第17話 そう、全て俺の性癖さんが悪い。

 Fin









 Finと、そう画面に大きく文字が出て、それが上に流れていく。




「ウック、ヒック、ゥゥ、ウェェェェェ、グスッ」


 隣で涙をボロボロと流す彼女に、俺はハンカチを渡してあげる。


「はい、これ使っていいよ」



「ありがどーぐすっ、チーーーンっ」


 おもっきし俺のハンカチで鼻をかみやがった……。


『素晴らしい作品でした』



 ソウダネ。



「えっと、ちょっと聞きたいんだけどいい?」


「チーーーンッ、ん? どしたの?」


 まだ鼻をかんでるのか……もうそれ捨てていいからね。

 いやだから、畳んでから俺に返そうとしないで下さい。


 ……格好つけずに、使い捨てのティッシュを渡せば良かったな……。


 まぁいいや、質問をしようとしてたんだった。


「いえ、これってアリアード皇国民に、今回の出来事を広く知らしめる為の目的もあるって聞いたんだけど…‥」


「そうよ? 女王級適応体なんて今までの常識では考えられないからね、外の敵の強大さを知らしめれば内乱も起き辛くなるかも、って感じかしら?」



「いやだったらさぁ……」


「どうしたの?」



「なんで100年後の場面とか出てくるの? まだあれから半年もたって無いよね?」


「それは……」



「それは?」


「エンタメね! 話が面白くないと見てくれないじゃない?」


『一理ありますクレアさん』


 横に居る金髪エルフから拍手の音が聞こえる。



 俺は大きく息を吸って、今生でも五本の指に入る大きな声で突っ込みを入れる。



「国民に事実じゃなくてエンタメ広めてどうすんだよ! っていや待てよサヨ! お前の扱いが一番酷いじゃねーか! お前死んだ事になってるじゃんか!」


「でもこのシナリオの協力者は、ほらそこ見てシマ君」


 クレアが指さす先の空間投影モニターには、映画が終わってから役者の名前やらがエンドロールで流れていたのだが……。


 そこにおもいっきり、シナリオ協力『補給艦サヨウナラ』って書いてあった。



「お前がシナリオ書いたんかー-い!!」



『中々の力作だったのですがいかがでしたか?』


「最高だったわサヨさん! 特に最後の方の、戦艦や戦闘機の搭乗員の皆が泣き笑いで敬礼をしながら、シマ君に一言残してモニターが消えていく所は……涙無しには語れないわね!」



『ありがとうございますクレアさん、あそこはどうしようか苦労して考えた部分なんで嬉しいです、しかもです、実は生きていたサヨが適応体と融合をし、敵として出て来る第二段のシナリオもあるのですがいかがですか?』


「いいわねそれ! ならば元皇女の名において最高の作品にする事を誓――」

「わんでいい!」

 俺はクレアの頭にチョップを入れて言葉を途中で無理やり止めた。



「いったー-い、酷いわよシマ君」


「悪ふざけが過ぎるよクレア、ったく俺の役者もあんなイケメンにしないでもいいじゃんか、実物との違いにがっかりされたらどうすんだよ……」



「んー? 私はシマ君の方がカッコイイと思ってるよ?」


「そ、それは……ありがとうクレア、俺も映画のクレア役の人より本物の方が何倍も可愛いと思ってるよ……」


 俺とクレアは映画を見る為に横並びで座っていたのだが、体をさらに寄せ合うと、手を恋人繋ぎにして見つめ合い、ムチューっとキスを……――。


『結婚をして初夜を過ぎてから、ちょっとイチャイチャし過ぎではないでしょうか』


 反対側に居たサヨに邪魔をされた。



「いいじゃないのラブラブ夫婦なんだし、それにサヨさんだって初めてをシマ君としてから、私に隠れてイチャイチャしてるの知ってるんだからね?」


『それは当然です、シマ様と私は堅い絆で結ばれているのですから、それよりもあまりにも周りに見せつけるので、ブレインユニット達の不満が溜まっております、例の計画を実行する事の許可を下さい』



「あーあれかぁ……でもさサヨ、あれってどうなんだ? 大丈夫なの?」


「うー嫁として夫がモテモテなのは鼻が高いけど……1000万人を超えるライバルがいるってどういう事なの?」


『仕方ないですね、私達はシマ様の事が大好きですし、女王級適応体を倒すのに戦力を増やす必要がありましたし』


 倒す為というよりは、女王の取り巻きを逃がさない為の包囲用、って感じだったけどな。



「仮想空間内で俺の思考を分割するって本当に大丈夫? 確かに生身で全員相手にするのは無理だけどよぉ」


『はい、問題ありません2048分割までは記録にありますし、シマ様には是非とも4096体に挑戦して欲しいのです』


「わーすごい数のシマ君ね……でもそれでも一日一人と仮想空間内デートをしたとして2500日に一回かぁ……サヨさん、もう一声いけない?」


 ちょっとまってクレア、そんな山盛りの野菜を買うからちょっと値引きをしてよと言う様な気安さで言わないでくれ、結構危険なんじゃねーの?



『確かにそうですね……私達一桁台嫁と違って彼女達は……シマ様、もう三声いきましょう32768分割で一日に6人とデートすれば……50日に一回順番が回ってきます!』


「回って来ます! ……じゃねーよサヨ! それ本当に大丈夫なの?」



『大丈夫ですご安心ください、それにすでに別荘惑星上には、シマ様の子供達が家族で住める様に一億人級の都市を建設中ですし』


「いやそういう事じゃなくて精神がって……ん? 子供? え? 義体って子供作れちゃう……の?」



『勿論生めますよ? 脳と内臓の一部以外は生体培養した物ですから、あれ? 言ってませんでしたか?』


「聞いてないよ! ええ……じゃぁサヨとかサヨ姉妹とかブレインユニットのトウトミとかは……」



『私が最初なのでそれ以外はまだ避妊して貰っています、体外人工授精も準備して居ますが、やはり最初は自然に出来るのを待とうかと思っています、種族差もあるので確率はかなり低いですが……頑張って下さいねシマ様?』


 サヨが微笑を浮かべそう言ってくる……もうこいつは無表情の時の方が少なくなってきている気がする。



 しかしそうかぁ、俺もそのうち親に……。



「まってシマ君……最後のトウトミって子は初耳なんだけど? ねぇ……私は言ったよね? 生身で女の子の相手をするなら一桁台嫁として把握する必要があるから、相手をその都度教えてって言ったよねぇ!?」


 あ、やばいクレアがオコモードになってしまった、逃げよう。


「ああ、しまった今日は仕事があるんだった! じゃぁちょっと行って来る」


 俺は素早く自室を抜け出していく、まぁ実は仕事なんてないし、ここはサヨの補給艦の中なのでそうそう逃げられるものでは無いのだが、クレアの頭が冷えるまでどうにか逃げ切るのだ。



「待ちなさいこらシマ君! あなたこの間も側付きのウサギ獣人の子とモフってたでしょ! ちゃんと事前に報告してくれれば良いって言っているのに、突発的に手を出されると嫁の順番とか夜の順番とか色々決め事が狂って面倒なんだから! 待てコラー!」


「ごめんてっばクレア、いやね全部俺の性癖が悪いんだよ! こう勝手にふらふらーって釣られちゃうの!」



『午後には新しいシマ様の領地の見分が待っていますから、それまでに夫婦喧嘩を終わらせて帰ってきて下さいね二人共』




 そうして兵站用補給艦の中で、逃げ回る俺の謝罪の声と、追い掛け回すクレアの怒声が鳴り響くのであった。

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