第36話 ドリドリ団って聞いて何を思い浮かべるだろうか?

「公爵の信奉者?」


『はい、あの公爵は自身の領民や科学者の一部には人気があった様ですね』


「居なくなっても厄介事を残すのかよ、あのおっさんは……」


『皇帝より討伐の勅が下っていますが、いかがなさいますか?』


「陛下からの命令なら行かないといけないだろ」


 はぁ、めんどくさい、いちおうこんな風に言っているけど、命令を無視したい気持ちで一杯だ。


 でも皇帝陛下は今はクレアの義理の父親だからな……サヨは俺優先なんで俺が行かないと言えば一緒に無視はしてくれるんだろうけども……。


 まぁしょうがないか。



「それで、例の適応体を誘引する装置を使っていると宣言してるんだろ?」


『はい、銀河ネットで派手に喧伝している様です』


「それっておかしくない? 何か事を為したいならこっそりやる物だと思うのだけれど……シマ君はどう思う?」


 今このサヨ本体である補給艦の戦闘指揮官室には、俺とサヨとクレアしか居ない。

 せっかく今日は皆と一緒に、超弩級要塞上に建設中の都市へと遊びに行こうって話だったのによ。


「確かにクレアの言う通りだよな、かといってこのまま放置して、また銀河の外から女王級の適応体を呼ばれたんじゃ嫌だしな……」


「あんなのがそうホイホイと居て欲しくないけど……可能性はゼロじゃないのが嫌な話だねシマ君」


『公爵の信奉者である彼らは自らの事を『道を正す者』と名乗っています、日本語にするなら『道理派』でしょうか?』


「そんな奴らの宣言を真面目に聞いてやらないでいいよサヨ、そいつらの事はこれから『ドリドリ』って呼ぶ事にしようぜ、道に穴を掘って他者に迷惑をかける者ってな感じの意味でよ」


『畏まりました『ドリドリ』が占拠を宣言しているのがここです』


 サヨが空間投影モニターを大量に出して情報を教えてくれる。


 そこに書いてある宙域図や情報を見ていく俺とクレア……。



 んー? なんでこんな所に?



「なぁサヨ、ここってアリアード皇国なのか?」


『はいシマ様、ここは旧公爵派貴族の領地だった恒星系になります、現状は誰も治めて居ないので……領域的には皇国領ですが放置されている場所、と言った所でしょうか』


「生物も居ないし水もほとんど無い、それに価値の高い鉱物類も取れないんじゃそうなるよね、シマ君知ってる? あの内乱後にこういう放置される恒星系も増えちゃって宇宙海賊の根城とかになって皇国の正規軍が困ってるんだってさ」


「まぢかぁ……宇宙海賊は何処にでも湧いて来るなぁ……俺達も手伝って細かい内乱やらを叩き潰して回ったのはいいけど、宙域を治める人も減っちゃったって事かね? 皇帝陛下の取り巻き貴族達も収支が赤字になる様な場所は欲しくないだろうからな」


 移住には適さない赤字な恒星系でも、海賊くらいの少数が暮らせる水資源くらいは普通にあるからなぁ……うーむ、放置されている宙域かぁ……。


「むーん」


 俺は唸り声をあげながら考え込む。


「そんな場所に適応体を集めたと宣言した彼ら……えーと『ドリドリ団』だっけかシマ君? まぁいいや、彼らの思惑が掴めないわよね」


 団を付けると小悪党の集団に思えちゃうから不思議だね、良し採用。


『現状この銀河に散らばっていた小規模な適応体が集結している様ですので……害虫を集めて退治するという意味で、その適応体を誘導する装置は手に入れたいのですよね、誘導して集めてから倒せば食べ応えありそうでワクワクしますし』


 ……サヨにとっては人類の敵も害虫やオヤツ感覚かよ……頼もしい気もするが真剣にやれという気もする。


 それにしてもこの『ドリドリ団』のやり方って……。



「なぁ二人共」


「なーにシマ君」

『どうしましたシマ様?』


「公爵が排除されて悔しい思いをしたその信奉者達が……一番恨んでいるのって誰だと思う?」


 俺はなんとなく答えの判っている質問を、クレアとサヨに聞いてみた。


「シマ君だね」

『シマ様かと』


 だよな……でも一応反論をしてみるか。


「ほら、皇帝陛下とその取り巻き達とか、内乱の主力軍本体である反乱貴族軍を打ち払った皇国の正規軍とかも恨まれてしかるべきじゃないか?」


「そもそも公爵が動いた原因がシマ君だったからねぇ……そしてそれを止めたのもシマ君だし」


『ですね、シマ様が居なければもっと時間をかけて策を練っていたでしょうし……そうなるとシマ様が居なければ将来的に皇帝が代替わりしていた可能性も無くはないかもです?』



「俺が何したってんだよ……まったく迷惑な話だよな」


「『シマ型巡洋艦』とスクィードの戦力に気付いた公爵が動いて」

『その動きに元より気づいていた私が叩き潰した訳です』


「……それだと俺じゃなくてサヨのせいにならんか?」


『私はシマ様の物ですから、二重の意味で……キャッ恥ずかしいっ』


 サヨが自分の頬を両手で押さえ、頭を左右に振って恥ずかしそうな演技をしている。


 ……そういえばサヨは補給艦で俺の持ち物だったっけか……普通に嫁として見ちゃっている俺が居たな……。


「あ! ずるいよサヨさん! それなら私も! 私もシマ君の正妻だから全てを一緒に背負うよ?」


 クレアが俺の横の席から身を乗り出してそう言って来てくれる。

 ほんと良い嫁さんに出会えた物だよ。


 俺は返事の代わりに二人の頭をナデリコしながら、思い付いた事を話していく。


「ありがとうクレア、それでだな、俺に恨みがあるだろう相手がこんな派手に宣伝をしているという事は、適応体が居る無人恒星系に罠があるか、もしくは俺を釣り出したかったという可能性が……いやもうほとんどその二択だろ」


「まぁシマ君の言う通りだろねぇ、囮の可能性の方がちょっと高いかな?」


『両方あるいは複数の事を同時に仕掛けてくる事もあるかもです、取り敢えずシマ様のご家族の護衛を厚くしておきます』


 あー、なるほど、確かに仕掛けてくる事柄が一つとは限らないよな、一石二鳥なんて言葉もあるし。


「まぁドリドリ団が色々と仕掛けて来るとしてだ、まずは俺がここから離れた後に領地に何かする事は有り得るよな?」


「すごい有りそう……せっかく整備した観光惑星を無茶苦茶にするとかやりそうだね、それなら、ここに残す防衛用の艦隊戦力を多めにしておく?」


『シマ様が帰ってきたら発動する何かを仕掛ける可能性等もありますね』


 ドリドリ団としては俺を倒すのが一番なんだろうけど、俺は基本的にサヨの中に引きこもってるからな……それならと嫌がらせをしてくる可能性も高いか……。



「どうせ来るのなら敵を捕まえるなり殲滅するなりしたいよな、だからさ、こんな感じで行こうと思うんだが……」



 俺は思い付いた事をサヨとクレアに話していく。



 ……。



 ……。



 ――



『ではシマ様が皇帝の勅に従って領地から進発したと、皇国の本星に伝えておきますね』


「私の方からも近衛軍経由で軍にそれとなく情報を出しておくね」


「よろしく二人共、じゃぁ戦艦達の準備もして移動しようぜ」



『はい、それらは恙無く』


「艦隊の指揮は本当に私がやっていいの? シマ君が指揮する方が皆の士気が上がると思うんだけど」


「ああ、最初の号令は俺がかけるけど細かい指揮はクレアにお願いするよ、こないだやったシミュレーション艦隊戦ではハンデもらったのにボコられたしさ……俺は後ろから皆を応援する事に注力するさ」



『シマ様の応援があるのなら、指揮は別の方がいいかもですね』


「サヨさんがそう言うなら大丈夫かな? じゃぁ私がやるねシマ君」


「よろしくお願いするよ、クレア」



 さて、やったるか。

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