第13話 俺は必要とあらば〇〇〇をよこせと言える男だ、いのち? めいよ? ほこり? 好きに想像してくれ

「面を上げよ」


 皇帝陛下の側使いにそう命じられる。


 俺はふかふかの絨毯の上で片膝をついて座っていて、そして言われた通り下げていた頭をあげる。


 俺のずっと先には数段の段差があり、その上に豪華な縁取りのされた御簾が垂れていて、その向こうに椅子に座っている何者か……まぁ皇帝陛下が居るらしいのだけれど……よく見えんから判らんな。


 御簾の手前側には皇族が幾人か並び、護衛の兵もずらっと左右に居る。

 その皇族の中にはクレア少佐が居て、軍服じゃない民族衣装みたいなのを着てこちらを見ている。


 うーん、やっぱ美人だよなぁクレア少佐って、いや皇女おうじょと呼ぶべきか?


 なんでも皇帝陛下の養女になったそうだよ……そして俺に嫁がせる訳だ。

 いやまぁ嫁にするのは嬉しい事なんだけど、別に皇女なんかにせんでもいいのにな……。



 さて、そろそろ何かが起きてもおかしく無いんだが……。



 サヨが言うには、内乱を起こそうとしている輩の下っ端達の動きが活発になっていて、事が起きるのは確定だと言っていた。

 サヨの補給艦は現在アリアード皇国本星の側に待機していて、ノーマルサヨが操る義体は控え室に居る、ほかにも――。


 あ、なんか儀式の途中なのに外から側使いっぽい奴が入ってきている。


 側使いで偉そうな人やら皇帝陛下に話がされているんだろうが、さすがになんらかの処置をしているのか、御簾に向こうの声は聞こえなかった。

 ちぇ……残念。



 ……。



 しばらくすると、側使いの偉そうな人が一歩前に出てきて。


「ククツ特級准尉殿に対する叙勲と昇進、そして爵位授与の儀は簡略化する事にする、皇帝陛下御退室!」


 その場に居た陛下と近衛の一部以外が全員頭を下げる、勿論俺もね。


 しばらくして皇族達も退室していくのが、頭を伏せていても気配で判る。


 床を見ていた俺の前に影が差し、もう顔を上げていいと言われたので、頭をあげる。


 するとそこに来て居たその人は、陛下の側使いの一人で俺に礼儀作法なんかを教えてくれた、犬獣人な側使いさんだった。


「済まぬなククツ殿、緊急事態の様だ」


「何かあったんですか?」


 やっぱ内乱かなぁとか思いつつ聞いたのだが。


「辺境伯の治める一星系が丸ごと壊滅したそうだ……適応体によってな」


「はぁ!?」


 まったく予想してなかった答えに、ついつい失礼な反応をしてしまった。


「取り敢えず立ってくれ、移動しながら説明をする」


「判りました」


 俺は立ちあがり、その犬獣人な側使いさんと一緒に、サヨの居る控室に向かいながら状況を聞いていった。


 どうにもアリアード皇国の辺境といえる、皇国領の一番外側の領主から連絡が無くなったそうだ。


 領主だけで無く星系丸ごと銀河ネットに繋がらないので、付近の皇国軍が宇宙船で調べにいったら、星系に適応体が大量に蠢いていたそうで、全滅の判定をされたそうだ。


「全滅って……その星系にはどれくらいの人が?」


「コロニーやらも合わせると100億だそうだ」


 ……ひでぇな……でも銀河ネットで救援要請がなかったっておかしくね?


「辺境伯は陛下の派閥でもある」


 俺が何かおかしいと考えていると、それを予想していたのか側使いさんが補足情報をくれた。

 つまりこれは人災の可能性があるのかよ、ろくでもねえな。



 控室に到着した俺はサヨに。


「サヨ、適応体と戦闘になりそうだ」


『はい腹が鳴りますねシマ様』



 ……そこは腕にしとけよ、舐めプだと思われたらどうすんだよ。



 俺とサヨがやる気を見せていると、側使いさんが苦い物を噛んだ様な表情で言ってくる。


「申し訳ないがククツ特級中尉殿には陛下の護衛として残って貰う……そして先日使っていた戦闘機を援軍として貸し出せとの事だ……」


 しれっと昇進しているね、爵位も貰った事になってるんだろうか?

 準男爵ってのがどの程度の物か知らんけど。


「はぁ? それって……陛下の御命令ですか?」


 俺の質問に、側使いさんは歯切れ悪く答える。


「済まん……貴族院の要請に答えねば……領主軍を援軍として出さないと言ってきているのだ……」


 ……そういうやり方で来たか……。


「星系を潰す程の適応体だと出し惜しみ出来ないですもんね……サヨ?」


『敵は大型30中型100小型500、戦闘機型が数万という予想情報が出回っています』


「多いな……皇国軍で対応するとどうなる?」


『皇国軍は中央にいる第1第2第3艦隊が合わせて15000隻、臨時編成の第4~第10艦隊が合わせて2500隻居ますが、領主軍の援軍数と皇都であるこの星の防衛にいくら残すかで戦果が変わってくるかと』


 大型ってのはサメ型とかそこらの奴だろ、第8艦隊が200隻でさくっと倒したオニカサゴ型は中型の中でも小さい部類って話だから……艦隊全部出撃しても被害は出そうだよな。


 大決戦ではなく端っこからちょっとづつ倒す感じでやれれば……なんとか?



 犬獣人な側使いさんは『なぜ適応体の数を知っている?』とか驚いているが、その情報も正解だとは限らんのだけどね、銀河ネットに流れる情報ではって事だからよ。



 まさかこんな手を使ってくるなんてな……戦力を本星に集中したのは失敗だったか? いや結局はここでやってくるのだろうし……。


「戦力の援護として出すのはいいですけど、何機出せばいいんですか?」


「貴族共は可能な限り出せと言ってきている、最低でも530機以上は出せるはずだと、そして補充用の生産を手伝うからどれくらいの資源が必要か教えろとも」


 へー、俺があの時出した536機を知っているってか、まぁそうだよな……そして生産能力も知りたいって事か。


 俺はチラっとサヨを見ながら考える、生産能力か……俺が初めてサヨに会ってから作り続けていたとして……一月に200機かそこらかね、そしてあの時から一月たっているから。


「サヨいくら出せる?」


『754機ですね』


 さすがサヨさん、俺の意思を判ってくれた。


 さて、この犬獣人な側使いさんは味方なのか敵なのか……。


「有難い、奴らには600機も出せば黙るだろう、それ以上は黙っていてくれればなんとかする、済まんな」


「ええ、でも機体を操作する人工知能には数に決まりがあって貸せませんので、そちらでどうにかして下さいね」



「む……? それだと貴重な戦力を奴らに完全に渡してしまう事になるのだが……よいのか?」


「ええ、適応体は皇国にとって敵ですからね、可能な限りのお手伝いは当然と言えるでしょう、そして貴族院でしたか? そこには『生産する為の物資は今度自前で確保するので、小惑星帯での採取を許して下さい』と伝えて下さい」


 俺自身、どの口がこんな事を言っているのやらと呆れるが、相手だって俺を騙そうとして来てるんだろうし構わんだろ。



 そうして部屋から出ていく犬獣人な側使いさん。




 スクィード戦闘機の引き渡しは補給艦の側まで取りに来る事に決まった。


 奴等補給艦の中まで受け取りに来るとかぬかしやがってるそうで、俺の以外が入ると敵と認識して死ぬからやめておけと伝えて貰った。


 貴族のアホウ共を、サヨの艦内になんか入れさせてたまるかってんだ。


 側使いが居なくなって、その部屋には俺とサヨの二人だけになった。


 サヨが特殊なフィールドを張っているし、盗聴系の機器には偽会話を流しているらしいので普通に会話出来る。


『ふぅ……危うく貴族に私がNTRれる所でしたねシマ様』


「言い方ぁぁ!」


 この状況下でも相変わらずのサヨさんだった。


『それはそうと、スクィード戦闘機を渡してしまうのですね?』


「ああ、俺の戦力を奪いたがってるって事だろ? なら囮としてそうするのがいいかなって」



『ブレインユニットにとって、自機は非常に愛着のある大事な物なのです、シマ様はそれを差し出せと言うのですね?』


「ああ、申し訳ないが……あれ? ブレインユニットを必要としない機体を作ればいいんじゃね? 旧巡洋艦の時みたいに」



『初期生産では機体とブレインユニットはセットです、そして壊れたり無く成ったりした場合に、やっと新しい機体を作る事が出来るようになるルールがあるので、つまりどうあってもシマ様は彼女達から奪う事になるのです、旧巡洋艦は遺産の残骸を回収したから出来た事ですね』



「……そうか……後でいくらでも謝るからさ、彼女らにはお願いだから俺に大事な物を使わせてくれって頼んでくれよ……」


 俺は彼女らの大事な物を奪う事に対して、罪悪感を抱きながらそう伝えていく。


『判りました、それではシマ様が貴方達の履いているパンツを、よその男に渡すので供出せよと伝えておきます』


「ん? まてまて……戦闘機な! なんで履いているパンツをなんて事になるんだよ」



『私は前にお伝えしましたよね? 彼女らにとってそれくらい大事な物だと、言いましたよね?』


「そりゃ言ってたかもだが……」



『なのでシマ様、彼女らを説得する為に映像メッセージを下さい、セリフはモニターに出すので、それを読んで頂ければ彼女らはこぞって賛成してくれる事でしょう』


 そう言うやサヨは、俺の返事も待たずに空間投影モニターを出し、セリフを早い速度で流していく、早い早い!


「ちょ急にかよ! ええと、ブレインユニットの皆! 俺の不甲斐なさで君たちの大事な機体を軍に渡す事になった、それが君達にとっても辛い事は重々承知だ、必ず後で何らかの形で報いる事を約束する、だから、だからどうか君たちの履いているパンツを俺に委ねてくれ! ……っておいまてサヨ! 最後のちょっとおかしくねぇか!? つい台本通り読んじゃったけどさ!」


『はいカーーット! ではこの映像は編集して彼女らの説得に利用致しますので、よろしくお願いします』


「まてまてまてまてまて、ちょっとサヨさん? 俺の話を聞いてくれる? なんで無視するの! サーヨーさーん! ほんと勘弁して下さい、もっと普通なのでお願いします、なんでもしますから!」



『……今何でもするって言いましたか?』


 俺を無視して椅子に座っていたサヨが、何でもするという言葉に反応した。


「あ、ああ……まぁ俺に出来る範囲でな、だからテイク2させてくれよ、さすがにあの映像を流出されたら俺の信用がだだ下がりしちまう、どうせ面白おかしい編集するんだろうし」


『……してください』


 サヨが小さな声で何かを言った、俺の耳でも聞き取れないくらいの小さな声だった。


「ん? 何をして欲しいって?」


『……だから結婚して下さいと申しました、シマ様』


 サヨが俺の目を見ながら真剣な無表情でそう伝えてくる。

 だが俺には判る、こいつはすっげー恥ずかしがっているし本気の目だ……。


「なぁサヨ‥‥‥もしかしてお前はクレア皇女と俺の結婚に嫉妬しているのか?」


 あの結婚話を聞いてから、少しだけ様子がおかしかったんだよなこいつ……まさかとは思ってたけど……。


『ええそうですよ? それがいけませんか? シマ様の初めては私が全部貰うんです! 何か問題がありますか!?』


 サヨは表情を少しだけ崩して、大きな声で俺に感情をぶつけてくる……こんな表情初めて見せたな……。



 嫉妬して、感情を爆発させて、不満をぶつけて、主人に逆らって……。



 なぁサヨ、お前はやっぱ何処か……いや……もうお前は人工知能とは言えないんじゃないかと思うんだよ……。



 なら、それはもう人だよな。



 ……。



 ……そうだなサヨが人だというのなら……。



「いいぞ、式をあげればいいのか?」


『確かに私はシマ様の下僕で従者で召使です!、ですがそれでも! ……今なんと?』



「いいって言ったんだよ、サヨの後にクレア少佐と結婚するのは良いんだよな?」


『それは、はい、シマ様のご家族が増えるのは大歓迎ですので……ですが本当によろしいので?』



「良いぞ、お前はもう俺の大事な家族だしな、嫁であってもいいだろ、サヨはアリアード皇国に籍がある訳じゃないし結婚披露宴をやるって事でいいな? ああいや……んん……サヨ、俺と結婚してくれないか?」


 俺は椅子に座っていたサヨの手を取り、そうプロポーズをしたのだった。


『はい……はい! 私こと兵站用補給艦サヨウナラはククツシマイ様と結婚をして、これからも幾久しく貴方と共に宇宙そらを翔け抜けます……結婚式は別荘惑星でブレインユニット全員を参加させてやりましょう!』



 ……いや……さすがにそれは多くね?


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