第40話 効率が悪い事にも意味があったりするらしい
眼前の空間投影モニターには一つの恒星の光が見えている。
それをいつもの補給艦の戦闘指揮室で眺めている俺。
いつもならこの体育館のごとく広くなった戦闘指揮室は、俺とサヨとクレアの三人で運用しているのだが。
今は前方下段にある通信士用の席は満席、それ以外にも補助席も一杯出して人が座っている。
近衛からの側付きの子やサヨ姉妹、それにサクラやエンゼなんかが中心だ。
なんでも、これから始まるであろう適応体相手の一大決戦を見学する為らしい……。
ここは昔の日本には一杯あったという映画館か何かかな?
家でも映画は見れるけど映画館で見ると迫力が違うと……爺ちゃんは言っていたっけか。
今は銀河ネットに潜れば電子映画館の大きなモニターで、他に観客が居ない状況で見れちゃうんだけどね。
彼女らも何処からでも空間投影モニターで確認出来ちゃうはずなんだけど、俺やサヨや指揮をするクレアが生で見る事の出来るここが良いらしい?
……まぁいいか、俺は艦長席からそのザワザワとした楽し気にポップコーンや飲み物を用意している彼女らを微笑ましく見つめながら、左右にいるサヨとクレアと会話をしていく。
「何だか女王級適応体と戦った時を思い出すな」
『あの時よりは敵の数が少なそうですが……無人の恒星系に適応体が溢れる程存在している、という意味ではそうかもしれませんね』
「あの時は皇女として後方に観戦武官として残らされたからなぁ……」
そういやあの時はクレアはまだ俺の嫁じゃなかったっけか。
「今回の作戦はクレア達が決めたんだけどさ……あの時みたいに超弩級要塞を一個潰して恒星系ごと消滅させちゃうのもありじゃね?」
『だめですよシマ様!』
「そうだよシマ君! それは駄目だって」
嫁の二人が揃って否定の言葉を言って来る。
「お、おう……ちなみに何で駄目なのか聞いても?」
『せっかくの獲物を消滅させるとか有り得ません』
「シマ君忘れたの? 適応体の体は貴重物資の塊だよ? こんなに沢山稼げる機会なんて中々無いんだからね!?」
なるほど。
そういやそうだった、なんかこう……適応体の残骸を吸収した時のサヨの食レポのせいで、食料品として見てたかもしれん。
「てことは今回の一大決戦は……」
『豊漁が約束された漁場での漁業……つまり……稼ぎ時です!』
「観光惑星や要塞都市の建設やらでもレア物資をそこそこ使うからね、一杯補充しとかないと!」
あ、はい……女王という害獣がいなければ漁も楽って事かね……。
……女子って戦闘内容の浪漫より利益や不利益の数字を見る傾向があるよね……現実的というか何というか……。
おかしいな、適応体があれだけ纏まった場合でいえば、皇国が滅亡も有り得るレベルな相手との戦闘なんだけどなぁ……。
まぁ、だからこそ皇帝陛下も俺に討伐の勅を出した訳だし、ドリドリ団も俺が動かざるを得ないと確信したのだろうけど……。
俺はチラッとサヨとクレアの表情を確認した。
そこに居たのは、これから戦闘をするというよりは、お気に入りのお店に買い物にいく女子といった感じの二人だった。
「まぁ始めるか、説明よろしく」
今回はサヨとクレアにまかせちゃったからね、俺は説明を聞いた後に開始の宣言をするだけで終わりだ。
『はいシマ様、まずは私から、皇国の斥候の情報や現在行われている観測から、適応体の総数は億を超える物と予想されます』
おいおい……億ってお前……色々と突っ込みたいが取り敢えずサヨの説明が終わるまで発言はしないで待つか。
『とはいえ、その大半が現地で増えたであろうクリオネ型かイワシやアジ型の適応体ですので問題はありません、しかも適応体は恒星系内の各地に散らばっているので、一度に相手をする数はそれほど多くは無いでしょう』
なるほど、細かいのが一杯いるのか、クリオネ型が相手なら、うちのスクィード戦闘機部隊が500万機を超えるし……各個撃破していけば問題無いかな?
『適応体の中にはサメ型やクジラ型もそれなりに確認しておりますので、そこだけは注意が必要と思われます、では細かい作戦についてはクレアさんからに成ります』
クジラ型いるのかよ……あれってめっちゃデカいんだよなぁ……。
うちのカスケード型戦艦が全長3キロメートルくらいで、適応体のサメ型を相手取るのを想定しているんだけど、クジラ型の適応体はそれを遥かに超える大きさでさあ、個体にもよるんだけど大きいのだとサメ型の数十倍くらいの大きさがあるんだよね。
そこで出て来るのがうちのガイア型の大型弩級戦艦なんだよ、あんなでかくて資源を馬鹿食いするのが本当に必要なのかと最初は思ったけど、作っておいて良かったね。
「では続きは私が」
そう言ったクレアは、さきほどのお買い物に出かける表情から出会った頃の様なクールビューティな真剣な表情へと変化していた。
さすがに仕事は真面目にやってくれるのね。
通信士席の側付きの子らがクレアの事を、憧れるアイドルを見る様な目で見ている。
この状態のクレアはカッコイイもんなぁ……憧れるのはすごい判る!
「こちらの編制ですが、先日見せた防衛部隊が上手く機能していたのであれを参考にします」
防衛部隊ってのはドリドリ団との戦いの奴かな。
「戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦9で分隊を組ませ、分隊を9個束ねた戦艦9、巡洋艦27、駆逐艦81に航宙母艦1隻及び戦闘機300機を加えた物を小隊とし、この小隊を作戦行動の最小単位とします」
ふむふむと、クレアの説明に頷いてみせる。
「この小隊を一万部隊ほど編制しました、これを遊撃部隊として運用します」
約400万以上のブレインユニット達を遊撃部隊として使うのね。
「そして本隊は勿論サヨさんを中心とする部隊で、シマ君が持つ総戦力の約半分をサヨさんを中心として展開し、恒星系の中央に向かってゆっくりと進軍させていく予定です」
俺はそこで手を上げた。
「はいシマ君、どうしました?」
「その戦力に要塞達は加味されていますか?」
「いえ、要塞は足が遅いのでサヨさんの中に保持しておきます、進軍中でもいざという時に出す事は有り得るので臨戦態勢は取らせておきますけど……具体的にはいつでも遠隔操作できるようにブレインユニット達に自室待機を命じます」
まぁぶっちゃけ遊んでいても飯を食っていてもスポーツをしていても遠隔操作は出来るらしいけども……一応真面目にやるって事だな、ベッドで寝転んで集中して操作した方が効率が十数%違うらしいし。
俺は理解した事を示すために、クレアに向かって頷いて見せた。
「ではえーと、本体を前衛として恒星系内を進み、それを囲む様に遊撃部隊を4つに分けて進軍していきます、その4つの遊撃部隊にはガイア型の大型弩級戦艦を5隻ずつ配備をして遊撃時の旗艦とさせます、そして適応体の反応を見ながら適宜指示を出していく予定です、何か質問はありますか?」
「はい! クレア先生、ずいぶん細かい編成や動きになりそうだけども、その理由を聞いてもいいでしょうか?」
「先生? ……えーと、はい、それはね勿論……」
「……勿論?」
クレアが俺の質問に対する答えを、すぐには言わずに少しためている。
「適応体から取れる貴重物資を増やす為です!」
どかーんと、クールビューティで真面目な表情のクレアがそんな事を言ってきた……。
『シマ様、日本の伝統芸能であるカツオの一本釣りは、魚体を綺麗なまま釣り上げる事で価値を出すという素晴らしい物です』
「そうだよシマ君! サヨさんにそれを聞いた時に私は自身に雷が落ちた気分だったよ! 漁業効率を落としても、それに見合った利益を増やすやり方が有る! ああ……なんて素晴らしい! そんな訳で今回の戦闘では、なるべく無駄が出ないように細かく対応できる部隊分けをしてみました、予想では獲得できる貴重な物資が2割は増えると思うんだよね……うふふ、うふふふふふふふふふふふふ」
いつもならニコニコと笑うクレアはすごく可愛いんだけども……。
その時の笑いはちょっとこう……なんていうか……えーと……少し引いた。
そしてやっぱりクレアとサヨの二人は、この戦いを戦闘じゃなく漁業か何かなんだと思って居るんだなぁと、思った俺であった。
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