第37話 人相手の戦いは何度経験しても嫌な物だ

『恒星系外にワープアウト反応多数有り、来ましたね』


 サヨの報告を聞き、空間投影モニターに映し出されている情報を確認する。


「ありゃ? 皇国の正規軍か?」


 現れた艦隊に所属している艦船が正規軍の物に見える。


「皇国軍にはシマ君が領地を離れている間は一切の艦船の接近を禁止するって、すでに伝え済みだよ」


 横の席に座っているクレアがそう進言してくる、まぁそうだよね。


「てことは?」


『所属ビーコンを皇国軍に見せかけていますが……敵と思われます』


「正規軍の戦艦を大量に使うなんて事は権力無いと難しいだろうに……まだ何処ぞの貴族か何かが陛下を裏切ってるのかな? もうそういった奴らはある程度叩き終わったと思ってたんだが……」


『正規軍への艦船を納入しているルートから調べてみますか?』


「よろしくサヨ、まぁ後はあいつらの動きを見ようか」


 相手の出方待ちなので俺は椅子に深く座り直した。


 しかしまぁこの広い戦闘指揮室に三人だけってのは寂しいよなぁ……この戦闘指揮室は今や体育館並みの広さがあるからね。


 かといって今は通信士とか必要な状況じゃないからねぇ……また皇国軍と足並みを揃えて動く時なんかは必要なんだけども。



 俺達三人は空間投影モニターに映る敵と思われる艦隊の動きを確認しつつ、のんびりとお茶を飲む。



 今サヨの補給艦は、この恒星系の第六惑星の周囲を回っている衛星の影に潜んで居る。

 敵の姿は各地に潜ませている、エイシェル型潜宙艦による観測によって確認する予定だ。


 ……。


『敵、恒星系内にショートワープしてきました、皇国軍の戦艦が主体で総数五千を超えます』


「え? 敵の数が多すぎねぇか? 皇国の第一艦隊並みの戦力じゃんかそれ……大国の主力艦隊と同じ数ってとんでもねぇぞ?」



『……ビーコンの情報を解析した結果、偽装をしていますが敵艦の型番が全て同じですね……さきほど調べた時の情報により判明した、正規軍に納入する時に盗まれて消えた艦船と型番が一致しています』


「どういう事?」


 意味が判らなかったのでサヨに聞き返してみた。


「船の型番は全部違うはずなんだよシマ君、しかもサヨさんに掛かれば偽装なんて看破するから意味が無くて、その上で型番が同じなんてのは……『シマ型巡洋艦』の時でもあった失敗だよね、あの時はすぐ気づいてサヨさんが番号を一隻ごとにつけ足してたけど……」


 サヨが答える前にクレアが横から説明してくれたが……。


「つまりどういう事?」


 よく判らんかった。


『一つの船の情報からまったく同じ物を大量に複製した可能性があります』


「ほぉ……つまり、ドリドリ団は戦艦を複製して作る施設を持って居る? って事?」


「シマ君、人が作り上げるなら型番が同じなんて事にはならないと思うの、つまりこれは……」


『旧銀河帝国の遺産により艦船の複製が行われた可能性があります』


 ああ、なるほど、そういう……え? はぁ!?


「え? ちょ? サヨみたいな存在が敵にいるかもって事か!? やばいじゃんかそれ! 今から作戦を変更して全力で叩きにいかないと!」


 サヨなんて今だと材料さえあれば一日で、アエンデ型駆逐艦を一千万隻以上作れるんだぜ?

 となると、ものすごい消耗戦になったら材料をどれだけ抱えてるかで勝負が決まっちゃうよな?


 えーと、えーと、まず敵の艦隊を叩いて、俺の領地は全部サヨに吸収させて材料にしちゃおう、んで人が住んでいない恒星系を食い散らかしつつまずは家族を迎えに、そして――



 俺はパニックになりかけつつも、今後の動きを考える。



『落ち着いて下さいシマ様』

「そうよ、落ち着いてシマ君」


「これが落ち着けるかよ! まず全力であいつらを叩くぞサヨ! それから家族を迎えに行く」


『大丈夫ですから落ち着いて下さい』

「シマ君落ち着いて?」


「だってサヨと同じ様な性能なんだろう? 落ち着いていられるかよ! 呑気に領地整備なんてしてたら負けちまう! えーとまずは――」


 俺がサヨとクレアに対してそう捲し立てた後に、考えを纏めていると、横の席から立ち上がったサヨが俺に近づき、俺の顔を両手で挟み、グイっとサヨの方を見る様に向けられ、そして……。



 ディープなキスをしてきた。



 ちょぉ、何で急に!? 今はこんな事をしている暇は……。


「もごもご! もごもごもご!?」

『……』


 むぉ、ちょ……サヨさん積極的すぎ、いやいやこんなのはこの件が終わった後で……。


「くっ! ……その手があったか、シマ君よく考えて落ち着いて、サヨさんの作り出す船が、いえ貴方の嫁や家族達の船が皇国軍程度の戦艦に負けると思う?」


「もご!? ……もごもごもごもご」

『……』


 クレアに言われた事を考えてみると……確かにそうだな?

 サヨと同じ性能なら何で皇国軍の戦艦を複製したかって話になるもんな。


 ……ってかサヨさんいつまでキスしてくるの?


「いやもうシマ君落ち着いてるでしょー! サヨさんいい加減に止めようよ!」


 いつまでも終わらないディープなキスにクレアの突っ込みが入った。


「プハッ!」

『……ご馳走様です、落ち着きましたか? シマ様』


 やっと俺の口から離れてくれたサヨが、俺の顔を両手で挟んだままの至近距離でそう聞いて来る。



 サヨはいつ見ても美人エルフだよなぁ……。



「ああ、すまなかった、確かに状況を考えたらそこまで慌てる物では無いかもだったな、ありがとうサヨ」


『もう少し詳しい説明をすれば良かったですね、私も悪かったです、では続きを』


「『ムチュー』」



「続きを……じゃないわよ! って何シマ君もキスの続きをしようとしているのよ! やめやめー! そういうのは仕事が終わってから!」


 クレアが俺とサヨの間に飛び込んできながらそう言って来る。


 ふぉ! 確かにそうだった! 危うくいつもみたいにイチャイチャする所だった、危ない危ない。


「コホンッ、えーでは説明を頂けますでしょうかサヨさんクレアさん」


 俺はサヨの方に捻じれていた体の態勢を、椅子に深く座り直しながら整え、そして二人に説明を求めていく。


『はい、敵戦力の偏りと盗まれた艦船の型番を使っている事から、おそらく使われた遺産は取り込んだ物質を複製する物で、私の様に設計図を元に何かを制作する事は出来ないのではないかと思われます』


 なるほど、皇国軍から盗んだ戦艦を取り込んで複製をしたって事か?


「それに皇国軍の戦艦を使って居るって事は運用に搭乗員が必要って事だよね、さっきからあの艦隊の動きが単調で鈍いのは、運用の為の人員が不足しているからだと思うの」


 クレアからの補足もあった、あー確かに、お爺ちゃん司令官が率いていた皇国軍第八艦隊に比べると動きが重いというか……。


 はぁ……俺は情けないなぁ、見ればすぐ判る様な事にも思い至らないんだからな……こんな俺だから世間から英雄なんて呼ばれるのが重荷なんだよな……。



 っと、今は落ち込んでる場合じゃねぇな。



「運用に人の手がいるのか……増援や予備兵力は有ると思うか?」


『遺産がどんな形の物で、そして何処にいるかによりますね、離れた場所に遺産がいるなら防衛用にと、ある程度の兵力を分けていそうですが』


「うーん……兵力の分散をするほど人員に余裕が有る様に見えないのよね、あの五千以上の艦隊は見せかけっぽい気がするし、ちゃんと動けて機動出来る船がどれだけいるのやら……あれは脅しなんじゃないかなぁ?」


 ふむ、元軍人のクレアがそう言うのなら信用しよう。


「つまり数を揃えてこちらを脅す為の運用か?」


『なるほど、私からするとゴミの様な戦力ですが、こちらの戦力を測れていないならそういう事も有り得ますね、さすがクレアさんです』


「サヨさんの力が有り得ないからねぇ……シマ君関連の映画や世間に流した情報もかなり戦力を低めに見積もった欺瞞情報だったけど、それでも周りからは戦力がって見られていたみたいだよ? 実際以上に戦力を高く見せる欺瞞情報だと思われていたみたいで……本当は逆なのにね」


 すでに俺一人で皇国正規軍全てを相手にとっても余裕で勝てるなんて……思えないのかもな……。


 今回みたいな馬鹿な事を仕出かす輩からすると、それだけの戦力があれば世界征服でもするのが当たり前だと思っちゃうのかもしれん。



 俺はそんなの面倒だからしないけどね。



「まぁ大丈夫そうなら相手の情報を調べつつ当初の予定通りにいこうか、観測班もまだ気付かれてないみたいだしな」


『エイシェル型潜宙艦が本気で潜ったら皇国軍でも見つける事は難しいかと』


「あの空間に潜るっての反則だと思わないシマ君? ……ワープ航法の応用と言われれば納得したけど、でも皇国の今の技術だと同じ事をさせるのにエネルギー不足で無理なんだよねぇ……」


 クレアの言う通りエイシェル型潜宙艦の潜伏能力やステルス能力はずば抜けている、だけどその分、機動力なんかは低めらしい。


『敵艦隊は……やはり第四惑星に近づいて来ています、ですが確かに動きがかなり鈍い様ですね』


「対外的にそこが本星って事になってるからな、んじゃまぁ第四惑星に置いて有る防衛艦隊を第四惑星のから遠隔操作で出撃させてくれ」


『畏まりました、戦艦9、巡洋艦27、駆逐艦81、航宙母艦1隻及び戦闘機300機による防衛艦隊を本星と敵の間に展開させます……ブレインユニット達に遠隔操作での出撃命令を出し終わりました』


「こうやって遠くから数だけ見ると圧倒的戦力差に見えるよね、シマ君はあれが正面から戦ったらどっちが勝つと思う?」


「ええ……? んーと……うちの駆逐艦が皇国軍の戦艦よりも、大きさは別として戦闘力は上って話だしなぁ……でも真正面からビームの打ち合いだとさすがにバリアのエネルギー消費が……うちが勝つだろうけど被害が出そうって所かな?」


 さすがに五千隻からの攻撃を食らったらバリアもきついと思うんだよね。


『敵の動きを見るに本星を守らないで良いのなら完勝出来ます、星を守りつつだと数的に難しいですね、味方に被害なく勝つ事は可能でしょうが、星は守り切れずに地表に被害が出てしまうかもしれません』


「そんな所だよねー、シマ君はもっと自分の家族の戦力を把握するべきだと思う」


 そうなの? 敵の動きが鈍いから動き回って戦うのなら勝てそうなのは判るけど……守りを放棄すれば真正面から戦っていけちゃうのかよ……うちの子達ってば強すぎだな……。


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