第68話 一つの終わり

「見つけた?」


『はい、スターデさんの協力の元に宙域の調査を行いまして、二連恒星の片側の近くにステルス状態で潜んでいる様です』


 適応体を潰しながら、そして惑星やら衛星を破壊しつつ吸収して進軍する事二週間でやっと目標を発見か、結構時間がかかったな。


 いやほら、適応体は大事な資源だからね……無駄に蹴散らすと女性陣からの受けが悪いっぽいので、クレアさんに全ておまかせしてるから……。


 しかしまぁ、そんな簡単にドリシティが見つかる物なのか? もしかして……。


「ちなみに、そのステルス技術も実は?」


「僕の発明からの技術応用だね」


 えっへんっとばかりに胸を張ってこちらを見て来る、目隠れロリっ子ドワーフのスターデさんだった。


 まぁ張るほどの胸は無い、ロリっ子なので。


「それで、その技術の当初の目的は?」


 どうせこんな使い方はしない予定だったのだろうと思い、聞いてみた。


「艦船の航行技術の一つだったんだよ……なんでこう僕の技術を違う事に使いたがるのかねぇ」


 ……えーっと?


 俺が頭の上にハテナマークを出すかのごとく首を捻っていると、サヨが補足をしてくれる。


『元々は空間跳躍の為の新技術らしいです……どちらかというと我々の潜宙艦エイシェル型に近い物と考えて頂ければ……勿論技術的にはまだまだ格差があるので問題はありません、恒星の側に居なければエネルギーの残滓で気付いてしまう程度の話です』


 ええ……それってつまり、俺は未だに胸を張っているスターデさんの方を向き。


「異空間に潜る技術という事ですか?」


 これは結構やばめの技術だと思うんだよ、跳躍も似た様な事はしているらしいのだが、一か所に留まるのは不可能だって言われてるらしいし。


 まぁサヨの作るエイシェル型潜宙艦はそれを可能にしちゃうんだけど。


「んー、言葉で説明をするのが難しいのだけども、潜るというよりは障壁で囲むというか……そもそも宇宙艦船の跳躍の時も完全には異空間に潜って無くて、波動を異空間に合わせる事で――」


 やばい、スターデさんが教授モードになってしまったが……俺は頷きながらもまったく理解の出来ない話を聞く嵌めになった……。


 だれかタスケテー……まぁうちの潜宙艦とは違う技術っぽくて、隠れるには強力なエネルギー照射をしている物体の側に居ないと難しいという話だけは分かった……。


 つまり一番肝の話を取り出すと、隠れるには恒星の側に居る必要があるんだね?


 重要な部分さえわかれば良いので、説明が長くなりそうなスターデさんの口に、俺の人差し指をそっと触れ合わせる事でお話しは終わりだという事を示してあげる。


 スターデさんはそれまで滔々と語っていたのだが、俺の指先が唇に触れた途端に固まってしまい動かなくなった。


「説明ありがとうございましたスターデさん、つまりあの恒星の側にドリシティが居るのだと言う事でおっけーですね?」


 俺の質問にコクコクと頷きだけで応えて来る、目隠れロリっ子ドワーフのスターデさんだった。


『男慣れしていない相手にもガンガン押していくシマ様はさすがです』


 いやいやそういう意味では……うわスターデさんの顔は真っ赤になっている……えーと……ごめん?


 なんだかスターデさんのウブな反応に俺も恥ずかしくなってしまって、お互いに視線を合わせながら照れてしまう。


「あの、シマ君? 適応体も大体片付いたし、後は恒星付近の掃除だけなんだけど、作戦を進めていいかな?」


 あ、はい。


 クレア総指揮官代行が俺に振り返りながら、そう言って来た。


 おっと作戦行動中だった。


「うん、ではクレア、作戦の最終段階に入っていいよ」


「了解シマ君、艦隊は全てサヨさんが回収! 超弩級要塞だけ残します、速やかに移動を!」


 クレアの指示で全艦隊がサヨの中に回収されていく。


 まぁもう惑星も何もかもぶっ壊してここには二連の恒星しか残って居なく、適応体もここまで出会った奴らは全て倒しているし……恒星の側に居る適応体は今回無視する予定だ。


「えっと、シマきゅんっ? 艦隊しまっちゃっていいの? ステーションシティを確保するのに戦力が必要だと思うんだけど……」


 真っ赤な顔から元に戻ったスターデさんが、そんな質問をして来るのだけど……。


「え? ドリシティなんて確保する必要ある? もう人質とか居ないんだろう?」


「う、うん、無関係な人達は私と協力者で全部逃がした後だけど……」


 うん、それならもういいよね? 俺はそういった想いを籠めてサヨをチラっと見る、するとあいつは俺の意を即座に理解してくれて。


『たかが一つの航宙ステーションクラスの物資なんて要らないですし、研究その他はすでにスターデさんが主な物は提供してくれそうですので、確保する時に被害が出そうな作戦を取る必要は無いかと』


 だよな、あいつらの土俵の上に乗る必要はまったくもって無い。


「シマ君、超弩級要塞以外の回収終わったよー」


 クレアがそう教えてくれたので、俺は最後の指示を出す。


「おっけー、じゃぁ……恒星ごと奴らを蒸発させろ! 最終作戦発動!」


「了解シマ君、最終作戦発動します! 作戦名『サヨさんのビターなおやつ製造』開始!」


「おやつ? ビター?」


 スターデさんは首を傾げている。


 まぁ彼女には細かい作戦なんて教えてないからな、それに伴い空間投影モニターの明るさがさらに抑えられる、何故かってそりゃぁ。


 超弩級要塞複数個からの攻撃が開始され、そして……。


『こちらの砲撃により恒星の崩壊が始まりました……その余波により片方の恒星の側にて小さな爆発の連鎖も確認……、……、――、恒星の破壊に成功、超弩級要塞を回収後に出来立ての超新星を頂く事にします、まぁしばらくは私の中で熟成をさせる事に成りますが……ふふ、楽しみですね』


 サヨがそう言って事後処理を始める、たぶん自身の中でそれの時間を進めておやつなブラックホールを作り出すのだろう。


「はい、終了~お疲れ様~皆帰ってご飯にでもしようぜ~」


 俺は椅子から立ち上がり、クレアや戦闘指揮室に居た見学者達にも声をかけていく。


「は~い、シマ様シマ様! 今日はケーキバイキングにしませんか?」

「え~普通のご飯がいいよ~スパゲッティとかを食べたい気分かな~」

「江戸前……ククツ別荘惑星前寿司にしましょう!」

【私はククツ様と一緒なら何でもいいです……ポッ】

「じゃ私シマ様を食べる~」

「それって有りなの!? それなら! ――」


 ……。


 ……。


 ――



 ワイワイガヤガヤと指揮中の静かさが嘘の様な喧噪を響かせながら、俺達は皆で揃って戦闘指揮室を出ていく。


 そこに乗り遅れたのはスターデさんだけで。


「え? え? 恒星までを崩壊させ……え? しかもそれを食べる? 惑星なんかの質量体だけなら判るけど……え? ええええ!?」


 まぁ、一しきり驚いたら戻って来るだろうて、俺は戦闘指揮室の入口を通り過ぎながら、すでにドリドリ団の事は忘れて、何を食べようかなという事を真剣に考え出した。


 ……まぁ……奴等の動きが無さ過ぎたし、終わってないかもなんだけど……今考えても仕方ないしな。


「俺は寿司も食いたいがトンカツも食いたい! なので今日は別荘惑星のビュッフェレストランにでも行こうぜ、あそこは広いしメニューも豊富だしな」


 俺のその言葉に周囲を歩いていたブレインユニットやサヨ姉妹や側付きの子達から歓声があがる。


 配下には普通にお給料を払っているので、彼女らは自分らの稼ぎでいくらでも好きな物を食えるだろうに……まぁこうやって喜んでくれるのはこちらとしても嬉しいけどね。



 ……。



 ……。



 ――




 後日、サヨから一つの報告を受けた。


 それは、皇国軍の索敵艦の一隻からの情報を解析した物で。


 大き目の艦船……質量的に先日ドリシティからスターデさんや人質達を乗せて逃げ出したシェルター用の輸送船に近しい艦船が、アリアード皇国が治める銀河から離れて……つまり銀河系の外に向けて長距離跳躍で飛んでいった可能性の話だった。


「サヨですら隣の銀河に行くのって……」


『可能ですがそれなりの時間がかかりますね、アリアード皇国の技術力なら年単位になります』



「途中での物資補給も望めないだろうし……厳しい移動生活になるんだろうな……」


『アリアード皇国も、しばらくは銀河外縁部に無人の観測機器をばらまくそうですが……』



「ドリドリ団が銀河系の外を大回りして帰ってくる可能性もあるか? いやでも……新天地でワンチャンとか考えてそうだけど……それにしてもやっぱりドリシティは囮だったか……」


『ドリシティの大きさですと動かすのにもそれなりの人員は要りそうですので、囮というよりは?』



「そうか……ケンカ別れかどちらが見捨てたのかは知らんが……半分くらいアホが減ったと思って収めるしかねぇか……」


『皇国は大元を殲滅したと国内に喧伝するそうですが、良くある話といえば良くある話です』


 一応の成果を発表しないといけないよな、敵対者に翻弄されて銀河の外に逃げられちゃいましたなんて、中々言えないものな。


 まぁ奴らの本拠地だったドリシティを破壊する事は出来た訳だし、とりあえず一区切りとしてもいいか。


「まぁ後の細かい話は皇国にまかせちゃうとしてだ、俺らは健やかに楽しく生きていく事を考えようぜ、サヨはそんな中でも常に警戒はしてくれているだろうしな」


『勿論です、私はシマ様の為に居るのですから』


 サヨの処理能力なら情報を取りこぼす事も無いだろうさ。


「いつもありがとうなサヨ」


『当然の事ですから……ですがシマ様、行動で感謝を表してもいいのですよ?』


 なるほど、確かに言葉だけでは寂しいか。


「そうだな」


『はい』


 では、椅子の座り方をずらしてサヨを真正面から見てっと。


「サヨ、ありがとうお前が居てくれて俺は幸せだ」


『シマ様の幸せは私の幸せです』


 そう言い合った俺とサヨの顔は近づいて行き。



「『ムチュー』」



「会議中にキスするの辞めようよシマ君! サヨさん!」

【はわわわ! ……チラッ】

「シマ様! 次私でお願いします! 私も幸せになりたいです!」

「ぼぼぼぼ、僕はまだデートもしてないし? えっと……」


 残念、クレアに止められてしまった。



 そして再開される会議という名のワチャワチャ雑談。



 ……ふむ……まぁ、今日も俺の周りは平和だなぁ……。


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