第41話 俺の存在が教育に悪いんじゃないかと思う今日この頃だ

「そのクリオネ型適応体の集団には第一遊撃部隊を当てる! 陣形は簗やなの陣で行くわ! 適応体を追い込んで確実に急所に攻撃を当てて収穫量を増やせ! 本隊は進軍速度を50%に落としてこのまま直進、第三遊撃部隊はさきほどのクジラ型適応体に対応、さらに――」



 ……。



 ……。



 適応体のいる恒星系に進入してしばし、敵との散発的な遭遇により戦闘が開始された。


 俺は指揮権を委譲しているので、クレアの様子を見たり味方の部隊をチャットや音声で応援をするくらいしかやる事はない。


 今は戦闘指揮室の艦長席である俺の少し前にお立ち台の様な物が有り、そこに立ったクレアが周囲150度くらいに展開している大量の空間投影モニターを確認しながら、適宜指示を出している所だ。


 その様子はさながらオーケストラの指揮者の様で、まるで流れるかの様な味方部隊の動きは芸術的ですらある。


 ……正妻戦争の映像の時も思ったけど……クレアって艦隊指揮の才能あるよなぁ……。



 最初に会った時は氷の様な眼差しで、仕事の出来そうな女性将校って感じだったけど。

 結婚してからはずっと俺の側にいてラブラブチュッチュしてるから、そういう部分を忘れちゃってたよ。


 この銀河を統べるアリアード皇国の頂点である、皇帝陛下直属の近衛兵で指揮官クラスなんだから……そりゃぁ優秀なはずなんだよなぁ……。


 とてもじゃないけど、一昨日俺に狐獣人特有のフサフサ尻尾の手入れをされながら、ニコニコ笑顔で鼻歌を歌ってた女性と同一人物とは思えん……。


 ふと、俺の座っている艦長席に誰かが近付いてきた気配がする。

 足音がズリズリと何かを引きずる様な音なのでたぶん……。


【クレア様カッコイイですね……さすがククツ様の横に立つ御方です】


 やはりサクラだった、今日もメイド服を着ているサクラは、花を咲かせているツル毛にホワイトブリムが似合っているね。



 サクラに言われた事を少し考える……。



「俺の横……ね」


【どうしました? 大丈夫ですかククツ様?】


 サクラが心配げに俺の顔を覗き込んで来る、サクラは人の言葉も理解しているが精神感応能力で相手の想いを感じるらしいからな……。


 俺の引け目をその能力で感じてしまったんだろう。


 あの優秀なクレアが……なんの才能も無い俺の嫁になってくれて本当にいいのか?

 そのうち後悔をさせてしまう事にならないか?



 という想いをね。



【そんな事ないです!!】


 サクラが椅子に座っている俺の手を取り体を横から乗り出して大声を……出せないから口をパクパクとさせて空間投影モニターに大きな文字を表示させてきた。


 横から俺の手を取るサクラの、薄緑色の肌は柔らかくて暖かさを感じた。


「えっと……何がそんな事ないのだろうか?」


【クレア様がククツ様の嫁になった事を後悔しているはずがありません! もっと自信を持って下さいククツ様!】



「そうだといいんだけどな……ってあれ? 俺は口に出して言っていたか?」


【あ! ……ごめんなさい精神感応が強く成っていたようです……ククツ様に近づくと、つい愛しさのあまり……ってそんな事は横に置いておきましょう! クレア様の事です!】


 えーとそれって……俺の近くに居る時のサクラは俺の心を覗いているって事じゃね?


 横に置いておかないで、きっちり詳しく話し合うべき事じゃね?


【クレア様はククツ様の事が大好きなはずです、それともククツ様はクレア様の事がお嫌いなのですか?】


「そんな訳ないだろう!? クレアの事は好きに決まっている!!!」



【どれくらい? どんな所がお好きなんですか?】


「どんな? そりゃぁ……まずクレアはすっごい俺好みの美人な所だな、それからフワフワの狐獣人の尻尾はいつまでもモフモフと触っていたいくらいに好きだし、ピョコピョコ可愛く動くの狐耳はいつまでも見飽きない、可愛らしい唇はついついキスをしたくなるし、あの細くて長い綺麗な手はずっと握っていたいし、それと才能に溢れて優秀な所は尊敬もしているし、でも俺の側に居る時のゆるっとした感じのニコニコ笑顔にはいつも癒されるし、細かな配慮も完璧でいつも俺の為に行動をしてくれる所には感謝しかないし、それから――」



『シマ様シマ様、何故急にクレアさんに愛の告白をし始めたのか判りませんが、今は控えて頂けないでしょうか?』


 俺とサクラの会話にサヨが介入をしてきた。


「む?」


 その後のサヨの身振りに促されて周りを見ると……お立ち台の上のクレアが両手で顔を隠す様にしながらしゃがみ込んで居て。


 さらに周りの見学者達も、さっきまではクレアを尊敬やらの目で見ていたのだが……何故か今はこう……ニヨニヨした目といえばいいのだろうか……そんな目で俺やクレアを見ている気がする……。


「えーと?」


『サクラさんとの会話だと、他の方にはシマ様の声しか聞こえませんので……』


 俺はサヨのその説明を聞いて状況を理解した。


 ああ……サクラの意思は文字で空間投影モニターに出るから周りの人には伝わらず……俺が急にクレアに対する愛の言葉を大声で吐いた様に映るのか……。


 目の前にいるクレアを見てみると、しゃがみ込んだまま俺の方を振り返って見て来て居た。


 その頬は真っ赤で狐耳も少し赤くなっている様に見える……あー……スマン……。



 俺はゴメンと謝罪の身振りをしてクレアに謝った。



 クレアは俺を見ながら声に出さずに口を動かすと、立ち上がって指揮を再開させていた。

 ちなみにクレアからの指揮が止まっても、うちの子達は優秀なので適応体に負ける事は無い。

 ただしブレインユニット達は火力でのごり押しが多いみたいなので、貴重な物資が取れる量が減るとは思う。


 サヨはクレアが口パクで何を言ったのかを、空間投影モニターに文字で出してくれた。



 そこには。



【シマ君の馬鹿……後でお仕置き】


 と書かれていた……。


 後でクレアには一杯謝ろうと思った。



 そして未だに俺の手を握っているサクラがニコっと笑うと。


【ほら、お互い大好きなんですから、大丈夫です!】


 と、そう伝えて来た……クレアはお仕置きするって言ってるんだけどね?

 それがクレアの愛情表現だとでも言うのだろうか……。


 だがサクラは精神感応能力で周りの生命体の感情なんかを読み取るからな。


 クレアも俺に対する好き好き感情を垂れ流したという事か?


 ……まぁいいか、俺がクレアを大好きだって判ってりゃいいや、才能だの何だのなんてのは考えても仕方ねぇしな……そんな風に思った事をサクラに伝える前に。


【その通りです、それにククツ様には自分の感情を素直に相手に伝える才能がございます……裏表のない、そして爽やかな風の吹く大地の様な心、そんな貴方だからこそ私もお姉様方も好意を示したのです……】


 樹人の惑星で雌しべ達……女性達にモテたっぽいのは、そういう理由があったのか……。



 だけどさぁサクラ。



「また精神感応能力を強めて俺の心を読んでるよね?」


 何も言ってないのに会話が成立するって、便利だけどちょっと問題あるよね。


【そろそろお席に戻りますねククツ様、また後でお飲み物でもお持ちします】


 そう空間投影モニターに文字を残し、サクラは根っこの足でズリズリササッと離れて行った……。



 ……ちょっと待てサクラ。



 ……。



 ……。



 ズリズリと足音をさせながら、自分の席へと帰っていくサクラを見ながら。


 後でエンゼやサヨあたりに相談して、サクラには精神感応の強度を抑える訓練とかして貰わないといかんかな……と思った。



 まぁサクラと二人で会話をしている時に心を読まれるのは問題ないんだが……。



 その時に、スクィードパイロットの緑髪ボブで僕っ子犬獣人のヒスイあたりが通りかかったりしたらまずい!


 あの迫力のある二つのスイカが目の前でポヨンポヨンしたら、俺の心の中はきっと18禁な事になってしまう……。


 そんな俺の心の中を、ぱっと見は中学生くらいの美少女な幼木であるサクラに読ませる訳にはいかないからな!



 という事で後でどうにか対処を……ってあれ? 今までも心を深めに読まれて居た可能性も……?



 ……。



 ……。



 どうしよう、樹人の長に土下座でもしに行った方が良いのだろうか?















 ◇◇◇

 後書き

 お読みいただき、ありがとうございます。


 作中で説明するのがちょっと難しいので補足を


 サクラは御座艦を見送る時のサヨやシマの通じ合う姿を見て羨ましくなり、自分もと、シマ相手にだけ精神感応を強める事をサヨから許可を貰ってやっています


 ちゃんと許可を得るサクラは偉いと思います


 そして、シマは常々サヨやクレアに対して『全てまかせる』的な発言をしているので、あらゆる権限をシマへの相談無しにサヨやクレアが決める事が可能な状態になっているのです


 なのでこの事もシマの普段の行いの結果という訳ですので、サヨやサクラを悪く思わないであげて下さい。


 以上補足終わり


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 ◇◇◇

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