも売れました、それにサクラさんの残り湯がかなり稼げちゃうんですよね、売った相手に恩も売れるので一石二鳥という奴ですね』
……残り湯か……商品名が『幼木サクラの残り湯』とかだとしたら俺は何を売ってんだって思われるのだろうか?
そんな会話をしつつ、俺が触っていた機械の値段を聞いて、びっくりして触っていた手をすぐ離したよ。
「研究用の機器ってお高いんだな……」
「大学の研究室なんて、予算があればあっただけ消費出来ちゃいますからね、ククツ様」
「そうなのか? ニナさん」
俺は側にいたニナさんの説明に頷く。
今俺は学園都市の施設の見学に来ている。
樹人の惑星にサクラの姉さん方を迎えに行こうと思っていたんだが、彼女らが俺用に変態するのに少し時間を頂きたいとの事で……。
……字は意味的に間違ってないはずなんだが、俺用の変態って字面はどうにも別な意味に聞こえてしまうのは、俺の心が汚れているからだろうか?
まあよし、なればと今は学園都市に必要な研究用の機器を買い入れる為に、各領地を回っている所だ。
サヨも様々な研究に使える機器は作り出せるんだけど、一般的に使われている物も揃えようとなったんだ。
代金はうちで栽培している高級品の食い物や、天然のハチミツやら、サヨが抱えている様々な物資の中であまり使われない物や……そしてサクラの残り湯を売って金にしているらしい。
いくらでも補充出来るからなぁ……サクラの残り湯は……コスパ最強やねん。
そうして買った、どこぞの企業の最新鋭の機器類とやらを学園都市に設置したとの事で、オープンキャンパス的な物の続きをしていたニナさん達の班と共に見に来たって訳だ。
ニナさん以外の参加者が全て身内の催しだったから終わりにしようと思ってたんだけど、ニナさんが予定通りに過ごしたいって言うからね。
……ブレインユニット達もなんだかんだで学生生活っぽいのを楽しんで居たし、ならばと元々の予定くらいは体験させてから家に送ってあげようと成った。
「ニナさんは人気アイドルなのに大学生だったよね?」
確か資料にはそんな事が書いてあった気がする。
「ククツ様が私の経歴を知っているなんて……は、はい! アイドル活動の方を重視していたので、30年くらいかけて卒業出来ればと思っていましたね」
あーそうか、まだアリアード皇国に加わって間もない地球だと考えられないかもだけど。
そこそこ高度な身体強化が施されるのが当たり前の地域だと、最底辺の一般人でも平均寿命が500年とか千年とか当たり前だからさ。
そうなると学生生活が100年とか200年なんてのも、普通にあるらしいのよね。
ニナさんはアリアード皇国の本星の出身だし、お偉いさんの娘だから……今は10代だけど、高度な身体強化はされているだろうし、千年以上の寿命は確実にあると思う。
まぁ精神的に長生きが無理な人とかも居るからさ、数百年で眠りにつく人も居ない訳じゃないけどね。
【ニナさんは学校の事に詳しくて、色々教えてくれる優しい方なんですククツ様!】
ニナさんと同じ型の制服を着たサクラが、そうやって嬉しそうにニナさんを褒めて来た。
「そうか良かったなサクラ、ニナさんもサクラに色々教えてくれてありがとう」
そうお礼をニナさんに言っていくのだが。
「ククツしゃまの笑顔……胸のキュンキュンが止まりません……勿体ないお言葉でしゅ」
……うん、どうもニナさんは俺のすごいファンらしいんだが……。
今日もサラサラの銀髪ロングヘアを靡かせ、人気美少女アイドル然とした彼女だったが……今の表情だけはファンには見せちゃいけないと思う。
「なぁニナさん、世間で喧伝されている俺と、実物は違うって思わないのかな? 俺は世間で言われる程すごい奴でも無いんだが、為した事もほとんどサヨ達が居ればこそだしさ」
世間一般に流れている英雄という幻影に憧れているのなら、早めに正しておいてあげた方がニナさんの為だよな。
「……ククツ様、それは、物語に出て来る勇者が魔王を倒せたのは、聖剣と聖鎧と聖盾と神の加護があったから、と言っている様なものです」
ニナさんが真剣な表情でそう語り掛けて来る。
俺からするとクレアとブレインユニット達と戦艦群とサヨが居たからって感じか?
「えーと、まぁすごい武器があったから勝てたって事か?」
「……それらを持ち得た事が運命であり力なのです、つまり……頼りになる味方を揃え、結果を出した時点でククツ様は英雄たる呼び名に相応しく……個人の能力に拘る必要は無いのです」
う、うん、なんというか、そういう褒められ方は初めてだな、つまり俺の運のよさも自分の力のうちだったって事か……。
個人の能力じゃなく運が良かったって言葉にはすげぇ頷けるな、ちょっと元気でたかも。
これはニナさんにはお礼を言わないと……ニナさんの言葉が嬉しくてつい笑みが漏れてしまうね。
「キュンッ……そして英雄たれば、それに相応しくあるべきです!」
ん? まだ続くのか、それはどういう? てか最初のは何だ。
「えっと?」
「『英雄色を好む』と昔から言われています通りに、ククツ様はもっとお嫁さんを増やすべきです! 例えば! 目の前にいる美少女人気アイドルなんて英雄に相応しい! と思うのですか、いかがでしょうか? 今ならおまけに私の妹もつけますよ?」
「今時珍しいリアルの八百屋か何かかな君は? 簡単に身内をおまけに付けるなよ……」
「私の発言にククツ様が嬉しそうな顔をするのがいけないんですよ! それを見た私の胸がキュンキュンしちゃってつい暴走しちゃったじゃないですか! 責任取って嫁にして下さい!」
そうしてニナさんが俺に縋り付いてこようと……。
ガシッ。
ニナさんと同じ班の『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹二人が、左右からがっちり捕まえている。
そして俺とニナさんの間に進み出たサクラが。
【ううん……催眠暗示は吹き飛ばしたはずなのですが……、私達はニナさんを連れて保健室に行きますねククツ様、もう一度調べてみます、ここまで暴走するのは後遺症か何かが……】
そうしてサクラと一緒に、サヨ姉妹に両脇を抱えられて引っ張られていくニナさんだった。
「違う! サクラさん、これが私の素だから! ククツ様を前にして暴走しない大ファンなんて居ないからー! あの時のは言動がおかしかったでしょう? 今は素だからー、クッ! さすがククツ様の配下である『くのいち忍者部隊』です! 上級の身体強化措置を受けた私なのに一切振りほどけません……あーククツ様ーせめて、せめてこの後のーお昼はー-ご一緒ー--にー---」
俺は了解の意味を籠めて、ニナさんに手を振って見送ってあげるのだった。
「何て言うか、意外と面白い人だよなニナさんって」
残ったサヨにそう語り掛けた。
『見た目の美少女感とギャップのある、ポンコツアイドルとして大人気ですから』
「……あ、そっち系の美少女アイドルなのね、納得」
勝手に見た目から判断して、クール系美少女アイドル路線だと思ってたわ。
そうして俺は……お昼ご飯でニナさんにイタズラでアーンを仕掛けたらどうなるだろう?
なんて考えながら、サヨと二人で見学の続きをした。
……。
……。
――
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