第61話 お見合いはこんな感じ!

「ほほう、つまり全ての樹人が自然の中が最高という訳では無いと?」


【はい、自身がすでに自然を体現しているので周囲も同じである必要は無いのです、なので私はこの場所が好きに成りました】



 ガチャガチャと音を響かせながら会話をしていく俺達。



「くっ! このっ!」


【てぃ! やぁ!】


 今俺は、サクラのお姉さんの一本……一人とお見合いという名のデートをしている。


 堅苦しい物よりも一緒に遊んだりする事でお互いを知りたいという、彼女達の願いを叶えた形だ。



 そうして。



「ゲージが溜まった、必殺技いくぞ! もぐら波動砲!」


【甘いですククツ様! こちらも、アルマジロ縦横無尽斬!】


 く……俺の攻撃を食らいつつも、此方に突撃して来たサクラのお姉さんのキャラに吹き飛ばされる俺のキャラクター。



 そして……。



「……負けました……中々やりますねクロッサンドラさん」


【ククツ様こそ中々の腕でした、私も危うい場面が幾度も有りました】


 対戦格闘ゲームの台に並んで座っている俺達は、互いの健闘を称えつつ会話を交わしていく。


 仮想空間内のゲームで思考操作も出来る世界なのだが、やはり格闘ゲームはアナログなスティックとボタンでやるべきだな。


 そういう思いの人は多いので、要塞都市の観光地区に建てた生身で遊ぶゲームセンターはそこそこ人気がある。


 そんなゲームセンターで、サクラのお姉さんであるクロッサンドラさんと、お見合いな交流をしている所という訳だ。



「クロッサンドラさん、もう一戦やりますか? 次は操作キャラを変えて」


【望むところですククツ様、私の持ちキャラはあれだけでは無いですよ? いざ】


「【勝負!】」



 ……。



 ……。



 ――



「はぁ……負け負けだ……」


 結局あの後格闘ゲーは言うまでも無く、他にもパズルゲーでも負け越した。

 あそこであの連鎖が決まってりゃなぁ……。


【ククツ様は頑張りましたよー、よしよし……】


 ここは要塞都市の観光地区部分に、一休み出来る様にと設置した自然公園の中のベンチだ。


 そこでサクラのお姉さんの一人であるサルビアさんに、膝枕をされながら頭を撫でられている。


 バブミを感じるなぁこの人には……。


 今日はお見合いデートの日だからね、時間ごとにサクラのお姉さん達と、こうやって順番に二人で会って行く訳だけど。


 サルビアさんは公園でノンビリする事を選んだ。


 あ、ちなみに護衛は見えないけど居るはずです。


 時たま歩いている観光客に気付かれながらも膝枕は続く……いや? 根っこ枕というべきか。


 実はちょっと頭の下がゴツゴツとしていて堅いのだけど……サルビアさんがこちらに来てから人類社会学で習った膝枕に興味を持ったみたいでさ……。


 まだ俺用の変態がそこまで進んでいないから、柔らかいフトモモとか無いのにね。

 付け根部分は柔らかいっぽいのだが、この姿勢だと根の部分になってしまう。


 ……それにしても俺用の変態が進むって字面は酷いよな。


 まぁゴリゴリとした枕を楽しみつつ、上からこちらを嬉しそうに覗き込んで来るサルビアさんと雑談をしていく訳だ。


 まぁお胸様が邪魔で顔がほとんど見えないんだけどね。



「風が気持ちいいですねぇサルビアさん」


【はい、故郷を思い出します……】


 この都市は要塞の内部に作られた密閉都市だから、天井の青空も投影された物で風も人工の物なんだが。


「故郷に帰りたいと思いますか? サルビアさん」


【ふふ、今はククツ様の御側にいさせて下さい……故郷へは……二人の間に種が出来たら、長に見せに行きましょう】


 あ、はい……サルビアさんの変態が進んだら人型の子供を産みそうなんだが、表現は樹人のままなのよね。


 ……まさか種で生まれる?



 よし……深く考えるのも調べるのもやめておこう。



 ……。



 ……。



 ――



【わーすごいですねぇククツ様……まるで自分が海の中に入っているみたいです】


「この水族館の設計は有名な魚人の建築家にお願いしたらしいですよ、ナノハナさん」


 水槽の設置の仕方とかが独特で面白いなぁとは思う。


 俺は今サクラのお姉さんである樹人のナノハナさんと、要塞都市の観光地区に建てた水族館に来ている。


 まぁ実は銀河ネットにフルダイブしちゃうと、同じ様な電子水族館とかがあって、もっと見た目が派手ですごい感じではあるんだけども……。

 ここは本物の魚貝類を展示しているのが、すごいっちゃーすごいか。



【わ! わ! ククツ様ククツ様! あそこ見て下さい! 可愛いですねぇ】


「おータツノオトシゴの様な……え? 可愛い? あ、はい、カワイイ……かも?」


 さっきからナノハナさんが可愛いと言って指さす相手がこう……ちょっと一般からずれている気がする。



 まぁ人それぞれか。



【あっちも見に行きましょうククツ様! あれもすっごい可愛い!】


 そう言ってナノハナさんは俺の手を取ると歩く速度を……根っこを動かす速度を上げた。


「はいはい、アンコウは逃げないですよーナノハナさん、向こうのチンアナゴも見に行きませんか」



 ……。



 ……。



【むぐむぐ、美味しい気がします? もぐもぐ】


「それは良かった、一杯食べていいですよナノハナさん」


 この水族館の売りが、なら、お金を払えばなんでも食べる事が出来る、という物だからな。


 樹人の食事って食べた後にどうなるんだろう……もう内臓まで変態してるのかなぁ?



【次は、あの可愛かった奴を食べてみたいです!】


 可愛いからこそ食べちゃいたいという事なのだろうか?



 ……俺は食べられないからね?



「了解ですナノハナさん、タツノオトシゴの唐揚げを注文しておきますね」


 そうしてネットで注文をしていく俺だった。

 ちなみに運んでくれる店員さんは学園都市の生徒っぽかった。



 ……。



 ……。



 ――



【次は何が来るでしょうか?】


「んーこういうのは勘でいいんですよナナカマドさん」


 俺は今サクラのお姉さんである樹人のナナカマドさんと、要塞都市の観光地区に建てたカジノへと来ている。


 そして今はカジノの定番であるルーレットをやるべく、横並びで座ってワイワイと少額のチップを賭けて遊んで居る。


 まぁ自分の持ち店のカジノだしな、遊び以上の意味はない。



【むむーん、じゃぁ7番で!】


「はいはい、7番に一枚置いてっと」


 俺とナナカマドさんはルーレットを楽しんでいるが、周りの観光客達は結構本気というか……すごい熱気に溢れているテーブルもある。


 まぁ庶民の観光客が負けても、要塞都市内で使えるだけの電子マネーが消えるだけだしな。


 このカジノでは俺が配った限定的な金を使うか、お金持ちの観光客以外は自分の金を使えないルールにしてあるし。


 ここで勝って限定電子マネーを増やす事で、お土産購入資金を倍にしたいとかそういう事なのかなぁと思う……。


 まぁ好きにすりゃいいとは思うんだけどね、家族丸ごと招待で来ているのに、子供ほったらかしは良くないと思うんだよね……この辺は後でクレアやサヨに相談するか。



 お、当たった。



【あ……当たった! 当たったよククツ様! やったー!】


「おめでとうナナカマドさん、次は何処に賭ける?」


 一点賭けで当たるとはな……中々の勘だ。


【……あ、それならククツ様】


「なんですかナナカマドさん」



【ククツ様も賭けますか? 私ばっかり選んでるとあれですので……】


「いや、俺はナナカマドさんが楽しんでるのを見ているだけで良いですから、気にしないで大丈夫ですよ、俺は貴方を見守っていますので好きに賭けちゃって下さい」



【ありがとう御座いますククツ様……実は私の名前を頂いた後に地球の文化を勉強したんです……今のは花言葉を使いましたね? ふふ】


 あら、ばれちゃったか、名付けをする時のサヨが出してくれた資料の中にそんなのもあったからな。


「俺の故郷で言われているナナカマドの花言葉を少しもじった物ですね、俺が貴方に名前を付けた時のデータに載っていたんでちょっと使ってみました、まさか地球なんて田舎の文化まで勉強しているとは思わなかったので、少しびっくりしましたよ」


 アリアード皇国からすると、地球はまだ皇国に編入してからそれほど時間もたって無いし、ド田舎って扱いだからな。


【……ククツ様は一万人の樹人一人一人に付けた名前の、そんな細かい所まで覚えているのですね……あの後で自分の名前を調べてみた時に花言葉という文化が有る事を知りました……ねぇククツ様……】


 ナナカマドさんが目をウルウルさせながら話し掛けて来る。



「なんですかナナカマドさん?」


【私、ナナカマドはククツ様をさらに好きになりました……】


 そう言ってナナカマドさんは横の席から、俺の腕を両手で組んで来た……そして目を瞑りそのまま俺の肩に頭をコテンッっと乗せて来る……。



 あの、ルーレットのゲーム中なんですがそれは……。



 ディーラー役のサヨ姉妹も呆れているし、テーブルの他の観光客は砂糖を吐く様な表情をしている。



【……】


「……」



 ……まいいか、俺は動かせない左腕はそのままに、右腕で適当な数字にコインを全賭けしていくのであった。



 ……。



 ……。



 ――






 ちなみに、すっごく珍しい事に俺の一点賭けが当たり、ものすごい量のチップを手に入れた。


 まぁでも、使い道ないんだけどねこれ……カジノのオーナー俺だしな……。


 勝つ意味の無い時に大勝する俺の話を後で聞いたサヨは、何故かウンウンと頷いていた。


 何を納得してんだよサヨは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る