第6話 別荘として惑星をプレゼントしてくる補給艦の人工知能が居るらしい

 サヤサヤと囁くような波の音が聞こえる。


 その真っ白な砂浜を、何度も何度も洗い流す穏やかな音の連鎖は、俺の心の中にある濁った疲れを溶かしてくれる。


 今俺は惑星上にある自然な砂浜の前に来ている。


 ほんのり漂う風はポカポカと気持ち良く、そして周囲に見える南国っぽい木々の葉を揺らしている。


 Tシャツ短パンにサンダル姿でも太陽の光を浴びていると、少しじっとりと汗をかくくらいの暖かさだ。


 複数の恒星やブラックホールやら、幾つものエネルギー源を得たサヨは、ついに惑星の環境を維持したそのままで保持出来るようになった。


 なので、銀河系外縁部への旅の途中で見つけた一つの海洋型惑星を取りに戻った俺達は、それをサヨの内部に保持し、恒星の光や惑星の自転や重力などを調整し、俺が住む事が出来る別荘としたのだ。


 銀河には地球型のような惑星は少なく、この惑星も水を少し減らしたり地形を弄ったりはしている。


 しかもサヨが確保している空間歪曲場の中で、内部時間を弄りながらテラフォーミングも出来るらしくて、全ての調整に惑星主観時間で1000年くらいかけたと言っている。


 俺が使うから念入りにやったとかなんとか。


『どうですかシマ様、地球の高級プライベートビーチを参考に調整をし、高台にはこのあいだ私とシマ様で一緒に設計をした別荘も作ってあります、勿論あの時のベッドを設置して』


 金髪ロングでエルフ耳なノーマル義体のサヨが、夏用の軍服なのか少し涼し気な恰好で俺の横に立っていた。


「ああ、すごいなサヨ、なんだか心が落ち着くよ……今日はお休みにしてここで寝てていいかな?」


『承知しました、今すぐビーチチェアと大き目のビーチパラソルを準備致します』


 サヨが操作をしているのか、重力制御型ドローンが真っ白なビーチチェアやパラソルを運んできて砂浜に置いてくれた。


 何処までも続く砂浜に人工物はこれ一つだ。


 少し内陸側へと離れた地点には先日サヨと一緒に設計をした別荘が一軒建っている。

 その他はちらほらと南国特有の木々が見えるくらいだ。


「ありがとうサヨ、お前も休んでいいからな」


 日陰となったビーチチェアに寝転ぶと、少し涼しく感じてすごく気持ちのいい日和だ。


『シマ様、それはつまり今日はお休みで自由にしてよいという事でしょうか?』


「ん? そうだな、まぁ宇宙の方の監視や防御だけはしっかりやってもらうけど、細かい仕事や打ち合わせは無しにしようぜ」



『ありがとうございますシマ様、では』


 サヨはそう言うと急に軍服を脱ぎ始めた。


「いやなんで急に服を脱いでるの!?」


 俺がビーチチェアの上から突っ込みを入れるも、サヨは服を脱ぐのを止めない。


 俺は自分の手で目隠しをしてしばらく待つ、ゴソゴソと服を脱ぐ音が終わったので恐る恐る手をのけると……そこには黒のビキニ水着を着たサヨが居た。


 その黒ビキニな水着姿は、サヨのスレンダーでモデル体型な体には非常に似合っていて美しかった。


「なんだよ中に水着を着てたのか、すごい似合ってて美人だぜサヨ」


『そ、そうですか、ありがとうございますシマ様……シマ様はビキニが好きだそうですオーバー』



「最後の語尾はなんだそれ……」


『いえこちらの話です』


 サヨは自分の分のビーチチェアやパラソルを俺の横に設置するとそこに寝転んだ。



 ……。



 ……。



 ――



「……静かな波の音とほのかな風も気持ち良くて……最高だな」


『そうですね……ああ、準備が整ったようです』



「ん? 準備?」


『はい、ではちょっと砂が舞いますのでご注意下さい』


 サヨがそう言った瞬間だった。


 近くの砂浜から少し陸にあがった地点が急に盛り上がり、ガコンッと、大きな円筒形で金属で出来たような施設が、ニョキニョキと何本も砂を蹴散らしながら生えてきた。


「なんじゃこりゃ――」


 俺が疑問を言い終わる前に、空から何かが降りてくる影が見えた。

 ビーチチェアから立ち上がって空を見ると、それは大きな……あれって確か……。


「この間作ったクロージャー型揚陸艦じゃね?」


『はい、その通りです』


 その揚陸艦のシルエットは、タコのように何本も足がある箱といった感じだ。

 そのタコ足でどんな場所でも保持をしてドローンや近接戦力の突入が可能だとか、てっきり宇宙専用かと思ったけど地上でも運用できるんだね。


 大きさは駆逐艦よりちょい小さいっていうが、こうやって見るとデカいよな。

 確か足含め全長400m前後くらいだっけか?


 重力制御をしているだろうクロージャー型揚陸艦が、傍目には静かに着陸をするが多少の砂が舞い上がっている。


 その舞い上がった砂埃を、さきほどニョキニョキ生えてきた円筒の筒が、バリアシールドを発生して防いでくれる。


「あんな物が地面に埋まってるんだな」


『安全のためのああいった施設は、景観を考えて地下に設置してあります』


 しばらくして砂埃が落ち着くと、円筒の筒がまた地下へと戻っていき。


 そして揚陸艦の扉が開き中からワラワラと女性達が降りてくる。


 赤青黄色に緑に紺に水玉にボーダー、金色なんてのも居るが皆ビキニの水着を着ている。

 布面積は人によって違うけど……ヒモもビキニの部類に入るのだろうか?


 ビーチチェアやパラソルやポールやら浮き輪やらスイカやら棒やら、大量の荷物を抱えた彼女らは俺の周りに拠点を作ると。

 各々遊んだり、ビーチチェアに寝転んだり、ボードの様な物を持って波をかき分け沖に行く者と、思い思いの行動をしている。


 大量の人数を運ぶから揚陸艦を使ったのね……俺とサヨは別な機体で降りてきたからな……。


 立ってそれらを見ていた俺は、ビーチチェアに腰掛けながらサヨに話しかける。


「えーとサヨさん? あの子らは……やっぱり?」


『はい、私から派生した人格用義体各種ですね、試験的に人格の横の繋がりを閉じているので限りなく個に近いと思って下さい、なので全部では無いですけど順番にお休みを頂く事になりました、水着はシマ様が褒めて下さったので皆ビキニにしたようです、如何でしょうか?』


 如何も何も眼福ではあるけど……これで全部じゃねぇのかよ、今まで怖くて数を聞いてなかったんだが……今居るだけで百人は軽く超えるんですけど……ん? てか。


「なぁサヨ、どう見ても10歳くらいのロリっ子も居るんだが? 俺の性的嗜好にどうこうでデザインした義体で未成年はだめだろ……」


『あれはアリアード皇国に住むドワーフ種族を参考にしたタイプですね、もしこれからドワーフ種に会って今のような事をおっしゃったら訴えられますのでお気をつけ下さい』



「え? じゃぁあれで成人なの? ……確かに耳がちょっと尖ってるけども……どう見ても小中学生なんだが……」


『例えばあそこに居るのは、ドワーフの結婚適齢期を少し過ぎて焦っている、という設定の義体です』


 そうサヨが指し示すのは、どう見ても背伸びして真っ赤なビキニ水着を着こんだペッタン中学生だ。


 彼女は俺の視線を受けてセクシーポーズを返してくれたが……まったく心に刺さらない、むしろ孫が可愛いお爺ちゃんの気持ちが分かってしまう。


 俺の秘密なムフフデータにこの手の奴あったっけかなぁ? ……そういや友達に貰ったけど開けてないフォルダとかも多かったっけ……。


「まぁいいか……こうしてみると皆行動が違うのな……義体に人格を完全に固定するのも許可するかね……自分の体はやっぱ欲しいだろうしよ……」


 ケモ耳やモフモフの尻尾を備えた獣人や、地球人型や、ドワーフ型の義体も結構いる。


 たが一番割合が多いのはやっぱエルフ型かねぇ……俺は、近くでビーチバレーをする彼女らの弾む胸を見ながら、義体に人格を固定する事の許可をサヨに与えた。


『よろしいのですか! ありがとうございますシマ様、では義体に人格を乗せる許可を得た事で可能になった、『シマ様の別荘に隣接リゾート地を作ろう』計画を発動させます』


 ん?


「まて、なんかすごく嫌な感じがした、なにをどうする気だサヨ、説明をしろ」


『はいシマ様、あの別荘だけでは少し寂しいので、少し距離を置きますが様々な遊びが出来る施設や、買い物を楽しめるお店を各種運営設置しようと思います』


 思ったより普通の事で安心した、さっきの嫌な感じは気のせいだったようだ。


「買い物っていってもさ、別にお金で買わないでもタダでサヨが作ってくれるじゃんか」


『ふぅ……シマ様は分かっていませんねぇ……買い物をするという行為が娯楽でもあるのです……と地球の女子達の生態を調べた時にそんな情報がありましたので参考にしております、シマ様とデートをして何かを買ってもらうというその行為が素晴らしいのです、それにいつかここに外部の人間を招く事もあるかもしれないですし、普通の街のような施設は必要なのですよ』



「成程……つまりお持て成し用かぁ……それはありだな、じゃぁ高級リゾート地でも参考にしつつ色々作っちゃってくれ」


『畏まりました』



「あれ? でも運営ってどうするんだ、さすがにサヨの人格達でも数百かそこらじゃ従業員とか足りなくね? ドローンや程度の低い人工知能のアンドロイドでも作るか? 人権が発生しないやつくらいで」


『ですからそれがさきほど解決したという事です、シマ様から人工知能に義体を作る許可を得ましたので、戦闘艦各種を制御するブレインユニットを義体に乗せて運用する事を彼女らに伝えましたら狂喜乱舞しまして、彼女らの協力もあってリゾート計画を進行させており、すでに義体も数千単位で製造を開始しています』



「まてまてまてまて、戦闘艦の知能を義体に入れたら残った船はどうすんだよ、一々駆逐艦やらとここを行き来させて乗せるのか?」


『……? はて? ……ああ! シマ様、彼女らは元々戦闘艦には物理的には乗っておりません、遠隔操作をするのでたとえ爆散しても大丈夫です、戦闘艦は彼女達にとって剣や鎧のような物で、壊れたら取り換えればいいのです』



「ええ……? まじかよ……人権を得られるような人工知能体が爆散しないように過剰と言われようと大量の戦力を確保しようって覚悟して色々やってきたのに……遠隔操作できるなら全部サヨが動かすとかでも良くね?」


『一つの個が操作をするとどうしてもパターンが出来てしまい、適応体に通用しなくなっちゃうんです、彼らは宇宙に適応したように環境に適応するので適応体と呼ばれていますが、こちらの戦闘パターンが同じになってしまうとそれに適応してくるんです、なので戦闘艦ごとに独立した人工知能が必要なのです』


 なるほど理解はした、理解はしたけど……。


「それはつまり今ある戦闘艦分の人工知能数万人分が義体を得る訳か……まぁ仕方ないか……」


『シマ様数万人分じゃありません数十万人分です』



「はぁ? 一月でアエンデ型駆逐艦8千隻だったんだから、今は2万人とかそんなもんじゃねぇの?」


『建造用ドックを最優先で拡充しても良いとの事でしたので、初期はそれらに注力をした結果、今や生産能力は初期の300倍を超えております、アエンデ型駆逐艦なら一日で8万隻を制作する事が可能ですね、ですがまだ巡洋艦や戦艦、そして弩級戦艦や航宙空母や艦載機、さらに防衛用要塞の事を考えると現状の百倍は最低でも欲しい所です、なのでドック拡充を優先しています』




 ……俺はその数字に呆気に取られてしまった……それだと一日にアエンデ型駆逐艦を八百万隻作れちゃうんだけど……サヨお前どっか壊れてねぇか?




 と思ったが。


 後で聞いたら一番大きい超弩級要塞だと直径3000kmなんだと……そりゃ500mの駆逐艦とは桁が違うわな、すまんかったサヨ。





「そういやさ、銀河ネットでは人工知能がストレス発散をしに仮想空間へと遊びに来ていたんだが、戦闘艦のブレインユニットな彼女らのストレス発散用の仮想空間環境とか必要かね?」


『リゾート地で生身の従業員として働く事がすでに娯楽になりますので大丈夫かと、しょせんゴッコ遊びですので辛い仕事部分とかはありませんし』



「そういうものかねぇ? 金持ちはあえて仮想空間じゃなくリアルで遊ぶって聞いた事はあったけど……この浜辺とか来ちゃうと分かる気がしたよ、昔は俺も全部仮想空間環境に移しちゃえばいいじゃんとか思っていたんだけどな……」


『空間効率や移動時間は段違いですからね、でもやはりこうやって触れ合った感覚は仮想空間と現実では違うのですよ』


 サヨは自分のビーチチェアの上から手を伸ばして隣のビーチチェアに寝転んでいる俺の手を握ってきた。


「なぁサヨ――」

『あー二人っきりでずっるーい、ねぇシマお兄ちゃん私にサンオイル塗ってよー』


 紺色のビキニを着た、義理の妹設定なサヨだと思われる個体が俺のビーチチェアに飛び乗ってきてそんな事を言う。


 いやお前らにサンオイルなんて必要ないだろうに。


 てか人格が義体に固定出来たら名前とかどうすんだろ?


 聞いてみたら全員名前はサヨのままで、派生した人格はサヨの姉妹のくくりに入るらしい、紛らわしくね?


 義理の妹設定サヨにどうしてもと、またあの上目遣いで頼まれたので、仕方なくサンオイルを塗ってやる事にする。


「仕方ないな……じゃ俺が寝てた所に寝ろ、俺も初めてだから上手く出来なくても文句言うなよ」

『はーい』


 そして渡されたサンオイルの瓶の蓋をあけ中の液を……。

 スッと俺の手を黒ビキニのノーマルサヨが握った。


 そのまま何も言わずにいつもの無表情で俺を見てくる。


『……』

「……」


 俺はしばしノーマルサヨと見つめ合う、サヨは何も言わなかった。


「あー義理妹設定のサヨさんや、先にノーマルサヨにサンオイル塗ってもいいか?」

『えー? ……あーうん、じゃぁ私二番目ねー』


 うつ伏せから振り返った妹設定サヨは、ノーマルサヨの、まだ俺の手を握ったままの手を見ると苦笑しながら許してくれた。


「ほら、背中を向けて寝転べよサヨ」


『シマ様は、私に初めてのサンオイルを塗りたくてたまらないのですね?』



「あーうんうん、そうだな俺はサヨにサンオイルを塗りたくて仕方ないからはよ寝ろ」


『ふふ……仕方ないですねぇシマ様は、ではよろしくお願いします』


 サヨは背中のヒモを外してビキニが落ちないように手で押さえつつうつ伏せに寝る。

 その横顔はいつもの無表情ではなく、うっすらと笑みを浮かべていた。


 ったくしょうがねぇ奴だなこいつは……。


「じゃいくぞサヨ」


『はいお願いします、ああ……私とシマ様はお互いの初めてを経験するのですね……』



「だから言い方ぁ!!!」









 そして俺は、その後に続いて百人にサンオイルを塗る事になるなんて予想出来る訳もなく、緊張しながらサヨの肌にオイルを塗っていく。


 生体パーツとやらを使っているから、手触りは人と変わらんらしい……。


 その日はお休みが一日なのにやけに長く感じた訳だが、そうした中で初めて疲れ知らずの強化措置を受けておいた事を感謝した、いやまじで。



 所で惑星の調整をしているのはサヨなので、お日様の向きをお昼頃のままにしつつ一日を50時間とかにも出来るらしいよ……。



 ……やけに長い一日だとは思ったんだ……。



 あいつらが楽しんだのならいいけどさ。

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