第45話 面倒事ってのは終わる事がねぇものなのかなぁと思った
「え? ステーションごと?」
『はい』
「それはなんていうか……盲点だったねシマ君……」
ドリドリ団の拠点らしき場所の攻略を、皇国軍に丸投げをして一週間程たった。
俺達は未だにサヨが恒星系ごと食べ尽くした宙域に留まっている。
なぜなら今でも適応体がちょいちょい集まって来ていたからだ。
適応体誘導装置は壊れたけども、その前に誘引されたのが惰性で集まって来ていたんだ。
まぁさすがに数は随分減ってきたし、そろそろ追加も終わるかなって思っていた時に、先程の報告が来た。
特に忙しくないので、俺の自室で雑談中の出来事だった。
「え……だって交通の要としての宇宙ステーションだったんだろ? 大きさは都市がまるごと入るくらいって聞いていたんだけど……俺の勘違いか?」
『一般に公開されていた都市部分だけで四百平方キロメートル前後でしょうか』
「でかいな! 勘違いじゃなかったな……」
「航路の要ならそんなものかもねぇ」
クレアは大きさには驚いて居ない様だ、さすが宇宙だ、スケールがでかい。
「あんまりクレアは驚かないのな?」
「ああうん、大きさにはそんなにね……でもそれが動くとなると話は別だよシマ君」
「なるほど、そういう事か、確かにそうだな、宇宙に浮かぶ人工物にしては大きいが時間をかければ作れない事もないもんな」
「そうだねぇ、でもそれが皇国軍から逃げられる程の機動を備えているってのは……ちょっと信じられないなぁ」
「サヨ、その辺の情報はどうなんだ?」
『追いかけっこでは無く、皇国軍がいつもと違う動きを見せた瞬間に逃げ出した、という所ですね、戦力が集まる前だったので、ステーション付近に居た皇国軍小隊の指揮官では民間人が多数乗っているステーションを強引に止める判断をする事が出来ず、まごついている間に長距離ワープが出来る位置に移動されたという感じです』
「スパイ対策はしていたはずなんだが、バレていたって事か?」
「うーん、シマ君はさぁ、毎日話をしていた知り合いからの連絡が急に来なくなったり、もしくは急に塩対応になったりしたらどう思う?」
「ほぇ? そりゃぁ……何かあったって心配す……ああ……俺があの遺産持ちを倒したからか、しかもスパイやら協力者が一気に締めあげられたり確保されたりしたらそりゃぁ……」
「逃げるよねぇ……」
『皇国軍もそこまで派手に逮捕なりをした訳でも無いのですが、この元恒星系に監視の為の機器が置いてありましたしね、相当数壊してから私が食べてますが、情報が入らなくなる事も情報のうち、という事でしょうか』
あーそりゃそうだよなぁ……ってさぁ。
「そういう事も報告しようぜ?」
『ほとんどの機器は先行させた隠密偵察特化の部隊が発見して壊しちゃってます、今度彼女達潜宙艦部隊も褒めてあげて下さいね』
「いやそういう報告じゃなくて……勿論そういう地味な仕事をしっかりやってくれた娘達も褒めるけどよ、ってそうじゃなくてだな」
「ちなみにシマ君がそれを事前に知ったとしてどんな命令を?」
クレアの質問にちょいと考える……んー……。
「……壊せとしか言わないかもな……判ったってばもう、色々裏でやってくれてありがとうサヨにクレア……はぁ……俺は知らん事だらけだなまったく……」
『シマ様には本当に大事な事だけはちゃんとお聞きしますから、情報は多すぎても混乱するだけです』
「総指揮官が全てを知る必要は無いんだよシマ君、それをやろうとすると部下との信頼関係も崩れて失敗する事も多いんだ」
指揮官としての能力の高いクレアが言うのならば、まぁそういう物なのかもしれないけれど……。
という事は、俺は適当くらいで丁度いいのかもな……よし! 今まで通りに適当に生きよう!
「それでサヨ、今その宇宙ステーション……あー大きさを考えると宇宙シティとでも言うべきか?」
「元々の目的を考えるとステーションで良かったんだけどね、今は動いてるし交通の要では無くなったから……シマ君の言う通り名称は変えるべきかも?」
『では『宇宙ドリドリシティ』という事で』
それでいいか、いやちょっと長いから短くしよう。
「サヨ、そのドリシティは、今何処にいるとか判ってるのか?」
『宇宙ドリドリシティは、銀河の辺境域に逃げ込もうとしている可能性が高いという所までは判明していますが、その後は不明です、銀河ネットとの接続もしていない様ですね、銀河ネットジャマーを自分に使っている可能性が高いです』
この銀河ならどこからでも繋げる事の出来る銀河ネットだが、裏を返せば接続してきた奴の情報をゲット出来るって事か……サヨの持って居るという銀河ネットへの上位パスってやべぇよな……。
無関係の人間の接続はジャマーで止める事が出来るって事かもな……厄介だよなあの装置。
「それにシマ君、皇国軍も大軍で長期の遠征はしたくないだろうから、まずは斥候を各地に放つ所からに成りそうだよね、今頃皇国軍の参謀本部は大荒れかも……」
もー、何事もなく帰れると思ったのに……しゃーねぇか。
「ほんと、人の迷惑になる事しかしないのな……ドリシティに居るドリドリ団の奴等ってば」
「人の迷惑になるとか考える人は、そもそも内乱なんて手段は取らないよねシマ君」
『宇宙ドリドリシティごと破壊したく成りますね』
それが出来たら楽なんだろうけどな、さすがに万単位の民間人が居るとなると……。
「サヨ、ドリシティにはドリドリ団と関係なさそうな人間がどれくらい居たんだ?」
『宇宙ドリドリシティの上層部はほぼドリドリ団の構成員です、その下に協力者がそれなりに居て……関係者が3万人程、それ以外だと観光で来ている人、それから荷物を運ぶ途中で休憩中の人らや、協力者では無い住人を合わせると無関係な人間が60万人程でしょうか』
ステーションとは言いつつも一つの都市並みだな。
「……ねぇシマ君にサヨさん」
「なんだ? クレア」
『どうしました? クレアさん』
「どうして二人とも宇宙ステーションの新しい呼び名を擦り合わせないの?」
「だってちょっと長いじゃん? クレアもドリシティの方が語呂がいいと思わないか?」
『名は体を表すとも言いますし、クレアさんも宇宙という言葉は入れるべきだと思いませんか?』
「シマ君とクレアさんの、どちらの意見も一理あるけどさぁ……なんでそれに関してお互いに相談をしないの?」
「あーそれは……」
『なんといいますか……』
「何だって言うの?」
「先に言いだしたら負けかなって」
『相談をする方が立場が弱くなりそうで』
「なのでサヨが悪い」
『ですのでシマ様が悪いんです』
「ほんと……仲いいよね二人共……」
「そうかなぁ? どう思うサヨ?」
『なんだか照れちゃいますねシマ様』
「しょーがねぇなぁ、じゃぁ宇宙ドリドリシティでいいよサヨ、俺達仲良しだもんな、今回は俺が譲るよ」
『いえ、私も頑なだったかもしれません、シマ様のドリシティは短くて良いかもです、ラブラブな私達ですし、此度は私が引きますね』
「……いいからいいから、サヨの方を使おうぜ」
『……いえいえ、シマ様の方を使うべきです』
「……俺が譲っているんだから素直に受けろよサヨ、そういう所だぞ?」
『……主人に配慮している部分を察して下さいシマ様、そういう所ですよ?』
「ああん?」
『なんですか?』
「ねぇ……シマ君にサヨさん……私知ってるんだ、それって夫婦漫才って奴だよね? 止めないし突っ込まないからね? サクラちゃんの歓迎宴会を温泉旅館でやっていた時と息の合わせ方が同じだもの……」
ちぃ! 気付かれていたか……さすがうちの優秀な嫁だ。
「いい加減にしなさいっ!」
『どうもありがとう御座いました~』
仕方ないので、途中だが強引に終わらせる事にした。
「さすがだなクレア、呼吸の合わせ方で気付くとは」
『さすがクレアさんです、伊達にシマ様観察眼一級の資格を持っているだけはありますね』
「なんだその資格……何を見分けられるんだその一級とやらは」
『シマ様がクレアさんや私に相談する事もなく、新たな女性にフラフラ案件を起こした場合すぐ気づきます』
「……そんな馬鹿な、たまたまだろ?」
『いえ、現にクレアさんはエンゼさん相手のフラフラ案件にお気づきですよ』
「え……いやそれはな……ちゃうねん……」
『という冗談だったのですが、新たな事件が発覚してしまいました、どうしましょうかクレアさん』
え? 冗談だったの? しまったぁ!!
「シマ君?」
「あ、はいクレアさん……申し訳……ありませんでしたー-!!!!!」
クレアの少し呆れた声に、自室の床で土下座をして応える俺。
「もうシマ君は毎回毎回……有翼人のエンゼさんはちゃんと少し先の予定に組み込んであったのにねぇ?」
『これはシマ様を知る為に調査必須ですね、シマ様、どんな状況でそうなったのですか? ワクワク』
ワクワクと口にするな!
……クレアの目も知りたいと言って居るし仕方ないか……。
「いやほら、エンゼってばメイド部隊のメイド長だろ?」
「そうだね、シマ君のお世話係って曖昧だったから、あの部隊が出来て色々助かったよね」
『細かい所は人の手でやるほうが見栄えがいいですしね、それではシマ様、続きをどうぞ』
くっ……どうぞ、じゃないんだよサヨめ!
「……エンゼが些細な失敗をしてさ、普段優秀なメイド長なのにね、そして俺がそれを……」
「それを?」
クレアが促すが……俺はそこで口を閉ざす、いやだってこういうのって俺の……。
『……あ、私判りました、シマ様の秘密なムフフアーカイブに似た様なシチュエーションがありますクレアさん』
「そうなの? 教えてサヨさん!」
むぁ! サヨが気づいただと!? 待って、それは待ってー--。
『普段完璧なメイド長が些細な失敗をしてそれを叱る主人、だけどもいつしかその状況に興奮してしまった二人は……という奴ですね』
「そうなの? シマ君?」
クレアは特に声色を変える事もなく聞いてきた。
クレアのメンタル鋼かよ! 性癖の話なのに素で聞いてきやがった……。
おーけーこうなったら開き直ってやる!
「その通りだ! 俺は……俺は……俺は! メイドにお仕置きプレイが大好きだったようなんだーー--!!!」
ふぅ……大声を出してスッキリした……さて寝るか。
俺はベッドに近づき、掛布団を捲り上げてその中に潜り込んで丸くなった。
「ちょ、シマ君? なんで急に布団に潜り込んだの!? 私今回はそんなに怒ってないよ? エンゼさんは元々そういう予定だったし、怒るのは予定にすら組み込まれて無い子にフラフラする時だってば!」
『クレアさん、こういう時はこうです、ゴニョゴニョ』
クレアが怒ってなくて良かったけども、自分の性癖を大声で叫ぶのはちょこっと精神的にクルものがある、俺はそれで興奮出来る方向性の変態じゃねーしな……。
サヨの声がよく聞こえないが何かを……って身体強化をされている俺に聞こえないって事は、わざわざそういう音声遮断の力場を張りやがったな。
……微妙にゴニョゴニョとした雑音があるのが芸が細かいってか、何をしてんだ?
俺はお布団から顔だけ出してクレア達の方を見ると、丁度クレアが近付いて来る所だった。
二人の内緒話は終わったっぽい?
俺の直ぐ側まで来たクレアは、俺の顔に近づいて耳に口を寄せると……。
「そんなに好きなら……これから私がメイド服を着て来るから……お仕置きしちゃう?」
そう小さな声で聞いてきた。
それを聞いた俺は、バッっと布団の中から飛び起きてクレアを見ると……。
そこには頬を赤くした色っぽいクレアが居た。
いやいやいや……無理にそういう事をしようとしているのなら止めないと……と思ったが。
クレアの尻尾は左右に元気よく、機嫌のいい時の振り方をしていた……。
それならばと。
「しちゃいます!」
と答えが一択しかない問題をクリアする俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます