第62話 きゃんぷ
「おおおおおお火だぁ……」
人間種である男の子が、目の前で燃えている焚火に興奮している。
「近寄ると火傷しちゃいますからねー、それ以上は駄目ですよ~」
燃えている日に手を出そうとしていた男の子に、サヨ姉妹の一人が注意を呼び掛けている。
あの子は確か……男の子のデータを呼び出してみると。
とある恒星の第七惑星の周囲を回る小天体から、資源を得る為の発掘基地の住民だった。
そういった小規模の基地になると、空調管理の問題から火は一切使えないとかあるからな。
もしかしたら何かが燃えているのを、近くで見るのは初めてなのかもしれない。
そして他の場所へと目を向けると。
「これが天然物の食材……ごくりっ……本当に自分で切り分けていくんですね……」
頭にピョコリと耳があって尻尾を機嫌よく左右にフリフリしている女の子が、ブレインユニットの一人が調理をしている天然物のお肉の塊を見てびっくりしている。
んとあの娘は……データを呼び出してみると……とある惑星の周囲を回る衛星上の都市に住む住民だね。
惑星上じゃないと牧畜なんてめっちゃコストがかかるから、天然物の肉なんて初めて見たのかもしれない……。
そもそも調理という行為が一般的じゃない地域とかあるっぽいからなぁ……田舎である地球はむしろそういう調理の文化がまだまだ残っている場所っぽいし。
俺は婆ちゃんがたまにやってたから知ってるけども、地球もあと何百年かしたら自炊文化も消えてなくなるのかもな。
あと実はこの超弩級要塞の中に作られた観光用の要塞都市では、こっそりと天然物の食材を使っている場所もあるので、滞在している間に観光客はそれを食べているはずだ。
……だけどあの肉食系っぽい獣人娘の様子だと、普通にホテルやらで出ていた飯は培養肉だと思っているのかもな。
そんな訳で、今俺は子供らと一緒に大規模なキャンプの体験をしている所だ。
実は先日の樹人の姉さん方とのお見合いで、観光都市にあるカジノに行ったんだけどさ。
家族ごと無料で招待した人達の中で大人だけがカジノですっごい楽しんでいて、子供らが放置気味な人達が結構居るみたいでさ……。
カジノは大人の皆が楽しみにしているから禁止にするのもあれだし、子供を預かって楽しませる何かを考えないとなーという事で、ちょっと試しにこんな事をしている訳だ。
要塞都市の中に作られていた人工的に作られた自然公園の中で、BBQキャンプを子供達を預かる感じで募集してみたら……あっという間に定員が埋まった。
やっぱ家族で来ていても、ずっと一緒だと楽しめない事もあるっぽいな。
ほら、ブレインユニットはそういった家族的な観点が薄いから、意見とかに出てこなかったんだよな、俺やクレアなんかの側付きが気付かなかったのも悪いんだけどもさ。
そりゃお母さんが楽しむ美容マッサージとかだと、夫や子供は楽しめないし。
逆に子供が楽しむ遊園地とかだと、暇だと感じるお父さんも出ちゃうよね。
人工的な自然公園とはいえ、土の大地の上で焚火を燃やしたり、天然物の食材を使ったBBQなら思い出としては十分だと思うんだよね。
帰ったら友達に自慢できるんじゃないかな?
地面にテントを自分達で張ってそこに泊まるとかも、宇宙施設に住んでいる子達だと、物語の中でしか見た事が無いんじゃなかろうか?
宇宙ではそもそも土の地面すら貴重だからねぇ……宇宙基地とかにある高級な保育園とかになら人工砂場とかがあるらしいけど……。
俺はそんな事を考えながらさらに他に目を向けると……。
「ずごい……まさかごごの土は天然物を浄化しだ……」
大地の上でなにやらブツブツと振動によって声を出している子供? がいる。
えっとあの子は確か……データを呼び出すと、鉱石系種族の貴族が治めるスペースコロニーの住民だね。
あの子も鉱石系の人種で……しかも形が人型でないので、実は寝転んでいるのか座っているのか立って居るのかも判らない。
もしマニピュレート用の手を模した機械を装備してなく、さらに惑星上で見かけたら、ただの岩だと思ってしまうだろう……宇宙って広いなぁ……。
そしてさらに別の地点へと目を向けると……。
「ぶはっ! この池に居る魚は食べてもいいんですか?」
側にある人工の池から顔を出した子が、そんな質問を監督していたサヨ姉妹にぶつけていた。
「それは観賞用だから駄目ですよー」
サヨ姉妹に窘められてションボリしているあの子は……データを呼び出すと、魚鳥人の子で漂流民か……いや、この言い方は差別とか言う奴もいるんだっけか?
他の言い方をすると……流離さすらう者とか? まぁ要は、居住型の大き目のポンコツ宇宙船に乗って各地を常に移動をしている集団の事だ、種族は色々で目的も色々。
旅がしたい、永住の地を探す、恋の相方を求めて、何かから逃げだして、一攫千金を求めて、植民できる星を探して。
まぁポンコツな船の目的は移住出来る優良な星や、資源の豊富な惑星や衛星帯を探すのが元々の目的であったのだが。
船団の中の人が入れ替わり立ち代わりグルグル巡り巡って……なんか良く判らない集団が出来上がったと思ってくれていい、まぁつまりは風来坊の集まりでもある。
海賊とも商品や値段次第では普通に取引したりしているっぽいから、軍隊やら取り締まる側には嫌われている集団なんだけども……。
『銀河ネットにアクセス出来る知性体は、国家の法に従う限りにおいてアリアード皇国の国民たる資格を得る』という建前があるので。
海賊相手の取引もさ、『相手が海賊とは思いませんでした』と言われたらねぇ?
そのあたりは海賊側も偽装しているからさ、グレーゾーンなのよ……。
ま、大人の事情は置いておくか。
周囲を見回すと、テント張りやら焚火やらを楽しんでいる子供達で一杯だ。
俺は初めての試みなので監督をするという役割の元、キャンプ用のゆったり座れる椅子に腰かけてそれらを眺めている。
実際の監督はサヨ姉妹やブレインユニット達、その他姿を隠しているドローンやら何やらがやっている。
皆が楽しめている様で何よりだ、せっかく家族で来ているのに大人だけが楽しんでいるのでは問題だからな。
もっと個別に楽しめる施設やサービスを考えないとなぁ……。
あ、むしろ今まで来ていた観光客の声を聞くべきか?
「サヨー」
『なんでしょうかシマ様』
俺の背後にずっと無言で立っていたサヨさんである。
なんだろうね、子供が苦手なんだろうか、ちょっと大人しかったんだ。
「こういった催しもいいんだが、実際の観光客の意見とか集計してるだろ? あれが欲しい何が欲しいとかそういう意見は無いのか?」
『沢山ありますが、それは私やクレアさんで処理していました』
「そうなの? ちなみに多かった意見とか聞いてもいい?」
一応アンケート的な物はやっていたらしい。
『そうですね、一番多かった意見が『配られる現地電子マネーを増額して欲しい』でしょうか』
「あ、はい……そりゃ人のおごりならまずはそう言うよな……」
『次が『このまま移住したいので養って下さい』でしょうか』
「う……うん、そうか……そうかぁ……なんだろうな、樹人のサクラを観光惑星に初めて迎えた時の、図太い神経の持ち主だった皇宮の奴等を思い出すわ……」
あの時の観光のお試しで貰った意見は、意外と役にたってはいるんだけどね。
『それと、宇宙で生きる者共には『駄目で元々、図太く図々しく生きてみよう』という有名な標語がありまして』
「お、おう……ま、まぁ……宇宙は過酷な環境だしな? ……そういった奴じゃないと生き残れないのかもな……」
宇宙に適応して広がっていくには謙虚じゃ駄目なのかもしれない……。
『ちなみに庶民を招待した観光客の他の少数意見として『大変楽しく観光を過ごせて非常に良い思い出を家族で作れました、こんな経験を無料で招待をしてくれたククツ殿には感謝しかありません、家族一同でお礼を申し上げます、ありがとうございました』といった内容の物もありましたね』
「そーいうのを最初に言おうよ! ……てかそういうのが少数なのかよ……」
『一人一人文面が全部違うので纏める訳にもいかないのです、なので少数意見になってしまうんですよねぇ』
「感謝の意見、とかで纏めちゃえばいいだろうに……」
『なるほど! 確かにそれは盲点でした、そうなると感謝の意見がトップ5に入ってきますね』
順位が上がって嬉しいのだが……トップと言わないという事は、意見の一位は依然としてあれなのね……。
そりゃ全額おごってくれる相手になら……俺でもそう言うかもしれん。
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