第43話 最終決戦、そして現実を知る俺

「やっと第一惑星の側まで来たな……クレアよろしく」


「まかせてシマ君! と言いたい所なんだけど……適応体が密集しすぎかなぁあれは、こちらの牽制に釣られないし、今までの狩り方は無理かもだよ」


 ありゃ、適応体との戦闘も大詰めという段になってクレアが白旗をあげた。


 確かに、やばいくらいの数の適応体が第一惑星の周囲をグルグルと泳いでいる……昔の映画で見た水族館の狭い水槽の中の回遊魚みたいだ。


 あの惑星に適応体の誘因装置とやらがあるのは確定かなぁ。


「どうしたものかな、惑星が邪魔だし牽制攻撃を仕掛けても、釣れるのはクリオネ型やらが少数のみか」


「困ったねぇ、消し飛ばすだけでいいなら楽なのに」


 そうなんだよなぁ……ってあれ? 適応体を倒すのが目的なんだから消し飛ばしていいのでは?



 ……俺まで漁業をしている気になっていたよ。



「なぁクレア」


「なに? シマ君」



「適応体は消し飛ばしてもいいのでは? あいつらって人類の敵だぜ?」


「……そういえばそうだったね……いや……でも……ううう……人類の敵とはいえ勿体無いと思ってしまう! 何もかもサヨさんが高性能なせいだね、もし私が皇国軍の指揮をとってこの戦いをやっていたとしたら、ひたすら遠距離から引き撃ち攻撃をして物資の獲得なんて無視してただろうし」


 まぁそうだろな、皇国の宇宙戦艦だと被害を出さない事に全力を出さないと危険だろうしな。



 ってかよ……。



「サヨ? 何かずっと黙っているけど大丈夫か?」


「そういえば……サヨさん?」


 サヨはいつもの席に座っているが、俺とクレアの声かけに答えない……いや……。


『……はっ! 申し訳ありませんシマ様クレアさん、あまりのご馳走を前に我を失っていました、それで、えーと、これから始まる適応体の踊り食いの話でしたっけか?』


 ……ここ最近の戦いでずっと適応体を食べているサヨがポンコツになってきている……。


「……クレア、こりゃだめだ、どうにかせんと……」


「サヨさんは惑星も外側から順次食べているものね……メインとデザートを食べまくって食いしん坊キャラに成って来ているね」


 困ったなぁ……あ、そうだ。


「サヨ」


『はいシマ様、やはりクジラ型は美味しいですね、あそこを回遊している大型適応体の数を見ているだけで涎が出てきます』


 ……会話がすでに噛み合ってない気がする……仕方ない。


「お前の中に保持している一番若いブラックホールを一つ食え」


『ふぇ? いやでもシマ様、あれはまだ若いブラックホールでして、食べ頃では無いのですけれど』


「いいから食え、命令だ」


『えーと……はい、では……うーん……やっぱりまだ若いといった印象ですね、時間の凝縮や熟成がまだまだといった感じで……小学生頃の初恋相手、といった感じですかね?』


「ワインかな?」


「サヨさん、その心は?」


『もう少し時間をかけて熟成をさせてから再会したかったです、具体的には大学生頃に行われる小学生同期との同窓会で、といった所でしょうか』


 そんな時期にやる同窓会は漫画やアニメにしか出て来ないと思うけどな。


「それでサヨ、味は?」


『甘酸っぱいといった所ですね』


「おー、だから初恋にかけてたのかー上手いねサヨさん」


『ありがとうございますクレアさん』



 ……。



「という訳で、酸っぱい物を食って我に返ったサヨさんや? これからどうするかの会議に参加してくれな」


「ああ、なるほどシマ君、それで急にあんな事を……」


『はて? 我に返るとは? えーと……すごい量の適応体ですね? 誘因装置の事を考えると第一惑星に被害は出したくないですし……うーん困りました』


 そうだね困ったね……俺とクレアはずいぶん前から困ってたんだけどね?


 サヨは元に戻ったから良しとしよう、あれで駄目ならナナメ45度の角度で引っぱたく必要があるのかと思ったよ……所で昔の漫画とかにあるTVとか機械を殴ると治るって表現はどういう意味があるの?


 今一理解出来ないというか……銀河ネットで調べてみるか……へぇ……衝撃で回路の接触不良が……電気特性? なんじゃこりゃ……うーむ旧世界の技術は謎が多いなぁ。



 ……。



 そんなこんなで三人であーてもないこーでもないという話を戦闘指揮室でしていたら。


 ん? 空間投影モニターに映る適応体の動きが変わった気が……。


『第一惑星から例の素粒子が飛んで来なくなりました、それに応じて適応体の動きが……全てがこちらに向かってきます』


 な!? それって……ああくそ! 考えれば判る事だよなそりゃ! 上手く行き過ぎてたから忘れてた。


「ドリドリ団の罠か、俺らが近付いたら誘因装置を止めるなり破壊するなりして引き寄せた適応体を一気に解き放ったんだなくそっ! クレア頼む!」


「了解シマ君」


 クレアは俺の呼びかけに答えると、会議の為に座っていた自分の席から立ち上がり、指揮用のお立ち台に向かう。


『適応体、複数のクジラ型を中心に隊列を整えています、総数は三千万を超えていますし、敵の動きが今までと違いますね』


 ここまでずいぶんと削ったけど、まだそんなに居たのかよ……しかも大き目の個体が多いよな?


「総数で負けるているのか……しかも今までみたいに誘因装置のせいでお馬鹿になっていた適応体では無いって事か……一時撤退も視野に入れるか?」


 お立ち台のクレアにそう声をかける俺、だけども、クレアは俺を振り返るとニコっと笑顔を見せて。


「大丈夫だよシマ君、私が貴方に勝利を捧げるから待っててね? チュッ……、第一から第四遊撃部隊は本体に吸収する! 全戦力を持って艦隊砲撃戦を行う! 陣形は鶴翼の陣、シンプルに火力で叩きのめすわよ! サヨさん要塞を上下に出して、戦闘機部隊は周囲に展開、中央は隙間も無い程の火力にするからね、回り込んでくる羽虫を叩いて!」


 俺に投げキッスをしてきたクレアは可愛い笑顔だったが。

 前を向くとキリッっとした表情で矢継ぎ早に指示を出す。


 何故前を向いたクレアの表情が判るかと言うと、空間投影モニターにクレアの指揮姿が全方位から見える様に映し出されているからだ。


 いやぁ……クレアさんカッコイイなぁ……これは惚れちゃうね、いやもう惚れてるから……惚れ直しちゃうね!



 そして超弩級要塞も出すのか……それならまぁいけるか。



 うちの観光惑星の衛星にしている超弩級要塞は直系が3000キロあるんだけど、複数個作ってあり、今回は要塞都市に使ってない奴を艦隊の上下に一個づつ出すみたいだ。


 地球の月サイズの要塞戦力が2個追加って事だね、あ、これは負けないわ……。



『こちらの戦力の布陣がほぼ終了、中央に全艦隊300万隻を集中、要塞で上下を挟み、射線に入らない周囲にスクィード戦闘機部隊700万機を配置しました』


 うーん……クレアの言っていた小隊編成を考えるともう少しスクィードの数が欲しいかなぁ?


 いやでもそれだと、こういった艦隊砲撃戦になったときの遊兵が増えちゃうかなぁ?


 前回の女王級の時に増やした一千万近いブレインユニットが居るんで、それからは積極的には増やさなかったんだけども……もうちょい色々増員するかなぁ……。


 そうなると俺の仮想空間での思考分裂デートがすごく激しい事になるんだけど……まぁそれは些細な事だしな。



「ふふ……こちらに合わせて相手も魚鱗の陣で整えてきたわね、自分達の方が数が多いからその陣形で押し切れるとでも? 有難い話だわ」


 空間投影モニターに映る適応体の動きを見ながらクレアはそう呟いた。


 そしてお立ち台の上でクルっと体を反転させて俺を見ると。


「シマ君、開始の号令をお願い、皆には今までストレスの溜まる戦い方をさせてきたからね、ここで一発スッキリさせてあげたいんだ、元気の出る奴お願い!」


 俺に対してウインクをしながらクレアがお願いをして来た。


 漁獲量を上げる為にチマチマした精密な動きをしてきたからなぁ……ブレインユニット達は皆良い子ばかりだが、ストレスが溜まらない訳では無いんだろうからな。


「サヨ、誘因装置は当然もう駄目だよな?」


『こんな事をしてくるんですから、当然自爆か何かをしているかと』



 よっし!



 俺は立ちあがってクレアの居るお立ち台に登り、彼女の横に立った。


 すると俺に笑みを向けるクレアが居て、あまりに可愛いのでその頬にチュッっとキスをする事にした。

 それを見た観客として周囲の席に来ていた子達から、ちょっとした歓声があがる。


 クレアには軽く肘撃ちをされたが嫌がってる感じはしない、というか狐尻尾も機嫌良さげ左右にパタパタしているし、うむ、可愛い嫁だ。



 さて。



「では皆、最後の戦いだ、今回はもう貴重物資がどうのなんて言わない、上手く回り込んで急所を一撃で倒せとも言わない、全力全開で撃ちまくれ! 各種類の艦船や戦闘機での敵へのダメージ比率によってシマポイントを大盤振る舞いする! 背後の惑星も気にしなくていい! 壊しても構わん」


 俺の宣言を聞いたブレインユニット達から、喜びのメッセージが空間投影モニターに大量に流される。


 あまりの文字の多さに読める感じでは無いけれど……そんなにストレス溜まってたの?



「ではいくぞー……全艦、艦隊砲撃戦用意! 撃ち方~~~~~はじめ~!!!」



 俺の号令と共に全艦隊と要塞から攻撃が開始をされた。



 少し前にドリドリ下着泥棒団の五千隻の一斉攻撃を、まるでシャワーの様だと評したが。

 今回のはそうだな……まるで川のごとしといった感じだ。


 攻撃の密度の桁がまるで違った……さすがうちの子達やでぇ……。


 後はクレアにまかせればいいなと、よろしくねと再度クレアにお願いをして自分の席に戻った。


『凄いですねシマ様』


 横のサヨが話しかけて来る。


「そうだな、圧倒的だなうちの子達は」


 俺は嬉しそうに返事をする。


『凄いのはかかっている経費の話ですシマ様』



 ……ん?



「どういう事?」


 空間投影モニターに映る適応体の前衛が蒸発していくのを見ながら、サヨに質問をしていく。


 経費?


『戦艦が一発ビームを打つのにも、触媒を使ったカートリッジが消費されるのです』


「ほうほう」


 物理的な銃の弾丸みたいなものが必要って話は前に聞いたっけか。


『そして全力で撃てばそれだけ砲身も痛みますので、後で修理が必要です』


 そりゃメンテナンスは必要だよな。


「つまる所?」


『シマ様の号令でテンションの上がった子達が、経費を無視してはっちゃけ過ぎてますね、超弩級要塞のブレインユニットに至っては初めての戦闘でテンション爆上がりですし……』


「えーと……ちなみにどれくらいの経費がかかっているか聞いても?」


『これくらいでしょうか』


 サヨが空間投影モニターに出してくれた数字は、皇宮の奴らが観光惑星で遊びまくった時の数字より大きいものになっていた……。



 え? まじで?



「今回の戦いでこんなに経費がかかる物なのかよ……」


『全てを含めてではありません、さきほどのシマ様の号令開始から数分の話です、全力出撃の全力攻撃中ですから』


 ぶほっ! 飲み物を飲んでいる途中でなくて良かった……盛大な噴水をお見舞いする所だったよ。


 俺は周囲の子達を見回してみた……彼女らはその激しい戦闘を楽しんで見ている。

 俺もあんな風に観客として見るだけで済ませたかった……。


「えーと、やばい感じ?」


『いえ、まぁ普通の軍隊ならそれくらいかかる物だと思って下さい、シマ様には私がいますので安心安全ですけども』


「ああ、成程、常識を教えてくれたのね、ありがとうサヨ、俺にはお前が居てくれて良かったよ」


 サヨがいなかったら破産一直線の軍隊だよな。


『シマ様にはやはり私が必要ですね……ちなみにこれ以前までの戦いの収支はこれです』


 サヨが見せてくれたその空間投影モニターに映し出された数字は……もうゼロの数を確認するのも面倒なくらいの黒字収支だった。



 クレアの漁師としての手腕に感謝しないとなー、と思った俺である。



 必要な時に必要な数だけの戦力を出すクセをつけとかないとな……どうにも浪漫でもって過剰戦力を出しがちかもだなぁ俺は。



 それと皇国軍の経理を担当する人とか大変そうだよね。


 目の前のモニターで第一惑星が崩壊していく映像を見ながら、軍隊が金食い虫って本当なんだなーと考えて居た。



 兵站用補給艦かぁ……全てを賄えるサヨは別格の能力だよな。




 花火大会は見るだけなら綺麗だが、予算を賄う方は大変ってこったな……俺も自重しないといかんかねぇ……。






 ……でもさぁ、全艦全力砲撃って男の子の憧れじゃないか? と俺は思うんだ。

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