第70話 想定外
そよそよと心地のいい風が俺達を包んでは離れていく。
「心地いい風だな……」
「……」
ふむ……反応が無い。
ここは俺の領地であり、観光惑星として経営をしている場所で。
以前クレアと将棋なんかをして遊んだ【大草原で引きこもり観光コース】を堪能している所だ。
草原にいつも自室で使っている家具なんかを置き、大きなタープの天井で日の光をやんわりと遮り、通り抜ける草の匂いのする風を楽しんでいる。
お金持ち用の観光コースなので、このちょっとした時間でも俺の兵士としての月収が飛ぶくらいの値段だったりする。
俺はいつも使っているソファーに座りながら、遠くまで何も無い地平線を眺める。
平和だねぇ……。
チラっと自分の横を見ると、ソファーに崩れる様に座っている年若い女の子がいる……。
「寝ちゃってもいいんですよ? スターデさん」
俺がその、小学生高学年くらいに見える女の子に声を掛けると。
「……いま……おきるから……ちょっと……まって……シマきゅん……」
そう言って、ゾンビの様な動きでソファーに座り直すスターデさんであった。
疲れてるねぇ……無理やりにでも婚約者としてのデートだと言って連れ出して正解だったか?
「今日はお昼寝デートって事でもいいんですよ?」
「……それは勿体……無い……うー……いよっし!」
何か気合を入れているスターデさん、テーブルにあったお茶を飲んで気合を入れている。
彼女の今の見た目は……ジャージと白衣に戻っているね……。
見た目に気づかう余裕が無かったのだろう。
「お疲れの様ですねスターデさん」
「サヨさんが僕の事を……ずっとキラキラとした目で見て来るんです」
ああうん……サヨもなぁ、自分に出来ない新たな物を生み出せるスターデさんを尊敬というか……便利な打ち出の小槌だと思っちゃってる節があるからなぁ……。
さすがに一応注意はしておいたけど……うーむ……。
「それで結局サヨの欲しがっている、えっと……高性能ご飯レーダーとやらはどうなったんです?」
「えっと一応作ってはみたんだけど……というかシマきゅんっ?」
俺の横に座る目隠れロリッ子ドワーフのスターデさんが俺を見上げて来る。
「なんですか? スターデさん」
「それだよシマきゅんっ! ……えっと……こ、こ! 婚約者になったんだから! ……敬語もさん付けも……無しにしようよ」
ああ、そういえば、そうか。
「ああ判ったよ、えーと……スターデ?」
「はぅっ!」
スターデが自分の胸を押さえて少し仰け反った……大丈夫だろうか?
「どうしたスターデ、疲れすぎて体の調子でも悪いとか? 救急用の搬送ドローンを呼ぶか?」
スターデは俺に向けて片手を伸ばし、横にフリフリと振ると。
「ち、違うのシマきゅんっ……名前の呼び捨ては心がキュンキュンしちゃうので、ちょっと早かったかなって……」
キュン? ああ、まぁいいか……。
「えーと……じゃぁなんて呼べば?」
「えっと……『スーちゃん』で……お願いして、いいかな?」
おうふっ。
今度は俺が少し仰け反る版だった。
なんでだろうか、髪の毛に隠れて目は見えないが頬を赤くしながら下側から覗き込む様に言って来るスターデに、何故だか俺まで恥ずかしくなってしまった。
てーか、女の子をちゃん付けとか、小学生以来な気がするなぁ……。
「ちゃん付けかぁ……スターデ……スー……ちゃんは、恥ずかしくないのか?」
「あ……うん……それもそうだね……じゃぁ二人だけの時だけでお願いするよ、皆の前ではさん付けで……シマきゅんっ! 呼び捨ての方は頑張って慣れるから待っててね!」
俺もその方が有難いかもだ。
なんかこう、ロリッ子なスターデさん相手にちゃん付けは、小学生頃の青春の日々を思い出す感じで懐かしさと恥ずかしさが湧いて来るというか……。
あの頃に、こんな可愛い幼馴染ロリっ子ドワーフとかが居たらなぁ……また違った青春を送れただろうにな……。
やべぇ、あの頃だとゲームや漫画やアニメの話を男友達同士で語り合う記憶しか湧いてこねぇから、少し涙が出そうだ……。
ふぅ、しかしスターデさんも可愛い所があるもん……でも年齢だけで言うと俺の婆ちゃんより――
「シマきゅんっ?」
!
急にスターデさんが感情の籠ってない声色で俺を呼んで来る。
「どうしたスーちゃん?」
「いや、えっと……何故か急に胸のドキドキが収まって、シマきゅんっに何かを言わないといけない気になったんだけど……シマきゅんっは今ナニヲ考えていたの?」
ほわっ! まさかスターデさんもサクラの様な精神感応……。
いや……数々の研究をしている彼女だ、俺の表情やらから内心を読めるなんて事も?
えっと、えっと……。
「ああほら! スーちゃんが作った高性能レーダーの話の続きが聞きたいなーって思っていてさ、聞いていいかな?」
「ああ、あれはねぇ……適応体その物が元々レーダーで捕らえにくい存在だから難しいんだよね」
「あらま、じゃあ作れなかったのか」
「いや、既存の物の数割性能をあげた適応体用レーダーは設計出来たんだけど……たかが数割じゃあしょうがないよねぇ……サヨさんに申し訳なくて、どうしたものかなーと……」
……。
性能が数十%UPしたら十分だと思うのは、俺だけだろうか?
「それで最近無茶な研究を続けてたのか……スーちゃんが休まないから皆心配してたぜ? どうにかしてあげられないかって相談も来てたしな」
スターデさんを監視している部門も休みが無いって事だしな……。
「それは申し訳ないと思ってるんだ、それに休憩させる為の名目上とはいえデートに誘ってくれて嬉しかったよシマきゅんっ!」
あん? ああ、そういう勘違いをしてるのかスターデさんは。
「たまたま思惑が重なっただけで、元々スーちゃんとはお互いを知る為のデートをしようと思ってたんだよ? まぁそのデート内容は休ませるのに丁度いいからってんで、今回みたいなのんびりデートにしたけどね」
「そ、そうなの? そっかぁ……くふふ……シマきゅんっもデートしたかったんだぁ……ふふ」
「お昼寝してもいいし、ゆっくりお茶しながら会話でもいいしね」
「寝るのは後でいいかな、今はシマきゅんっと話したいな」
「そっか、じゃぁ、何の話をしようか?」
「え? えーと、えーと……どうしよう?」
「お互いの話でもいいけど、あそうだ、最近サヨの要求に頑張って答えてくれたスーちゃんに、ご褒美とか報酬的な物をあげようって話が出てたんだった」
「ご褒美?」
「そそ、何か欲しい物とかして欲しい事は無い? スーちゃん」
サヨが結構無茶振りをしてたからねぇ、休ませるだけじゃなくて報酬的な物が必要だろう事はクレアとも話がついている。
スターデさんは、うーんうーん、としばらく悩んでいたが……。
……。
しばらくすると、その口元に笑顔を浮かべ、俺を見上げながら……。
「それならね、シマきゅんっ!」
「はい、欲しい物は決まった? スーちゃん」
「うん! 実験用のね!」
はは、やっぱり研究に関する何かが欲しいって感じになったか。
まぁスターデさんならそうなるだろうなーとは、クレアとも話の中で出ていたんだけども。
「うんうん、実験用の?」
「ブラックホールが欲しい!」
……。
ん?
……。
「えっと、何かを聞き違えたかもしれない、もっかい言ってくれる? スーちゃん」
「うん! 僕はねシマきゅんっ! 実験用のブラックホールが一つ欲しいな!」
……。
き……聞き間違いじゃなかった……。
「えっと……ブラックホールてってあれだよね、お菓子とか研究機器の名前とかじゃなくて」
「宇宙に存在する超重力な穴の事だね! ワクワク!」
スターデさんはすっごいワクワクした笑顔で俺を見ている……。
いやまさかご褒美と聞いてそんな物を欲しがる人が……サヨ以外にも居るとは思わんかった……。
「ちなみにね、スーちゃん」
「何かな! シマきゅんっ!」
「ブラックホールを使って何を研究するのかな?」
「固定間を短時間で行き来出来る、『超長距離移動用空間跳躍ゲート』の研究だね!」
おうふ……。
やべぇ……ちょっと聞いただけでも歴史が塗り替わる内容だったわ……。
「えっと……皆と相談してからでもいいかな? スーちゃん……」
「勿論だよシマきゅんっ、大事な事は相談しないと駄目だよね! ……サヨさんがブラックホールすら飲み込めると聞いた時に欲しいなーって思ってたんだよね、楽しみだなーふふ、ふわーあ……あふ」
スターデさんが楽し気にしながら欠伸を漏らす、そういやずいぶん長い事寝て無いらしいしな……よし。
「スーちゃん、ちょっと寝ようか?」
「んぇ? いや、まだ起きていられると思うよシマきゅんっ」
俺は自分の膝をポンポンと叩きながら。
「膝枕してあげるからさ、ちょこっと寝なよ、スーちゃんが寝ている間にさっきのご褒美の事は皆に相談しておくからさ」
「膝枕! い、いいの? ほんとに? ……じゃ、じゃぁ……ちょっとお邪魔しますね……ふへへ……ちょ、ちょっとだけ寝るねシマきゅんっ……ZZZzzz」
そう言って、スターデさんは俺の膝に頭を乗せると、秒で寝息をたてていた。
どんだけ疲れてるねん。
……でもまぁ、取り敢えず時間稼ぎは出来たし。
ブラックホールの件をサヨやクレアに相談してみるか。
俺は、スターデさんの睡眠を邪魔しないように、サヨやクレアに向けて通信を送るのであった。
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