第8話 共同作戦が始まったのだけれど、俺とクレア少佐達とは溝の深いすれ違いがあった様です

「システムオールグリーン」「僚艦との通信も問題無く行えています」

「艦隊司令部より第8艦隊内及び我が艦に通達『我らが第8艦隊はアリアード皇国を脅かす外来適応体を排除すべく進軍を開始する』との事です」

「補給艦サヨウナラの配置予定は変わらず」「もうすぐ我らの進発時間となりますククツ艦長」


 オペレーターというか、ほとんどが通信士なんだが、彼女らの元気な声や報告が飛び交う。


 学校の体育館くらいに広げた補給艦サヨウナラの戦闘指揮室なのだが、そこは地球のアニメや漫画に出て来る宇宙戦艦の艦橋なんかを模している。


 サヨを基本とした人格AI達、通称『サヨ姉妹』達の中でもオタクな設定をしている子らが集まり、わいのわいのと話し合って今の形になった。


 一段高くなっている上段の中央に俺の椅子があり、その左右に俺の補佐官とサヨの椅子を設けてあり。

 そこから段差があって少し下がった下段に、いくつもの通信士用の椅子が俺から見て放射状に並んでいる。

 段差があるので、俺からも彼女らからもお互いに顔がよく見えるようになっている。


 その通信席に居るのは近衛兵な俺の側付き達で、近衛の軍服は普通より派手だから、この部屋に映えるよねぇ……。


 ぶっちゃけこんな設備はいらないし、サヨ一人でもどうにかなるのだが。


 軍との共同作戦に参加するにあたり、補給艦サヨウナラにクレア少佐とその部下達、つまり側付きの彼女達を乗せるなら、仕事っぽい事もした方がいいだろうと思い至り。


 彼女らは通信士として働いて貰うべく、戦闘指揮室の改造を突貫作業で行った。


 内容さえ決まれば、この程度の部屋なんてすぐ完成しちゃうのがサヨのすごい所だ。


 ちなみに旧銀河帝国の遺産であるサヨに乗るにはその適合者、つまり俺の許可が必要であり。

 側付きの彼女らは俺の……まぁ将来的な嫁として、お見合いを受け入れた状態となる。


 サヨには一人一人裏が無いか調べて貰ったが、悪さをしようとしている者は一人もおらず。

 後は俺との相性次第って事で、一緒に仕事なりをして、性格とかが合わなそうなら補給艦を降りて貰えば済む話、という事にした。


 アリアード皇国では重婚が可能とはいえ、何十人もの嫁候補とお見合いとか……。


 でも俺にはもう家族が数十万出来ちゃってるからなぁ……正直ちょっと麻痺はしていると思う。


 地球の倫理観なんて宇宙の辺境に捨てて来たさ、そうじゃなきゃ恒星を自分の船に食べさせるなんて事は出来ないだろう?



「ククツ艦長、進発の号令をお願いします」

 俺の横の椅子に座っているクレア少佐が、そう声を掛けてきた。


 彼女は俺の補佐官に成った訳だが、俺はまだ准尉なんだよなぁ……特級が頭についてるから意味合いが違うのかもだが、准尉の補佐に少佐が付くという状況はどうなんだろうね……。


 ま、今は取り敢えず。


「補給艦サヨウナラ発進!」

 俺はアニメのように元気よく号令を発していく、まぁこういうのってノリが大事よね。


『了解しましたシマ様、補給艦サヨウナラ発進、第8艦隊について行きます』


 そして予定の位置でワープに入る俺達。


『第一次ワープアウトまで2時間を予定しています、現状何も問題は発生していません』


 サヨの報告を聞いて戦闘指揮室内部は急に弛緩した。


 ワープ中は暇だからね、それと艦の性能差なのかワープは小刻みにやるっぽい。

 一度に飛べる距離も随分違う感じもする、サヨは優秀だしなぁ。


「じゃぁ適当に休憩して貰いますかクレア少佐」


「そうですねククツ艦長、じゃぁ交代で休憩をとってね皆!」


 戦闘指揮室下部の部下達に休憩を宣言をするクレア少佐。


 彼女らはそれを聞くや、離席をしたり、飲み物を取り出したり、空間投影モニターでゲームをしだしたりと、非常に自由だ……いやまぁいいんだけどさぁ……。



「そうだシマ君、皇国軍参謀本部から、そろそろ制作した補給物資や戦力の提供をして欲しいと連絡があったのだけど、どうする?」


 クレア少佐と皇国本星の歓楽街で気合の入ったデートをした後に、彼女は俺をプライベートでシマ君と呼ぶようになった。

 今はまぁ休憩中の雑談扱いって事なのだろう。


 俺の事をしっかりと見ながら話をしてくるクレア少佐は、前のような鋭い獲物を狙うような目でも無く、死んだ魚のような目でも無く、ほんのり微笑をしているような優しい目つきだ。


 頭の狐耳や、今は椅子のせいで見えない尻尾にも艶が戻っていて、美人度が上がっている。


 今は座ってるから判らないけど、立って居る時に俺と話しをすると、機嫌よさげに尻尾をゆっくり大きく左右に振って来るので、モフモフしたくてたまらない……。


 いや、まだ彼女の心には傷が残っているはずだし……焦らずのんびり癒していかねば……がまんがまん。


 っと返事をしないとな。


「どんな物が欲しいと言っているんですか? クレアさん」


 俺はクレア少佐に呼び捨てで良いと言われているけど、まだデート一回しただけだしね。

 場合によってさん付けで許して貰っている。


 側付き部隊の子らは『まず少佐を最優先でお願いします、私達はその後で』という感じに言われている。

 なのでまだ迫られたりはしていないが、食事の時なんかに適度にコミュニケーションを取ったりはしている。


 まぁ彼女らみたいな近衛兵クラスになると、お値段の高い強化措置を受けているだろうから、寿命とかすっげー長いだろうし、焦ってどうこうは無いんだろうね。



「そうですね、やはり旧銀河帝国の遺産で使用している設備の修理用パーツが欲しいみたいです、性能はいいですが壊れない訳では無いですし、それと白兵戦用のパペットやら遺産である艦船の各種燃料やビーム用の弾薬カートリッジ、それと、小型の戦闘機なんかも作れるんじゃないかなと参謀本部は期待している様です、それぞれの艦船やなんかにも工作室はあるみたいですが、性能は低めだそうで補給艦には期待を寄せられています」


 んん? なんだろうクレア少佐の話を聞くに何か違和感がある。


「えっとクレアさん」

「はい、なんですかシマ君?」


 この人は俺の呼びかけにすっごい嬉しそうに答えるよなぁ……。


 部下の人らが言うに、普段は氷のクレアと呼ばれ、こんな表情と態度は外では一切しないそうだ。



「皇国軍は補給艦サヨウナラのスペックやなんかを、どれくらいだと把握しているんですか?」


「えーと、ワープ出来る距離が長くて速度も我らの高速艦より早いだろうという事と、物資を自力調達してシマ君が暮らしていける程度に自給自足が出来る事、それと……ククツ艦長のジョークが面白くないとか? その程度ですね」



「つまりほとんど何も知らないんですね」


「そうなりますね、まぁ遺産の性能は適合者に教えて貰わないと判らないですし、いきなり教えろと強引に迫ってシマ君に敵対されるのも嫌なので、参謀本部も慎重に動いているんですよ」


 まじかー……俺の認識と随分違うみたいだな。


 ワープ距離や速度なんかはアリアード皇国内で移動していた時の事で判るし、自給自足は……そういや俺の為の物資とか一切外から仕入れて無いものな……。


 地球を出てから初めての買い物が、クレア少佐とのデートの時にしたくらいか。


 いやさ、クレアさんが部下の人達に心配かけたお詫びも籠めてお土産を買っていくって言うから。

 俺の口座に入っていたお給料から、高級お菓子のお店で一日分の在庫の半分近くを買って、クレアさんにプレゼントしたんだよね。



「そういえばジョークってのは何の話なんです?」


「……シマ君から恒星が欲しいとかって冗談が送られてきたから、悪乗りした通信司令官が良いよって答えた話が笑い話として……いえ、ちょっとシマ君を馬鹿にした感じで軍隊内に出回っているんです、というか吹聴しているのは、プライドが高くて遺産持ちを成り上がりと言って嫌う貴族系軍人とかですね……」



 え?


 ……ちょっと?


 いや……まって!?


 俺はクレア少佐の反対側に顔を向けサヨを見る。


 サヨはサッっと視線を外すと、俺に後頭部を見せつけてくる。


 こ・い・つ・は!!!


 サヨは絶対に気付いていてたな……やべー……恒星だけじゃなくブラックホールやら何やら……。


 それこそ恒星飲みこむなら惑星もいいよね、って感じで恒星系一つ丸まる飲みこんでエネルギーや物資に変換しちゃったりとか、そんな事を何件もしたんだけども……。


 ばれたら軍法会議物か? いやでも一応お伺いたてて許可を得てるから……おっけー?


「クレアさん、例えば例えばですよ……俺のジョーク通りに恒星を飲みこんじゃったら何か処罰されますか?」


「それがアリアード皇国の領域外なら問題視はされども処罰はされないですよ……って……ねぇシマ君?」



「なんでしょうかクレアさん」


「まさか……冗談では無かった? え? 本当に?」


 クレア少佐は俺の表情から気付いてしまったみたいだ。


 そしてさっきまでキャピキャピと雑談の声で騒がしかった戦闘指揮室が、今ではシーンと、まるで宇宙船の外の真空に出たのではないかのごとく静かだ。


 戦闘指揮室に残っていた全員が、俺を見ているか耳をこちらに向けている。


 ……あのウサギ獣人の子の耳がヒョコヒョコ動くの可愛いなぁ……。


「シマ君? お姉さんの質問に答えよ?」


 どうやら現実逃避もさせてくれないようだ。


 クレア少佐はこうしてたまにお姉さんキャラになる。

 まぁ俺よりかなり年上みたいだし……計算したら母ちゃんよりも……。


「シマ君? 私なんだかすごい嫌な感じがしたのだけど気のせいかな?」


 ふぁ! 俺は思考を元に戻す事にする。


 うーん、もう皆は身内みたいな物だしなぁ……。


「サヨ、俺の別荘を見せてやれ」


『了解しましたシマ様、ではモニターに映し出します』


 サヨがそう言うなり、戦闘指揮室の全ての空間投影モニターに俺の別荘が映し出される。


 そこは白い砂浜に静かな波が打ち寄せて、近くには一軒の別荘が建っているだけ。


 すると戦闘指揮室内に側付きの子らの声が響く。


『わぁ、すごい綺麗』『土地を贅沢に使っているわね』『さすが特級遊撃部隊のお給料は桁が……』『何処のリゾート地だろねぇ……さすがに本星にはこんな場所なかったよね』『何処かのリゾート惑星で買ったんじゃないかな?』『いやさすがにそれは……ククツ艦長はまだ新人だし』『じゃぁここは?』


 わいわいと騒がしさが戻ってきた戦闘指揮室内。


「シマ君、確かにこれはすごいけどさっきのお話をね」

「サヨ、ズームアウト」


『了解しましたシマ様』


 別荘を映していた映像はどんどん上空へと離れていき。



 別荘が小さくなり。

 近くにあるリゾート街を映し。

 それもどんどん小さくなり、大きな島を確認し。

 後はひたすらほとんど海という状況になり。


 そして最後に星を丸ごと映し出す。


 それを見た彼女らは、またしても静かになってしまう。


「これは……皇国領内では無い辺境の惑星に、建物や街を作る能力が? すごいわねシマ君!」


 クレア少佐おしい、ちょっと違うんだよな。


「あの惑星は辺境で得た俺の別荘な惑星で、今現在サヨの内部に確保している物です」


 惑星を別荘と自分の口で言うと、すごいパワーワードに思えるな。


「え?」



 ……。



 ……。



「「「「「「「えええええええええええええ!!!!!!!」」」」」」」


 クレア少佐だけで無く戦闘指揮室内部が、いや、戦闘指揮室に来ていなかった全ての側付き部隊員の顔が空間投影モニターに映し出されていて、それを含めたみんなが大声をあげて驚いている。


 どうやらサヨは、この状況をライブで全員に見せていたらしい。

 説明が省けて丁度いいね。


『ないないないないありえなーい!』『え? いえ……え? いえ……え?』『はぁ? 内部って……ええ?』『つまりたかが直径4kmの補給艦が惑星を空間歪曲させて保持? 意味が判らない』『理論的には可能かもだけどエネルギーは何処から? 私達が今まで学んできた事って一体……』『遺産は理不尽な物って判っていたけどこれは理不尽すぎる』『てことはあの綺麗な浜辺にククツ様と一緒に海岸デートにいける!?』『あの街も作ったの? 補給艦って一体なんだっけ?』


 ……色々とショックにより壊れてしまった側付き部隊であった。

 クレア少佐は口をあんぐりあけて、モニターの惑星を見て今だに固まっている。


 いつもならサヨが壊れるんだがな……サヨは、皆が落ち着くまでお茶を飲みに出かけようと俺を誘ってきた。


 マイペースやなぁこいつは。


 丁度いいので、休憩スペースでサヨとお茶を飲みながら、恒星を貰えるかの許可申請を出した時の事を突っ込む事にした。



 サヨからどんな言い訳が聞けるのか、楽しみだ。


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