第5話 星の最後とベッドの弾力
『シマ様は別に見ていなくてもよろしいのですよ?』
そう椅子に座る俺に言ってくるのは、金髪ロングエルフの義体を動かしているサヨだ。
今日は巫女さんの恰好をしているので、和紙でその長い金髪をうなじ当たりで纏めている。
でも中身の人格はノーマルサヨらしい、いやまぁ俺がまだ義体にそれぞれの人格を固定で乗せるのを許可してないせいもあるけど、他の人格は権限が低かったりで仕事をする時に不便なんだよ。
「俺が命じた事だからな、俺が見届けないといけないんだよ」
『さようですか、ではモニターに光量を落として映し出します』
いつもの狭い部屋の中だ。
一応これがCICってーか指揮官室? って事になるのだが、旧銀河帝国の人らはフィギュアくらいの身長だったらしくて狭いんだよな。
今は色々な施設を俺が利用しやすいように改装をしていっているが、この部屋は後回しでいいかなって、まだ10畳くらいの部屋のままなんだ、そのうち手をつけないとな。
ちなみにこの部屋にはまだ椅子が一つしかなく、サヨはいつも俺の横に立っている。
たまに疲れたと言って人格を変えて俺の膝の上に乗ってくるが……自分の椅子を用意しろと言っても聞きやしねぇ。
そんな狭くて椅子が一つしか無い部屋の空間投影モニターには、光を抑えて映し出した恒星が少しずつ空間に飲みこまれているのが見える。
俺の乏しい知識だと、恒星にこんな影響を与えたら爆発するとかブラックホールとかになりそうなものなんだが、まったく様子が変わらず只々恒星が欠けていくのが判る。
「これでこの恒星系は銀河から存在しなくなる訳だな……エネルギー的にはどうなんだ?」
『そうですね……濃厚でまったりとしたヘリウムや水素はとてもタフで味わい深く、中心部での原子核の融合は軽さも備えたみずみずしさを感じます、ここ数億年でも最も良い出来で、これぞまさに『恒星』と言えるのではないでしょうか』
「ワインかな?」
無表情なサヨのジョークを聞き流しつつも、恒星が消えていくのを見送った……。
俺が命じて俺がやった事だ、それは忘れないでおこう。
『これにて銀河系外縁部にあった『名無しの恒星系踊り食い作戦』の終了を宣言します! では2次会に行きましょうかシマ様』
「言い方ぁぁ!? ……サヨさんさぁ……もう少しこう感慨深いものが湧き上がってきたりしないの? 一つの星が消えたんだぜ?」
『シマ様は毎日食べるご飯に感慨深くなったりするのですか?』
「んやそれは……ハァ……サヨには慣れっこだからいつもの事って感じか、これで何個目なんだ?」
『初めてですね、といいますか私に生命体が乗ったのはシマ様が初めてになります、補給艦部分は自動工房で作られたので製作者も乗っていませんし、結局誰にも使われずにいましたから』
「へーそうなのか……って初めてなのに恒星飲みこんで淡々としてるんだな、もっとこう何か無いのか?」
『いえ特に何も……むしろ私の初めてを奪い続けるシマ様に興奮してしまいますね、シマ様には責任を取ってずっと私に乗っていただかねば!』
「だから言い方!! この破廉恥巫女が!」
『……何故宇宙船に乗艦する事が破廉恥なのでしょうか?』
む? ……どうやら俺の心が汚れていたようだ。
「すまんサヨ、ちょっと勘違いをしてしまった、謝るよ……2次会にいくか……頼むよサヨ」
『了解しましたシマ様、ではマーカーをしておいた恒星系へと向けて長距離ワープを開始します、ワープ終了までの所要時間は97分になります……丁度良い長さの休憩時間ですし私に乗りますか? シマ様』
「お前やっぱり分かってて言ってんじゃんかよ! 俺の謝罪を返せ!」
――
――
『シマ様、もう後3分程でワープアウトします』
サヨの言う通り、空間投影モニターのワープ所要時間用のカウントダウンは、残り180秒を切っていた。
「ワープ制御ご苦労さんサヨ、もう到着か、集中してたら意外と早く感じるな」
『ええ、シマ様と一緒にベッドの弾力を確かめる時間はあっと言う間でした、ポッ』
巫女服姿のサヨは両手を自分の頬にあてて頭を振って恥ずかしがっている、が表情は無表情だ。
「だから言い方ぁ!! 新しく作る別荘の内装をどうするかの相談だったよねぇ!? なんでベッドだけ実物を出してきたのかと思ったらそのネタを言いたかったからかよ!」
『でも一緒にベッドの弾力を確かめましたよね?』
「お前がちょっと手で押してみて確かめて下さいって言ったからだろう? ネタのためだけにベッドとか作るなよ……というか前々から思ってたんだけどさサヨ」
『なんでしょうシマ様』
「お前補給艦っていう割に何でも作れるよな? 駆逐艦から空母から俺の部屋の内装からご飯からお菓子から玩具から服から何から何まで……幅広過ぎじゃねぇ? こう、なんていうか、戦艦の補給艦って弾薬とか燃料を補給するもんなんじゃねーの? まぁ今更な質問なのかもだが」
『私は兵站用補給艦ですよシマ様』
「だから補給艦だろ?」
『兵站用です、戦闘を維持するために都市や国すらを支える事の出来る存在、それが私こと兵・站・用補給艦サヨウナラなのです、シマ様の全てを支える事が出来る力を授けてくれた製作者に、私は感謝をしております』
サヨがその綺麗な青い目で真っすぐと俺を見つめながらそう言ってくる。
なんでこんな時だけ無表情じゃなくて微笑してんだよ……すっげぇ可愛いじゃんか……。
なにかこう真剣で一途過ぎてムズムズする……だが見た目は巫女服だった!
胸のドキドキがちょっと落ち着いたわ。
「これからも頼むよサヨ」
『はいシマ様! これからも、お早うからお休みまでずっとお支えします!』
「あ、ああ……まぁほどほどにお願いな」
『歯ブラシから、ブリーフから、ジャージから、朝ごはんから、玩具まで何でも作っちゃいます』
「う、うん、頼りになるなぁサヨは」
『お昼ご飯から、トランクスから、ソファーから、紙の漫画から、お茶までまかせて下さい!』
「ん? おれ下着を替えるのか?」
『夕ご飯から、えっとえっと……シマ様もっと趣味を増やしたり仕事をして下さい!』
「なんで俺は今怒られたの? 思い付かないなら言わなきゃいいのに……」
『パジャマから、お風呂用具から、ふんどしから、ベッドから、掛布団から、なんでもいけます!』
「うんうんサヨはすごいなぁ、だからそろそろワープ制御をですね……ほらそこのモニターのワープ所要時間カウントダウンがマイナスになってるのがすごい嫌なんですけど……そしてまた下着をの?」
『ふぅ……そして最後は棺桶を作りますね……ぅぅサヨウナラククツシマイ様、なんかこう繋げると私とシマ様が結婚したみたいですね、キャッ!」
頬に手をあてキャッっと恥ずかしそうな声を出しつつもサヨは無表情だ。
「俺死んでるじゃんか! そして名前、苗字、名前の順番で合体しちゃってるじゃんかアホサヨ、いいからワープアウトしろよ!」
『了解しましたシマ様……おや……予定の位置より遠くまで来てしまい、このままだとブラックホールに飲みこまれますね』
「はぁ? ちょ! 大丈夫なのかそれ!?」
『実は恒星一つじゃ物足りなかったので、ついでにこれも食べてしまいしょう、あーんぱくりっ、このまったりとしてコクのある超重量は豊かで上質な味わいを届けてくれます、そしてここ数億年が凝縮した空間はまさに『ブラックホール』といえるのではないでしょうか? 偶然こんな美味しいデザートに飛び込むなんてラッキーでしたねシマ様?』
「ワインかな? ってお前絶対に故意にやってるじゃんかよ!! そういう事は俺に許可を取れって言ってるだろー-! お前やっぱどっか壊れてるだろ!」
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