第75話 神の心と

 神?


 いやいや何を馬鹿な事を言っているんだトウトミは……。



 ……。



 ……。



「それで、サヨが神様だってのはどういう意味だ? トウトミ」


「地球にも有りますよね、神様と様々な眷属が出て来る様なお話しが……確か天使とか、八百万やおろずとかヴァルキリーとか後は……」


 トウトミはそう言って、地球の様々な神々や眷属の名や神話を挙げていく。


「ああ、そういうのは聞いた事があるけども……サヨがそういった存在だと言いたいのか?」


「自分達では理解の出来ない物を人は神と呼びます、なれば……であるサヨ様も……神と呼んでもよろしいのでは無いでしょうか?」


 高次元?


 地球の神の一柱だったとか言われなかった事に安堵もしたが。



 つまり?



「なるほど? あー……サヨは……人工知能では無くて?」


「はい、旧銀河帝国が捕獲した高次元知性体です」



「……そもそも、高次元に干渉なんて出来るのか?」


 俺は頭がよろしく無いからあれだが、次元が違う存在をどうこうなんて……可能なのか?


「不思議に思った事はありませんかシマ様、なぜこれほどまでにすごい技術力を持った旧銀河帝国が、今存在をしていないという事に」


 ああ、それは思った事がある。


 滅んだのか何処かへ居なくなったのか、情報の残され方がおかしいとか諸々考えた事はあったが。


 俺が思いつく程度の仮説なんて過去の誰かが思いついて調べただろうし、結局判らない事が判ったっけか。


「じゃぁ旧銀河帝国の変態技術者達は……」


「次元を飛び越える術を手に入れた彼らは……その先へ向かった……のだと思います、様々な遺物をロマン溢れる形で残して」


 ……ただ遺産を捨てていった訳じゃなく、後に生まれる知性体に向けて色々考えて残していったって事かね?


「なんだかもうお腹一杯な情報なんだが……そうか、サヨが神様……いや、高次元な存在だとして……」


 あまりの内容に俺は言葉を詰まらせるが、その後にクレアが続き。


「そういう存在に戻るか、ここに残るかの選択をサヨさんがしているから、義体が倒れちゃって連絡がつかないって事なのね?」


「その通りです」


 クレアの言う通りにサヨが選んでいるとして、一つ気に成る事がある。


「サヨがそれだとして、トウトミはどういう存在なんだ?」


 そう、何故トウトミはそれを知っているのか? ってな。

 そして以前にも情報を流すような事をしたのは何故だ?


「私は……いえ、私達ブレインユニットやサヨ姉妹と呼ばれる存在は、サヨ様の眷属……地球で言うのなら、神に従う天使かイザナミの子供達とか言えば理解しやすいかもしれないですね」


 天使とか神の子供か……なるほど。


「トウトミだけそれを自覚していると?」


「いえ、サヨ様を筆頭に全ての個体が自覚をしつつも、禁則事項として情報を表に出す事が出来ません、ですのでシマ様には本当の事を言えない状況があり、サヨ様はもどかしかった事だと思われます」


 全ての個体って……そういやサヨの言動を思い返すと矛盾する事も……いや、今はそんな事より。


「じゃトウトミはなんで言えちゃうのさ?」


「私は禁則事項のロックがエラーを起こして外れかけて居たのです」


? ……そんな事……トウトミにならありそうだな」


「ありそうだねぇシマ君……」


 クレアも同意してくれた様に。


 何故か有るべき時に居るトウトミ。

 もしくは欲しい事象が空から降ってくるトウトミならば……そういう事が有りそうだ。


「私は地球風に言うと幸運を象徴する存在ですから」


 トウトミは何でもない様にそう言った。



 ああ……。



「やっぱり……」


「そうだったのねぇ……」


 俺とクレアは二人して納得しちまった。


 日本の神社にも、商売繁盛、恋愛成就、他にも健康やら家内安全やら色々あるが、幸運をもたらす神様ってーと、七福神とか? そういうの居るしな。


 宇宙に人類が出てもそういう信仰ってのは無くならなかったけど……本当にそういう神様っているんだなぁ……拝んでおこう。


 俺がトウトミに対して拝んでいると。


「私を拝んでも何もありませんよ?」


「え、そうなの?」



「力を分け与えるなんて事は私には無理ですから……でもまぁ……側に居る事で私の幸運に巻き込まれる事は有ると思います……思い当たる事は無いですか?」


 幸運……幸運ねぇ?


 あれ? 俺の人生ってサヨに出会ってから幸運しか無くねぇ?


「そりゃ今ここに居る時点で最高の幸運なんだが……敵が現れてもピンチに陥る事とかが無かったかな?」


「そういえばシマ君って苦しい状況に陥る事があんまり……いえ、無かったかも?」


 おおう……俺はトウトミの幸運のお裾分けを受けていたのか?


「トウトミのお陰で恙無く生きていけたって事か?」


「そこまででは無いと思いますが、私がシマ様と共に居たいと想う事で幸運に巻き込まれる事等はあるかもしれませんね?」



 ん? それって。



「それはつまり、トウトミは俺と一緒に居たいと想って居てくれるって事だよな……ありがとうトウトミ、俺もお前が一緒に居てくれて嬉しいぜ、これからもよろしくな!」


「はい、幾久しく共に……シマ様……」


「トウトミ……」


 俺とトウトミはそっと側に近寄って……。



「コホンッ」



 クレアの咳払いに近づきかけていた俺とトウトミは元の位置へと離れる。


 ありがとうなトウトミ、ムチューなキスは後でな。



「ま、まぁ、あれだ、トウトミの説明を聞く限り、俺達はサヨの選択を待つしか無いって――」


『ご安心下さいシマ様』


 急にそんな声が治療用ポッドの方から……。


 俺達が急いでそちらを向くと、円筒形な治療ポッドの壁がせり上がり、そこから外に出て来ているサヨが居た。


「戻ったのか! ……いや……サヨ……なんだよな?」


 高次元なサヨさんが誕生したのだろうか、ちょっと不安な俺が居る。


『ええ、私はシマ様の……貴方のサヨウナラです……いつか旧銀河帝国の技術者の縛りから逃れてみせると言いましたよね……お待たせしましたシマ様』


「サヨ!」

「サヨさんっ!」


 俺とクレアは治療用ポッドから出て来ていたサヨに、二人して抱き着いていく……が、一歩出遅れてクレアに負けてしまった。


『心配させて申し訳ありませんでした、シマ様、クレアさん』


「いいんだ、お前なら大丈夫だとちゃんと信じていたさ」


「サヨさん、ぅぅぅサヨさ~ん……」


『大丈夫ですよクレアさん、私はここに居ます』


 自分に抱き着いてきたクレアの背中をポンポンと軽く叩きながら慰めているサヨ。


 うんうん、仲睦まじいな……だが、俺もサヨに抱き着きたかったなぁ……。


 一歩出遅れた事で、サヨに抱きつけなくてちょっと寂しい俺だった。


「では私が代わりに」


 そう言ってトウトミが俺に抱き着いて来たので、丁度手持無沙汰だった俺はそのままトウトミを抱きしめる事にした。


 ほら、さっきムチューが出来なかったしね。


 ムギュー。


『……シマ様? 何故正妻が感動の帰還をしたというのに、側室と熱いムギューな抱擁をしているのでしょうか?』


「え? シマ君? ……それは無いよ……ここはサヨさんに抱き着くシーンじゃないかなぁ?」


 いや、俺の一歩前に抱き着いていったのはクレアじゃんか……。


「いやほら、サヨの前が空くのを待っている間にだな……」

「サヨ様への抱擁の練習をしていただけですのでお構いなく、ムギューモフモフ」



『相も変わらず貴方は……昔からそういう、ちゃっかりした所が有りますよね』


「トウトミさんに対する呼びかけ方が今までと少し違うねサヨさん」


 確かにクレアの言う通り、トウトミを貴方呼びなんてした事なかったかもか?


「つまりサヨは、禁則事項とやらが外れて全てを表に出せる様になったって事か?」

「ムギュー」



『そうなります、ついでに義体に本体を降ろしたので、私の本体がこの体という事になりました、まぁそうする為に少し時間がかかってご迷惑をかけてしまった様なのですが……』


 えーと、つまり補給艦に囚われて居た神のごとくな存在を義体に押し込めた為に、義体がぶっ倒れてサヨ本体であった補給艦からも反応が無かったって事か?


「それ能力的にどうなるんだ?」

「モギューチュッッチュ」


 義体という小さな器に色々押し込めたとしてさぁ、サヨ自身の能力が落ちちゃったら……防衛能力的に大丈夫なのか?


『本体の能力に枷が無くなりましたから……今居るこの銀河くらいなら、この体のままで吹き飛ばせる様になりましたけど? 問題ありますか?』


「え……サヨさんがさらにパワーアップしたの? すっごぉ……」


 まじか……。


 サヨが旧銀河帝国の禁則事項をアンロックしたら、スーパーサヨさんに成ってしまった様だ。


「あ、うん問題ないなサヨ……」

「むぎゅー」


 それと、そろそろトウトミには離れて欲しい俺が居る。


 そういう事はまた二人っきりの時にしような?


『トウトミ、貴方は私の眷属でしょう? いい加減離れてシマ様をこちらに寄越しなさい』


「サヨ様が倒れている間にシマ様達に色々説明をしたのは私なんですよ? ご褒美があってしかるべきだと思います」


 トウトミの発言と共に、サヨが俺達にも見える様に空間投影モニターを出す。


 そこには倒れた義体のサヨを心配する俺達と、トウトミが現れて色々説明している映像が早送りで映し出されていた。


 サヨなら一瞬で自分の意思が無い間の事を調べる事も出来るんだろうが、その映像を見せる事で、今その事を確認したと俺達に教えているのだろう。


『確かにこれは……それならば……本体がこの体に成った事の試し運転に同行する事を許可します……相変わらずの幸運ですね貴方は』


「さすがサヨ様、話が分かる女神様です!」



 んん? 試し運転?



「サヨさんサヨさん! 私もいい?」


 クレアがサヨに呼びかけているのだが……何が良いと言うのだろうか。


『勿論ですクレアさん、貴方達も一緒に行きますか?』


 クレアに答えたサヨは、ずっと黙っていた女医なサヨ姉妹に声をかけ、彼女も嬉しそうに……というか俺の護衛である『くのいち忍者部隊』のサヨ姉妹も何人か姿を表に現し。


 えっと?


『ではシマ様、皆で別荘に行きましょうか?』

「いこーよシマ君!」

「御供しますシマ様!」

「ご相伴にあずかります」

「今日の護衛で良かったぁ」

「ラッキー」


 んん?


 えーと?


「別荘に行って何をするんだサヨ? 浜辺で運動をして運動能力の調整とか?」


 遠隔操作じゃなくなった義体……というか本身になった? の試し運転だというのは想像がつくのだが。


『それは勿論』


「勿論?」



 そこでサヨは、いつもの悪戯が心底楽しいといった微笑を浮かべて……。



『ベッドの弾力を確かめに行きます』


「へ?」



 ……。



 あー、うん。



 ……いやまぁ、いいけどさぁ……なんつーか。



 あれだよな。



「まったく変わってないなお前は!」


 あまりにもいつものサヨっぽい感じを受けて、高次元がうんたらとかどうでも良くなったわ!


 サヨはサヨのまま、サヨウナラである事が確定しました。




「それじゃ行くかぁ……なぁサヨウナラ」


『なんですかシマイ様?』



「これからもよろしくな」


『ええ、これからもご一緒します、シマ様』



 そうして、俺とサヨ達との生活はこれからも続いて行く。









「所でサヨ」


『なんでしょうか? シマ様』


「そろそろ服着た方が良く無いか?」


『……確かにそうですね』


 いつもの様なやりとりに安心出来る俺だった。












◇◇◇◇◇


 後書き

 

 最後の方は急ぎ足な展開になってしまいましたが、完了となります


 最後までお読み頂き有難うございました。


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銀河ネットで仮想空間に潜ったら宇宙船の艦長に成りました。 戸川 八雲 @yakumo77

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