第45話 万華 鈴鹿峠激闘(3)
万華は、2体の大鬼との戦闘は詳しく話したが、その後の大嶽丸の軍については、虚ろな目で『一掃した』と一言だけだった。しかし、俺はその時の万華は、あの状態だったと、ほぼ確信した。万華自身も認識している自分の残虐な一面。あの一面が何処から来るのか、俺は知らない。かぐや姫や湘賢は知っているのだろうか。
いや、詮索はよそう。
「なあ、万華、それで、どうなったんや」
「そう、急かせんでおいてな。もう少しやさかい」
◇ ◇ ◇
大嶽丸は鬼たちに担がせた輿から万華を指し、
「ぐぐぐ、お前、誰だ!」
と叫んだ。
「ウチを覚えてへんのか?」
と言って、一瞬にして唐風の衣装に変わり、フワフワと飛んだ。
「お、お前、あの時の鈴鹿御前。許さん。許さんぞ」
大嶽丸は、輿の上で立ち上がり、何やら手印を結び念じた。すると、みるみるうちに体が大きくなり、人の3倍の大鬼に変化した。そして巨大な金棒を持ち出して、万華に迫る。
万華は鎧姿に戻り、大嶽丸が振った金棒を万華は避けて
「おい、何処を見ているんや?」
と挑発した。
次に大嶽丸は金棒を渾身の力を込めて振り下げて、周りに衝撃波を発生させた。大地に波紋が起きて、瓦礫が周りに飛び散った。
しかし、万華は、振り下ろされる前にひらりと飛び上がり、金棒を土にめり込ませ、手間取っている大嶽丸の頭に乗った。
「『大男、総身に知恵が回りかね』やな」
と馬鹿にした。
そして、連続して蹴りを入れて吹き飛ばした。
大嶽丸は、起き上がり、
「ぐぐぐぐ、貴様 ……」
と言うが怒りのあまり、言葉がつづいて出てこない。
それを、万華は
「貴様? それから何や。言葉忘れたんか?」
と、また挑発する。
怒り狂った大嶽丸は、金棒を滅茶苦茶に振り回しながら迫るが、万華はそれもひらりと躱し、また、頭を勢いよく踏みつけた。
大嶽丸はバランスを崩し、顔を地面にめり込ませて倒れる。すると、法力が解けて人と同じ位に戻ってしまった。
しかし、
「グググ、グハァァァァ」
不気味なうなり声と供に、大嶽丸は髪の毛が逆立ち、背中から腕が生え、四臂の鬼となった。
「俺を本気で怒らせた。もう許さん」
大嶽丸は、万華を指差し、落ちていた太刀を拾って四方向から切りつける。万華は、その4本の太刀を槍の柄で止め、弾き返す。そして、数度打ち合うと太刀は折れてしまった。
大嶽丸は、
「クソ」
と一言発した後、少し離れた
「それを返せ」
と叫ぶ大嶽丸。
すると万華は、
「
「姉さん、分かりました」
大嶽丸は2本の棍棒を
次に大嶽丸は、
「大嶽丸、縛につけ!」
と田村丸が声を上げて黒漆剣で切り込む。
しかし大嶽丸はその黒漆剣を退け、大きく太刀を薙いだ。田村丸は後ろに飛び退き、今度は
「くっ、五月蠅い奴らだ」
大嶽丸は、棍棒を2段にして、横に薙ぎ
大通連と小通連が交差して、大嶽丸の剣を止めたとき、
「
とそれを見た万華が囃し立てる。
「ぐぐぐぐ、貴様ら、何処までも、俺をこけにしやがって」
大嶽丸がいきり立っているところに田村丸が、
「縛につかないなら、切り捨てる」
と言って、黒漆剣で棍棒を持った腕を切り落とした。
「ががが、ぐぐぐ」
大嶽丸は苦悶の叫びを上げながらも、田村丸をもう片方の棍棒で薙ぎ吹き飛ばした。
「田村丸様」
四臂の内、2本を切り落とされた大嶽丸は、片膝をつき、息を荒くしている。
万華がその前に立ち、
「大嶽丸、この2人に勝てると思ったのが間違いや。大人しく、引導を受けろ」
と諭した。
しかし、大嶽丸は、万華を指差して、
「お前にだまし取られた、その三明の剣さえあれば、お前らになんぞに負けるはずはなかったのだ」
と負け惜しみを言った。
すると万華は腕を組んで、
「ほう、オノレ、三明の剣があったら、うちに勝てるやな。なら返してやろう。
と
何度も手痛い目にあっている坂上田村丸は、
「いや、それでは、幾らお姉さんでも、大嶽丸を倒すことができなくなるのでは」
と心配して忠告した。
しかし、
「闘いで万華姉さんに間違いないと思います」
と言った。
そして、
万華は、
「ほれ、三明の剣やで。騙して勝った言われては、この万華の名前に傷がつくけん。対等に勝負したる」
と言った。
「ガハハハ、馬鹿め。これで、俺に神仏の加護が戻った。もはや、お前は、指一本たりとも俺に触れることはできないぞ」
顕明連を手にした大嶽丸の左右に大通連と小通連が控え、守りの型を作る。
「大した自信やな。オノレ、自分がそんなに強いと思とんのか?」
大嶽丸は、右手に持った顕明連の剣先を万華に向けて、
「三明の剣があれば俺は無敵だ。たとえ相手が真君でも、俺は負けない。俺に一太刀も届かないだろう」
と言った。
「ほう、クソ伯父より強いんや。ほな行くで」
大嶽丸は剣を構え、万華は槍先を低くして佇む。
そして万華の顔がニヤっと笑った次の瞬間、万華は大嶽丸の後ろにいた。
万華は
「何や、ポチより弱いやん。神仏の加護を得るには、お前は生臭すぎやったな」
と呟き、一度上空に上がり、唐風の衣装を纏って
「この三明の剣は、
と三明の剣を
「万華姉さん、ありがとう」
と
「ところで、田村丸、
◇ ◇ ◇
「万華姉さん。長い間、有り難う …… 」
「
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