第14話 俺の趣味が皇宮の関係者にも知られてしまった様だ。

 俺とサヨが結婚を誓ってから二週間以上がたつが、俺は未だに皇帝陛下が住んでいる皇宮で過ごしている。


 結局あの後に、皇国軍の第1~第3艦隊から14000隻。

 残りの第4~第10艦隊の2500隻、合わせて16500隻が辺境に向かって行った。


 最終合流地点で領主貴族が率いる貴族軍、およそ20000隻と合流する予定なのだとか。


 俺のスクィード5号600機は、貴族軍が引き取りに来た様で、滞りなく引き渡しは済んだ。


 そろそろ辺境で戦闘が始まる頃だろうか?


 俺とサヨは特にやれる事もなく、遊びに来たクレア皇女とお茶をするしか無かった。


「つまり俺は領地持ち貴族って事になるんですか? クレア皇女」


「そうねぇ……とは言っても誰一人住んでいない恒星系をよこされるだけだし、開発を手伝って欲しければ、なんらかの利益を寄越せという話をアホな貴族がしてくると思う……それと皇女っていうその呼ばれ方は何かこうムズムズする、いつものようにクレアお姉ちゃんでいいのに」


 そんな風に呼んだ事は一度とてありま……どうしてもと頼まれた2回しかありませんよ?


『私一人居れば、開発なんて一年もかからずに終わってしまう訳ですが……下手に領地に人を入れると守る必要が出てしまいますし……私の中の惑星を主星とすればいいですね、住人はシマ様の関係者のみにしましょう』


「それはいい提案だなサヨ、別に何か義務がある訳でもないし」


「むー、結局その別荘惑星を見る事なく移動したから、早く見たいわねぇ……、行く気満々で水着とか揃えてあるので、楽しみにしているといいわ!」



『クレア様、シマ様はビキニがお好きな様です、私の黒のビキニもじっと観察してきましたから』


「なんですって! ぅぅ……しまったな……ワンピースタイプしかないかも、ビキニはその……尻尾の生え際が見えてしまうので恥ずかしいんだけども……」


 俺はついついクレア皇女の尻尾の生え際を想像してしまった。

 クレア皇女は獣人部分が少ないタイプだからなぁ、どんな風になってるんだろ。


 とまぁ俺達が雑談をしていると、俺の部屋に人が来て呼び出しが入る。


 皇帝陛下がお呼びだとさ、へいへい行きますよ、ったく遅いんだよアホが。



 ――



 俺とクレア皇女とサヨが謁見室に入っていくと、武器をこれ見よがしに装備した兵が壁際に並んで居て。


 そして、前に叙勲式で俺が跪いていたあたりに、人が3人程転がっている。

 その中には、一際豪華な衣装を着た男の人もいる様だ。


「陛下!」

 クレア皇女がその人に駆け寄る。



 まぁそうだよな。



 俺はクレア皇女の後に続くも、周りの兵士は特に動かない。


 てかこいつらいつもの近衛兵じゃないよな、今回の辺境討伐で優秀な兵は根こそぎ連れていかれたからなぁ……。

 クレア皇女の部下というか俺の側付きの子達も、今は遠くの辺境へと討伐艦隊行きだ。



「大丈夫ですか陛下」


 クレア皇女が、その男性の側にしゃがみ込み呼びかけるも、皇帝陛下は気絶しているのか答えない。


「ようこそ、ククツ君にクレア」


 そう声を掛けて来たのは、御簾が取り外されて丸見えになった御座に腰掛けている、一人のおっさんで……。



「あれが皇帝陛下の弟の?」


『はい公爵家当主で皇位継承権第4位になります』


 俺とサヨは二人でノンビリ会話をしている。


 クレア皇女は他の倒れている人の様子を見ているが、どうやら継承権1位と2位の陛下の息子達らしい。

 どうやら気絶してるっぽい。


 ちなみにクレア皇女の継承権は、ぐぐんと上がって12位くらいになったらしいよ?

 どうせ俺に降嫁したらまた変わるから意味はない、ってクレアが笑いながら言っていたけど。


「どうした、新たな皇帝に挨拶をせんか!」


 公爵は俺達が無視している事に怒っている様だ。


 まぁいいか、多少は乗って上げるのが、人としての礼儀という奴だ。



「ん、んん、何をしているのだ貴方は! そこは皇帝陛下が座るべき場所だ、こんな事をしてもすぐ皇国軍が駆けつけてくるぞ!」

『65点』

「ぶふっ」


 サヨさん、俺の演技に点数をつけないで下さい。

 そしてクレア皇女もしゃがみながら笑わないで?


 公爵は俺の言葉に大変満足された様で、得意満面の顔で何やら説明をしてくれる。


「ククク……ハハハハ、今中央に残っている皇国軍千隻は、ほぼ私の味方で構成されている、そして貴族軍もほとんどが我の味方だ、適応体との戦闘中に後ろから皇国軍を襲い、そして壊滅させる予定なのだよ! フハハハハ」


 おーおー嬉しそうだ……。


「バカナー、そんな事をしたら、適応体に人類が滅ぼされてシマウジャナイカー」

『40点 真面目にやって下さい』

「下手すぎるわよシマ君」


 小さな声で駄目出しをしてくる二人だった、だったら交代してくれよ。


「はは、それは大丈夫だ、適応体を倒せる戦力を生産できる道具が、我の目の前に居るじゃないか」


 へぇ……こいつはサヨを道具とぬかしたか……へぇ……フーン。


「例え適応体を倒しても、貴方が皇帝になれば簒奪と言われますよ?」


「は! 貴族のほとんどは私の味方だ、それに一般の民にとって、誰が皇帝になろうが知った事ではないのだ、力ある者、適応体を排除し平穏を齎す者が……皇帝に相応しいのだよ!」


 それなら俺が一番相応しいって事になってしまうんですが?


 とか聞いたら、激高するんだろうなぁこういう人って。


「なぁもういいだろ? 十分良い映像が取れたと思うんだが」


『ですね、ではこの映像を――』



「させんよ」


 パチッっと公爵が指を弾くとサヨが倒れていく、え?



「サヨ!?」


「サヨさん!?」


 クレア皇女が倒れていくサヨを抱きかかえるも、サヨは一切反応をしなかった。



「ククク」


 公爵の声が響く。


「何をした公爵!」


「さっきまでの余裕はどうした小僧、ふふ、そいつはあの補給艦の制御用人工知能なのだろう? こんな距離で遠隔操作をするとは……銀河ネットを利用しているとしか考えられんからな、邪魔させて貰ったよ」



「銀河ネットで邪魔? 遺産は適合者でないと使えないはずだ!」


「その通りだ、だがな、自由に扱う事は出来ねども邪魔をするくらいはどうにかなるのだよ、そうしてから適合者の身柄を抑えてしまえばいい、今のお前の様にな、さて私に使われるか死ぬかだ、選べ愚民」



 武器を構えた兵士が俺達を囲む、クレア皇女がサヨを抱えながら俺を見上げる。


「予定とほんの少しだけ違いましたが、まぁ想定の範囲内ですから大丈夫ですよ」


 俺がクレア皇女にそう言うと、彼女は安心した表情を見せてくれる。



「何? 愚民、それはどういう――」


「もういいぞサヨ姉妹達、作戦開始だ」


 俺がそう言うや、ざざっと天井から、壁のカーテンの隙間から、そして床から現れる黒い衣装を着た女性達。



 ……今どうやって床から出て来たの?



 彼女達はサヨの姉妹達で、いわゆる忍者だ!


 そういう設定で動くのだからと、身体能力や装備もそうあるべきだと、色々はっちゃけて義体や装備を強化したらしい。

 彼女達はもう義体に人格を固定搭載しているので、ノーマルサヨの様に遠隔操作ではないのだ。


 だから銀河ネットを邪魔だか停止だかをされたとしても、まったく問題無く動ける。


 彼女達によって、あっという間に周りの兵士も倒されてしまい。

 公爵も気絶させて、何か妙な装備を持ってないか裸に剥かれた後に、拘束具でがちがちに固められている。


 男の裸拘束とか誰得なんだかまったく……武士の情けなのかパンツだけは残されていた。


 そんな制圧戦闘が行われている最中に、サヨが起き上がってきた。


『申し訳ありませんシマ様、少し油断しました、設置されていた仮称銀河ネットジャマー装置は、すでに姉妹によって破壊済みです、連絡のし易さの為なのか、ある程度近い場所にある公爵家の敷地内に有って良かったです……』


「大丈夫なのかサヨ?」

「大丈夫? サヨさん」


『はい、敵方の目を付けていた研究所等も一斉に制圧している所ですが、いくつか同型の銀河ネットジャマーと思しき物が見つかっています、ただしその研究所はネットから独立しているので情報の精査に時間がかかります』


 その厄介な装置が下手に隠されたりしてないで良かった……たぶんこれが辺境で使われたんだと思うのだが。


 辺境伯の領地と違って、事が終わればすぐ銀河ネットを復旧させる必要があったせいかもしれないな。


「おっけー今は邪魔されなければそれでいい、じゃぁ内乱鎮圧作戦続行だな」

『了解しました』

「頑張ってサヨさん」


 俺達は皇帝陛下を守る役目だね。



 ここで殺されていたら困った事になるのだけど……陛下自身が、公爵はすぐにそんな事はしないと言っていたから、ここだけは賭けに出たんだよね。


 弟の事をそれだけ理解出来るのなら、もっと早くどうにかしろよと文句を言いたい。

 だがまぁ野心はあっても、まだ動く事は無いと判断をしていたのかもしれない……。



 ……ん?



 そういや公爵が動いた切っ掛けって確か……。


 ……うん、何もしてないのに裁くのは難しいよね、だから陛下悪くなーい、なので俺もまったく悪くなーい。


 と俺がアホな事を考えながら周囲を警戒していると、作戦の成果がサヨから報告されていく。


『皇国本星に居る遺産の適合者の保護を完了、敵方に組していた者は排除します』


『シマ様のご家族も無事に保護完了』


『皇宮の逆制圧も完了、及び捕まっていた数少ないまともな近衛兵達を解放、内乱に応じていた箔付け近衛兵達は地下牢に放り込んでおきました』


『私の本体の補給艦に近づいていた貴族軍の艦艇を撃破』


『居残りの皇国軍1000隻に、さきほどの公爵の皇位簒奪な映像と、事前に撮影していた皇帝の言葉を流しました、可能な限り兵士一人一人に見せる事に成功』


『現在アエンデ型駆逐艦50000隻にてそれらを包囲、降伏勧告をすると共にこちらを砲撃してきた船を撃破しています、敵艦内部で反乱の起きている船もある様です、状況を見るに6割以上は撃破せずに済みそうです』


『銀河ネットが即座に復旧した為、内乱情報を得た皇国軍と貴族軍が辺境伯領域手前で交戦開始、両軍共に離反者がいるので状況は混乱していますが、趨勢は皇国軍にあがりそうです、潜宙艦エシェル型で貴族軍の背後をつついていますので、彼らは間もなく敗走するかと』



「いけそうですねクレア皇女」


「そうねぇシマ君……まさかほとんど計画がばれていて、皇国から膿を一掃する為に利用されたとか知ったら、公爵は発狂するかもしれないわね」


『自業自得です、シマ様を道具などと言う輩に慈悲はありません!』


 ありゃ……お互いにお互いを思って怒っていたらしい……恥ずかしいなおい。


 そこに仕事の終わった忍者サヨ姉妹達が帰ってきたので、俺は労いの声をかける。


「お疲れ様サヨ姉妹達」



「疲れたよお兄ちゃん! 終わったら一杯癒してね!」

「この皇宮はあちこちに一杯抜け穴があって面白かったわね!」

「影に生きるが忍道なりニンニン」

「うーんやっぱもう少し露出を増やした方がよかったかしら?」

「そうねぇやっぱシマ様の性癖の方が大事だしもっとこうガバッと」

「今回使わなかった色術はシマ様で試すべきよね?」

「さんせーいノーマルサヨが結婚したらもう遠慮いらないもんね」


 ガヤガヤと姦しい忍者部隊が揃った中、クレア皇女が俺に語り掛ける。


「ねぇシマ君」

「なんですかクレア皇女」


「にんじゃ? っていうのは影で動く草の事よね?」

「そうですね」


「……」

「……」


「じゃぁ何で、この人達こんなにエッチで色っぽい恰好しているのかしら? 影に忍んでないわよね?」

「……何ででしょうね?」


 サヨの姉妹達の恰好なのだが、忍者っぽい黒い衣装……の片鱗が残っているだけで。

 やれ網タイツだとか、ハイヒールだとか、胸の隙間ががばっと空いていたり、肩が丸出しだったり、ローライズパンツだったり、体のラインが丸見えの全身タイツだったり……。


 それ本当に忍者? って恰好が多かった。


 前になんでそんな恰好にしたのかと聞いたら、俺の秘密なムフフアーカイブにある忍者を元ネタにしたらしい……。



 って、なんでそれを参考にするかなぁ!?



 日本の忍者を参考にした部隊の創設は承認したけど、服装のチェックまではしなかったのが失敗だった……普通は真っ黒い衣装だと思うじゃん?


 サヨが『くのいち忍者部隊が出来ました』とか言って、皆に会わせてくれた時にはもう手遅れだったんだよな……。


 姉妹達はすげぇ楽しそうにしてるし、影で動く部隊ならまぁいいかって、そのままで行く事にしたんだ。


 その時は、俺の家族を影からこっそり見守るくらいの役目しか無かったから、それでいいと思ったんだよ……。


 まさかこんなにがっつり使う日が来るとはな……。



 この作戦で助けた色んな人達に、サヨ姉妹の忍者姿を見られたよな……。

 そして俺の趣味だって思われてるはず……まぁある意味間違っては居ないんだけども。



 ……てか俺の家族を保護したサヨ姉妹達も、似た様な恰好だったりするの?


 保護するのなら目の前に出て、サヨ姉妹達は俺の配下だって家族には言うだろうし……家族にも俺の性癖が知られた訳だな……。



 ……うむ、もう開き直るしかねぇな!

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