第60話 御礼の学制服姿
「えーと……本当にこれがお礼になるのか?」
俺はちょっと困惑しつつ、目の前にいる天然ポンコツアイドルで、銀髪銀目のニナさんに質問をしてみた、そういや今日はお団子髪なんだね。
「勿論ですククツ様! はぁはぁ……ククツ様の学制服姿がしゅてきです……えっと、撮影して画像データを保存してもいいですか!? へ、変な事には使わないので! 違法に売ったりもしませんし!」
ニナさんはハァハアと人にお見せ出来ない表情をしながら、俺の制服姿を上から下まで舐める様に観察をすると、撮影の許可を求めて来る。
俺がそれに返事を返そうとしたら、俺の前に空間投影モニターが展開され。
【相手から許可の無い撮影は皇国法で禁止されていますよニナさん】
精神感応で俺がちょっとだけニナさんに引いているのを気付いたのか、サクラが暴走しているニナさんを止めてくれた。
まぁ撮影くらいは後でしてあげるけど、ニナさんの勢いが凄すぎてな……もうちょい普通に言ってくれればいいのにな……。
サクラもニナさんも学園都市の中等部の制服を着ている。
といっても制服は結構自由なので自分達が好きなものを選んでいる訳だが。
学園都市内では特別に許可されたパスを持つ人間以外は、規定された制服を着ていないと……警備員が飛んできます。
本当の意味で警備ドローンとかが飛んで来るので注意だ。
まぁものすごい数の制服デザインを用意してあるし、それでも気に入った制服デザインが無い場合は、自分が着たいデザインの制服データを審議会に出せるし。
それが許可されれば制服の一つとして登録する事も出来る。
サクラとニナさんは同じ中等部に通っている。
まぁ中等部と言っても日本地区のとは大分違くて、入学時期が同じメンバーを一纏めにクラスっぽいカテゴリーにして、授業なんかは単位制で自分達で選ぶのでバラバラに授業を受ける感じ。
文化祭や体育祭やらの行事の時だけクラスで集まるので、友達作りとかは大変そうかな?
人と交流をしたかったら自分からそういう集まりを選んで行く、ってな感じだね、サークル的な?
そして俺は、サクラに合わせて大学に通っていたニナさんが、中等部から通い直してくれている事のお礼をしに来たのと。
先日バイトのファミレスの制服の感想を伝えるという約束をしていたので、サクラにも会いに来た訳だ。
事前にニナさんにも連絡をしてあって、お礼は何がいいですか? って聞いたら……。
「私達のブレザー制服に合わせてくれたのですねククツ様! 素晴らしい……ネクタイと私達のリボンの色を合わせているのも同級生感があって最高です!」
【一日学友ですねククツ様、サクラも一緒に学生生活が出来て嬉しいです!】
ニナさんはカバディをしながら……間違えた、サイドステップを踏みながら俺の周りを回り、色々な角度からの俺を見てそんな感想を言い。
そしてサクラは胸の前で両手を組みつつ、ツル髪の毛に花をいくつか咲かせながら笑顔を俺に向けて嬉しさを伝えて来る。
とまぁ一日クラスメイト? がお礼になるとかなんとかで……サクラとニナさんが着ている制服の男版を選んで着て来たさ。
ちょっと恥ずかしいな。
今は最初の授業を行う教室へと向かって歩いている所だ。
ネットが発達してるんだし仮想空間でも良くねぇ? とか思うかもしれないけど。
宇宙的に見ても回線のみの授業はあんまりやらないって話だ。
どうしてもそれじゃないと無理っていうなら別だけどな。
「むぐぐ……これを記憶だけで留めておくのは……ククツファンクラブの掲示板に制服ククツ様の画像アイテム売り出しをお願いしておきましょうそうしましょう……ぶつぶつ……」
一緒に授業の行われる部屋へと向かい建物の廊下を歩いている俺達、ニナさんが何やらぶつぶつ独り言を言っているが、丸聞こえだ。
……ニナさんさぁ、君もしかして運動した後の汗を拭いている俺の画像データの販売を、ファンクラブ掲示板を通じてリクエストしたりしてない?
「それで今日は何を勉強するんだサクラ」
ニナさんは取り敢えず放置してサクラに話し掛ける事にした。
【銀河知性体文学になります】
うん、ナニソレ? 俺が居た日本地区の中学校ではそんなの無かった気がするけど。
「内容は?」
【この広い銀河に居る様々な種族の感性の違いを、文化作品を例に出しながら説明をしてくれる物でしょうか? 深い物でなく浅く広い知識を得る為だとニナさんはおっしゃってました】
へぇ……あー俺らが中学でやった皇国銀河社会学に似てるかも?
「サクラは例えばどんな内容に驚いたりしたか聞いてもいいか?」
【えっとですね……とある種族の文学の中で、自分のお嫁さんや恋人を奪った相手にお金や物資を渡すという仕来たりがあって……すごくびっくりしました、それは自分に例えたら私のお姉様方にククツ様を……奪われ……たら……大切な肥料まで……渡さないと……いけない……という……事で……】
へーそんな風習のある種族が居るんだなぁ……ってサクラのツル毛に咲く花がピンク色の桜っぽい物から、黒色の桜になってきている! 待て待て! 怖い怖い!
えっとえっと、大丈夫だぞー、俺はのほほんとした、のんびりサクラが大好きだから、奪われる事は無いぞー。
例えお姉さん方が俺の嫁になるとしても、樹人の中で最初に嫁になるのはサクラだぞー。
……俺は声に出さずに一生懸命心の中でサクラに語りかける。
サクラはいつもメイドのお仕事も頑張ってくれてありがたいし、メイド服も最高に似合っていて可愛いぞー。
今日の学生服も俺とリボンの色がお揃いで似合ってるよなー?
シュゥゥゥ……サクラのツル毛に咲いていたいくつかの黒い桜の花はポロリッと落ち。
床に落ちる前に空中で消えていき……ツル毛にはポポポポポポポポポンッと、いつもの可愛らしいピンク色の桜っぽい花が咲き乱れていった。
ふぅ……危うくダークサクラさんになる所だった。
樹人の咲かせる花って色が決まっている訳じゃないのか?
もしかしたら咲く量だけでなく、色でも感情や心根を表してしまう物なのかもしれない。
【あ、あのククツ様? 私もペアルック? というのでしたっけ? あれみたいで嬉しいです】
……人社会の諸々を勉強してきているのは良いのだが……すぐ側に同じ恰好をしたニナさんも何か妄想をしながら歩いて居るのだが……ペアとはこれいかに?
【あ! そういえばそうでした、間違えちゃいました、ふふ】
……うん、間違える事はあるよな、何故かサクラの頭を撫でておけと俺の本能が言っているのでそうしておく、ナデリコナデリコ。
【ククツ様のナデナデ気持ちいいです……】
そしてサクラのツル毛やらに咲いている桜っぽい花の色が、濃いピンク色になっていく。
「あの、お二人でイチャコラしないで下さい、今日は私へのお礼でもあるのですよね? ククツ様? サクラさん?」
お、ニナさんが平常に戻っている。
こういう普通の部分だけを見ると、クール系アイドルに見えない事もない。
ふむ……まぁ謝っておくか。
【申し訳ありませんニナさん】
「ごめんごめん、ニナさんの制服も可愛くて似合ってるよ、サクラもだが、先日のファミレスの制服といい、可愛い子は何を着ても似合うからすごいよな」
そう言ってニナさんの頭もナデリコしておく、サクラと平等に扱っておこう。
俺のファンだと言うのなら多少は喜んでくれ――
「キュキューンッ!」
バターンッ!
ニナさんが直立したまま、受け身も取らずに真っすぐ床に倒れてしまった、何事!?
「ちょ! どうしたニナさん!? えっと……『くのいち忍者部隊』の誰かいるだろ? 保健室に運ぶの手伝ってくれ、いやストレッチャー型ドローンを要請がいいか?」
あまりの事に動揺をした俺は、隠れているだろう護衛に声をかけていくのだが。
サクラはあまり驚いて無く。
【えっと……ククツ様に褒められながら撫でられて嬉しさのあまりに気絶をした様です、倒れ方はあれでしたけど……ニナさんの身体強度なら毛程の怪我も無いかと、よっこいしょ】
俺にそうやって説明をしながらサクラが、床に倒れていたニナさんを俵担ぎしている。
ニナさんの学制服のスカートが膝丈なので、前からパンツが丸見えなんですがそれは……。
【大丈夫です、では素早く保健室に投げ込ん出来ますのでククツ様はお待ち下さい! すぐ戻ってきますので、一緒に席に二人で並んで授業を受けましょう、少し前に読んだ漫画とか言う奴の内容みたいでサクラは楽しみです!】
そう空間投影されたメッセージを出すと、サクラは根っこをウニョウニョ……シャカシャカさせて素早い動きで去って行った。
そしてその後の廊下には、俺が呼びかけた為に隠密を解いて姿を現している『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹の一人と俺だけが残っていた。
俺はサヨ姉妹に。
「サクラは人社会に慣れて来て、ちょっと性格変わって来たかもなぁ?」
と声をかける。
今日は公に出る仕事では無かったからなのか、『くのいち忍者部隊』のセクシーでエロッチィ水着みたいな忍者服姿をしているサヨ姉妹の一人は。
「朱に交われば赤くなるといいますし」
そう言って、光学迷彩をかけたのか消えていった。
そうかぁ朱か……。
……ん?
いやまって?
「その朱って、サヨとかトウトミとかの事だよなぁ?」
俺はサクラに悪影響を与えそうな筆頭の名前を出して、誰も居ない廊下に声をかけるのだが……。
返事は無かった。
いやいやまさか……俺が朱って事は……。
……。
さって! 気を取り直して今日はサクラと中等部生活を楽しむか!
てーかどうも日本の中学校よりレベルが高そうなんだよなぁ……。
必要単位もちらっと確認したんだが、俺が日本の中学生だった頃にここに来たら、高等部に入れるまでの単位を取るのに……十年以上は軽くかかりそうなのがなんとも……。
いや、十年じゃ済まないかも?
……宇宙は何にしても規模がでかいよなぁ……。
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