第21話 探偵 感心する

「ここは、安全で平和で、魔族も魔物もいないじゃないか。僕が出る必要などないだろう?」

と勇者は拗ねた。


「勇者フレリーよ。それは違います。魔王ガガットの生死がハッキリしない今、聖剣を取り返すことは意義があります。それに聖剣は勇者しか持てません。この世界の不相応な者が持つと、その者は灰になるでしょう。力の強い聖剣は、この世界の住人には厄災となるのです。だから、本来の持ち主である貴方が持つべきなのです」

と少女の湘賢は説得を試みた。


「だったら、湘賢が行って、回収すれば良いのではないですか」

と言い返した。


「勇者フレリーよ、あなたが取り返すことが重要なのです。何時の日か、剣を携えブリリアントに戻った、その時、志半ばに倒れた仲間達の墓前に剣を捧げることが貴方の使命なのです。ほかの者が持ってきた剣を捧げて、仲間達は喜ぶでしょうか?」


「 …… 」


 おお、湘賢の女神らしいことを言うではないか。俺はちょっと感心した。しかし、勇者は承服しないようだ。

 無理もねぇよな。あと一歩って所で大願成就するはずだったのに、その確認もできずに多摩川の土手を歩かされて、こっちの世界に来てみれば、魔物がいない平和な世界。自分のやって来たことは、何だったのかと、俺がフレリーだったら、俺でも落ち込むぜ。


「勇者よ。ナリーナの生死は分かりません。でも、もし生きていたとしたら聖剣フェチのナリーナは、剣を携えた勇者の帰還を待ち望んでいるでしょう。優しく握って、頬擦りしてくれるかもしれません。『やっぱり勇者のあれって素敵。うっとりしちゃうわ』とか言って」


 ん? 湘賢、何か際どいこと言ってないか?


「分かった。直ぐに探しに行こう」


 今度は、即決かい。


 後で聞いた話では、ナリーナは行方不明の聖霊魔法使いの恋人と言う事だ。戦闘のさなか行方不明になり、その鍵を魔王ガガットが握っているらしい。


   ◇ ◇ ◇


 今日はフレリーと万華の原付免許の試験の日だ。さて、どうなるか。


 万華が教師役で教えていたが、勇者はこの世界の住人ではないので、常識が中々通じない。イメージが湧かないのだ。『横断歩道とはどんな物』か、から始めなければならなかった。


 それでも万華が意外と親切に教えていたのに驚いた。


 俺はてっきり、

「なんで、こんなんのも出来んのや、ボケ。教科書喰らうつもりでやらんか、アホ」

と言うかと思っていた。


 それを万華に聞くと

「転移者の教育など、何時ものことや。大したことあらへん」

と流石の答えが帰ってきた。


トントントン、ガチャ


「権さん、いるか。万華やで。試験通ったで。勇者も通ったで」

と言ってきた。


 フレリーは、うれしそうにやって来て、

「私の能力を使えば、大したことはない。しかし、ご協力には感謝する」


 相変わらず高飛車な言い方だが、王家の血がそうさせるのだろう。

 それでも、小さな成功体験を通じて、前向きに考え始めるのは良いことだと思うぜ。


 ディスプレイの砦では、万華が久保田に免許を見せびらかしている。こうしてみると17歳の少女のようだ。


 明日は、俺からのクエストをやって貰おう。

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