第10話 想定外なんていつの世界もあるもんで、最悪を回避さえ出来れば上等なんだと思う

「サヨこれで終わりそうか?」


 結局1000体では終わらずに、第二陣も含めてクリオネ型が2000体以上来たが。


 士気というか、テンションの上がった戦闘機部隊の子らには何の問題も無かった。

 むしろ獲物が増えて喜んでいた。


 宇宙に飛び回る光の帯と爆発の花火がすごい綺麗だったが……それも間もなく終わりそうだ。


 そして戦場に静寂が……。


『第10惑星に居たらしき適応体が擬態モードを解きました、オニカサゴ型です、スクィード1号では火力が足りません』


 サヨが報告と共に敵の姿を空間投影モニターに出してくれる。


 そこには、姿形がゴテゴテしていて、惑星の色と同じな敵が映し出されていた。


 比較対象が近くに居ないから大きさはちょっと判らないけど、サヨが火力不足というならそうなんだろうな。


「全機撤退させろ……最後っぽい一匹なら第8艦隊でいけるかな?」


 俺が横の椅子に座っているクレアさんに、そう聞いてみると……。


「どうでしょうか……あんな形のは初めて見ました……いつも報告に上がるのははクリオネ型とかいうあの高機動な物とか、遺産の人格達がアジ型とかイワシ型とか呼ぶようなタイプでしたし」


 ふむ……まぁ一応やって貰うか。


 俺の戦力だけで全部倒すのも問題あるしな。


「第8艦隊司令部に通信! 『火力不足で戦闘機部隊を撤退させるので援護射撃を下さい』と」


「了解ですククツ艦長、『こちら補給艦サヨウナラ通信士です、第8艦隊――』」


 通信士が俺の援護要請を第8艦隊に伝えると。



 ……。



 しばらくして、サヨの後ろに集結していた第8艦隊が俺を中心に鶴翼の陣に移行し。


 オニカサゴ型適応体に遠距離攻撃を加え始める。


 その様子を空間投影モニターでつぶさに観察をしているんだけど……。


「なんだあれ、砲撃が当たっているのに効いていない?」


『適応体はその内部に貯め込んだ豊富な物資を使って表皮に強固な生体シールドを展開します、体が大きく成れば成るほどその厚みも持久力も硬さも変わっていきます』


「あれがあるから一発の火力が高い遺産の戦艦が欲しくなるんです、良く見ると防御に物資を消費しているから適応体が小さくなっているでしょう? あのように私達皇国の船でも倒せなくは無いのですが、一撃でコアを破壊出来ないと貴重な物資を消費されるので、儲けが少なくなってしまうんでよククツ艦長」


 クレア少佐が、サヨのくれた情報の補完をしてくれた。



 つまりだ……。



「それってつまり、俺達みたいな遺産持ちは、適応体を倒すためにも、そして物資を多く得る為にも必要なんですね?」


「そうなりますね、ククツ艦長」


 クレア少佐は至って真面目に返答をくれた。



 ……なんだろうか。


 ……命をかけた戦いのはずなのに……高額で売れる魚介類を狙う漁師になった気がしてきた。


 俺がまだ日本地区に居た頃に、高級な天然マグロを獲るドキュメント映像を見たっけか。

 何故か技術力的にアナクロな機器でしか漁が許されないんだよな……見てる方にとったら面白かったけど。


 地球の海はアリアード皇国がもたらした技術によって、かなり綺麗になったし魚介類も増えたって、そこだけは宇宙人に感謝するとか爺ちゃん婆ちゃんは言ってたっけ。


 ……他にも色々便利になっただろうに、一番感謝するのそこかよ!

 と、爺ちゃんに突っ込みを入れたっけか、懐かしいな。


 俺が漁師を切っ掛けに地球の事を思い浮かべていると、オニカサゴ型はどんどん小さくなって、最後には爆散して倒された。


「終わったな」

『終わりましたね』

「お疲れ様です、ククツ艦長」


 俺とサヨとクレア少佐は、お互いに無事に終わった事を喜んだ。



 ……。



「……あのククツ艦長、先発隊から救援要請が来ているのですが……先ほどもお伝えしましたよね?」


 通信士の一人がおずおずと俺達三人に伝えて来た。


 お互いの健闘を称えていた俺達三人だが。


「そうだっけか? まったく記憶に無いんだが」

『私のアーカイブにも存在しませんね、別の世界線では無いでしょうか』

「些細な事は忘れていく物ですし、気にしない方がいいかと」


「『「ハハハ」』」


 俺とサヨとクレア少佐は笑って済ませる事にした。


「第8艦隊司令部からも救援要請が来ました『救助に向かうので一緒に来てくれ、ただ万が一を考えて足並みを揃えて行くべきだ』だそうです」


「む、助けるのか、てーか確か遺産の船には高速脱出艇とかも備えてあるよな? 世代が前のだと無かったりするの?」


『古い世代の船でも有るはずです……壊れて無ければ』


「あー確かすごい早くて逃げ足だけは逸品の小型船ですよねぇ? 昔皇国軍にすごい高値で売りつけられた遺産小型艇の話を聞いた事がありますが……あれがあの狼獣人の遺産だったかどうかはちょっと知りませんけど」


 はぁ? ……馬鹿じゃね? え? 命がかかる脱出艇を売る奴がいるの?

 ……いやまぁ前線に出ない人が売ったのかもだけども……。


「しょうがない、行くかサヨ、第8艦隊の動きに合わせてくれ、クレア少佐もいいですよね?」


『了解しましたシマ様、一番足の遅い皇国軍の工作艦の早さに合わせて助けにいくそうです、休憩が取れそうですね』


「勿論同胞は助けに行きます、ただし工作艦を残していく訳にも行かないですから、ゆっくり行く事になりますね、あーしょうがないなぁ急いで行きたいのになー」


 俺とサヨとクレア少佐の茶番に、通信士として来ている側付き達は誰も突っ込まない。

 むしろ彼女達は早々と休憩をとり出している。



 ……。



「……お茶でも飲もうか」


『すぐに準備します、シマ様はいつものオレンジフレーバー飲料で、クレアさんはいかが致しますか?』


「サヨさん、私は紅茶のフレーバーでお願いします」


 ふぅ、映像を見る限りまだ大丈夫そうだしな。


 俺達に数千の適応体が攻めてきたのと同時に、先発隊にも百を超えるクリオネ型が襲来したようだった。


 まぁ火力の差があるから、そう簡単にはやられないだろうさ。



 ――



 ――



『ショートワープが完了致しました、戦況を映し出します』


 工作艦に合わせたチマチマとしたショートワープを繰り返し、救援にやッて来た訳だが……あらら……。


「きもいなあれ……」


 巡洋艦の各部にクリオネ型の適応体が齧りついているのが、空間投影モニターに映し出されている。


 シールドで耐えていたようだが、俺達が着いたあたりでそれも消えて、ガジガジと食われ出している。

 すると、巡洋艦から小さな内火艇らしきものが飛び出してきた。


「先発隊から通信『お前らが遅いから脱出するはめになっただろうが、早く俺の巡洋艦を助けろ』だそうです」


「第8艦隊司令部から通信『敵を殲滅するべく全力攻撃を開始する』あ、もう始まってますね」


 巡洋艦に群がっていたクリオネ型に、第8艦隊の攻撃が一斉に開始される。



「サヨ、一応スクィード1号を準備させといて、こっちにクリオネ型が詰めてきたらサヨの判断で発進させていいから」


『了解しました、さきほどのスコア成績の悪かった順に100機程選んでおきます』


 まぁ必要なさそうだけどね、巡洋艦は頑張ったんだと思うよ、クリオネ型の残りが50体を切っているしね。


「あらら、流れ弾が巡洋艦にバンバン当たっているなぁ……」

『流れ弾率が4割を超えていますね、皇国軍は鍛え直した方がよろしいかと』

「しょうがないわねぇ、新兵が多かったのかしら? まぁもうあの艦は無人みたいだし問題ないわね!」


「『「ハハハ」』」


 やはり三人で茶番を演じている俺達。



 そこに通信士達の会話が聞こえてくる。


「あれ絶対にわざとよね、半自動照準でこんなに外すなんてありえないもの」


「でしょうね……態度の悪い遺産持ちは嫌われるからなぁ……」



「だからこそシマ様の側付き募集の時はみんなで応募したんだものね、私はてっきり遺産に適合するには性格が悪い必要があると思ってたから、すごくびっくりしたわ」


「事前資料を見て唖然としたわよね、牧場で草を食んでる羊かな? ってくらい穏やかな人生と性格をしてたし……まぁ少しエッチなのは男の子として普通よね? 恋人は居なかったみたいだけど」



「草食系っていうんだっけ? 私達が肉食系だから相性もいいしね」


「それは私とあなたがライオンとヒョウ系の獣人だからじゃないの? 意味が違うじゃない」



「こりゃまた失礼」


「いい加減にしなさいっ」



「「ありがとうございましたー」」


 何故か彼女らの周りの通信士が拍手をしている。

 なにしてんねん彼女らは……楽しそうだなぁ……今度その漫才に俺も混ぜてくれ。



 そうして巡洋艦が宇宙の藻屑に……間違えた、クリオネ型が宇宙の藻屑へとなった。



「終わったな」

『内火艇も第8艦隊に回収されたようです』

「お疲れ様ですククツ艦長」


「「「「「「お疲れ様ですククツ艦長」」」」」」



「お疲れ皆、この後の適応体の回収は第8艦隊がやるんだよね? 俺は帰ってもいいのかな?」


「回収はそうなりますね、普通でしたら遺産の巡洋艦に補給等をしたら帰還を許される所なのですが……あれはもう爆散しちゃいましたしね、ククツ艦長は護衛として残る事を要請されるかもです」


『あの巡洋艦の残骸の回収を許可して頂けますか? シマ様』


「ん? あー通信士! 第8艦隊の司令部に、適応体じゃなくて巡洋艦の残骸を貰っていいか聞いてみて」


「了解しましたククツ艦長、少々お待ち下さい――」


 しばし待つと返事が来たようで。


「残骸の回収許可が出ました、ついでにやはり護衛として残るようにと要請が来ております」


「ありがと、護衛は謹んでお受けしますと返事をしておいて、サヨ! 許可でたってよ」


『はい、では大きな残骸は直接私が、細かい物はドローンで回収していきます』


 さて俺は……結局出番の無かった戦闘機部隊の子達を慰め、その前の戦闘で頑張った全員を褒めたりと、空間投影モニターを使ったチャットや音声のやり取りで忙しかった。



 その様はまるで、動画配信主が投げ銭に一人一人お礼を言うがごとくで……これ数万人になったら無理だよなぁと思いつつ頑張っている。


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