第20話 探偵、湘賢から聞く

トントントン、ガチャ


「権さん、おるけ。万華やで …… あん、屁理屈、お前、なんでここにおんのや」

「脳筋が遊び歩いている間に、調べていたんや。脳筋、お前、魔法具回収に失敗したろ」

「なんやと、それが如何した。魔王にとどめを刺せなんだ奴に言われとうない」


 事務所のソファーに座り、湘賢からの報告を受けているとき、万華がやって来た。例によっていがみ合いが始まりそうになった。


「おい、2人とも止めろ。ちょっと万華も聞け。湘賢、続けてくれ」


 湘賢は、万華を睨み付けて、フンっと鼻を鳴らし話を続けた。


「千野殿 聖剣は富士の麓のアラキタちゅう倉庫にある事が分かったや」

「場所が分かったなら、忍び込んでとっとと取ってくればええやろう。権さんに説明するまでもあらへんよな」


「脳筋はこれやから困る。聖剣は、勇者が手にするのが、ファンタジーの鉄則やろが」

「ああ、まぁ」


 ほー、万華、ここは否定しないのか。不思議なことだ。さて、聖剣のありかが分かったが、肝心の勇者が意気消沈してやる気が無いらしい。そこで、湘賢は、勇者に聖剣を取り返えす『追体験』をさせたいと言うのだ。


「それでや、この世界には冒険者ギルドがおまへん。そやから、勇者をここの社員にして欲しんや」

「それは全く問題無いが、追体験させようにもこの日本と魔法のあるブリリアントじゃ全然ちがうんじゃねぇのか」


 すると、左手のひらを前に押し出して、


「千野殿、そこは心配に及びまへん。ワテは、これでも一流のコンシェルジュさかい」

「ふーん、まあそこまで言うなら」


「千野殿は、ギルドマスター兼、勇者の仲間と言う事で。万華、お前は従者やれ」

「はぁ、オノレ、何言うてるんや。なんでウチが従者なんや。頭、かち割わったろか」


「勇者には従者がつきものやろ。それとも何か、転生者をサポートする蓬莱の仕事を放棄するんか?」

「くっ。オノレ、いつか殺したるけん、クビ洗っときや」


 万華は歯ぎしりしていたが、多分承諾したのだろう。


 湘賢は、まず、探偵事務所に勇者を入社させて、クエストの代わりに簡単な業務を行わせる。そのほかに、修行の代わりにジムに通わせると話してくれた。


「馬の代わりに、原付免許を取って貰うんや。万華、お前もついて行って取れ」

「はぁ、…… あー、それはやってやる。あれに乗るの面ろそうや」


 万華にとっては、面白さが一番なのだろう。


「次にワテが、お告げの女神に化け、勇者を冒険にさそうで」

と言うと、あっという間に少女になった。


 すると、万華が俺に耳打ちして、

「権さん、湘賢な、変化へんげが下手くそやから、ガキにしかなれへんのやで。少年か、少女か、赤ちゃんだけや。ぶっ、ははははは」

「うっ、五月蠅い、五月蠅い、五月蠅〜い。あんたなんか、だ〜い嫌いよ」

と少女の湘賢が、甲高い声で怒った。


 少女の湘賢はプンプンしながら、勇者がいる隣の部屋に行きドアを閉めた。中から神々しい光りが漏れて、声が漏れて聞こえる。


「勇者フレリー・フォン・フォールケン、聖剣フォルーラーを取り戻しに行くのです。そのために、私はふたたびコンシェルジュを授けましょう。コンシェルジュのアドバイスに従えばきっと聖剣を取り戻せます」


 まさに、女神っぽく説得した。しかし、


「えー、面倒くさい」

と勇者の声が聞こえた。

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