第71話 ファンサービス

「それで結局どうなったんだ?」


『外でやるのは危険もあるかと思いまして、基礎研究が済むまでは私のオヤツを弄繰り回す事で決着しました』


「成程な……まぁ確かに外のブラックホールを弄って……いつもの研究所の爆発みたいな事があっても嫌だしな……」


 俺は自分の言った事を想像してしまい、ブルッっと体が震えてしまう。


 今までも学園都市の研究所で爆発はあれど怪我人は……死傷者は出ていないから大丈夫なのかもだけど。


 さすがにブラックホールで同じような失敗をされたらと思うとねぇ……。


『私の中での研究なら、周囲への被害も少ないかと思われます』


「ん? 少ないって事は、何かあるのか? サヨは大丈夫なのか?」


 さすがにサヨに少しでも危険があるのなら、今すぐにでも止めさせるぞ?


『私のオヤツが無くなる、もしくは不味くなる可能性が有りますね』


「あ、はい」


 そういう事か……びっくりさせんなよ。


「シマ様、少しお化粧するので口を閉じて下さーい」


 む、さっきから俺の服装のチェックをしていた、サヨ姉妹でダークエルフ4姉妹美容師の長女がそんな事を言って来た。


 仕方ないのでサヨとの会話は一旦終わりにして、作業が終わるのを待つ。


『そろそろ他の役者の準備も出来たそうなので、配置していきますね』


 俺はサヨの言葉に頷きをもって返……あ、ごめん動いちゃった、ごめんってば!


 化粧中に動いたために、ダークエルフ長女に少し怒られた俺である。



 今俺は巨大な撮影施設の中でコスプレ染みた恰好をさせられている。



 その施設とは、俺の活躍だか皇国の危機だかを、民衆に広める為の映画で使った艦橋を模した物で。


 俺のファンクラブから、あの時の映画である『皇国の英雄譚』のシーンを、本人出演で再現をした画像や映像が欲しいという要望がすごいあったそうで……。


 自分を模した映画を真似したコスプレをするという……正直訳の分からない状況でもある。


 艦橋も映画映えする様な古臭い見た目だし、準備が出来た役者はすでにスタンバイしており、通信士だけじゃなく機関士や総舵手や観測手や狙撃手役等も居る。


 皆ちょっと派手目の制服を着こみ、ワイワイと周囲の人と雑談をしながら撮影が始まるのを待っている状況だ。


「はい、シマ様のお化粧終わりです、うん、我ながら完璧、では他の人達の手伝いに行ってきますね」


 ダークエルフ長女なサヨ姉妹がそう言って俺から離れて行った。


「ふぅ……映画だと金髪の超イケメン俳優が主人公役をやっていたのになぁ……なぁサヨ……本当に俺でいいのかなぁ?」


『気にし過ぎですよシマ様、宇宙では顔の造作なぞそれほど気にする者はおりません』


「そんな物なのかねぇ……」


 まぁ地球は田舎だからなぁ……宇宙的感覚がちょっと判らない時もあるんだが……。


 やろうと思えば顔の整形なんていくらでも出来ちゃうらしいのだけど……そういうのは見ればすぐバレちゃうらしいんだよな……。


 なので俺のお見合い相手である数万人の学生達の中には、見た目に整形的な手を入れている子は居ないって話だ。


 傷や先天的な肌のシミを消したりとかは普通にやってるんだろうけどね。



「なぁサヨ」


『なんですか? シマ様』



「今回はファンクラブからの要望が多かったからって話なんだが……やっぱりその中には、ニナさんも同じ意見を出してたりするのか?」


 ニナさんは熱烈な俺のファンっぽいしな。


『そうですね……』


 む? サヨが少し間を置いた?


「どうした?」


『いえ、シマ様は何かを勘違いしていると思いまして』



「勘違い?」


『はい』


 勘違いって……何がだろ?


「どういう事だ?」


『学園都市に来ているシマ様のお見合い候補の100%がですね……』



「俺のお見合い候補の全員が?」


『シマ様ファンクラブの会員であり、なんらかの要望を出している者が9割を超えていますよ?』


「え?」



 ……。



「まじか!」


『おおまじです』



「そっかぁ……全員がニナさんみたいな……」


 他の学生とかに会った時は、ニナさん程の動揺というか、不審者っぽい動きはしてなかったんだけどなぁ……。


 不審者って言ってもそれほど悪い意味で使った訳ではなく……さりげなく俺の匂いを嗅いだり、さりげなく俺の周囲を回って全方位から眺めようとしたり、さりげなく……まったくさりげなく無かったな!


 俺の見合い相手は皆あんな感じなのだろうか?


『さすがにニナの様な熱烈なファンは珍しい方ですが……』


「あ、なんだ珍しいのか……ちょっと安心したよ」



 そうだよなぁ、さすがになぁ、俺との会話中に嬉しすぎて気絶とかしちゃう程の子とかは、そうはいねぇよな。



『例えば、あそこの通信士席に座って居る、今回の出演者に当選をした学園都市の学生なのですが』


 サヨがそう言って指で指し示したのは。


 俺の居る艦長席よりも下段に位置する通信席に座っていて、黒髪で日本地区の女性に似ているタイプの人種で。


 アニメや漫画で言うのなら、黒髪ロングの深層の令嬢って感じで清楚チックな子だな。


 ちょいと派手めな軍服が似合っていて可愛いね。


 俺とサヨの視線に気づいたのか、その清楚っぽい女学生は気品のある微笑みを浮かべながら、気恥ずかしいのか胸元あたりで控えめに軽く手を振ってきた。


 俺は彼女に応える様に手を振り返してあげてから、視線をサヨに戻し。


「あの清楚っぽい女学生の役者がどうした?」


『あの者もファンクラブ会員なのですが』


 へぇ、あの子もファンクラブ会員なのか……てか100%とか言ってたっけか……。


 あーいう清楚っぽい子も俺のファンなんだな。


「あの子もファンクラブ会員なんだ……ん? 今サヨは『ですが』って言ったか? 何か問題でもあるのか?」


 問題なんてないよな? だって今だにサヨは『ご安心下さい』って言ってないし!


『あの者はシマ様のファンクラブ宛に『もっとククツ様の細マッチョな腹筋を強調させた画像を売り出して下さい! 出来ればブーメランパンツ一丁でポーズも込みで! これが叶えられるのならば私は何でもします!』といった要望を出しております』



 ん?



「今なんて?」


 俺の耳がおかしくなったのだろうか……あの気品のある清楚っぽい女性がなんだって?


『シマ様のパンツ一丁の細マッチョポーズを見られるのならば何でもしてくれるそうですよ? どうしますか?』


 おうふ……俺の耳は高性能で間違って居なかった様だ……。


「そうか……」


 俺はサヨから、もう一度視線を清楚ちっくな黒髪ロングの女学生に移す……。


 彼女はまた俺の視線に気づいた様で、再度恥ずかしそうに胸元で俺に手を振って来た……。


 ……うん……気品もあって清楚可愛いというオーラを感じる仕草だ……。


 そしてまたサヨに視線を戻した俺は。


「なぁサヨ」


『どうしましたかシマ様』



「さっきイケメンがどうこうって俺が言ったじゃんか?」


『言いましたね』



「だけども、イケメンだろうが美人だろうが……人は見た目じゃ判らないもんだよなぁ……」


『えっと……? 前々からそう言っているのですけども……急にどうしました?』



「いや……ボディビルポーズの練習でもしておこうかなって思ってよ……」


 意図せず彼女の趣味を知ってしまった償いは必要だろうさ……。


『……『何でもします』に反応した訳ですね、さすが欲望に忠実なシマ様です、後で彼女に連絡をしておきますね』


「いやそういう意味じゃ……」


 ……いや……まぁいいか、彼女の事を知ってしまったのなら、ちょいと詳しくお話しをしてみてもいいだろうさ、全員お見合い相手なんだしよ。


 それがどんな切っ掛けだったとしても、積極的に相手を知ろうとしていかないとな……お見合い相手は数万人居るんだしな。



『もうしばらくしたら準備完了するみたいですねシマ様、心の準備は大丈夫ですか?』


「ん? まぁ成る様になるだろ、映画そのものを撮る訳じゃなく見せ場シーンをちょちょいと画像にしたり、ちょっとした映像を撮るだけなんだろ?」


 そう言って俺は準備の整いつつある艦橋セットの中を見回していく……んー……。


『一応演技はして頂きますが……どうしましたシマ様? 周囲を見回していますが何か気に成る事が?』


「ああいや、ニナさんあたりは参加したいだろうに、ここに居ないから抽選で外れちゃったのかなーと思ってな」


 あのニナさんがこんなイベントに応募しない訳無いしな。


 サヨは俺の言葉を聞いて納得をしたのか、数回ウンウンと頷いてから。


『ご安心下さいシマ様!』


 そう言って来たのであった。


 ……安心できねーよ?


「……何がどうした?」


『映画に出演していたニナは、同じ役で後程参加する事に成っております!』


 ああ、そういう事か……。


 びっくりさせんなよサヨ。


「そうか、あのよく判らん100年後の話だな」


『ええその100年後です、しかもです!』



「む?」


『映画と完全に同じではつまらないという意見が、ファンクラブのご意見箱へと寄せられておりましたので、こちらの台本をご用意しました!』


 そう言ってサヨが空間投影モニターに出した画像には、わざわざ台本の見た目をした物が表示され。


 その台本のタイトルが……。


「『ククツ教官と学生艦長との愛と肉欲の航海訓練』って、何だこの薄い本に有りそうなタイトルは……」


『シマ様ファンクラブに送られた二次創作の薄い本を参考にして、台本へとおこした物です』



「本当に薄い本のタイトルなのかよ! ……ちなみにこれを送って来た人物ってのは?」


『参考資料の作者と送り主は同一人物でしたね』



「……それもう絶対ニナさんじゃね?」









 ちなみに、さすがにファンクラブ向けにするには過激な内容だったので、俺はその台本を使う事を却下した。


 それに伴い、出番の少なく無くなったとある演者の嘆きが、控室に響き渡ったとか何とか……。

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