第39話 人の優しさが心に染みる事もある。
【お飲み物を、お持ちしましたククツ様】
「ありがとうサクラ」
樹人であるサクラがメイド服を着て飲み物を運んで来てくれた。
ここはいつもの別荘惑星の浜辺だ。
ビーチチェアに座ったままでサクラからジュースを受け取った俺は、グラスに入った大量の氷をかき分ける様に刺さっているストローに軽く口をつけると、少し飲んでから横にあるテーブルに置いた。
「はぁ……」
長めの溜息を吐いて目を瞑る俺……ドリドリ団との戦闘が終わって二日たっているが……予想以上に精神的に疲れている様だ。
……内乱の時にだって正規軍を離反した奴等を乗員諸共爆散させたのになぁ……あの時は報告だけだったが、リアルタイムでその映像を見ながらというのは結構くるもんだな……。
とはいえ生け捕りにする意味も価値も無いしな……。
「お疲れですねご主人様、肩でもお揉みしましょうか?」
背中に真っ白な羽を持ち、金髪碧眼で天使みたいな見た目である有翼人で、俺のメイド長でもあるエンゼさんがそう言って俺に声をかけてくる。
サクラだけでなく何人かの……いや何百人かのブレインユニットを巻き込んで結成された、メイド部隊の長をして貰っているのが彼女だ。
浜辺はそこそこ暑いのに今日もきっちりメイド服だ、サクラ共々優勝です。
「頼むよエンゼ」
目を開けながらそう言った俺は椅子に深く座り、肩をビーチチェアの背もたれより上の位置に持ってくる。
エンゼは俺の後ろに来ると肩を優しく揉んで来てくれる、あー癒される……。
【エンゼさん羨ましいです! ……そうだ! どうぞククツ様!】
サクラがエンゼを羨ましがり、何かを思いつくとテーブルにあった飲み物を両手で持つとストローが俺の口に来る位置まで運んでくれる。
せっかくのサクラの好意なので俺はそのままストローに口をつけてジュースを飲み、エンゼには肩を揉まれる。
『これは、王様プレイか何かでしょうか?』
サヨが俺の側へと歩み寄りながらそんな事を言ってきた。
ちなみに今は俺もサヨも普通の洋服だ、夏の終わりか春先といったイメージで、この浜辺の気温も水着で遊んでいた時より数度下げている。
俺はストローから口を離し。
「掃除お疲れサヨ、これはサクラとエンゼが疲れている俺に対して好意でしてくれた事だよ、それに王様プレイというのならもっと派手にやるわい」
掃除というのは例のドリドリ団達の残骸回収の事で、それが終わったら適応体の討伐に向かう事になって居る。
『確かに……メイド部隊が結成された時に、あまりの嬉しさにメイドだらけの大運動会を開くくらいのシマ様ですし、王様プレイをするなら王城から作り始めますよね、失礼しました』
「やめて! あれはちょっとテンション上がっちゃっただけだから……後で我に返ってちょっぴり恥ずかしかったから……」
さすがにちょっとやり過ぎたかなと思ったよあれは……。
【あれは楽しかったですよねククツ様、私は大玉転がしが好きです!】
サクラは髪の毛であるツル毛に花を咲かせながら嬉しそうに語って来る。
日本の古い漫画やアニメを参考にした競技を色々とやったんだよね。
「騎馬戦と棒倒しは怪我人続出でしたけど……ご主人様が成績優秀者へのシマポイントを大盤振る舞いしたせいかと思います」
ああうん、あれはちょっと反省している。
何処の世紀末格闘漫画だよと言わんばかりの光景になったからな……なんで皆必殺技とか出せちゃうの? 意味判んないよ。
まぁ話を戻そう。
「サヨが来たって事は、例の恒星系へと移動を開始したんだな?」
『はいシマ様、掃除も終わり艦隊も全て収納して移動を開始しております、クレアさんは現地到着後の戦闘部隊の編制や行動作戦会議をブレインユニット達としております』
軍事の事はよく判んねぇからな、クレアには本当に世話になる、有難い話だよ……。
俺とサヨが仕事の話を始めると、エンゼは肩もみを終わらせてこちらに一礼してからサクラを促して離れて行った。
うーんさすがメイド長だ、主人の仕事の邪魔はしないってか……後で褒めておこう。
「それでサヨのおやつはどうした? 回収したのか?」
『いえ、恒星系内の重力バランスの為に置いていく事にしました、シマ様が手入れをした第三、第四、第五惑星はこのまま私の中に確保して持っていきます』
そう。
実はドリドリ団みたいな敵をおびき寄せる事にしたので大事な観光惑星は、サヨが未だに資源へと変換せずに内部に抱えていた、おやつである惑星と交換していたんだ。
つまり、あのドリドリ下着泥棒男は、人どころか人工物が何もない惑星を必死に攻撃していたという訳だ……。
まぁまだうちの領地がお客を受け入れていなくて、対外向けの情報を絞っていたから出来た事なんだけどね。
「せっかくのおやつが少し欠けてしまって悪かったなサヨ」
『多少砲撃で焦げたくらいですし、それもまた香ばしさが増して良しですよ、シマ様』
そういう物なのか? 俺には惑星や恒星やブラックホールの味は一生理解出来んのだろうなぁ……。
「それで、結構移動に時間がかかるんだよな?」
『はい、シマ様をご領地の星から離れさせる為ですので皇国の領域内でもかなり遠い場所に成りますね、あからさまな端っこじゃないあたりに、罠に気付かれない様にとの嫌らしさを感じます、近くに有人恒星系もそこそこ有りますし』
「集まった適応体が放たれたら近場の有人恒星系が危ないかもってか、別に俺は正義の味方って訳でも無いんだがな……俺が絶対に助けにいくとでも勘違いしてそうだよなドリドリ団の奴等……、取り敢えず、移動先に何か罠があるかもだよな……それか移動中の罠か……どっちにしろ面倒な話だな」
『先の戦闘中に外部としていた通信で得た情報と残骸から得た情報によると、適応体を誘きよせる装置と共に銀河ネットジャマーも設置されている様です、それ以上にまだ何かあるかは判りませんけれど』
「効果範囲の広がった新型のジャマーか……あの公爵は優秀な技術者達からは人気があったみたいなんだよな」
『人には様々な面があります……攻めが好きなシマ様も居れば、受けが好きなシマ様も居る様に、人は両面性を備えていますから』
「そんな例え方をしなくても良くない?」
『元公爵には民を愚民と見る面もあれば、優秀な者を認めて保護する面もあったのでしょう……シマ様がゴミを見る目で見られたり、変態を見る目で見られたりするのと同じですね』
「どっちの面も酷いんだが?」
『でも私はそんなシマ様が大好きです』
「良い話で終われば許されると思ってないか? サヨさんよぉ」
『……』
「……」
『……シマ様』
「……なんだサヨ」
『実は人相手の戦闘で落ち込んでいるシマ様を元気づける為に……』
「……為に?」
『サプライズパーティの準備が別荘で行われています』
「それを今俺に言っちゃっていいのか?」
『ちなみにドレスコードはメイド服になっております』
「よーし! 皆の好意を無駄にしちゃいけないな! 知らないふりをしながら沢山感謝をしよう、それで、もう行けるのか? まだ待つべきか?」
『後はシマ様の準備が済めばいけますね』
「そうか、俺の気持ちの準備はいつでもおっけーだ! さぁ行こうサヨ!」
『はい、ではあちらの簡易小屋にすでに準備が出来ておりますので、お着換えをお願いします』
「ん? 着替え? あーメイド服パーティなら俺も執事服とかになるのか、判った案内してくれ」
『……? シマ様用の特注のメイド服はすでに準備をしてあります』
「おーけい、ちょっと待とうかサヨさん」
『どうしましたシマ様?』
「どうしたじゃねーよ! 俺がメイド服っておかしーだろ! サヨさんさぁ……励ますんならちゃんとやってくれよぉ……」
『今回のこの企画はサクラさんの提案になります、彼女曰く【元気のないククツ様はこのお洋服がお好きな様なのできっと喜んでくれるはず】だそうです』
「おうふ……」
サクラの企画だったのか……サクラはまだ人の世界に慣れてないからな、男性用や女性用の服っていう概念が無いのかもしれん……いやしかし……。
「なぁサヨ」
『はいシマ様』
「お前がそれとなく、サクラがメイド服パーティを提案する様に誘導したりとかは……していないよな?」
『……そこの小屋にはすでにダークエルフ美容師四姉妹が来ていて、化粧品も完璧に揃えて準備万端のはずです』
「おいこら、話をそらすな」
『サクラさんはニコニコ笑顔で【ククツ様が元気に笑って下さるのが楽しみです】とおっしゃってました、健気な婚約者だと思います、成木になるのが楽しみですね?』
「ぐぉぉぉ……お前絶対に後で罰ゲームだからな!? くそ! サクラの為にも一世一代の俺のメイド服姿を見せてやろうじゃないか!」
『では私は罰ゲームとして男性用の執事服を着ていきますね、ワー罰ゲームツライですー』
「まって……それずるっこくないかサヨ……美人なお前が執事になった所で普通に可愛いだけじゃんか……」
『……』
いや普通に恥ずかしがるなよ……美人や可愛いとかなんていつも言ってる事だ……あれ? あんまりサヨに対しては言った事なかったっけか?
「まぁ行くか……」
『お供しますシマ様』
……。
……。
――
――
美容師なダークエルフ四姉妹のせいか、俺のメイド姿はすごかった……。
何がすごいって、後で見せてもらった自分の画像にちょこっとキュンッっとしちゃったんだよ。
……女性がしている化粧ってすごいんだなぁと心底思った。
え? ドリドリ団との戦いで負った精神的な傷?
……適応体の居る恒星系に着くまですっかり忘れちゃってたな!
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