第15話 俺の趣味を元に流行を作る、そんな事もあるものさ 本文編集
「君達の好きな物は何かな~?」
俺が見ているTV中継を映す空間投影モニターの中で、生中継の実況リポーターがマイク片手に子供に質問をしている。
こんなに技術力が進んだ世界になっても、マイクとかは残ってるんだよな……まぁ視覚的に判り易いという事なのだろう。
そうして質問をされた子供達は答える。
「にんじゃ!」「勿論にんじゃー!」「我は影に生きる者!」「かとんのじゅつー」
黒を基調にした衣装を纏った子供達は大変楽しそうだ。
そして口から火を噴いている子供は、角もあるし龍人族の女の子かな?
……周りの大人たちが慌てて止めに入っていた。
「はい、この様に今、皇国の子供達の間に大変人気のある『ニンジャ』ですが、これがどういった物なのか皆さん知りたいですよね? そ・こ・で・です! なんとあの内乱事件の折に皇帝陛下を助け、そして皇宮を制圧していた反逆者達を逆に制圧し返したと言われる、ククツ特級少佐の秘蔵部隊である、『くのいち忍者部隊』の方にお越しいただいております、どうぞー」
リポーターを大きく映していた映像が引きになって、側転からの二回ひねり抱え込み宙返り? ごめんウソついた、よく判んないけど空中でくるくるして着地した、サヨ姉妹の一人が映し出される。
その恰好は黒を基調にした忍者っぽい何かだ。
元々のエロさはかなり抑えられていて、まるで18禁ゲームを全年齢版にしたかのごとく、露出やエロティックさは減っている……。
だが、15禁くらいの、ほのかなセクシーさはしっかり残っている。
「こんにちはー『くのいち忍者部隊』のサヨお姉さんでーす、皆元気にニンジャしてるかな?」
「してるー!」「本物だ!」「影に生きるー!」「せっしゃを弟子に!」
サヨ姉妹が出てきたら子供達の興奮がすごい事になって、リポーターのお姉さんが困っている。
すごい人気だなぁ……。
「は、はい! という訳で子供達に大変人気のある『くのいち忍者部隊』なのですが、今日はその秘密をちょこっとだけ教えてくれるそうで、よろしくお願いしますサヨお姉さん……部隊員は全てサヨという名前なのですよね? それはやはり敵に身元を知られない様な暗号名という事でしょうか?」
リポーターさんの質問が入るが、違います。
元々サヨ姉妹達は『サヨ』以外の名前を受け入れてくれなかっただけです。
俺がつけた『サヨウナラ』という名前が良いという事だった。
「それもありますねー、私達が修めている『ククツ流忍道』では名を出すのは死せし時だけ、なーんてのがあります、まぁ昔の話で最近はそこまででも無いのですけど」
サヨ姉妹は堂々と嘘をついている。
……『ククツ流忍道』ってナニー? 俺も初めて聞いたんだけども……。
そうして有る事無い事……いや無い事無い事な話をしていくサヨ姉妹の話に、子供達やリポーターも興奮が冷めやらず。
サヨ姉妹が使う忍術……遺産の技術を応用した道具や、高度な強化をほどこされた身体能力を色々と見せつけると、すごい盛り上がっていた。
壁や天井を走るなよ……子供が真似したらどうすんねん。
「はい、ありがとうございましたサヨお姉さん、素晴らしい忍術の数々を披露して頂き、尚且つ『ククツ流忍道』の心構えな話もちょこっとして貰いました、ではこの辺りで実況を終わらせて頂きます、それでは最後に、サヨお姉さん例のやつよろしくお願いします」
「はーい、では子供達も大人の皆も一緒に~~おさらばでござるニンニンっ!」
ボフッと煙がサヨ姉妹を覆ったと思ったら、しばらくしてそれが晴れると、そこにはすでにサヨ姉妹は居なかった。
「おおおおすげー本物のニンニンだ!」「ニンニン!」「影に帰って行った……」「あううせっしゃを弟子に……」
「はい、では以上で現場リポートを終わります、スタジオに返しますニンニーン!」
お姉さんと子供達がニンニン言っている声を流しながら、スタジオに映像が切り替わっていく。
俺は空間投影モニターの映像を消した。
そして。
「なんだろうなこれ……」
目の前にいるサヨにそう呟いてみせた。
今はあの内乱から数週間ほどたっていて、俺はまだ皇宮に住んでいる。
貴族軍を破った皇国軍が、辺境伯領の適応体を倒すまでは護衛の続きという訳だ。
派手なドンパチもあったので内乱の事を秘密にするよりはと、大々的に国民に知らせたのだが……なぜかサヨ姉妹達による忍者の事が表だって伝わっていく事に。
……いやまぁ話を逸らすのに使われたって事は判るけど、まさかこんなに忍者が人気になるとは。
さすがに露出度の高い恰好は良くないだろうって事で、表に出るサヨ姉妹の恰好は、スタイリッシュで少しセクシーくらいの感じにしておいた。
……皇国のオタク達の二次創作が捗るだろう、という予想をしていたニュースもあったっけ。
何処の世界も同じなんだなと思ったわ。
『アリアード皇国の来期のファッションは、忍者装束をイメージした物が流行るかもしれない、と言われていますね』
「大本が俺の秘密なムフフアーカイブからだと思うと、俺は世界中に土下座をしたくなってくるな」
『シマ様の性癖が世界的な流行を作るのですね……それはもうシマ様の性癖が世界的だと言っても過言では無いのでは?』
「過言だよ! なんだよ世界的な性癖って! 俺の性癖は普通の男並みだっての!」
『……それはどうでしょうか……』
「なんだよその嫌なタメは……何がどうした?」
『こたびのシマ様の活躍により名が大変売れましたよね?』
「ん? そうだなぁ、元々陛下の養女になったクレア皇女を嫁に貰うからってんで、皇族関係者とか軍属には知られていたけど、『ククツ流忍術』のせいで国民に広く知られてしまったよな、一昨日爺ちゃから連絡があってさ、取材が来たから俺を『ククツ流忍道』の正当継承者で、現頭領だって言っておいたとか言われたしな、爺ちゃん何やってんだよ……」
『シマ様のご家族には皇宮から正式な依頼があったそうですよ、新しい古文書や巻物とか古く見える道具なんかの小道具は、すでに私の方で制作済みで渡してあります』
「お前も手伝ったのかよ! いやまぁ……いいけどさ、爺ちゃんが親父達と一緒に、子供向けの忍術教室開きたいからどうにかしろって言ってきたんだぜ? サヨが適当に手伝ってあげておいてくれる? 護衛で行っているサヨ姉妹に手伝って貰うとかさ」
『了解しました、護衛は交代制ですので同じ姉妹がずっとという訳にはいきませんが、順番におじい様の……いえ前頭領のお手伝いをしておきます』
それだと親父は頭領になれなかったって事にならんかね……。
「落ち着いたらまた家族に会いにいったりするかね、サヨやクレア皇女との結婚もあるしな」
『そうですね、辺境から皇国軍が帰ってきたらやる事が一杯ですね……それにしても辺境伯領に設置された銀河ネットジャマーを早く壊して欲しいものです、エシェル型潜宙艦もさすがに危ないのでジャマー範囲外で待機中ですし、皇国軍に期待しましょう』
「その銀河ネットを邪魔するジャマー装置って、どれくらいの広さまで有効なんだ?」
『捕まった公爵がまだ黙ったままなので、いくつかの研究施設等を調べている所なのですが、今の所ジャマー装置が一つだと恒星系の1割といった所ですね、辺境伯の領地には複数個が設置されていると思われます』
「そんなものか……厄介な物を作り出したもんだよな、情報の秘匿は?」
『不可能です、これからは銀河ネットジャマーを使われる可能性を考えますので……別動隊を出す場合にはブレインユニットを乗艦させる必要があり、彼女達に被害が出る物と思って下さい』
「それは……くそ! あのアホ公爵め……、……サヨの本体近くなら大丈夫なんだっけ?」
『はい、ある程度ジャマー技術を調べて対抗策をでっち上げましたが、それには強力なエネルギー源が必要なので、私の側で恒星系内くらいであれば、銀河ネットジャマーを使われても遠隔操作でいけます、ですがこれからジャマーのジャマーのジャマーとか、対抗措置技術のイタチごっこになっていくと思われます、それに研究が進めば効果範囲も広くなり、そして小型化もしていく事でしょう』
「そっか……ならなるべく別動隊は出さない様に対処する術を考えないとな、くのいち忍者部隊とかにはサヨが操作する必要の無いドローンや、近接用の兵器を追従させているんだよな?」
『その辺りは問題なく、惑星ごと爆破とかをしてこなければ大丈夫かと』
「本星がそんな事になる時点で終わってるよ、普通の襲撃が問題ないならいいさ」
貴族軍はほぼ壊滅したけど、あれはほんの一部の戦力だろう。
これから内乱の罪に対して各地の領主の改易やら何やらしていくのに……絶対に反抗されるだろうな。
公爵の使って居たジャマーの技術なんかは漏れていると考えるのが妥当だ、使える事が判れば独自で開発もするだろうしな。
となると内乱はこれからが本番って事になりかねんのよな、サヨも地方の領主達が急速に兵力増強をしているって言うし、適応体という人類の敵が居るっていうのに本当に人間……知的生命体ってのは戦いを繰り返す物なんだよな。
もっとこうキノコ木人みたく平和に日がな1日……100日くらい動かないでも大丈夫って、ほんとかねあの人ら……。
食料を生産しなくても、土や水から直に栄養を吸収出来て、後は空気さえあれば生きていける人らは……精神性が違うからまた別の話か。
そうしてサヨと色々と雑談しながら自室でお茶を飲んでいると、廊下から誰かが駆け込んできた。
どうやらクレア皇女の様で、息を切らして居て相当急いで来たみたいだ。
「どうしましたクレア皇女」
「シマ君! 公爵があれやこれでやっと今白状したのだけど、あの辺境伯領を適応体が襲ったのは偶然じゃなかったの! やつらを操ったり呼び寄せる研究をしていたみたい!」
『シマ様、ただいま辺境伯領の銀河ネットジャマーの範囲外に、討伐艦隊が撤退してきた様です……大規模な適応体軍と……規格外れな大きさの適応体が近付いてきている様で、全軍で撤退をしたそうです』
クレア皇女とサヨの報告を聞くに、あの辺境星系に適応体を呼び寄せる何かが設置されているって事か。
俺達が押さえた場所以外にも、秘密の研究所とかはあると思っていたが……。
あんのクソ公爵が! 何が適応体を倒す強き者が皇帝に成るだ! マッチポンプの研究をしてたんじゃねーか!
「それでその規格外の大きさってどんな物なんだサヨ」
俺の質問にクレア皇女も息を飲んでサヨを見ている。
『……私の知識にも存在しない物です、辺境討伐艦隊の観測データを総合して解析をした結果……直径が辺境伯領の恒星と同等の大きさです……』
「はぁ? 冗談では無いんだよな?」
『はい、恐らく適応体の女王かと……現在辺境伯領にて惑星を食べています、今はプログラムAIでの無人偵察機を飛ばして観測をしている所で、順次偵察機が情報を持ち帰るのを待っている所……あ、銀河ネットジャマーの効果範囲が移動しているのを確認! 恐らく女王級適応体が惑星にあった銀河ネットジャマーを取り込んでその能力を得た様です、潜宙艦部隊を帰還させます』
なんだよそれ……。
「それやばくねぇか?」
『大丈夫ですシマ様、私に策があります、一緒にあの女王を倒しに行って頂けますか?』
「……ああ、サヨが出来るって言うなら勿論俺も一緒に行くさ……駄目そうならサヨの惑星に可能な限り人を避難させて隣の銀河に逃げちゃおうぜ」
『それもいいですね、では今迎えの船を地上に降ろします』
「え? え? 大丈夫なの? シマ君! サヨさん!」
クレア皇女が、俺とサヨにすがりつきつつ混乱をしている様だ。
「大丈夫ですよクレア皇女、サヨが大丈夫って言うのだし、何なら俺の後についてきて応援してくれたっていいんですよ? なんてね……」
『……そうですね、そうしましょうか『シマ型巡洋艦』にて観戦武官の派遣を要求しておきます、私達の活躍をクレアさんに見て貰いましょうシマ様』
「ん? まじか? ……んーじゃあそうするか」
『ええ、そうしましょう』
「なんでそんなに冷静なのよ二人共ー-!」
クレア皇女の大きな声が皇宮にある俺の部屋に響き渡るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます