第9話 初めての獲物はクリオネだった、天使? やつらの飯の食い方を見てみなよ。
『3・2・1・長距離ワープの最終段階を終えます、目的予定の星系外縁部に無事到着しました』
サヨの報告を聞いた戦闘指揮室内の皆の緊張度が高まる。
そりゃこれから戦場に着く訳だからな。
この共闘作戦の最初のワープに入った時に、俺の別荘の事を知ったクレア少佐達だったが、詳しい話は作戦が終わってからにという事になった。
さすがにお仕事中に別荘惑星に連れていく訳にいかないからね。
クレア少佐と少し話し合い、サヨの性能の話は皇帝陛下とその側近だけに伝える事にした。
通信を使うと伝言の為に人を何人も間に挟む事に成り、途中で話が漏れる可能性があるので。
この作戦後に本星に帰ったら、クレア少佐が直接情報を皇帝陛下に奏上する事になった。
側付き部隊には一旦口止めがなされ、そのうち正式な命令として、口外禁止令が下されるだろうとの事だった。
どうもクレア少佐って皇帝陛下の遠い親戚なんだとか……継承権はすっごいすっごい低いと笑っていたけどね。
……いや、普通の人は皇帝になれる継承権なんて持って無いんですけどね?
軍部には旧銀河帝国の遺産用の修理用部品なんかを提供する事にした。
それで十分に価値を認められるらしい。
戦力になる遺産の適合者とかもそこそこいるらしいし、それらが修理されて実力を完全に発揮出来れば、軍としても有難いんだって。
「第8艦隊から通信が来ました『予定通りここで先発隊の戦果の報告を待つ』だそうです」
「周囲に敵影無し、先発隊はすでに適応体との戦闘を開始している様です」
「先発隊から第8艦隊への通信内容ですが『俺達が勝った後のゴミ拾いをしっかりやれよクソ共』だそうです」
「この星系は第1から第10までの惑星が存在し、現在第8惑星の軌道あたりで戦闘をしているようです」
戦闘指揮室の下部に居る通信士達から一斉に報告が来る。
ワープ中は通信出来ないからな、通常空間に出た今は周囲との情報のやり取りで忙しくしているみたいだ。
……まぁ先発隊なんて言っているが、あの狼獣人の操る、旧銀河帝国の遺産である巡洋艦が一隻だけなんだけどね……。
「クレア少佐、確か適応体の残骸は貴重物資の宝庫なんでしたっけか?」
横に座っているクレア少佐に聞いてみた。
俺がサヨに聞かなかった事でサヨがちょっと頬を膨らましているが、これもコミュニケーションの一部なんだと後で説明しておこう。
「はいククツ艦長、奴らは脅威であると共に大変美味しい獲物でもあるのです、ですがその生態が仲間以外には攻撃的になるという時点で殲滅させるべき敵になる訳ですが……この艦隊も実はそれらの残骸の回収部隊を兼ねているんですよ」
『先発部隊からの戦闘映像が来た様です、映します』
サヨがそう言うと、空間投影モニターには戦艦からの映像と、恐らくズームした敵の映像がいくつも映し出された。
ビームを打ち合っているそれらは……。
「前に見たアジ型適応体の資料映像と違うな、戦闘機っぽいというか……魚と言えなくも無いか? まぁ正直言って不味そうとだけは言える……下手なゾンビ映画とかよりきもいし、でも順調に倒しているみたいだな、さすがはサヨと同じ遺産の巡洋艦って所か……見た目もうちのとは違うしな」
うちで作っているビリアル型巡洋艦と、見た目が違う気がするんだよね。
映像の角度的に全体像が見えている訳じゃないんだけども。
『確かにうちのとは違いますね』
サヨも違いを認める様だ……やっぱり違うのか……。
そりゃ、あの狼獣人もすげー偉そうだったしなぁ……力の違いを見せつけられるのはサヨも悔しい事だろうて……。
『あれは何世代か前の物ですね、ブレインユニットが古いタイプなので修理等の運用に人の手が少し必要らしいです、私はシマ様に会うまでずっと銀河ネットの底で微睡んでいたので情報としてでしか知らないですけどね』
ん? ……おや?
「え、まってサヨ、てことはあの巡洋艦って……どの程度の強さ?」
俺の質問にサヨは少し考え込んだ。
性能的に一瞬で答えは出ているのだろうけども、人間っぽい仕草をするのが好きなのだこいつは。
そうやって人間であろうとするサヨを好ましいと俺は思う。
『うちのファイヤーフライ型のスクィード2号なら二機居れば同等か少し有利でしょうか? 実際に戦ってみないとなんとも言えませんが』
サヨは、何事も無いかのごとく、そう伝えてきた。
まてまてまてまて……スクィードって戦艦ですらねーじゃんか!
うちの航宙空母艦であるダストトレイル型に乗せる戦闘機じゃんかそれ!
えっと……2号だから対艦装備型か?
大きさでいうとアエンデ型駆逐艦の十分の一以下だよ?
「まじか?」
『まじですね』
「まじかぁ……」
『まじですね』
「じゃぁうちのスクイード戦闘機とかを軍に提供とかって可能か?」
『出来ない事もないですがブレインユニット達が行くのを嫌がりますよ、かといって人だけで操縦すると戦力が下がりますし、彼女らはシマ様にお仕えしたいのであって、他の人の元へ行けなんて言ったら……ストライキが起こりますね、それに器だけを渡すにしても彼女らにしたら愛着のある物であって……そうですね、シマ様が彼女達に『お前の今履いている下着を軍に渡すからよこせ』と命令をするような感じになります』
なるほど無理な事は分かった……分かったけども!
ねぇサヨさん? 今なんでそんな下着とかって例えにしたの?
前は確か武器や鎧に例えてなかった?
今の下着のくだりで、俺を見る周りの目が少しおかしくなったんだよ?
ここで『俺は絶対そんな事言わねぇよ!』とか言ったら。
絶対にサヨは、前に俺がパンツを寄越せって言った時の映像を、誤解されるように編集してここにいる皆に見せると思うんだよな。
だってサヨの表情がワクワクしていて、俺の突っ込みを待っているのが分かるんだもの。
他の人が今のサヨを見たら無表情だと思うかもしれないが、付き合いも長くなって来た俺には分かる。
これは悪戯がしたい時の表情だ、なのでそんな釣りには乗ってやらんからな?
「ククツ艦長、さきほどの発言を聞くにククツ艦長は、あのアホ狼獣人の持つ巡洋艦と同等の戦力を持って居るかのように聞こえたのですが……」
ん?
サヨと無言の駆け引きを兼ねた睨めっこをしていた俺に、クレア少佐が語り掛けてきた。
でもクレア少佐おしい、ちょっと違う。
「そうなりますね、まあ軍には提供出来無さそうですけど」
「肯定してくれただけで十分です、それならあのアホ狼獣人にでかい顔をされないで済みますし、あんなでもあの巡洋艦一隻で皇国軍の最新鋭戦艦数隻を相手にしても勝てる強さを持っているんです」
……どうしよう、俺が軍に提供云々で名前を出したのは、空母に大量に搭載する戦闘機のうちの一機とか言えない……。
「そうですか、ではクレア少――」
「ククツ艦長! 第8艦隊から緊急連絡です! 第10惑星の影から適応体が出現、最低でも1000体以上はいるそうです!」
俺がクレア少佐に話し掛けようとした時に通信士から報告が入る。
空間投影モニターに映っている先発隊の戦いは、まだ尚も続いているが、敵は順次出現していて数は多くても3体程度だったように思う。
つまりあれは本隊じゃなかった?
戦術的に適応体がそういった動きをしたのだろうか?
いやそんな動きをしてくるような敵なのか?
偶然こちらに来たのだろうか……うーむ……。
『ふぅ……ダメダメ艦長はすぐ思考の渦に囚われてしまうんですから…‥シマ様攻撃許可を、あの形の適応体はクリオネ型で、アジ型などより小さく高機動で火力が低めな戦闘機だと思って下さい、なので対クリオネ型適応体用のスクィード1号を出しましょう』
「ん? ……ああ、そうだな、何機出せばいける?」
『200も居れば万全でしょう……いえ500でいきましょう、彼女らの立候補の声がすごいので……』
サヨがそう言うと、俺の前の空間投影モニターには文字が一斉に流れて乱舞していた。
『シマ様! 是非私に出陣許可を!』
『お兄ちゃん私が行くからね!』
『ふっ私の右手がうずいている、はやく許可をくれないと悪魔が解放されるよ?』
『私がシマ様に勝利を捧げてみせます』
『初めての戦闘ですし、ここはあたしが!』
『絶対出るからね! 早く許可を下さい!』
『シマ君にいいとこ見せるチャンス!』
『出る』
ワーワーキャーキャーとスゴイ速さで大量に流れる文字……。
俺の反射神経や目が強化されていなかったら見逃しちゃうね。
そういや戦闘機のブレインユニットって何万人いるんだっけか?
今は防衛用要塞を作る方にシフトしてるから、そんなに増えてないとは思うんだが。
てーか地球の情報からサンプルを得てランダムで生成した性格らしいのだが……。
個性あり過ぎじゃね? ランダムでこんな性格を生成出来る物なのか?
取り敢えず、戦場に出る奴を決めてあげないといけないか……。
「サヨ‥‥‥俺の前のモニターに、出撃を希望している子らのマーカーを大量にループして流せ、俺が触った奴が当たりな」
『了解しました……ではどうぞ』
俺の前の空間投影モニターには、左右から上下から大量の戦闘機を模したエンブレムの様な物が流れ出した。
俺は特に狙う事もなく、適当にポンポンと空間投影モニターに指を刺していく。
空中投影なんで指がモニターを突き抜けるけど気にしない。
空間投影モニターには俺の指が触ったエンブレムの当確人数がどんどん増えていき、パッっと刺すのを止めた時には536の当たりが出ていた。
そしてまた空間投影モニターには、喜びと悲しみの文字達が大量に流れる……外れの子が圧倒的に多いのは仕方ないよね。
「ククツ艦長、第8艦隊司令部は撤退を決めました、3星系程後退をして応援を呼ぶそうです」
「続けて通信きました、補給艦サヨウナラには先駆けて逃げるようにとの事です」
通信士からそんな連絡が入るが……。
へぇ、この艦隊の司令官は俺を先に逃がそうとするのか……。
「クレア少佐、この艦隊の司令官ってどんな人か知っていますか?」
「司令官ですか? 所謂叩き上げの軍人という奴ですね、なので名だけの縁故採用な貴族系軍人の事を批判して、このような危険な任務をいつも押し付けられるお爺ちゃんです、前に何度も会っていますが、私には優しかったですよ?」
「そうか、なら助けないとな……通信士! 第8艦隊に連絡をしろ! 我補給艦艦長ククツはその全力でもって皇国に仇名す適応体を討つ、と、平文で艦隊全てに傍受されても良いようにな」
「了解しました艦長」
通信士が俺の命令通り通信をしていると、クレア少佐が心配そうに話し掛けてくる。
「よろしいのですかククツ艦長? 敵は最低でも1000体です、敵の数が増えれば増えるほどこちらに被害もあるので、最低でも敵の3倍の戦力を揃えるのが皇国の基本戦術で……今回の情報では敵の数は多くても50程度と言われていたのですが……」
なるほど、だから第8艦隊は200隻そこそこの数なのね。
これでも事前情報の数なら余裕をもって対応できる数なのか。
まぁ俺も初めての戦いだが、サヨがいけると言うのなら大丈夫だろ。
「本艦の指揮権を艦隊司令部から自身に戻すと伝えろ」
俺はクレア少佐に命令をする。
元々俺は自由に動けるんだが、軍のメンツも考えて常識的な命令なら貴方達に従いますよと、指揮権を艦隊司令部に渡していたのだ。
クレア少佐は俺の真剣な表情を見ると、すぐさま通信士に命令を飛ばす。
そして。
「第8艦隊司令部から通信! 『我らは貴艦の後ろに集結をする、射線は開けるので好きに動け』だそうです」
わぉ、撤退から一転、俺を全面に押し出してくるか。
信用できるか判らん小僧のたわごとに合わせてくるとか……叩き上げのお爺ちゃん司令官か……。
「適応体との距離はどうか」
俺はサヨに問いかける。
『第8艦隊の足の遅い艦に追いつきそうです、ですがほとんどの艦は我が艦を迂回して後方に逃げているので、こちらの戦力が自由に動けるスペースがあるので、いけます』
「さきほど抽選に当たったスクィード1号を出せ、そして蹴散らして来い!」
『では彼女らを発進させます』
サヨのその言葉と共に、空間投影モニターには、サヨの本体である補給艦の周囲に空間歪曲場が発生をして、ニョキニョキと空間から戦闘機が生えてきて次々と飛んで行くのが映し出される。
そして戦闘機部隊は一気に第8艦隊の一番最後尾にまで追いつくと、今まさに攻撃を仕掛けようとしていたクリオネ型適応体に攻撃を開始する。
そうして、敵も戦闘機タイプなので、壮絶なドッグファイトが始まる。
スクィード型はイカの頭の様な三角型で、背後にいくつもあるバーニアから光の帯が伸び、まるでイカの足のように見える。
「こんな時に不謹慎だが光の軌跡が綺麗だな……」
『そうですね、戦果は9:1でこちらが有利です』
「む? 10じゃないという事はこちらもやられたのか? それならもっと多めに出した方がよかったんじゃ」
『多く出し過ぎても味方同士が邪魔になるのですシマ様、やられても器だけですから、それよりも声を掛けるなりして励ましてあげて下さい、士気が上がればもっと戦果が上がるはずです』
いやそんな事あるのか? まぁサヨが言うのならやってみるか……えーと……。
「頑張れ皆! 頼りにしてるぞ!」
……。
『戦闘力が5%上がりました、効果は今ひとつです』
なんだとぅ! むー……それなら!
「敵を撃墜した者、味方を上手くフォローした者なんかに……兎に角後でサヨに戦闘を採点してもらって、成績の良かった順にシマポイントを進呈するぞ! シマポイントは100点集めたら俺に何かご褒美をおねだり出来るシステムにするつもりだ、お菓子でも洋服でもどんとこいだ!」
咄嗟の事だったので、地球にあるサービスで、食べ物についてくるサービスポイントとかをイメージして適当な事を言ってしまった。
さすがにこんな事じゃだめかな?
それにご褒美って言っても、ブレインユニット達には補給艦内専用通貨でお給料は払ってるし、内部用のお店でお菓子や服とかは買えちゃうんだが効果はあるかね?
専用通貨っていってもデータ通貨で実態は無いけどね。
……。
『戦闘力80%アップしました、勿論そのシマポイントは私に最初に頂けるのですよね? シマ様?』
「ん? ああ……うん、そりゃサヨが一番頑張ってるからな、サヨにはシマポイントを100点進呈だ」
『ならいいです、彼女らの採点頑張りますね! ではモニターに詳しく戦況を出します』
今まで望遠での映像だったものが、戦っている戦闘機からの映像になり。
しかも彼女らの叫び声なんかも聞こえて来るようになった。
『デートデートデートデート』
『あ! それ私の獲物!』
『フォローでもポイントになるのなら!』
『ほらほらどんどん来い私の戦闘機はあーまいぞー』
『そっちの戦闘機は苦いわよ! こっちに来なさい!』
『シマ様の膝枕シマ様の膝枕』
『ヒャッハー突撃だー』
『こっちはシミュレーターでお前らを何千って落としているんだよぉ!』
『ここは手を組むのがいいと思うのよ』
『そう言いつつ貴方さっきから私を囮にしてるじゃないの!』
『お菓子食べ放題するんだから!』
うん、カオスだな……。
俺は何も発言せずに、そっと空間投影モニターの音量を下げる事にした。
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