第11話 急にカサゴの唐揚げが食べたくなる、そんな時もある。

『敵、マグロ型適応体30、アジ秋刀魚など小魚型300、クリオネ型はマンタ型空母が3匹居ますので恐らく2000体以上は確実かと、近距離レーダー波を妨害されていますが、恐らく背後にマグロ型を超える適応体が居ると思われます』


「了解だサヨ、こちらも戦力は出し惜しみ無しだ、戦場上限まで出せ、それと潜伏型に気をつけろよ」


 俺は戦闘指揮室の指揮官席に座り、サヨにそう命じる。


 指揮官室には俺とサヨの二人だけで……クレア少佐や側付きの子らは居ない……。


『ではこちらはカスケード型戦艦を5隻、ビリアル型巡洋艦を150隻、アエンデ型駆逐艦を1000隻、ダストトレイル型航宙母艦5隻とファイヤーフライ型スクィードを1号から4号装備まで適宜換装させて5000機程、そして敵の偽装や潜宙タイプに備えてエイシェル型潜宙艦10隻を次元潜宙させておきます、これ以上出した場合この宙域では身動きがとり辛くなります、よろしいですかシマ様?』


「許可だ」



『はい、では各艦発進、陣形は私を中心にした魚鱗で行きます』


「ああ、みんな頼むよ、頑張った子にはシマポイント奮発しちゃうからな!」


『『『『『『『『ひゃほー-う!』』』』』』』』


 戦艦や戦闘機のブレインユニットである彼女達の、元気な声が空間投影モニターから響き渡る。


 結局のところ俺には細かい指揮は出来ないので、有能な指揮官には成りえない。

 だから、彼女らの能力に頼るしかないんだよ。



 今居る場所は狭い宇宙回廊で、ブラックホールやら時空嵐やら何やらで、航行しにくい場所に囲まれた回廊だ。

 そこに奴らが巣を作って隠れていたんだよ。


 今はその邪魔だった壁のブラックホールを、サヨが食って穴をあけてから、奴らのおうちにコンニチハサヨウナラをする所だ。


「相手の準備を待つ必要はない、攻撃開始だ」


『攻撃開始』


 空間投影モニターには、カスケード型戦艦のぶっといビーム砲を皮切りに、大小様々な砲撃が飛び始めたのが映し出される。


 適応体もマンタ型空母からクリオネ型を大量に放出し始めた。


 しばらくしたら戦艦の砲撃が飛び交う中心で、戦闘機同士によるドッグファイトが始まる事になる、ったく厄介な場所に居やがって……。



 ……。



 俺は少し前の事を思い出す。



 ◇◇◇



 第8艦隊やらとの共闘作戦が進み、後は物資を回収する時間になった時、サヨに相談というか話をされたんだ。


 どうもおかしい、と。


 あいつが言うには、自分の知識の中にある適応体はもっと様々なタイプが居たそうで、しかもクリオネ型には空母型が必ずついていたというのだ。

 勿論その時の戦場には、空母型適応体なんてのは見つかって居なかった……。



 サヨは銀河ネットの海に微睡みながら寝ていたので、旧銀河帝国がどうして今存在しないのかとか、中核となっていた種族が今どうしているのかなんてのは判らない。

 なので、適応体との戦いがどうなったかも知らないらしい。


 クレア少佐も適応体に沢山の種類が居る情報は知らなかった。


 とまぁそんな話があったので、周囲の辺境星系を探ろうとなったのだが、なぜ俺一人で少佐達が居ないのかというと。


 まぁちょっとやり過ぎたって所だ。


 皇国軍にとって俺が見せた力はかなりの物で、利用したい輩は大量に出て来るだろうって事は明らかだったんだ。


 まずサヨが回収した旧銀河帝国の遺産である旧型巡洋艦の残骸を元にして、ブレインユニットを搭載しないで運用する旧型巡洋艦をサヨが作り出した。


 ブレインユニットが搭載されて居ないから艦の運用に人が一杯必要だし、そうなると元の艦の戦闘力の50%くらいの物になるらしいけど、ビームの威力なんかは同じなんだって。


 それを10隻ほど、管理権限を第8艦隊司令官のお爺ちゃんにしてプレゼントした訳だ。


 事故車二台から車を一台を作り上げるニコイチなんて言葉があるが、これは一隻の巡洋艦を薄めたのでイチジュウ……。


 いや……ある程度大本の部品がないと、サヨに規定されているルールに違反してしまうらしく。

 あくまでこれは、一部の部品から巡洋艦をした物で複製とかでは無い、という理論らしい。


 爆散した艦のブレインユニットは、狼獣人と一緒に脱出しているので生きているけど、造り出した巡洋艦の管理権限キーは変えちゃったらしいから、勝手に使われる事もないってさ。


 まだ旧巡洋艦の残骸部品は残っているので、あと百はいけるとサヨは言ってたけど……。

 それはまぁ今後の取引材料とかにね……イチビャクか……語呂が悪いなぁ。


 その旧型巡洋艦の他に、大量の遺産機器用の補修パーツを渡してある。


 ちょっとやり過ぎだけど、遺産である巡洋艦が爆散してるからね、なんらかの処分をお爺ちゃん司令官が受ける可能性あるから仕方ないねん。


 お爺ちゃん司令官にはあの後一度会っただけだったけど、話してみたらすごい楽しかったし。

 また戦場で会いたいと思う、歴戦のだったね。


 そんな訳で俺がこのまま帰ると、出向が終わって特級遊撃部隊に帰る前に、無理やり何らかの命令をねじ込んで来る馬鹿が出て来る可能性があるんだとさ……。


 勿論無視してもいいのだけど、そういう輩って逆恨みするじゃん?


 なので、まず出会わない方がいいという事で、クレア少佐以下側付き部隊は一度第8艦隊と共にアリアード皇国本星に帰る事にした。

 そしてクレア少佐が皇帝陛下に上奏をして、俺の立場を上げるなりなんらかの命令を下すなりするまで、適応体の調査任務についているって建前で単独行動をしている。



 それとたぶん、遺産を失ったあの狼獣人は退役させられるだろうって話だった。

 一杯稼いだろうしさ、後の人生は美味しい骨付き肉でも食べながら、美人な獣人と結婚とかすればいいんじゃないかな?


 あの狼獣人と一緒に内火艇で脱出した中に居た、メカメカしいアンドロイドな巡洋艦のブレインユニットも従者として末永く仕えてくれるだろうし。

 軍の年金も勲章数に応じて支払われるって話だしさ……。


 性格は悪いけど、適応体や海賊退治で活躍していたみたいだから、罰を受けるような事は無いし、これからの人生はのんびり過ごせばいいんじゃないかな……。

 まぁ性格は悪かったけどね! ……大事な事だから二度言っておくよ。



 まぁそんな訳で、今は辺境宙域を色々周りながら適応体探しをしている。


 たまーにちょろっと数匹居たりした事はあったけど、中々見つからなかった所でこの巣が見つかったんだよね。


 巣って言っても適応体が集まっているってだけの話だけどね。



 ◇◇◇



 ……。



『適応体の残りはマグロ型2、小魚型26、クリオネ型とマンタ型空母は全て倒しました、潜伏ヒラメ型はスクィード4号偵察型が3体見つけており、すでに撃破済みです』


「おーみんな頑張ってるな、敵を倒しただけじゃなく偵察を頑張った子にもポイントはあげてな」



『はい、勿論裏方仕事にもしっかりポイントを付与しています……ただ……ご褒美の100点に到達する者が今回も出そうですが、大丈夫ですか?』


「え? んー……うんまぁ……頑張るよ……でもマニアックな要求は程ほどにって言っておいてくれる?」


 前回の第8艦隊と一緒に居た時の戦いと、この巣に至るまでの複数回の小規模戦闘で、偶然にも抽選に何度も当たった子が居てさ、シマポイントが100点になった子がいたんだけど。


 そのご褒美のお願いってのが……俺に膝枕で耳かきをして欲しいって願いだったんだよね……。


 これ本当にご褒美になるの? って5回くらい聞いたんだけど。

 『成ります!』って10回くらいきっぱりと返して来るもんだから、願いを叶えたんだ……。


 獣人の耳を綿棒で掃除するのって緊張するし、それを受ける子は色っぽい声を出すしで、すっげぇ疲れた。


 しかも彼女達の見た目が、宇宙中のモデルやらアイドルやらにも成れそうなくらいだから、めっちゃ美人なんだよなぁ。


 普通にお菓子とか洋服とかを要求してくれると楽なんだけど……。



『マグロ型、小魚型全部撃破、その奥からサメ型適応体きます!』


「マグロ型がうちのビリアル型巡洋艦と同等だから、サメ型だと……カスケード型戦艦が5隻いれば余裕でいけるよね?」



『はい、先ほどの戦闘でこちらの被害は2%以下ですし、カスケード型戦艦に被害はありませんので……あ、終わった様です』


「あらま……最初から他の適応体と一緒に出ておけばいいのにな、よし! 周囲の警戒は続けつつ物資の回収といこうか!」


『はいシマ様!』


 俺とサヨは戦闘が終わり一気に元気になる。


 別に緊張から解かれたからとかでは無い、では何かというと。



 ……。



 ――



 適応体の残骸を回収して、サヨが吸収を始める。


『んんんんんんんんんー-----美味しいです!』


「そりゃよかったなサヨ」


 サヨがいつもの無表情を崩して報告してくる。



 クレア少佐も言っていたが、適応体は貴重物資の塊だ。

 あの時は皇国軍行きなので俺らは手を付けなかったのだが、ここに来るまでの小規模戦闘で得た適応体を、サヨが吸収したらそのあまりの美味しさに狂喜乱舞した。


 今はその時より落ち着いているけども。



『はぁぁぁこのあっさりとしてとろけていく喉越し! 素材の味が引き立ち、いくらでも食べれてしまうクリオネ型は飽きがきません!』


「食レポかな?」



『そしてこの小魚型の数々です! 絶妙なバランスで癖になる味は食べれば食べる程食欲をそそるという恐ろしさを秘めています』


「食レポかな?」



『そしてなんといってもマグロ型です! 濃厚でコクのある味は口……私の中に豊かな味わいが広がります』


「食レポかな?」



『そしてヒラメ型です、これはそのままでは淡泊で味気ないのですが、ビームで揚げると、えもいわれぬ良い匂いがするのです、その匂いを嗅ぐだけでたまりません!』


「真空でも匂いは伝わるのかね? 食レポ……まだ食べてないよね?」



『そしてサメ型です、ギトギトで強烈な匂い……以上です』


「サメは新鮮だとアンモニア臭もしないし、そもそも美味しいですから! これは適応体の感想であってサメをディスっている訳では無い事をククツがお伝えします!」



『急にどうしたんですかシマ様?』


「お前が最後まで食レポしないからだろうが!? だからフォローしたんだよ! ちゃんと美味しく料理して食べてあげてよー」



『はぁ……では、サメ型は歯ごたえが有り濃密でパンチのある、まさに珍味と言えるでしょう、こんな所でどうですか?』


「食レポ下手な芸能人か!? 今の感想を聞いて俺も食べたいって思わないだろう? 昔婆ちゃんが作ってくれたサメのムニエルは美味しかったからね!?」



『難しいですねぇ……次は頑張ります!』


「……期待しないで待ってる」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る