第22話 英雄なんてのは、こんな感じに使われるんだよな

 今回は一つの星の行く末を決める大事な会談だ、上手くやらないとな……。


 俺は皇帝陛下からの勅命を受け特使としてこの星に来ている。


 この星は内乱時に公爵一派の手による離反工作を受け、アリアード皇国の属領から独立を宣言されてしまった星なのだ。



 この星の事情は少し特殊で、ある重要な物資がこの星からしか得られない為に特区として認められており、宇宙戦力がまったくない星であるのに皇帝陛下ですら無理を言えないのだ。


 そうして俺は、この星の上層部との話し合いの為に惑星の地上へとスクィード5号で向かっている、お供はサヨとクレアのみだ。


 着陸がもうすぐの段になると、スクィードの外部カメラが映した地上がよく見えてくる。


「本当に地表のほとんどが植物で埋まっているんだな……」


 空間投影モニター上の植物だらけの映像を見ながら、そう呟く俺。


『この惑星の地表の95%はこのような状況です』


 サヨが昔の様な無表情でそう言ってくる、さすがに緊張しているのだろうか?


 もう一人のお供のクレアを見てみると。


「ちょ! あんまり見ないでシマ君! 恥ずかしいんだから!」


 そう言って狐獣人のクレアは、自身の胸やら尻尾の根本やらを手で隠す。


 クレアが着ているのは水着だ、そりゃぁ恥ずかしいのは判る、判るんだけども……。


『クレアさん、恥ずかしがってもどうせこれからずっとこの恰好なんです、諦めて下さい』


 サヨは諦めた様にそう言っている、表情は昔みたいな無表情だが……同じくヒモ水着のサヨも恥ずかしいんだねこれ、俺には判ってしまう。


『それにシマ様の方が100倍は恥ずかしいんですから』



「うっさいわ!」



 俺はサヨの余計な一言に突っ込みを入れる。


「そ、そうよね……のシマ君よりはマシよね……ごめんなさいサヨさん、私頑張るわ!」


 クレアがそう言って手で胸やらを隠すのをやめた……何度見ても只のヒモだな……これが別荘の浜辺だったらどれだけよかっただろうか……。



 俺はで溜息をつく。




 事の起こりはこうだ、この星土着の知的生命体である樹人は服を着ない、というか見た目は人と同じ背丈くらいの動く植木だ。


 この樹人らと交流を持った最初の人類はすげーと思うわ……過去の偉人の働きもあって彼らはアリアード皇国の保護下に入った。


 今までの彼らとの話し合いには、普通にちゃんとした服を着こんでいけばそれで良かった。


 樹人には相手の文化を尊重する心がある、その事だけでも知的生命体として受け入れるに相応しい格のある相手だと俺は思う。



 それを……それを……公爵の関係者の馬鹿共が!!!



 よりにもよって樹人との会談時にパンツ一丁で行きやがったんだ!!!



 あほか!!!



 文化の違いは仕方がない事だ、例えば地球の地区長会談とかで偉い人達がお高いスーツを着て集まっていたとしよう。


 そこに未開文明の部族の長が裸で現れたとする、だがそれが相手の文化というのなら地区長達は笑顔で握手をするなり、もしくは相手の文化に合わせた挨拶をするだろう。



 だけどな……その地区長会談に素っ裸で現れて、しかも周りの人がしている様なブランド物のネクタイだけはきっちりと局部に締めて来られたら……地区長達はどう思うよ?


 相手の文化に習うという話ならば、妥協点を見出したとしてもそれは無いと思わないか?

 馬鹿にされていると思われても仕方ないと思わないか?



 せめてワイシャツくらいは着てくれと思うだろう!?



 それなのに公爵の関係者は、会談に送り込んだ全員をパンイチにしやがったんだ!


 会談内容としては皇帝を裏切って自分達に味方をしろという話をしに行ったみたいなんだが、激怒した樹人達に追い返されたらしい。


 例えそれが皇帝陛下の意に沿わない行為だったとしても、樹人に会いに行った時点の奴らはアリアード皇国所属だった訳で……


 樹人達の怒りは止まらずに独立を宣言したのだから、公爵達の思惑の半分は成功したとも言えるが……。


 この星でしか得られない物資があるので、皇帝陛下は樹人との話し合いの場を持とうとしたんだが……樹人の要求が、まず誠意を見せろというものだった。


 それがまぁ……特使夫婦が彼らの文化に寄り添う姿勢をみせろという物で……。



 つまりフルチンとヒモ水着だね。



 そんな訳で誰も特使に成りたがらず。

 ……なぜか英雄である俺を特使にするのなら誠意に値するのでは?

 という話が皇宮で持ち上がったんだよ……。



 ねぇ? なんでそうなるの? そこに至った道順を俺に教えてくれよ!



 お前ら絶対方向音痴だろ!?



 っとと……俺を送り出した皇帝陛下の側使い達への憤りが噴き出てしまった……。


 毎度毎度無茶を言ってくるあいつらには、いつか判らせてやる……。



 とまぁそんな訳で、俺はスクィード5号の中で服を脱いでフルチンで待機をしている訳だ。


 嫁たちが何故ヒモ水着なのかという――

 ガコンッ! 衝撃がきて少し揺れた。


『着いたようですね、行きましょうシマ様』


「了解だ、行くぞサヨ、クレア」


 俺は二人にそう宣言をし、先頭を歩きはじめる。


 人員移送用スクィード5号の出口の横にはパイロットなブレインユニットが立っており。


「頑張って下さいシマ様! 影ながら応援しています!」


 片手を頭の横に添える軍隊式の敬礼をしながら、応援をして見送りをしてくれるみたいだ……。


 でもさ、視線が俺の下半身に向いたままなんだけど?

 遠隔操作でもいいのに同乗するって言いだしたのは……生で見たかったからか?


 取り敢えず、パイロットにはデコピンをしてからスクィードを降りていく。



 そこには。



 俺と同じくらいの身長……? の植木、もとい樹人がずらりと百本……百人以上並んでいた。


 何処が頭で何処が手なのか判らんから身長と言って良いのか……ううむ……。


 その中には冬囲いの様な荒縄を巻いた木も、かなりの数が居る。


 荒縄が巻かれているのが女性らしい……クレアやサヨがヒモ水着で許されるのも樹人の女性というか雌型は荒縄を巻く文化があるからだ。


 中には荒縄が少な目の個体も居て、雌雄同体? の可能性もあるかもしれない。



「こんにちわ皆さん、この度特使として参りました、シマイ・ククツ・リ・ヘキサグラムと申します」

『久々津サヨウナラです』

「クレア・ククツ・リ・ヘキサグラムです」


 ザワザワザワ、周囲の樹人が枝葉を揺らす。


 それと同時に俺の前に空間投影モニターが現れる。

 サヨがやってくれている事で、その空間投影モニターに文字が映し出され。


【ようこそ英雄殿、サヨウナラ殿、クレア殿、私達は貴方方を歓迎する】

【おおー英雄殿が我らの文化を尊重してくれているぞ】

【映画のキャストとは違うんだな……当たり前か】

【あのお方が人類の救世主……柔らかそうな肌ね】

【ふふーん私はファンクラブに入ってるから知ってたよ~】


 等々、樹人の言葉を俺に翻訳してくれている。



 ……これ本当にあのザワザワ揺れている様子を翻訳した物なの?




 ずりずりと根っこ、いや足を動かして俺達を先導する樹人達。

 案内されたのは大きな広場で……彼らにとってはここが迎賓館なのだろう。

 設置された切り株に座り、彼らとの会談を始める。



 ……。



 ……。



 会談はほどほどの成果を得られたが、あと一押しが足らずに夕方になってしまい、俺達を歓待する宴の時間になってしまった。


 ……うーむ貴重なあの物資を得られないと、皇帝陛下が大変な事になってしまう……。


 まだ時間はあるし、明日また頑張ろう。


 俺達の前に樹人のおさ的な植木がやってきてザワザワしてくる。

 長は枝ぶりが整っていてカッコイイから判別出来るんだよなぁ……もしかしてこの惑星に植木職人とかいるのだろうか?


【英雄殿楽しんでいますか?】


 今俺達の前には切り株のテーブルがあり、そこに水と果物等が並べられ、俺達の前では荒縄の巻かれた樹人が並びワッサワッサと踊って? いる?


 たぶん樹人の美しい女性達が優雅な踊りを見せてくれているのだと思う。


「ええ、素晴らしい歓待に感謝をします」


 俺はフルチンで切り株に座りながら、長にそう答えた。


【それはよかった……英雄殿の踊りも見てみたいのだが、よろしいか?】



 きた!



 樹人は踊りを神聖な物とみなす。


 つまり俺の踊りを見る事で、こちらの真意を見極めるつもりなのだろう。

 これで俺が認められれば会談は成功に向かうはず!


「ええ、つたない踊りですがどうぞ御照覧あれ!」


 俺はフルチンで広場の中心、女性達が踊っていた場所に行くと、両手に葉の生えた枝を持ち、筋肉に力を入れる、ふんぬ!


 ブルブルブルブル、ぬおおおおおおお!


 樹人の踊りは、優雅な踊りの中でいかに細かく早く揺れるかで決まるという。

 俺は強化された肉体をフル活用して、手に持って居る枝に振動を伝える。


 難しいのはただ枝を振っては駄目だという事、あくまでも踊りながら振動を伝えるのが良いらしい……。

 ほんとうかよサヨ? 一応やってはいるけどさぁ!


 ぬぁぁっぁあぁ今の俺は、踊りながらも一秒に十回以上は振動しているのではないか!?

 そうしてしばらく己の筋肉を、躍動させつつも振動をさせるという事に集中していると。


 ザワッザワッ! ……周りの空気が変わったのを感じた。

 俺は一旦踊りを止めて周りを見渡す、すると。


 そこは一面の……そう、昔地球に居た頃に祖父母と一緒に行った、銀河ネットではない生な花見の名所の様な……満開のサクラの様な状況に変わっていた……。


 言い過ぎた、半面だな、様々な花が咲き乱れているのは荒縄を巻いている樹人だけだ。



 なんじゃろこれ?



「えーとお気に召しましたか?」


 取り敢えず樹人の長に聞いてみる事にした。



 ザワザワザザワッザワザワザザワッザワザワザザワッ。


 樹人達がせわしなく動く。

【素晴らしい踊りだ英雄ど――】

 樹人の長をドーンッと押しのけて荒縄で巻かれた植木、もとい樹人の女性? 達が俺を囲んで来る。


 ザワザワワッサワッサワッサ。

【素晴らしい踊りでしたククツ様】

【ククツ様、あんなにも情熱的で官能的な踊りは初めてです……ポッ】

【ククツ様、お疲れではありませんか? 休憩と共に是非私とお話等を】

【ずるいわよ貴方! ククツ様、私と花を育ててみませんか?】

【お姉様達こそ何言ってるのよ! 破廉恥な! まずは一緒に水浴びからと――】

【ちょっと! 幹の柔らかい幼木は引っ込んでなさい!】

【何よ! 年輪だけ増やしたお姉様こそ――】

【ククツ様、ファンクラブ会員203827932074番です、サイン頂けませんか?】


 ワッサワッサと俺の前で植木バトルが始まった、あ、いや樹人同士の諍いか……。



 俺はこっそりとその場を離れ、すっ飛ばされた長を拾い上げ、クレアやサヨが居る大きな切り株テーブルに戻ってきた。


『モテモテですね、さすがシマ様』


「あれはモテているの? 花を育てるって……隠語? それともそのままの意味?」


 サヨは楽し気に俺を弄り始め、クレアは混乱している、だがしかし二人共ヒモ水着だ。


「俺の踊りが不味かったのだろうか?」


 そう応える俺はフルチンだ。


 ザワザワザワ。

【いえ、英雄殿、その逆です、あまりにも素晴らしすぎて娘達が我慢出来なくなったのでしょう……】


 長が立ち直り、切り株テーブル上に置いてあった水差しの水を浴びながら、そう話しかけてきた。

 あ、その水ってそう使うんですか? 俺飲んじゃったんだけども……。


「長に踊りを認めて頂けて良かった、これであの話は……」


 例の物資だけでも輸出して欲しいので話を振ってみるが……。


 ワッサワッサワッサ。

【ええ、まあそれは置いといて、どうでしょうか英雄色を好むと申しますし、うちの娘達のうち何人かを嫁に迎えませんか? 娘達も乗り気の様ですし、英雄殿と我が娘となら良い種が生まれる事でしょう】


 ちょ! 長がアホな事を言いだしてきやがった……。

 これは慎重に答えねば……。


「残念ですが俺は、自身に花を咲かせ花粉を出せる種族じゃないのです、娘さん達には樹液の甘い樹人の若人を探してあげて下さい」


 俺はすごく真剣に、ものすごく真剣に申し出を断っていく……いやまじで!

 下手な言質を取られない様に真っすぐお断りしていく。


 ザワザワザワザワザワッ。

【そうですか、そこはあまり関係が無いのですが……残念です、ですがまぁこんな素晴らしい英雄殿が居るアリアード皇国とならもう一度話をしてみるのも良いでしょう……貴方方が欲しがる物は用意しておきますが……前から思っている事なのですが本当にあんな物が欲しいので? なんなら良い花を咲かせる嫁の数人もつけますけども】


「いいえ! あれが頂けるならそれだけでいいのです、どうかあの物資だけでお願いします!」


 俺はフルチンで頭を下げ……ても意味ないんだった!

 髪の毛を数本抜きながらお願いした。


 ザザザザッ! ワッサワッサ。

【おおおおお待ち下さい英雄殿、判りました、判りましたから! どうか自身を傷つけてまで誠意を見せないで良いですから! あれは用意しておきますのでいつでも取りに来て下さい、それと今居る娘の枝ぶりが気に入らないというのなら、私の末娘である種をお渡ししますので、自分好みに一から育てるというのはいかがでしょうか?】


 樹人にとってまだ生きて居る枝を折る事は最大限の謝罪なんだよね。

 髪の毛を抜く事はそれに値する。


 そして種からって事は、人間だったら生まれる前の赤ん坊と婚約とかそういう話だよね? あほか!


「いえ! 申し訳ないですがお断りします! そのお子様にはこの惑星の大地が一番合うと思うので」


 俺は言質を取らせない様に真っすぐ断っていく。



 サワサワサワ……ザワワっ?

【そうですか……残念です……娘がお嫌なら雌雄同体な男の娘もおりますが?】


 ワッサワッサと枝を揺らしながらそう伝えてくる長……この枝の動き……こいつ笑っているな?


「おうこら長よ! さっきからあんた分かっていてわざと俺を困らせているだろ!?」


 俺はそう突っ込みを長に入れていく。


 ワッサワッサザワザワ。

【ハッハッハ、英雄殿との会話は愉快だのう】


「いやお前ふっざけんなよ!?」


 俺は長に水差しの水をぶっかけながら怒っていく。


 まぁこれは相手にお酌をした様な物だ! 今日は無礼講でいこうぜ?


 わいわいワッサワッサと、俺と長はケンカ友達みたいな話を続けていく。



 ……。



 ……。



 そんな中、俺の側に居たクレアとサヨの会話が聞こえて来る。


「ねぇサヨさん、なんだかシマ君が翻訳モニターを見ないで会話をしている様に見えるのだけども……」


『ですね……まぁシマ様ですから……』



「シマ君だもんねぇ……」


『はい、シマ様ですから……』


 なんだよそれ、だってもう朝から何時間も会話してるんだぜ? 枝の振り方とか葉っぱの動かし方で何が言いたいかなんてなんとなく判る様になるだろ?




 ワッサワッサザワザワと、樹人達の歓迎の宴はまだしばらく終わりそうにない。


 ちなみにサヨとクレアはヒモ水着で、俺はフルチンでそれに参加している。


 文化的に大事な事だから何度でも言う、ヒモ水着とフルチンだ!



 ……。



 ……。



 ――



 ――



 その後会談も終わり、後はアリアード皇国の使節団に引き継ぐ所まで来た俺は帰る事になる。


 広場に着地したスクィード5号の側には、樹人達が詰めかけ別れを惜しんでくれる。



 ワッサワッサ

【それでは英雄殿また遊びに来てくだされ、娘達も待っておりますからな】


 まず長がそう話をすると。



 ワッサワッサワザワザワッ。

【ククツ様~いつかまたあの踊りを見せて下さいね~】

【サインありがとうククツ様、最高の肥料にするからね】

【いつか私の花に受粉しに来て下さいましね、ポッ】

【これ私の花で作ったので貰って下さいククツ様】

 ザワザワザワザワッ。


 昨日の満開とまではいかないが、まだチラホラ花が咲いている女性型樹人達が、ワサワサと俺を取り囲み別れを言って来る。


 その中の一本……一人が花で作られた輪を俺に差し出して来たので、お別れの花束みたいな物かと思い、それを受け取り首にかけた。


 ザワザワッ!





 彼女らと交代をするようにただの植木……男性型樹人が集まって来る。



 ザワワッサワッサ。

【英雄殿次は負けません!】

【貴方に負けない踊りをいつか踊ってみせます!】

【我らは絶対に勝ちますから! 根っこの強さなら貴方にも負けません!】

【こいつらの事は気にせずお帰り下さい、お気をつけて英雄殿】

【英雄殿、貴方に良い日差しが当たります様に】


 俺は樹人達に手を振りながらスクィードに乗り込む。


 俺が乗り込んだのを確認した樹人達が、スクィードから離れていく。



 ゆっくりと重力制御で地上から離れていくスクィード、ある程度の高度を得たらスラスターを噴かせて一気に宇宙へと飛び出す。


 一応惑星を離れるまではフルチンとヒモ水着で居る俺達……。



 ……。



 ……。



 宇宙に出て補給艦のドックへと帰って来た俺達は、スクィードの中で着替えてから補給艦の自室へと通路を歩いて行く。


「それで例の物資はどれくらい貰えたんだ?」


 普通の服に戻り一緒に歩いているサヨに確認を取る。


『およそ500トン程確保出来ました、使節団との話が上手くいけばその後の供給も問題ないでしょう』


「すごい量だな、それだけあれは十分なのか?」


 俺は良く判らんのでそう聞いてみたのだが。


「何言ってるのシマ君! 全宇宙中が欲しがっているのよ? まったく足りてないわよ!」


 もうヒモ水着じゃないクレアがそう答えた。


「そうなのかサヨ? 確か触媒だから実際はもっと増える的な事を言ってなかったか?」


 簡単な話しか聞けなかったんだよなぁ……周りがあまりにも必死だからさ。


『およそバケツ一杯分のあれで、25メートルプール分程の化粧水が作れます』



 ……そうなんだよなぁ……これだけ必死に求められているものが化粧水なんだよ。


 でも女性陣の必死さに逆らえなくてさ……。


「サヨでは作れない物資なんだよな? 勿論アリアード皇国の技術でも」


 サヨが作れたら簡単な話だったんだがな。


『はい、あれを作る為には旧銀河帝国の遺産が必要で、樹人はあの遺産に適合する者が現れやすい……といいますか元々樹人用に作られた物ですので……数もそれなりにあるそうですよ』


「樹人の癒し用装置だっけか……」


『元々はそうですね、その癒し方というのが遺産から出した液体に体を浸からせるという物でして……まぁ樹人のお風呂の様な物ですね』


「まさか風呂の残り湯にすごい効果が出るなんてなぁ……」



『樹人の樹液やらが遺産風呂と反応してすごい効果が出るのですが……禁忌事項に触れますので私は解析出来ないのです、そう設定されているので……』



 あー旧銀河帝国の変態技術者が設定したルールか……。



「シマ君! 興味ない様だから言っておくけどね、たまにしか使えないけど、あれを使うとこう、お肌がプルプルでしっとりになるの! 肉体の強化措置とかそんなのでも勝てないくらい! シマ君の大好きな私達のお肌はあれで出来ていると言っても過言じゃないのよ?」


 クレアが俺の目の前に指を向けながら真剣な表情で説明をしてくる……まぢで!?



「それを先に言ってよクレア! クレア達のシットリもちもちプルプルのお肌があれのおかげだった? それならもっと早く俺が動いたのに!」


 俺はクレアを正面から抱き寄せ、腰を両手で掴みながらそう言ってあげた。


 はやく言ってくれたらよかったのに……皇帝陛下の奥さん達が、触媒の枯渇に危機感を抱いていただけなのかと思ってたんだよ!



「んー? シマ君は私の為ならもっと頑張ったって事?」


 抱き寄せられたクレアは、嬉しそうに俺に顔を近づけてきた。


「勿論だ! 愛する奥さんのお肌の為ならね」


 俺もクレアの顔に顔を近づける。


「シマ君……」


「クレア……」


 二人の顔の距離がもうすぐゼロに成る。



「「ムチュー」」





『お二人の時間は五日後の夜のはずですよ』


 キスは俺とクレアの口の間に入れられたサヨの手によって防がれた……いいじゃんかちょっとイチャイチャするくらいなら……。


 俺とクレアが体を離すとサヨが俺に近づいてきた。


『それに聖妻戦争で勝った私が、しばらくの間は優先されるという話だったはずです、ですので』


 サヨはクレアから俺に顔を向けると。


『チューーーもごもご……チューーー』


 ディープなキスをかましてきた、最初は驚いた俺だが、別に嫌な事でも無いので普通に受け入れている……。


「あ、あ! ちょっと! ずっるいわよサヨさん! うーあんな戦い方卑怯だよー! もっと真正面から来てたら私の勝ちだったのにぃ! って、いつまでしてるのよー! 次! 次は私ー! ちょっとならいいでしょ? ね? ね? ってサヨさー---ん! ずーるーいー」


 クレアがピョンピョン飛び跳ねながら抗議の声を上げる中、俺とサヨはずっとディープなキスをしている。


『プハッ! ……ふぅ……兵は詭道なりですよクレアさん』


 サヨがそう言ってから俺の自室への道を再度歩きだした。


「もうサヨさんずっるいんだからーシマ君こっち向いて! チュー--ッ」


 クレアは俺にサヨよりは短いキスをすると、先へと歩いていたサヨを追いかけて、腕に絡まるように抱き着きながら文句を言っている。

 なんだかんだで仲いいんだよな、あの二人は。


 俺より歩くのが早い二人は、やいのやいの言い合いながらも仲良く先を歩いて行く。



 ……。



 補給艦の長い通路を歩きつつ、彼女らの後をついていく俺……。



 ……。



 住居区画を歩いていた俺のすぐ近く、通路の途中の部屋の扉が開き、中から黒髪ロングの美少女が現れた。


 誰だ? ……ああ、トウトミだね。



 お風呂上りなのかツインテールを解いていて、しっとりと少し濡れたロング髪が、いつもと違って可愛らしく。


 そしてお風呂上がりの良い匂いが漂ってくる。



 俺を見たトウトミはびっくりしながらも、廊下の左右を見て、ずっと先の方を歩くサヨやクレアの背中を確認すると頷き。


 その後に俺を見ながら少し何かを考えている様で……そして……無言で俺の手を取り自室に引っ張っていく。



 俺はお風呂上りでいつものツインテールとは違うロング髪のトウトミに釣られて、フラフラーとその後について部屋に入っていくのだった。


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