第7話 初めての仕事の説明を受けるはずが、何故か女性に自分の素っ裸な映像を見せるはめになった。
「ケッ、補給艦の艦長になったくらいでデカい顔すんじゃねぇぞ? お前はこの俺が継承した旧銀河帝国の遺産である巡洋艦の、修理パーツの生産や補給をやってりゃいいんだよ、何が共同作戦だ……外来の適応体なんて全部俺が倒して手柄にしてやるぜ! お前は終わった後に戦場の後始末をさせてやるからでしゃばんな!」
そう俺に一方的に吠えてから、狼獣人の男は背後にメカメカしいアンドロイドを従え、肩で風を切って会議室を出て行く。
残された軍隊のお偉いさん達は苦々しい表情をしている。
今俺は、アリアード皇国の本星にやってきている。
建前は直属の上司でもある皇帝陛下に呼び出されたとなっているが、まぁ実際に陛下に会う訳でもなく、こうやって皇国軍の会議に参加している。
俺やさっきの獣人みたいな旧銀河帝国の遺産持ちは、皇国軍の中でも皇帝陛下が指揮をする、特級遊撃部隊に所属をしている事になっている。
旧銀河帝国の遺産は強力な性能を持つ物が多いので、皇帝陛下以外の命令系統に入れる訳にいかないのだそうだ。
そして作戦ごとに一時的な出向扱いで何処かの指揮下に入るのだけど、さっきの人みたいにアクの強い人が多いそうだ。
同じ特級遊撃部隊に何人も遺産持ちがいるはずなのに、他の人と会ったのはさっきの狼獣人が初めてなのよね。
まぁ多分意図的に会わせないようにしているのだとは思うけど。
むしろ上司のはずの皇帝陛下にまだお会いした事も無いのよね、そこらが建前だって事は判っちゃいるけどよ。
会議室には参謀本部詰めの超エリートやらも参加をしているのだが、さっきの獣人の様な遺産持ちには意見を言い辛いらしい。
しかし巡洋艦か……あんなに偉ぶるって事は、俺が作ったビリアル型巡洋艦とは違って強力な物なんだろうなぁ……。
俺も力を得るとああなっていってしまうのかなと、他人のふり見て我がふり直せと、心の中で唱えている。
すると周囲に居た超エリートな人達の中で、比較的若い男の一人が俺に声を掛けてくる。
「申し訳ないククツ特級准尉殿、彼がああ言ったからには君には後詰として行動をして貰いたいのだが構わないでしょうか? わが軍と足並みを揃えた進軍になるので、適応体を倒す様な手柄は得られませんが……」
なんでこの人らは謝って来るのだろうか?
俺は別に戦闘ジャンキーでも無いし、理不尽な事じゃなきゃ命令してくれればいいのにな、軍隊ってそういう物じゃないの?
俺の知識は映画とか漫画だからなぁ……強化措置の中に知識を詰め込む事の出来る物があるらしいのだが、サヨいわく、あれは寿命を縮めるのでお勧めしないと言われたら、そりゃやらんわ。
「問題ありません……少佐殿! ククツシマイ特級准尉、任務承りました!」
俺は会話相手の階級章を確認しつつ立ち上がり、ちょろっと教えて貰って居た軍隊式敬礼と共にそう答えた。
ちなみにこの部屋の最高位が准将だった……やべぇだろこの会議室……。
軍に入ったばっかな新人の俺がここに参加出来るのは、サヨのおかげであって俺自身はなんも力がないからな、謙虚にいこう。
それと特級と頭に付く階級は特級遊撃部隊内でのみ運用をされていて、一応他の直轄軍と行動するときは、その下の部分の地位相当の扱いになるという話なのだが……つまり俺なら准尉。
でもさっきの狼獣人さんは特級中尉らしいよ? ……ルールが正常に運用されてないよね。
「そうか……ありがたい、君は少し違う様だね……さすがあのアーカイブの持ち主……では詳しい任務の内容はクレア少佐から聞いてくれたまえ、案内役は廊下に居る近衛兵がする、では下がってよろしいククツ准尉!」
「は! ククツシマイ特級准尉はクレア少佐から任務を聞く為に退室します! 失礼します!」
俺は再度敬礼をしながら会議室を出て行く。
命令の復唱ってこんなんで良いのだっけ? とか考えながらね。
ちなみに一言も言葉を発していないが、ノーマルサヨの義体も俺の後ろに付いてきている。
銀河ネットが繋がるような場所ならついてこれるんだってさ。
……ん? アーカイブ?
……。
会議室の扉の前には、地球で俺が軍に呼び出された時に出会った、近衛兵のヒューマン型女性兵士さんが居た。
この美人も俺の相手に志願したんだよな……ううむ……。
ヒューマン型ってのは要は地球人っぽい人類の事で、毛無し尾無し猿獣人とか言う人もいる。
地球人っぽいヒューマン型は、アリアード皇国本星の構成で言うと3割前後いるとかなんとか。
まあ種族ごとに分けずに一まとめにしちゃうと、獣人が一番多いのかなぁ?
まぁその辺りはセンシティブなのであんまり数値化されない、皆も気をつけようね。
「そういえばサヨ、クレア少佐ってもう俺の対応に出て来ないって言って無かったっけ? こういった作戦では別の話なのかな?」
『……シマ様、その事をあのお方に聞いてはいけませんよ……』
俺がクレア少佐、つまり地球で最初に俺に会いに来た、獲物を狙う様な目をした美人な狐獣人さんの事をサヨに聞くとそんな返事が来た。
「それはどうい――」
俺らの案内をしていた女性近衛兵さんが廊下で立ち止まったので、俺はセリフを途中でとめた。
周りには誰も居ないので、今まで聞こえていた俺らの足音が消えて静寂が漂う。
その場でグルっと体の向きを変えた女性近衛兵は。
「ククツ様は何処までクレア少佐の話をご存知なのでしょうか? やはりあの狼獣人から聞いたのですか?」
すごい真剣な表情でそんな事を聞いてくる。
「いや、今度結婚するから、もう俺の対応には出て来ないだろうって話を前に聞いただけなんだが……あの人に何かあったの?」
女性近衛兵さんは俺の事をジッと見ている、サヨも特に口を出さずに控えている。
「さきほどの会議でご一緒した、特級遊撃部隊の同僚である狼獣人の事はどうお思いでしょうか?」
話が飛んだな……でもなんかすごい真剣な表情なので、日本人的な曖昧な物言いでは良くない気がした。
なので。
「正直な所を言えば嫌いな部類だ、仕事の関係以上にはなりたくないね」
俺がきっぱりと正直な感想を伝えると、そのまましばらく俺の表情を見ていた女性近衛兵さんは、静かに頭を下げてきた。
「申し訳ありません、クレア少佐の事を話題にするという事は、あのアホ狼獣人の仲間になった可能性もありましたので失礼な言動をしてしまいました、お許しください」
「まだ良く判ってないけど許します、それで一体何が?」
「あの狼獣人が遺産を手に入れて軍属になった時に、たくさんの側付き志願者がおりました……ええと側付きというのは――」
『シマ様はそれを理解しております、当然貴方もそちらの方面に志願している事も』
サヨが軽く口を挟む。
女性近衛兵さんはサヨの言葉を聞くと、俺の顔から視線を外して顔を赤くしながらも話を続けてくれる。
「そ、そうですか……その、お、お嫁さん候補としての側付きなのですが、あの獣人のあまりの性格の悪さですぐに志願者が激減してしまい、今は地方の領地から来ている貴族の縁故採用枠な子女の派閥だけしか残っていないのです、いわば領地に帰った時の箔付けの為に所属をしていて仕事がまったく無い人達ですね、それでそんな人達しか残らない事に不満を持ったあの獣人は近衛の中でも優秀な女性を口説こうと……あれは口説きというより命令に近い物でしたが、色々と声を掛けていったのですが、その中でもクレア少佐には執着していまして何度も断られていました」
話をしている間に女性近衛兵さんは冷静になってきたのか、また俺の顔を見て話し始める。
「ふむ、なるほど?」
獣人にしつこいナンパを受けていたって事か? まぁ続きを聞くか。
「あの狼獣人の誘いを何度も断っているクレア少佐が、新たに遺産継承をした新人の嫁候補として志願したのが相当気にいらなかったようで……ククツ様にフラれて落ち込んでいるクレア少佐に仕込みをした士官を接触させたのです……」
いやまって! 俺はフッてないよ? てかそんな事はどうでもいい! それってつまり……。
「少佐さんが結婚をするという相手が……あのクソな獣人の?」
「仲間……というか脅されてやったそうですが、身内相手のお付き合い披露の席をドタキャンされてクレア少佐は笑いものにされたのです! 狼獣人に脅されたとその士官は言っていますが証拠は無いので……いえ証拠があってもなんらかの処分を出来る相手では無いので同じでしょうか……正式な物ではなく身内相手の披露の時の事なので訴える事も難しく……ククツ様! どうかクレア少佐に優しくしてあげて下さい、嫁に貰えとか言いませんから普通に……クレア少佐はククツ様の側付きの部隊長も辞退をすると言っていたのですが、私達部下が総出でそれを止めたのです、今の少佐は自暴自棄な行動を起こすように見えたので……」
俺の中でメラメラと怒りの炎が湧いて来る。
さきほど獣人に馬鹿にされた時はそんな事は無かった。
だって補給艦の艦長になれたのは偶然であって、自分で何かした事を貶された訳でも無いし、補給艦その物を馬鹿にされた訳じゃないのだから。
だがしかし、今聞いたこの話は違う、これは人としてて許せない類の……いやまてよ……。
「サヨ、今の話の裏取りと補足はあるか?」
一方からの見方だけで判断しちゃいけないよな、だって今や俺には守らないといけない身内が万の単位で居るのだから……。
『その脅されたと言っている士官は別の派閥の傀儡ですね、派閥同士の確執を広げて両方に良い顔をする事で自身の勢力を増やそうとしている派閥がある様です、まぁその士官は細かい事は知らないみたいですけど、それ以外はおおまか合っています』
サヨのセリフに女性近衛兵は驚いている。
少佐の結婚話とかもそうなんだが、なんでサヨはこんな事まで知る事が出来るのだろうかと思って、前に聞いた事があるんだよ……。
そうしたら銀河ネットは遺産でもって運営しているので、その遺産に対する上位権限があれば、銀河ネットを使った情報は全て丸裸なんだとか……。
この間なんて、雑談の中で皇帝陛下のご飯のメニューとか教えてくれたんだぜ?
普通そういうのって秘密にするもんだろ?
皇帝陛下が身柄を押さえている遺産の資格者が銀河ネットを運営しているから、超安全だって彼らは思っているのかもしれないけどさ……。
……。
「じゃまぁその辺りの情報はクレア少佐の派閥に送っておいてあげてくれ、それじゃいきましょうか」
俺はサヨに指示を出しつつ女性近衛兵さんに案内を促す。
「は、はい……こちらです」
その後は特に会話も無くクレア少佐が待っている部屋についた。
部屋の前にも近衛兵が居て、こちらを確認すると扉を開けてくれる。
手で開けた訳じゃなくて電子的な操作でね。
その部屋の中には俺を案内した人も合流し、近衛兵が4人程壁際に立って居る。
そして部屋の中央のソファーに座っているのは……うわぁ……初めて会った時は獲物を狙うような目つきで、ちょっと怖いけど美人な人といった感じの狐獣人さんだったのだが。
今はなんていうか、死んだ魚の様な目をしたクレア少佐が居た……。
「お久しぶりねククツ殿、まぁそこに座ってくれ、任務の説明をしようじゃないか」
セリフに抑揚が無く、表情が死んでいるので、幽霊を相手にしている気がした。
駄目だなこりゃ……。
頭の狐耳もへにゃっとしているし、尻尾もまったく動かずにいる、というか毛に艶が無い。
うーん、これは普通に優しくしてどうにかなるだろうか?
俺は無理だと思う、ならばだ……。
クレア少佐の対面のソファーに座った俺は、彼女が何かを言い出す前に言葉を放つことにした。
「クレア少佐、俺とデートしてくれませんか?」
部屋の空気が固まった気がした。
俺はクレア少佐の反応を待っている。
しばらく何も反応をしなかった少佐だが、少しづつ目に力が戻ってきている。
だがまぁそれは怒りの目という意味でだけど。
「ククツ殿……あなたも私を
クレア少佐は尻尾をピンッっと立てて小刻みに素早く左右に振って激高をしている。
壁際にいた女性近衛兵達の目つきも変わり、俺を鋭い目で睨んで来ている。
先ほど俺を案内してくれた女性は、俺の言動に困惑をしているみたいで『どうして』と小さな声で呟いている。
強化措置を受けているので小さな呟きも拾えちゃうんだよな。
「揶揄っている訳でも冗談で言っている訳でも無いですよ」
「そんな訳あるか! あなたは私には何の興味も抱かなかったでは無いか! それとも何か? あほなフラれ方をした相手なら遊び相手にぴったりとでも? 馬鹿にするな! 私は……私は……初めては結婚してからが良いし! その先も一生同じ相手に尽くす気だ! 遊びなんて御免だ!」
クレア少佐はすごい激高している……怒っているのだが……自分が何を言っているのかは理解していないんだろう。
周りに居た護衛の女性近衛兵達も、最初に抱いていた俺への怒りは薄れ、クレア少佐の言動に釣られてしまっている。
『え? ほんき?』『乙女かっ』『という事は少佐って……』『うんうんその通り』
彼女らの囁きで交わされる会話も拾えてしまう、高性能な強化された俺の耳だった。
「なぜ遊びだと断言するのですか? 俺は貴方の事は美人だと思うしすっごい好みなんですけど」
「今この時にそんな事を言ってくるからに決まっているだろう!? どうせ何処かで私の滑稽な噂を聞いたのだろうが……そんなに私の噂は面白かったか……そんなに私は惨めか……」
クレア少佐は怒りつつも声を小さくしていく。
これ以上会話を続けると泣いちゃいそうだな……よし! ならば。
「サヨ、俺が少佐の婚約話を初めて聞いた時の映像を見せてやれ、どうせ撮ってあるだろう?」
『承知しました』
サヨが軽く指を弾くと、俺と少佐の間に空間投影されたモニターが出現する。
それは壁際にいる女性達も見られる様になのか、かなり大きい物で、そしてそこに映像が流れ始める。
◇◇◇
……。
「そうか、やっぱりケモ耳メイドは憧れだよな、って違うっていってんだろ!!! 俺の秘密なムフフアーカイブを見たのか? あれはもう――……」
『え? あんな消し方をしても駄目ですよシマ様、データは――……アリアード皇国の軍部にもシマ様の秘密なムフフアーカイブは知られていますよ? 訪ねてきた軍人達は女性ばかりでシマ様の好みに合ってませんでしたか? あの人達はハニートラップ……いえシマ様が手を出しても良い相手で――……』
「え? まじで? いや……え? まじで!? 俺あの指揮官っぽい豪華軍服獣人さんすっごい好みだったんですけど、獲物を狙う様な冷たい眼差しがちょっと怖いけどフサフサの狐耳とホワホワの尻尾とか超モフりたかったんだけど! そんな事なら手を出して! って……いやいやさすがに任務でそれをやれって言われた人に手は出せないよ……すごく……すごく残念だけどな……」
『シマ様のお相手は志願制ですよ?』
「はぁ? え? あの軍服獣人さんや他の女性兵士さん達って志願して俺の相手になろうとしたの?」
『勿論ですよ、私のような素敵な遺産を手にしたシマ様は――……数百人単位の応募があったそうですよ?』
「まじかぁぁー-!!!! 勿体ない事をしたあ……あ、いや、次に報告か何かで会った時にアプローチしてみよう、うん、なんか先々に希望が見えてきてこう心が解放された気分だなぁ」
『ちなみにシマ様が言っている指揮官なお方ですが――……』
「それは! 認めるのは悔しいが俺とも相性抜群じゃねぇ!? なぁサヨ‥‥‥一回皇国に帰らねぇか? な?」
『……その指揮官様なのですが――……ちなみに既婚者はシマ様の対応に出てきません』
「……なん……だと……あのモフモフ狐耳やモフモフ尻尾が他の男の物に、うぐぁぁぁ!!! 俺が! 俺がもう少し自分の性的嗜好に素直であったのなら!! 告白をしていたらぁぁぁ!! くぅそおおおお!!」
『シマ様、後悔というのは後でするものなのです、なのでこれからはご自分の性的嗜好を素直に表に出して生きて下さい』
「ああ、判ったよサヨ俺はこれからは――」
◇◇◇
……なぁサヨ、俺が裸だから一部にモザイクがあるのは、まぁしょうがねぇけどよ。
もうちょっとカット出来る部分あったんじゃね?
冒頭のケモ耳メイドの部分とかいらねーだろ?
壁際の女性近衛兵さんの中の獣人種な人が、ポソリと『ケモ耳メイド』って呟いたんだからな?
俺はこの映像を見せた事にちょびっと後悔をしつつも、表情を変えずにクレア少佐を見ている。
俺と彼女の間の空間投影モニターには、何故かリピート再生で二周目が始まっていた。
いやもう良くないか!?
クレア少佐も何か反応してくれよ!
てか貴方の視線が二周目から俺のモザイクに向いているのが、強化された感覚で判っちゃうんですけどぉ!?
……。
……。
そして三周目の映像が終わると空間投影モニターが消えた。
「どうですかクレア少佐、これは貴方が婚約を発表しようとする前の話です、これでも俺が揶揄っていると?」
俺が目の前のクレア少佐に呼びかけるも、少佐は空間投影モニターが消えてからは俺と視線を合わせずにいて。
少佐の頭の上の狐耳はピンッっと立ち、尻尾はゆったり大きく左右に振られている。
「ああ、うんそうだな……ククツ殿がその……私を好みの女として見てくれた事は理解をした……さきほどの決めつけに関しては謝罪をしよう、だがな、その……それなら何故最初に会った時に口説いてくれなかったのだ? あんなにアピールをしていたのに……」
クレア少佐はもう怒っていなく。
むしろ少し子供っぽく拗ねて膨れた頬をしつつ、ずらしていた視線を俺に戻して文句を言ってきた。
アピール? 何のこっちゃ?
俺は意味が判らなかったので、壁際にいた女性達に説明をしてくれという目を向ける。
だが、彼女らも俺の映像を見て怒りは収まっているみたいなのだが……。
『アピールって何?』『知らないよ、私が居なかった時何かあったのかな?』『私はむしろなんで志願したのにあんな対応なんだろうって当時思ってた』『婚約詐欺にあって記憶障害が!? 救護室に予約を入れておきます!』
彼女らがぼそぼそと小声でしている会話を聞くと、どうも彼女らも知らないらしい……。
なら本人に聞くしかないか。
「あの、クレア少佐、アピールって何の事でしょうか?」
「はぁ? ククツ殿の事を熱い眼差しでずっと見ていたでしょう!? それなのにまったく反応してくれないから私はフラれたと思ったんですよ! まったく普通あんなに見られたら気づくでしょうに……」
……。
俺はそれを聞いてポカーンとしてしまった。
いや俺だけじゃなく壁際の女性達もだ。
だが何故かサヨは頷いているんだよな……まさか共感してないよな?
『軍の幼年学校低学年かな?』『正直だれかに無理やり志願させられたからあんな目で見ているのかと思ってました』『まさかあの少佐に不得手な物があるとは』『さすが少佐です勉強になります』
壁際の女性達がボソボソと会話をしている。
……もうさ、少佐に聞こえるように言ってやれよ……。
俺はもう、この人に遠慮はしない事にした。
「あんな獲物を狙うような目で見てきてアピールだと思うか馬鹿たれ! 努力をした訳でもなく運で力を手にした若造が嫌いなのかと思って悲しかったんだからな?」
「はぁ!? あんなに熱い視線を獲物を狙う目だなんて! ……いえある意味獲物を狩りたいとは思ってましたが……いやいや、やっぱりおかしいですよククツ殿は! ねぇ? 貴方達もそう思うわよね?」
クレア少佐は俺が悪いのだと言ってきて、最後に壁際の女性近衛兵達に同意を求めた。
すると彼女達は。
「申し訳ありません少佐! 私は同意しかねます!」
「同じく私も同意しかねます、ごめんなさい!」
「さすがにこれは擁護出来ません少佐殿!」
「確かにそれで気付かないのは紳士度が低いかもしれません!」
一人おかしいのが居たが、やはりあれはアピールとは言わないよな。
俺の感覚は間違ってなかった。
「ほら気付かないのがおかしいって言っているじゃないかククツ殿」
「他の三人の意見を無視しないで?」
クレア少佐は彼女達の返事を聞いてから、頬を赤くしつつも、まだ自身の間違いを認めない。
ポンコツ可愛い部分もあるのかこんにゃろめ……まぁいいか。
「……そうですね、俺が鈍感だったのかもしれません、ではクレア少佐、もう一度俺にアピールして頂けませんか?」
「ふぇっ!?」
俺の問いかけにクレア少佐は驚いた様だが、しばらくすると。
あの獲物を狙う目で俺を見つめてきた。
そうかこれはアピールの視線だったのかぁ……どう見てもお前を狩ってやるという目なんだが……意味的には間違っちゃいないんだが……。
「貴方の熱い視線に参りました、どうかこの俺、ククツシマイとデートをして頂けませんか? クレアさん」
俺は頭を下げて右手をクレア少佐の前に差し出す。
握手というか、手を繋ぐ行為が友好的な物という文化は、銀河でもメジャーな方なはずだ。
しばらくして、俺の右手が包み込まれた感触がしたので、顔を上げると。
両手で俺の右手を包んだクレア少佐が、真っ赤な頬で目に涙を浮かべながら。
「はい、その……優しくお願いしますククツ殿」
そう返事をしてきた。
突っ込みたい……すごく突っ込みたい『新婚さんかな?』とか『初めての夜か?』とか、でもこの状況でそれは言っちゃだめだろう事は判る。
「ええ、よろしくお願いしますクレアさん」
そう答えるしか俺には道がなかった。
俺は取り敢えず気晴らしになるかと思ってデートに誘ったんだけど、クレア少佐にとっては大事な事なのかもしれない。
まぁあんな事があった後だしな、気合い入れてやったろうじゃないか。
「良い話ではあるのだけど……」
「だね、部隊のみんなに回覧で回そう、あの映像も貰って添付しないと」
「少佐って恋愛方面は純情で天然だったのね」
「感動しますクレア少佐」
四人の女性が壁際で会話しているのが聞こえる。
一人だけちょっと内容が違うのがなんともあれだが……取り敢えず、だ。
「あの映像はあげないからね!?」
俺はどうしても我慢が出来ずに、そう彼女らに対して声を上げてしまうのだった。
ちなみにサヨは、この出来事を普通に祝福してくれた。
前に別荘惑星の砂浜で休日を過ごした時に、俺に執着する割りに他の人にサンオイルを塗ったりするのは大丈夫なのか、と聞いた事があるんだよ。
そうしたら、俺との様々な初めてを自分の物に出来れば、後は独占する気は無いと言われた。
でもそれだとさぁ……。
とりあえず俺は……その先を考えるのを止めた。
それと、例のリゾート街の視察という名目で、サヨとはたっぷりとデートしたので、あいつが初めてのデート相手という事になるのかね。
……学生の頃? ハハハ……。
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