第38話 ドリドリ団は〇〇〇泥棒だった!
「それでお前らは何処の所属なんだ?」
「我らは皇国軍第3艦隊になります、英雄殿が領地を離れている間に防衛の補佐をするよう命令されております」
俺の領地に無断進入してきた相手と銀河ネットを使い、空間投影モニター越しの会話を始めた訳だが……。
お前らみたいな無礼な行動をとる正規軍が居るかよアホが……。
「そういう冗談はいらねーよ、音声だけで姿も見せないなんて下士官同士の通話じゃあるまいし、公爵の信奉者のドリドリ団は皆ハゲていて姿も見せられない集団か?」
軽く煽りを入れてみるも相手は余裕のある感じで答えてくる。
怒ってモニターに姿を見せて来る様な事はしてこなかった……くそ……怒らなかったって事はハゲでは無いのか。
「ドリ? ……まぁいい、初めましてだ英雄ククツ、俺は『道を正す者』所属の……まぁいいや、とっとと降伏しろよ、ここに居ないお前にはどうにもならんだろ?」
音声のみで会話をしていると、空間投影モニターにサヨからのメッセージが映し出される。
【外部との暗号による通信データを解析しています、もうしばらくお待ちを】
む? あいつらセキュリティばっちりなはずの銀河ネットを使っているだろうに、態々暗号化までしているのか、サヨの諜報能力が銀河ネット頼みなのを感づかれているのかも?
そもそも銀河ネットへの通信を傍受するって普通なら不可能なんだよね。
空間を飛び越えて繋がるとかなんとかでさ。
サヨの遺産の格が高いとかで、銀河ネットへの上位パスを持っている事に気付かれたかねぇ?
「降伏? 意味が判らんのだけど?」
「へ! 声が震えてるぜ英雄さんよぉ、こちらは五千以上の最新鋭戦艦で、そっちの防衛艦隊はたった百隻そこそこ、まともにやれば全滅だぜ? 降伏すれば本星なんかに居る人員の命を保障してやる、だが断れば星ごと爆散させるぞ? ほらどうした、答えろよ英雄さんよぉ?」
うーむ、お互いに音声だけなのだが、清々しい程のクズ野郎だなぁこいつ。
さてはて、サヨの方はまだ時間はかかりそうだし、どうするかなーっと……。
……うーん……よしっ!
「こちらからの光学観測で見た所、皇国軍最新鋭戦艦の様だが……五千隻なんてありえない、皇国の正規軍への配備数だってそこまでの数はいねーんだよばー--か! どうせなんらかの手段でごまかしてるんだろ? 張りぼてに偽装映像でも被せてるのか?」
勿論俺達は相手の艦が全て本物である事は理解している。
敵の中央付近に複製された物じゃない形の違う船が何隻か有るのも確認しているし。
それらを様々な角度から観測解析している所なのよね。
なので会話による時間稼ぎが必要だからと、俺は間抜けを演じているって訳。
「ククっ、負けそうな奴は有りもしない奇跡を望むって奴だな、これが皇国の英雄だってんだからお笑いだ、おいっ照準外してから一発だけ撃ってやれ」
「……」
「……」
「……?」
「……はやくしろっ!」
男の命令らしき物が聞こえてからしばらく……いや、結構待ってから敵の艦隊から一発だけ何も無い部分へと攻撃が発せられた。
数千隻の戦艦から撃たれたそれは、まさにシャワーのごとしで見ごたえのある物だった。
だがしかし、射撃命令から実際に撃つまでに三分以上かかっていた……。
カップメンでも食べ始めてやれば煽りになっただろうか?
うん、一応サヨに用意をさせておこう。
さて演技の続きをしないと。
「ば……馬鹿な……砲塔だけ本物? いや、しかし……五千隻の最新鋭の戦艦を揃えるなぞ不可能だろ……」
うむ、中々の演技だと思うんだけど、どう? と声に出さずに隣のクレアに首を傾げて聞いてみる。
クレアは俺に向けてグッドマークを見せてくれて、その時にピョコピョコ動いている狐耳がすごく可愛い。
「これで判っただろう英雄さんよぉ、俺の艦隊は全部本物だって事だよ! ククク、アハハッハハハハハハ」
へー『俺の』ねぇ……その言い方ってさぁ……お前自身が指揮をしているというよりも……まるで、自分が艦隊を用意したって言っている様に聞こえるよなぁ?
「俺は騙されないぞドリドリ団! そもそも艦船を制作する工場の生産速度的にそんな数を用意出来る訳が無いじゃないか!」
「ドリ? さっきから何を……いやいいか、ヘッ! 物を生産するって能力は、お前の遺産だけの力じゃねーって事だよ!」
おー釣れた釣れた、こいつが遺産持ちで確定かな?
サヨとクレアが拍手をする身振りで俺の誘導を褒めてくれた。
褒めてくれてありがとう、俺も手を胸にあてて頭を下げる身振りで感謝の意を二人に伝える。
さて、では可能な限り情報を引き出す為に、ギリギリまで会話で攻めるか。
「馬鹿な! そんなすごい遺産があれば俺の同僚になっていたはずだ……だがそんな能力の高い遺産の話は聞いた事がないぞ!?」
困惑中っぽく見せかけたセリフに、ちょっと相手を褒めるワードを入れるのがポイントです。
「クククッ、そりゃそうだろ、俺は何処ぞの英雄さんみたいに馬鹿じゃないからよぉ、自身の遺産の能力を低く見せかけてたんだよ、民生用の生活物資を複製する能力ってなぁ!」
へー、そんな遺産が?
っとサヨが皇国のデータベースを出してくれた。
うーんと……ああ、これか。
えーと、遺産に取り込んだ生活用物資を材料がある限り複製生産できる遺産。
だけどもその遺産を稼働させると、国家の生産力や経済を弱体化させる事に繋がるので、緊急時や災害時以外では使われずに、皇帝陛下直属の特級遊撃部隊の予備役として監視も緩めな状態だったってか。
生活用物資か……そりゃぁ歯ブラシや石鹸が複製できても軍事的な脅威には見られないよね……まぁ能力を隠す意味が判らんけども……。
……中二病か?
っと空間投影モニターにサヨからのメッセージが映し出された。
【銀河ネットでの通信の解析その他諸々完了しました、遺産持ちは敵艦隊の中央に居る様です、連絡をとっていた外部の仲間の位置情報は皇国軍に流しておきます、その後の双方の動き方で皇国軍内の敵側への情報の流出経路の炙り出しも進めます、もう後は好きにやっちゃっていいですよシマ様】
お、サヨの仕事が終わったみたいだ、それならそろそろ終わりにするか。
「戦艦を複製出来る遺産能力か……それはつまり降伏した俺の艦隊を複製しようとしているって事だよな?」
「……へぇ……さすが俺より雑魚でも英雄と呼ばれるだけはあるな、まぁそうなるな、お前の船は俺が新しく作ってから有効に使ってやるよ!」
……俺が雑魚いのは否定しないけどな。
さて、俺の家族であるブレインユニット達からすると、自身の操る機体は鎧であり剣であり、そしてパンツでもある!
つまり? ドリドリ団は俺の家族のパンツを狙う下着泥棒って事だよなぁ!
許せねぇ……まじで許せないなこいつは! ……殲滅決定だ。
俺は横のクレアに作戦行動開始の合図を送りながら、ドリドリ団の遺産持ち男に答える。
「それならば降伏は有り得ない、戦闘を受けてたってやるよ! このドリドリ下着泥棒団が!」
「ドリ? 下着? ……何訳判んねぇ事言ってんだよ! へっ! 残骸からでも繋ぎ合わせて一隻作れれば後はいくらでも複製出来るんだよこっちは! よし攻撃開始だ! 後ろの星ごとばらばらにしちまえ!」
相手が攻撃を宣言してきた、ので、俺はカップメンを準備し始める。
「あ、それなら俺はカップメンを食べるんで、また後程」
ジョボジョボジョボ、お湯をカップメンに入れる音も向こうに流す。
「は? カップメン? おい英雄てめぇ! ふざけんなよ!」
ドリドリ下着泥棒男は大声をあげてこちらを非難してくるが、仕方ないじゃんか。
「だってお前の艦隊がノロノロと遅すぎて、戦闘位置につくまで時間かかりそうなんだもん」
実際人員不足なんだろうねぇ、ノロノロノロと崩れた鶴翼の陣形? っぽいものを形作ろうとしているんだけど、遅い遅い。
「てっ! てめぇ……絶対許さねぇからなぁ! そこの星も他も何もかも人の居そうな場所は全て徹底的に破壊してやるから覚えておけ!」
はいはい、人の居そうな場所ねぇ? そんな所があるといいね?
……おっとカップメンが出来上がった、相手の罵詈雑言らしき音声が煩いので、少し音声を小さめにして貰い俺はカップメンを食べ始める。
ズルズルズルッ、俺が麺を啜る音もしっかりと相手に流して貰っている。
おっとやっと始まったみたいだ、ドリドリ団の艦隊がこちらの防衛艦隊に向けて砲撃を始めた。
残念ながら俺はカップメンを食べて居る途中なので、こちらの防衛艦隊に攻撃指示が出せない。
困った困った。
今は戦艦が先頭になってシールドを展開し、敵の砲撃にじっと耐えているのみだ。
ズルズルズルッズズー。
……。
ズルズルズルっゴクゴクゴクゴクッと。
「はー美味かった、さてと……ククツシマイが命じる! 戦闘を開始せよ! そして指揮を委譲する!」
そう号令を出した俺はクレアに指揮を委譲した。
おっと相手の声を元の大きさに戻すのを忘れていたな、もう時間稼ぎはいらんだろうし。
遺産男も良い感じに熱くなって視野が狭くなっているみたいだしな。
音声戻してっと。
「ざっけんなよこら! 聞いてるのか英雄! ってやっとやる気になりやがったか」
ドリドリ団の声は取り敢えず無視をする、下着泥棒と真面目な会話とかしたくないよね?
すでにこちらの攻撃も開始され相手の戦艦に被害を与えている。
といっても、うちのカスケード型戦艦がフルパワーでシールドを張って味方を守っているので、攻撃はそれ以外のビリアル型巡洋艦やアエンデ型駆逐艦の仕事だ。
残念ながらスクィード戦闘機達の出番は無さそうだなぁ、相手に細かい戦闘機が居ないっぽいからね……仕方ないね。
スクィードパイロットのヒスイとかすげー張り切ってたからな……後で出番の無かった子達を慰めておかないとな。
一応戦闘機には対艦装備もあるけど……この足を止めた艦隊同士の砲撃戦の状況でスクィードを投入してもあんまり意味ないしな。
さて、味方の小艦隊をクレアが指揮をしているので、着実に敵にダメージが入っている。
こちらの小破以上の損害はゼロ、まぁ第四惑星に敵の砲撃がかなり着弾しているけど……それは無視だ。
「クソクソクソ! なんだその性能は! これだけの飽和攻撃でシールド限界に至らないってどういう事だよ! 皇国の艦よりそこそこ性能が良いって話は嘘だったのかよ!」
敵の嘆きには一切答えずに、成り行きを見ている俺。
「くそ……仕方ねぇ……へへっ! 勝ったと思うなよ英雄! こちとら隠し玉があるんだよ! お前らが銀河ネット経由で艦船を遠隔操作してるって話は知ってんだ! じゃぁな英雄、俺の勝ちだ! 始めろ!」
……。
……。
戦況は何も変わらずに、こちらが少しづつ相手を削っている。
うーんさすがクレア、俺には理解出来ない細かい指示の通りに味方防衛艦隊が動くと、明らかに相手の損害が増えている。
なんでちょこっと動かしただけでキルレートが変わるのかねぇ……理解出来ん。
「くそ! この防衛艦隊は遠隔操作じゃないのか! もっと攻撃を集中させろ!」
ドリドリ団の焦った声だけが響く、俺が聞いてるとは思ってないのかね? 隠し玉ってのはやっぱり?
俺はサヨの方を向くと、また空間投影モニターに文字を映して伝えてくる。
【銀河ネットジャマーを敵艦隊中央部にて使用されました、が、私がこの恒星系内に居るので戦艦の遠隔操作にまったく問題はありません、相手の銀河ネットへ繋げていた回線もローカル処理で繋げているので音声通話は未だ有効です、まだそれに相手は気づいて居ない様ですが……、それとシマ様のご家族や派遣している部隊との連絡が一時的にとれませんので、そこだけが懸念点となります、第4惑星から第6惑星まで離れているのにその状態という事は……この銀河ネットジャマーは新型の様で効果範囲が広くなっています】
なるほどなぁ……まぁ今は早めに終わらせるか。
俺はクレアの方を向いて頷くと、彼女はコクコクッと頷いて今まで小声でやっていた指揮を普通に戻した。
「予定通り短距離ワープからの包囲半円陣形を組め! 一隻たりとて逃がすな! 第5、第6部隊は敵の退路を遮断」
クレアの綺麗な声が戦闘指揮室に響く、それと共にさきほどクレアに合図をしてサヨから進発させていた戦艦群が第四惑星周囲へと到着。
ドリドリ団五千隻の艦隊に対して、こちらの艦隊は約50万隻を動員している。
サヨの補給艦の護衛に超弩級要塞とか諸々が残っているから、全力出撃では無いんだけどね。
追加の航宙母艦も出さなかったし。
「なんだこの声は! まさかまだ銀河ネットに繋がっている!? ジャマーはどうした! いや、なんだと? 敵の援軍が? は? 10万隻を超えるだと!? そんな……馬鹿な……」
音声通話が残っている事にやっと気づいたドリドリ団、だが焦っているのか支離滅裂な怒号が溢れてきていて、これはもう会話は無理かねぇ。
「全鑑全力一斉射撃、うちーかたー始めー!」
クレアの号令の元、包囲半円陣形からドリドリ団の艦隊に向けて一斉射撃が始まった。
それはさきほど見たドリドリ団の一斉射撃と比べるべくもない精度で、あいつらを花火へと変えていく。
俺はそれをただ見ている。
「おい英雄! 聞いているんだろ!? なぜ銀河ネットジャマーが効かないのか知らんが俺は降伏する! 俺がお前の元で遺産を使ってやるから助けてくれ! それにこのジャマーは最新型って話だ、これも無傷で渡すからよ!」
ドリドリ団からの音声が流れて来る、クレアが俺の事をチラっと見て来たので、俺はドリドリ団との音声会話の回線を切ってみせた。
それを見ていたクレアは自分の空間投影モニターに向き直り、指揮を再開させる。
ドリドリ艦隊は次々と爆散していき中央部まで食い破られ、逃げようとする艦も容赦なく倒して行く。
『銀河ネットジャマーの効果が切れました、破壊したのでしょう』
「そうか」
俺はサヨの報告に一言だけ返して椅子に深く座り直し、モニターに映る花火をジッと見つめる。
あそこには戦艦を運用する人が乗っているのだと理解をしながら……。
そして。
催眠だか暗示なのか、あの狼獣人と同じ様に直情的になってしまうのでも、性根が違うとこうまで変わるんだな、と。
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