第20話 【おまけ話】神も仏も無いとは言うけども
◇◇◇
【おまけ話】は時系列的に繋がってませんのでお気を付け下さい
このお話は別荘惑星に初めて降り立って、ブレインユニット数十万人に義体を与える許可を出した後あたりの話です
◇◇◇
「すごいなこれは……」
俺は言葉を失った。
……何故ならば、そこには延々と続くナス畑が連なっていたからだ……。
ナスナスナスナスナスナス、というかナスってこういう感じで生えているんだな。
そこはサヨの空間歪曲場に格納されている農業用の隔離施設だった。
幅が数キロで長さが数十キロ近いそれは、巨大なハウス栽培ともいうべきものだ。
サヨの内部空間に施設が浮いている状態なのだが、重力はサヨが調整しているので、普通に立って居る事が出来る。
その施設は円筒型だったり回転等はしていなく長方形だ。
物によっては、栽培効率を上げる為に低重力にしている施設なんかもあるとは言っていた。
「この施設の全てがナスなのか?」
俺は横にいるサヨに聞いてみる。
今日のサヨは金髪を編み上げてオーバーオールを着て長靴を履いた農業ルックな姿だった。
ここって全部機械が自動で栽培から収穫までやってるんだろ?
その恰好意味ねーじゃんか……昔の農業漫画か何かに出てくる奴だろそれ……。
『そうなりますシマ様、一つの品種ごとに一つの施設を使用しています』
「まじかぁ……あー義体を手に入れたブレインユニットも数十万人に増えたし、それくらい必要になるかもか?」
いつの間にか戦力が数十万に増えていたしな……。
そんな訳で、人がどんどん増えた事に焦った俺が、サヨに飯とか大丈夫なの? と聞いたらここに案内されたんだ。
『現状は供給に問題ありませんので、収穫して余った食材等は時間凍結させて保存しています、それでも将来的にはまだまだ足りませんので、食料用の施設は増築を進めています』
「備えあれば憂いなしか……物質から直接合成したりは出来ないのか?」
まぁ物資を貯め込むのは反対しないさ、仲間はこれからもどんどん増えるだろうしな。
『出来ますよ』
サヨはなんとでも無いと無表情で肯定してきた。
「え、合成出来ちゃうのにわざわざ育てているのか?」
アリアード皇国が地球に齎した技術に培養肉ってのがあってさ、培養液の中で細胞分裂させて育てた肉とかは、庶民が買う基本の肉になってたんだよな。
培養肉は普通に美味かった記憶がある。
『……例えゴミ捨て場を吸収して得た物資でも、そのまま食べられる物に変換する事は出来るのですが……そんなやり方で作った食物を食べたいですか?』
ん? んー? ……ゴミ捨て場のゴミをそのまま変換してご飯に……。
……あーうん……サヨの技術力なら物質を分解して再結合させるだけだから可能なんだろうけども……いやだなそれは。
「うん、このまま栽培したり牧畜したりする方法でお願いしますサヨさん」
俺は素直にサヨに頭を下げて、美味しいご飯を作って貰える様にお願いをしていく。
『畏まりました、それに自然栽培品はアリアード皇国の権力者達にそこそこの額で売れるんですよね、なんらかの取引材料に使えるかもですし持っていて損はありません、食物は取引しても消費されるだけなので延々と売りつける事が出来ますし』
なるほど、学校の授業で習った話だと、科学力が上がると自然栽培より培養に成って行くって話だったものな。
地球では自然栽培品は高い物だったし、俺は安い培養肉も培養野菜も気にしなかったけど、爺ちゃん達は嫌がってたっけか。
「いつも高価な栽培品を食ってると思うと金持ちになった気がしてくるな……あ、別荘惑星上で畑とか牧場を作っちゃえばわざわざ専用の農業施設を作る必要なくね?」
施設を一つ作るのに結構資材を食うし、天候調整も可能な別荘惑星上で農業すれば良い気がしてきた。
『いいですかシマ様、自然栽培を舐めないで下さい』
サヨは真面目な声を出しつつ、無表情で俺の顔の前に指をつきつける。
「舐めるとは?」
『自然栽培は失敗する事があるんです、そういうリスクを嫌うからこそ農業が培養へと移行していくんですから』
「へー……農業って失敗するんだぁ?」
地球だともうほとんど培養品だったし、よく判らんな……。
実家の周りには畑なんてなかったしな……上流階級向けのハウス栽培みたいなのをやっているってのは、TVニュースとかで見た事あるけども……。
『自然栽培ですと、どんなに気をつけていても病気が発生する事があります』
「え? 野菜が病気になるの? まじで?」
すごい事を聞いてしまった! こんなすごい事は他の人も知らないのではないか?
衝撃ニュース! 病気になる野菜が存在する!?
『はい、植物の病気は周りに移る物も多いのですが、例え広がっても農業施設一つ分が駄目になるだけで済みますから、大々的に農業をやるなら一定区画の施設を増やしていくやり方が楽なのです、惑星上で大々的にやると全てを処分したりする必要がありますので……少し面倒ですね』
なるほど、人の病気と同じ物が植物にもあるんだな。
まぁ旧世界にあった人の病気なんかは、ほとんどが身体強化措置でどうにかなってしまったらしいんだけど。
それなら植物に強化措置をすれば……っていじくり回すと自然食品とは認識されなくなるのかもか。
「理解した、だからこそ、こうやって畑に入れない訳なんだな?」
そう、実は今俺は農業施設内で透明なガラス越しに畑を見ているんだよね。
施設の中は機械人形が動き回っていて、それらが手入れ作業をしているのが見える。
『申し訳ありません、実際に植物や牧畜に触れ合える様な農園を、別荘惑星上に観光地として作っておきますのでそれまでお待ち下さい、規模の小さい物なら惑星上でも管理が楽ですので』
いや、文句を言った訳では無いんだが……まぁその観光農園は楽しそうだからお願いするけども。
「それとガラスの向こうの畑の中に、なんか一杯虫が飛んでいるのが見えるけど、あれはいいのか?」
『あれは蜜蜂ですね』
「あーあれが蜜蜂ってやつ……え!? 蜜蜂が居るって? ……本物のハチミツってめっちゃくちゃ高いんだけど! もしかして今まで俺がパンに塗って食ってたハチミツって合成じゃなくて本物だった!?」
『途中から本物でしたが……何か問題ありましたか? 受粉は彼らにやらせるとハチミツもとれて一石二鳥なんです』
まじかー! まじかー! ハチミツだよ? 天然物のハチミツなんて、地球じゃ上流階級でもさらに上の方の人しか食えないって言われてたんだぜ?
いやーそれを俺が食ってたなんてなぁ……。
……ん? ……あれ? 何度も食ってて本物って気付かなかったって事は……合成ハチミツと大して味が変わらないという事では?
「なんてこった……」
俺は衝撃のままに地面へと項垂れて倒れ込む。
『どうしたんですかシマ様? 急に四つん這いなって項垂れてしまって、ナデナデ』
土下座っぽい項垂れ方をしていた俺の前に、サヨがしゃがみこんで頭を撫でてくる。
「ずっと憧れていた高級品が、実はそれほどすごい物では無い事に気付いてしまった悲しさで一杯なんだよ……というか俺が食ってた飯って全部培養じゃない物なんだよな?」
項垂れた状態から顔だけあげて、サヨに今までの飯の確認を取る。
『そうなりますね、肉も魚も野菜もキノコ類も全て牧畜や養殖や栽培品になります、ナデナデ』
しゃがんだ状態のサヨから返ってきた答えは想像の通りだった。
「く……美味いよ? 普通に美味いと思って食ってたけども! 昔地球で食った培養肉ステーキも美味かったんだよぉ!! ……はぁ……そうかぁ……高級品っても値段と味は比例しないんだなぁ……」
俺はあまりの衝撃的なネタを知ってしまい、その場で項垂れた状態から体育座りに変えて遠くをぼんやり見てしまう。
俺が憧れていた上流階級の飯が、実は庶民飯と大した違いのない味だった事に気付いてしまい。
ちょっと悲しみを抱く俺だった。
いやまぁ、庶民飯を作る培養技術や味付けの技術がすごいんだろうけどさぁ……夢がねぇ話だよなぁ……。
『次の視察ですが、通常の食べ物を優先していたので、最近やっと完成した果物の施設へと行き、もぎたての果物で作るジュースでも振る舞う予定だったのですが……視察はこれで終わりにしますか? ナデナデ』
「さぁ行こうじゃないかサヨ!」
スクっと体育座りから立ち上がった俺は、サヨにそう返事をしつつ。
俺が立った事で行き場を失ったサヨの右手を取って立たせ、農業施設の出口に向かって意気揚々と歩きだす。
そうだよ! まだもぎたて果物があるじゃないか!
自然栽培の果物とかめっちゃ高かった記憶がある!
これはワンチャンすごい事になるんじゃないかな?
しかも収穫したて?
昔爺ちゃんが収穫したての野菜の美味さとかを力説していた事もあったし……。
ふふ……天は俺を見放しては居なかった!
さぁこい果物ジュースよ! 俺が味を見てやろうじゃないか!
そうして俺は、サヨと一緒に移動用のスクィードに向けて元気よく歩いて行く。
『まぁ今まで飲んでいた合成品と味はあまり変わらないのですが、もぎたてだと気分が変わりますよね?』
「落ちを! 先に! 言うな!」
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